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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
真意を試す対抗戦
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見えてきた戦略

 円華side



 消沈しょうちんしている幸崎を追いかける気にもなれず、大分時間が経っていることから、アパートに戻って成瀬の部屋に向かう。


 友達登録はしているが、一応礼儀としてインターホンを押せば、すぐに「入って」と淡泊な声が聞こえたため、スマホを使って鍵を開けて入る。


「お邪魔しまーす」


 玄関に入った時の第一印象は、小綺麗こぎれいな部屋って感じだった。


 廊下に物は置かれておらず、横にあるキッチンも調理道具が整頓されている。


 中に上がろうとすると、リビングのドアが開いて不服そうな顔の成瀬が出てきた。


「遅かったわね。夕飯の買い出しに行くだけで、1時間もかかるものかしら?」


「女は準備が必要とか言ってたから、時間潰してきたんだよ。どっちにしても、文句言われるのは理不尽じゃね?」


 こっちも半眼で抗議するが、向こうは虫の居所いどころが悪いのか、表情は晴れずに「まぁ、良いわ」と言って流した。


 そして、注文通りの食材が入ったビニール袋を渡すと、リビングに行くように後ろを指さしてジェスチャーでうながしてきた。


「入ることは許可するけど、レディーの部屋をジロジロと見るんじゃないわよ?」


「毎度毎度、レディーって……おまえ、まだそんな大人っぽくな―――っと!?」


 本人の自己評価を訂正しようとすると、目の前にフォークが飛んできて壁に刺さった。


 あっっっっぶねぇ~~~。


「あら、ごめんなさい。手が滑ってしまったわ。()()()()()()


 満面の作り笑みでこっちを振り返っている成瀬に、俺は苦笑いを向ける。


「おまえ……そこは嘘でも、わざとじゃねぇって言うところだろ」


「あなた、前に言っていたでしょ?帰国子女だから、日本のテンプレは通用しないって。だから、正直に答えたのよ。気を遣ってね」


 いや、気を遣うの意味、絶対に間違えてんだろ。


 ……っと、口に出して言ってやりたいけど、ここで次に包丁とか投げられたら面倒だ。


 俺は棒読み気味に「はいはい、ありがとうございまーす」と流してリビングに向かった。


 入ってみると、息を吸って入ってくる香りから、本屋を連想していた。


 右の側面においてある本棚に、隙間すきまなく並べられている本からだろう。


 並べられているのは、心理学や社会学など、分野は統一されていない。


 試しに1つ手に取ってみると、偶然の発見があった。


「この本……姉さんの部屋にもあったやつだな」


 興味本位で本を開き、ページをパラパラッと開いてみるとマーカーで線が引いてあったり、小さなメモ書きがされている。


 読書で気軽に読んでる本って言うよりは、勉強の教材みたいだな。


 そして、メモ書きをよく見ると、ある共通点に気付く。


 クラスの統率力を高めるためのコミュニケーションの取り方を模索したり、クラス1人1人の士気を高めるための方法などを探究しているのがわかる。


 Dクラスのリーダーとして、成瀬は統率者のスキルを身に付けようとしていたのか。


 彼女の努力のあとを追っていると、後ろから「ちょっと」と声をかけられて我に返った。


「人の所有物に触る時は、一言断っておくべきじゃないかしら?黙って座って待っているかと思ったら、物色ぶっしょくしてるなんて悪趣味ね」


「そんな辛辣しんらつに言うなよ……。見覚えのある本だったから、気になって手に取っちまった。悪かった。だけど、中々面白かったぜ」


 本を閉じて彼女の方を向けば、2人分の大皿が乗ったトレーを持っており、それをテーブルに置いていた。


 大皿に盛りつけてあるのは、ビーフシチューだ。


「ごはん、まだなんでしょ?食べて行けば良いわ」


「な、何だよ、急に?それ、毒でも入って―――」


「何か言った?」


「……何でもないです。失礼しました」


 減らず口を押さえて謝り、テーブルに着く。


 対面する形で座れば、成瀬が険しい表情をしているのがわかる。


「食事を始める前に、聞いておきたいことがあるのだけれど」


 彼女はそう切り出し、俺と視線を合わせて言った。


「今、私たちが向き合おうとしているクラス対抗戦。これも、あなたの復讐に関係している。だから、この戦いに参加したい。こういう理解で合っているのかしら?」


 電話の内容を整理し、確認を取ってくる。


 直接会って話したいって言ったのは、こっちだしな。


 ここで遠回しに言う勇気は、流石にない。


「大体は合ってるぜ。今回の試験で、組織が動いている可能性は高い。だけど、それ以外にも確かめたいことがあるんだ。そのために、鈴城紫苑と戦う必要がある」


 今できる説明を端的に言えば、「曖昧あいまいなのね」と返される。


 それも当然か、俺だって紫苑からは肝心な部分は聞かされていないし、ヴァナルガンドが悪意を感じ取っているとしても、それが目に見える形じゃなければ説得力はない。


 どっちも抽象的だし、詳細を把握しているわけじゃないから言葉にするのが難しい。


「約束したからってのも、理由の1つだ。この前の取捨選択試験で、紫苑に出された協力の条件が、俺との勝負だった。あの時は俺のことをみんなに話す前だったのもあるけど、安易に取り付けた約束だったのは謝るぜ」


「そう言うこと……。鈴城さんと協力関係を築いていたことにも疑問だけど、それは気にしないでおくわ。今はあなたの意思を確認する方が先決だから」


 成瀬は両肘りょうひじをついて手を組み、少し顔を前のめりにしてくる。


「前に恵美が、あなたと鈴城さんが接触していたことに対して愚痴をこぼしていたわ。その時には、勝負の内容について話を進めていたということで間違いないかしら?」


「ああ、合ってる。俺もあの時までは、ただの約束の勝負についての確認で終わると思っていたんだけどな。事はそう単純じゃなかったぜ」


 鈴城は俺が勝負を反故ほごにしないように、こっちが喰いつくえさをチラつかせた。


 全力を以て、本気で勝ちにいかなければならない状況に誘い込まれたんだ。


 涼華姉さんや、組織のことを探ろうとしている存在。


 ないがしろにできる相手じゃない。


「鈴城さんとの勝負の内容は、決まっているの?」


「一応、自由決闘ってことで話が付いている」


「……と言うことは、石上くんの予想は当たったと言うことね」


 成瀬は気になる一言を呟いては、真央が鈴城ならその種目を選ぶことを予期していたことを話してくれた。


「流石は、真央だな……。紫苑の性格を把握しているからこそって感じだぜ」


「そうは言うけど、彼は後でこうも言っていたわ。円華くんが鈴城さんでも、同じ種目を選ぶと思ったと…ね。物事の重要な部分は自分が主体となって動く。確かに、あなたも同じ人種だものね」


 俺と紫苑のことを、近くで見る機会があったからこその判断だったってことか。


 確かに当たっている。


 彼女が種目について未定だった場合、俺から自由決闘を打診だしんしていた。


「おまえから見て、俺とあいつが戦った場合、勝てると思うか?」


 抽象的な質問に対して、成瀬が一瞬目を見開いては目付きが鋭くなった。


「あなたがそんな弱気な質問をするなんて、魔が差したの?というか、そんな質問をしてくることに対して、いきどおりを覚えるわね」


 彼女は身体を前に出して右腕を伸ばし、俺の左肩を掴んで顔を近づけて睨みつけてきた。


「私たちをないがしろにして、勝手に取り付けた約束よ。それに対して、あなたは自分勝手に介入しようとしている。その責任を取ろうとしないなんて、許さないわ」


 正当な怒りをぶつけられると同時に、彼女は統率者としての目を向けて言った。


「勝ちなさい」


 声を荒げたわけじゃない。


 しかし、とても重みの乗った命令だった。


 この時、俺の中で一瞬だけ涼華姉さんと重なって見えた。


 あぁ…そうか。


 成瀬の覚悟は、それほどまでに強いものになっているんだ。


 そして、彼女もまた、()()を導く者になろうとしている。


「……わかったよ、リーダー」


 俺はその目を正面から受け止め、不敵に笑って返事をしてやる。


 すると、彼女は椅子に座り直してスプーンを手に取った。


「よろしい。じゃあ、冷める前に食べましょうか。言っておくけど、残したら材料代は返さないから、そのつもりで」


「……やっぱ、理不尽だわー、マジで」


 その後、俺もビーフシチューを一口含んで味見してみる。


 まぁ、シンプルの味だな。


 これなら完食も余裕だろう。


 勝手におつかいに行かせておいて、金払わねぇってのはいただけねぇしな。


 ただ働きは、恵美の機嫌を伺う時以外は御免ごめんだ。


 2人で食事を進めていると、成瀬が「そう言えば」と言って別の話を切り出す。


「対抗戦に向けて、私たちの種目が決まり始めてきたわ。ネックだった自由決闘の課題も、あなたが参戦してくれるなら、不本意だけどクリアしたと言っても良いわ」


「マジかよ、順調なんだな。真央や麗音たちと頭を抱えてたのを見た時は、正直どうなるかと思ってたぜ」


活路かつろを切り開くことができたのよ、和泉さんのおかげでね」


 彼女の話では、俺たちDクラスには統率力の課題があった。


 しかし、無理に足並みをそろえようとしたところで、敵はその脆弱性ぜいじゃくせいに付け込んでくることは予想がつく。


 だからこそ、成瀬が導き出した答えは意外なものだった。


「このクラスは個人の分野で、他のクラスよりも高い水準の人が多い。それを活かすのが、私たちの戦い方よ」


 そう言って、彼女はスマホを取り出してテーブルに置き、こっちに見せてきた。


 そこに書かれているのは、選抜メンバーの候補だった。


 そして、その横には種目が書かれており、1つとして同じものは書かれていない。


 個人個人の分野で、得意としている競技や遊びのゲームなどが多い。


「和泉さんの言葉を借りることになるけど、実力というのは学力や運動能力だけで計れるものじゃない。芸術的センスや、音楽的センス、そして、今の時代にはゲーミングのセンスだって、分野によっては求められているわ。私は目に見えるデータにだけ目を通していたけど、それでクラスメイトのことを理解できるはずがなかった」


 成瀬は自分の反省を口にしたところで、「だからこそ」と切り返す。


「私たちしか知らない、鈴城さんが見ることができない、個人の力で勝負する。そして彼らが勝負できる環境に繋げるのが、リーダーとしての私の役割だと認識したわ。これが、Dクラスの戦い方として導き出した結論よ」


 俺は彼女の決意に、口を挟まずに耳を傾けた。


 そして、肯定するのか否定するのか、答えを待っている相手にこう返した。


「おまえがそうするって決めたなら、それを実行すれば良いんじゃねぇの?おまえはリーダーとして、クラスと向き合ってきた。その末の決断なんだったら、何も言うことねぇよ」


 事実だけ伝え、決断を受け止める。


 これが正しいのかどうかは、成瀬にもわかっていないことだと思う。


 だけど、これはすぐには答えが出ないことだ。


 これで成功しても、失敗しても、彼女の成長に繋がるという確信がある。


 だからこそ、俺は背中を押さない。


 そして、この返事に安心したのか、成瀬は小さく息を吐いた。


「ありがとう。()()()()()()でくれて」


「……変な礼の仕方だな」


「だって、あなたからはげましや肯定の言葉を受け取っても、信用できないもの」


「信用できないって…最悪だな、おい。じゃあ、誰に褒められたら喜ぶんだよ?おまえの祖父じいさんの学園長か?」


 身近な存在を出すが、成瀬は視線を逸らす。


「あなたに言う必要性を感じないわ」


 そう言って、そこで会話が一時的に中断される。


 だけど、彼女の中では誰かを連想することはできたのだろう。


 複雑そうな表情を浮かべていたが、頬が薄くだがほんのり紅くなっているように見えた。

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