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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
真意を試す対抗戦
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集団戦という枠

 瑠璃side



 最近は放課後、1人でカフェに閉じこもることが多い。


 対抗戦について、クラスの皆で話し合う時間も大切だけれど、私はやはり1人の時間が好きなのだ。


 窓辺の席で紅茶を飲みながら、ノートPCの画面に映しだされるデータとにらめっこをする。


 DクラスとSクラスの総合力を、レーダーチャートで表して比較してみても、やはり差は大きく開いている。


「……やっぱり、正攻法で挑むには限界があるわね」


 わかりきっている答えに、何度もぶち当たっては溜め息がれる。


 そして、自分なりに戦略を立ててみても、それで勝てるという確証が持てない。


 単純に言えば、自分の考えに自信が持てないでいる。


 どういう戦略を練ろうとしても、Sクラスの女帝が脳裏に浮かぶ。


 その中で彼女は全てを見透みすかしたように、薄ら笑みを浮かべている。


「学力で攻めるのは論外だとして、種目にスポーツを選んだとしても……読めないわね、向こうがどう出てくるか。今の私じゃ、鈴城さんの思考の裏をかくなんて……想像しにくい」


 型にハマった考え方では、簡単に見透かされる気がする。


 石上くんの言っていた言葉の意味が、嫌になるほど理解できる。


 全ての思考の延長線上に、鈴城さんが立ち塞がっているような気がしてならない。


 対立する敵として、ここまで強大だと思った相手は居ない。


 Sクラスの女帝の恐ろしさは、相手が気づきもしない内に彼女の目的は果たされているという点。


 それは敵も味方も巻き込み、彼女の描いた結末へと誘導されていく。


 その誘導をさえぎることができたのは、私の知る限りでは円華くんと和泉さんたちAクラスだけ。


 変わろうとしているとは言え、私はまだ、彼のような規格外の発想力を持っていない。


 どれだけ既存の枠から抜け出そうとしても、その行きつく先すらも予測されているのかもしれない。


 自分の自信の無さと力不足を、勝負が始まる前から痛感してしまう。


 私は精神的なところで、女帝と対等の位置に立てていないのだ。


 不安な気持ちにさいなまれていると、「成瀬さん!」と陽気な声で名前を呼ばれ、俯いていた顔を上げる。


 すると、目の前のPC画面の向こうに赤みがかった茶髪の女子が立っており、私に心配そうな表情を向けている。


「あなた……和泉さん、何時いつから、そこに?」


「ついさっきだよ。ここで休憩しようかなって思って外から店内をのぞいたら、凄い険しい顔をした成瀬さんが居るんだもん。心配になって、こっちに来ちゃった」


 そう言って、目の前の椅子を引いて「同席、良いかな?」と聞いてきたので、私は小さく頷いた。


 対面する形で座り、店員に注文を頼んだ後、両肘りょうひじをテーブルについては頬杖をつく。


 流石に話相手が居る前で作業を続けるつもりもなく、私はPCを閉じてかばんに仕舞った。


「あなたとこうして話すのも、12月以来ね。あの時は、雨水くんも一緒に居たはずだけど……。円華くんからは少しだけ喧嘩をして、仲直りしたって聞いたのだけど、今日はどうしたのかしら?」


「アハハっ、やっぱり、気になっちゃうよねぇ~。雨水は今日……というか、最近、体調を崩しやすいんだよね。体調管理には人一倍気を遣ってるはずなんだけど、今日もお休みしちゃってる」


 苦笑いしながらも、前に遠目で見た時よりは表情が晴れているように見える。


「心配……でしょうね」


「うん、だから、今日もお見舞い……というか、私なりに看病?をしに行くつもりなんだ。まぁ、私は家事とか苦手だから、大したことはできないと思うけど」


「大切な人が自分のために来てくれれば、それだけで嬉しいものなんじゃないかしら?私には、よくわからないけど」


 謙遜けんそんした言い方をする和泉さんに、柄にもないフォローをすれば、自分の言葉が頭の中で反響する。


 大切な人が……来てくれれば……。


 何度目かの反響の先に浮かんだのは、金色の髪をした下手な笑顔を浮かべた男。


「っ‼」


 無意識に浮かんだイメージを、すぐに強く首を横に振ることで払拭ふっしょくする。


「ど、どうしたの、成瀬さん?本当に大丈夫?少し、顔が赤いよ」


「そ、そうね。店の中の暖房が強いのかしら。ここ、エアコンの風が直に当たるもの」


 そう言って上を指さすけど、和泉さんは頭上を見ては首をかしげる。


「エアコン……この位置からだと、遠い気がするんだけどぉ…?」


「とにかく!大丈夫だから、心配は要らないわ」


 ま、全く、どうしてこんな状況で彼のことを思い出しているのかしら。


 自分でも、理解に苦しむわ。


 話を逸らそうと、参考までに今話題になっていることを切り出す。


「クラス対抗戦。あなたたちは確か、Bクラスとの対戦だったわね。噂では、幸崎くんがリーダーから退しりぞいたって話で、統率はいまだに取れていないらしい。種目は何になるかはわからないけど、Sクラスに勝てたあなたたちなら勝利できる可能性は高いんじゃないかしら?」


「それはぁ~……どうかな。この前、Sクラスに勝てたのは……運が良かっただけだから。逆に少し怖いくらいだよ。今まではSクラスを目指して、鈴城さんって言う明確な相手が居たけど、今度のBクラスには、誰と戦わなきゃいけないのかがわからないからね」


 敵の姿が見えない分、不安感がつのる。


 その気持ちは、わからないでもない。


 しかし、恐怖を口にしながらも、その顔から元来がんらいある明るさは消えない。


「それでも、誰が相手でも、クラスのみんなと戦うだけだよ。この対抗戦で私たちにできることは、みんなを信じて、力を合わせることだけだから。どんな勝負になるとしてもね」


 そうか、考えてみれば、和泉さんたちと私たちでは立場が違う。


 和泉さんたちAクラスは、Bクラスから防衛する側。


 対して私たちDクラスは、Sクラスを攻撃する側。


 戦い方の自由度で言えば、私たちの方が高い。


「あなたたちの統率力があれば、Bクラスがどんな戦略をとってきても対抗できるでしょうね。私には、その高いチームワークが羨ましいわ」


「成瀬さんたちだって、仲が良いクラスだと私は思うよ?」


「……そうね。結束力と言う意味では、この前の特別試験で上がったような気がするわ。それは……本当に、ね」


 それも結果的には円華くんのおかげであり、私には何もできなかった。


 円華くんが復讐者としての正体や目的を明かしたことで、その秘密をクラスの中だけに共有する。


 集団として誰にも言えない秘密を共有することで、強い信頼関係が生まれることはある。


 その彼の大胆な行動によって、Dクラスの繋がりは強いものになった。


 だけど、私は何も……クラスメイト1人の意識を変えることもできず、死なせてしまった。


 あの時、相手の心を動かす力が私にあれば、結末は変わっていたかもしれない。


 誰1人として犠牲者を出すことのない未来を、選べたかもしれない。


「私たちには、結束力はあっても集団としての実力は低い。あなたたちみたいに、チームワークを活かす戦略は使えない……。それこそ、鈴城さんの手の平で踊らされるのが目に見えてるわ。集団戦としては、致命的ちめいてきね」


 これはクラスとクラスの対決。


 集団としての力が試されると思っている。


 だからこそ、それがDクラスの弱点になっている。


 私たちは集団としての戦いに慣れていない。


 統率が取れ始めていると言っても、今のまま挑んでもでしかない。


 無理矢理、集団戦としての形を成したとしても、それぞれの個性が強い分、不協和音ふきょうわおんが起こり、最悪の場合は崩壊ほうかいする。


 そして、そこから責任のなすけ合いなんて起きたら、クラスとしてはもう終わりだわ。


 私は強い力で、皆を引っ張ることができるリーダーじゃない。


 今までは、陰ながら円華くんや基樹くんが支えてくれていただけ。


 和泉さんは私の弱音を聞き、怪訝けげんな表情をして言った。


「チームワークかぁ……。私は成瀬さんのクラスなら、Sクラスとも戦えると思うな。それはDクラスの戦い方次第だと思うけど」


「……戦い方?」


「うん。そのぉ……うん、良いや。ライバルだけど、恩義おんぎは返したいし、1つだけ客観的なアドバイス、聞いてくれる?」


 人差し指を立て、フフっと笑う和泉さん。


 恩義という言葉に疑問はあれど、彼女の善意に嘘があるとは思えない。


「今後の参考までに、聞かせてくれるかしら」


 承諾する意思を示せば、和泉さんは制服の胸ポケットからメモ帳とペンを取り出し、テーブルに置いて図を描く。


 1つのページには大きな円を1つ、もう1つのページには複数の小さな丸を描く。


「この大きな円がSクラス、鈴城さんの戦い方。何度も戦ってきたからわかるけど、彼女はクラスメイトを自由に動かせる。それも個々人の能力を把握した上で、手足のように動かしてるって言っても過言じゃないよね。それで鈴城さんは勝利、あるいは彼女の目的を果たすために物事ものごとを導いているの」


 手足のようにって言うのが、単なる比喩ひゆ表現に聞こえないのは彼女の険しい表情からわかる。


 そして、次に隣のページを指さした。


「だけど、成瀬さんのDクラスは違うよね。鈴城さんが1人の意思で戦うことができるなら、成瀬さんのクラスは個人の力が強いと思うんだ。椿くんだったり、麗音ちゃん、石上くんの名前がすぐに出てくると思うけど、それだけじゃない……気がする。だって、実力って学力や運動だけじゃないでしょ?」


 最後は推測と言ったような結びだったけど、言われて見れば確かにその通り。


 個人のデータを見直した時、私たちのクラスは集団としての統率は取れていないことは分かっていた。


 だけど、個人としてのデータ……その経歴などに目を向ければ、十人十色の分野で高い能力を持っているのがわかった。


 それは言わば、目に見える実力では計れない、個性の力。


 それもこの学園では、立派な実力となる。


 私だって、人よりはプログラミングの実力は高いと自負しているのだから。


「個性の力……。そうね、私はやっぱり、まだ既存の枠に囚われていたみたい。改めて、この戦いに臨むために必要なのは、クラスメイトと向き合うことだとわかってきたわ」


 私は集団戦として、クラスを1つのまとまりとして戦うことにこだわっていた。


 だけど、そんな戦い方は初めから必要なかった。


 そして、私のクラスでの役割が見えてきた。


 あのクラスのリーダーとして、必要な役割。


 それを複数の丸として、クラスの状況を図示されたことで理解できた。


「ありがとう、和泉さん。あなたのおかげで、私たちなりの戦い方が見えてきたわ」


「役に立てたなら良かったよ。……それじゃ、成瀬さんの悩みも解決できそうだし、私はそろそろ雨水のところに行こうかな。私も話せて良かった、いい気分転換になったよ」


 そう言って、成瀬さんは話の途中でテーブルに置かれたコーヒーを飲み干し、手を軽く振って行ってしまった。


 話を終えて彼女が店を出た後で、私の中で少しモヤモヤが残る。


「……そう言えば、彼女の悩みも聞いてあげるべきだったかしら?」


 急いでいる感じだったから、無理に聞き出すことはしなかった。


 だけど、彼女がこの対抗戦において、相手をするのはBクラス。


 それも成金なりきんリーダーの幸崎ウィルヘルムが降格したのなら、今の所は目立った脅威となる生徒は見当たらない。


「今の和泉さんなら、心配する必要はないかもしれないわね」


 和泉さんに妙な心配を少し抱いていたけど、すぐに自分の戦いに集中するために払拭ふっしょくする。


 今は明確になりそうな勝負のヴィジョンを、具現化できる方法を模索したい。


 私は再度鞄からPCを取り出し、テーブルの上に置いて起動させた。

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