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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
真意を試す対抗戦
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見つめる根源

 円華side



 マンションの自室にて、1人でベッドに横になる。


 両手を頭の後ろに回し、天井をボーっと見ながらも、頭の中で決断の天秤が揺れる。


「どうすっかなぁ~……」


 空虚にそう呟き、小さく吐息が漏れる。


 自分の中で、2つの意見が葛藤している。


 1人はクラスの対抗戦には手出ししないという約束があるため、Sクラスや紫苑との対決は成瀬たちに任せるべきだったと後悔している。


 もう1人は復讐のため、そして紫苑の真意を探るために、決闘で対決することは正しかったと判断し、成瀬たちに対抗戦に参加できるように直談判じかだんぱんすべきだと思っている。


 クラスとしての自分と、復讐者としての自分。


 どちらも本心から思っていることだからこそ、頭の中でモヤが消えないでいる。


 こういう時の傾向は、自分でもわかっている。


 自分の中で答えが出ないでいる内に、周りに相談できずに1人でふさぎ込んでしまうんだ。


 俺自身がどうしたいのかも、見えないままに。


 それで周りを振り回して、呆れられるのが目に見えてる。


 かと言って、恵美たちに相談するにしても、話が複雑すぎる。


 紫苑と組織のことで、余計な不安をかけたくない。


 1人で抱え込むには、大きな負担だって言うのに……。


『相変わらず、余計なことでウジウジしやがって。おまえって奴は、本当にどうしようもねぇなぁ、相棒?』


 壁に立てかけていた白華から声が聞こえ、顔を横に向けると氷刀から黒いオーラが溢れ出ては漆黒の狼の形となる。


 身体を起こし、俺は相棒の方に向けて対面する。


「何だよ、昼寝の時間はもう終わりか、ヴァナルガンド?」


『ふぁ~あ。おまえの面倒くせぇ感情は、俺様にも影響するんだよ。暇つぶしに話相手になってやるから、さっさと何で迷ってんのか話せよ。これじゃ、2度寝もできやしねぇ』


 口をあけて大きく欠伸あくびをし、前足で顔を拭いてはうつ伏せになって俺を見上げてくる。


 こいつ、学校に居る時や俺が基樹たちと居る時は寝てて静かだけど、1人になると起き出してこの調子なんだよな、最近。


 上から目線の俺様口調は相変わらずだけど、俺の感情が直に伝わるからか、心配はしてくれてるんだろうな。


 頭と気持ちを整理するためにも、少し話してみるか。


「次のクラス対抗戦で、俺がどうすべきなのかがわかんねぇんだ。俺は成瀬たちに、クラス間の競争には干渉しないって約束した。だけど、Sクラスの鈴城紫苑は、俺との対決を望んでいる。そして、あいつは俺の知らない組織の情報を掴んでいるかもしれない。Dクラスの生徒として、復讐者として、俺が取るべき道が……見えない」


 紫苑とは口約束とは言え、自由決闘で戦うことを約束している。


 それを破るつもりはねぇけど、それだとDクラスのみんなとの約束を破ることになる。


 その選択が正しかったのか。


 自分の中で、折り合いが取れないでいる。


 こんな状態で成瀬たちに対抗戦に参加する意思を示したとしても、あいつらが納得するとは思えない。


 俺自身、後になって自分の決断に納得できていないんだからな。


「紫苑には、やっぱり俺たちのクラスの状況を説明して……いや、ダメだ。あいつにDクラスのことを話したとしても、それで対決を先延ばしにする理由にはならないだろ。それに、俺自身がこの機会を逃したくない……。あいつのことが知れれば、ポーカーズに……キングに近づく手がかりがあるかもしれない」


 一縷いちるの望みでも、復讐者としての自分が紫苑との戦いの先にあるものを望んでいる。


 だけど、成瀬たちは俺に頼らずに戦おうとしているはずだ。


 あいつらが自分たちの力だけで戦おうとしているのに、そこに割って入る資格があるのか?


 葛藤を口にしていると、ヴァナルガンドは再度『はあぁ~』と大きな溜め息をついた。


『おまえ、自分の欲望と向き合ってみろ。そうすれば、答えは単純だ』


「……欲望…?」


 復唱すれば、相棒は身体を起こしては俺に近づき、目を合わせてくる。


『相棒。おまえの欲望の根源は、誰かを守ることだったんじゃねぇのか?』


 誰かを…守る。


 恵美を、俺を支えてくれたクラスのみんなを、守りたい。


 それが俺の欲望であることに、間違いはない。


『目的とか、約束とか、そう言うのはこの際、後回しだ。おまえの根底にある、譲れねぇ欲望から目をらすな。おまえが戦いから降りて、それでおまえはそいつらを守れたことになるのかよ?』


 紫苑との約束を放棄すれば、成瀬たちとの約束は守られる。


 だけど、その先で得られるはずだった、あいつらを守るための手がかりを失うかもしれない。


 それは、あいつらを守ることに繋がるのか?


『俺様には、どうもそうは思えねぇけどな』


 ヴァナルガンドは俺の気持ちを代弁して、言葉に出した。


『おまえが迷っている理由を、言い換えてやる。おまえは守りたい者を守るために、あの女との戦いを欲している。その戦いの先で、あいつらを守るための手がかりがあると信じている。その欲望にふたをして選んだ道に、後悔しないのか?』


「後悔……するだろうな」


 自分に問いかけられ、すぐに答えは出た。


 そして、口から出る言葉は結論に続いていく。


「確かに、おまえの言う通りだぜ、ヴァナルガンド。俺は自分の欲望に、ふたをしようとしていたみたいだ。成瀬たちが、自分たちだけで紫苑と戦うことができたら理想だった」


 実際、さっきまでその理想を崩すことに対して、罪悪感を抱いてすらいた。


 あいつらが強くなるチャンスを、奪う気がしたから。


 結局、俺が居なければ勝てないという考えを抱いてほしくなかったから。


「だけど、鈴城紫苑は俺の目的に関わる存在だ。その障害になるなら、ぶっ倒さないといけない。あいつらとの約束を、一時的に破ることになったとしても」


 守るという欲望と、復讐という目的が一致いっちした。


『答えは出たみたいだな、相棒?』


「ああ。どういうわけか、おまえのおかげでな。……案外、こういう時にも役に立つんだな、おまえの存在って」


 戦う時以外では、ギャーギャーうるさい奴と思っていたけど、その認識を改める必要がありそうだ。


 お互いを相棒であると認めた日から、ヴァナルガンドが俺に干渉してくる回数が増えてきている。


 これは良い傾向……なんだろうな。


 自分の考えを見つめ直すって意味じゃ、もう1人の自分(ヴァナルガンド)と対話できる時間も悪くない。


『まぁ、だが…今回ばかりは、おまえのその決断は正解だろうぜ。あの女……鈴城紫苑って言ったか?あいつは、この前の七天美と同じ匂いがする……』


 ヴァナルガンドが険しい表情で呟いた言葉を、聞き逃さなかった。


「お、おい、ヴァナルガンド!?それは一体、どういうことだよ!?紫苑が、七つの大罪具を持っているってことかよ!?」


 七つの大罪具。


 その力と恐ろしさは、この前のクイーンとの戦いで嫌というほど理解した。


 あれと同等の力を持つ武器を紫苑が持っているなら、確かに危険な存在だ。


 いざという時に、俺とヴァナルガンド以外じゃ正直太刀打ちできない。


『さぁな?匂いがしたってだけで、確証はねぇよ。だが、それを抜きにしてもやべぇ奴なのは間違いない。本当に、おまえと同等かそれ以上に強い奴かもな』


 相棒も、紫苑の存在には警戒心があったみたいだ。


 つか、それにしても……。


「おまえ、何でそれを紫苑と居る時に言わなかったんだよ?」


 花園館の旧・応接室に居る時、ヴァナルガンドは終始、紫苑に対して無反応だった。


 理事長と話している時は、今にも襲いかかりそうなほどに警戒していた癖に。


『言ったら、おまえ、あの女に丸わかりな殺意を向けてただろ。流石にあの場で、白華《俺様》もねぇのに暴れられるわけもねぇ。おまえが感情任せにならねぇように、黙っててやったんだ。俺様の英断に感謝しろ‼』


「恩着せがましいな、おい」


 傲慢な態度はそのままだけど、誰彼(だれかれ)構わず噛みつく気は無くなったらしい。


 これもヴァナルガンドが、成長したってことなのかもな。


 俺が半目を向けていると、相棒は不意に目がわっては窓の方に移る。


「どうした、ヴァナルガンド?」


 声をかけるが、まるで何かを睨みつけるように外を見たまま目を離さない。


『おまえ、その対抗戦ってやつが、ただのクラス同士の対決ってだけで終わると思うか?』


「はぁ?何だよ、それ。別にそんな気楽には思ってねぇよ。組織がまた、変な動きをしているかもしれないとは……ずっと、思ってる」


 考えてみれば、2学期末にわざわざ1クラスを削ってまで成立させた特別試験だ。


 何か仕掛けがしてあるんじゃないかって、ずっと警戒はしている。


 だけど、今日にいたるまで、思い当たるような動きは見えていない。


 それが逆に不気味に感じているくらいだ。


『おまえの言う変な動き、もう既に起きてるかもしれねぇな。おまえたちが気づいていないだけで』


「……やめろよ、変な不安をあおってくんな」


『そうじゃねぇよ。……匂うんだ。人を破滅させようとする、悪意の匂いってやつがな』


 横からヴァナルガンドの顔を見ると、険しいものになっている。


 悪意って言葉に、俺も外を見て目尻が吊り上がる。


 本当に、こいつが言うように、組織が既に動いているのか。


 だとしたら、今度はどんな手段で俺たち生徒を絶望に突き落とそうとしているんだ?


 この学年末クラス対抗戦、ただのクラス間同士の争いで終わらないかもしれない。


 だとしたら、尚更なおさら俺がこの戦いに参戦する理由はある。


 みんなを守るために、組織が与える絶望をぶっ潰す。


 その障害となるのが、例え最強と言われる女帝であっても。


『顔付きが変わったな。これからどうする?』


「とりあえず、成瀬たちに土下座する準備でもするさ。舞台として、デザート食べ放題のレストランの予約だな」


 半分冗談の予定を言いながらも、俺の意識は既に組織の悪意と、紫苑との戦いに向いていた。

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