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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
真意を試す対抗戦
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避けられなかった未来

 ???side



 人には大なり小なり、その人生の中で自身に対して影響を与える出会いと言うものが存在する。


 私の場合、その出会いは生まれた瞬間だった。


 自我が覚醒したことを自覚した時には、この身体は水槽すいそうの中だった。


 そして、その前に立っているのは、青みがかった銀色の髪をした男だった。


『……驚いたな。こんな所で、彼女の姿をまた見ることになるなんて』


 彼女…?私のことか?


 自身の身に起きていることが理解できぬまま、男は異形の銃を操作盤そうさばんに向けて数回連射する。


 すると、水槽から水が抜けていき、男はガラスの板をグリップで叩き割った。


『ここには、()()を取り返すために来たつもりだったけど、奴らはその使用者すらも複製しようとしていたのか。悪趣味にも程がある……』


 水が完全に抜けていき、床に足が着くが力が入らず、座り込んでしまう。


 私は一体、何なのか。


 わからない。


 男はゆっくりとこちらに歩みより、手を差し伸べてくる。


『立てるかい?』


 最初はその手を取ることに恐怖を覚えたが、顔を上げれば彼はやさな笑みを浮かべていた。


 その表情は、私の中の警戒心を解かせた。


 男の手を取った時、身体を支えられずに体重を彼に預けてしまう。


 それを受け止められた時に感じた温かさは、未だに覚えている。


『私は……何?』


 頭に浮かんだ言葉が、そのまま口から出てしまった。


 自分が何者なのか。


 その答えを、彼が知っているのかはわからない。


 しかし、何かに促されるかのように、その問いかけをしていた。


『その答えを知りたいのなら、君の願いに耳をかたむければ良い。君はどうしたい?その願いを、聞くだけ聞くよ』


 願い。


 その言葉が頭の中でずっと反響していく。


 そして、私の中の何かが答えを導き出した。


『強くなりたい』


 頭に浮かんだと同時に、口から願いを言葉にしていた。


 強さを望んだ理由は、今になってもわからない。


 だけど、私が自我を認識した時に抱いた最初の感情がある。


 それは後悔。


 何に対してのものなのかは、わかっていない。


 だけど、その気持ちが何よりも強かった。


 男は私の濡れた長い髪に触れる。


『綺麗な紫色だな……。君は名前が欲しいか?』


 その問いに、私はコクンっと頷く。


 すると、男は顔を上げさせ、目を合わせて言った。


『君の名前は、今日から紫苑しおんだ。そして、これからは君が望む強さを手にするまで、俺が君を導こう』


 その透き通るような蒼い眼は、男の言葉を信じさせるほどの強さを感じさせた。


『おまえの名は……何という?聞かせろ』


『おまえ……か。フッ、面白い。君は将来、女王様みたいな大物にでもなれるかもしれない』


 冗談を口にしながら、男は自身のことをこう名乗った。


『俺は最上高太もがみ こうた、世間からは英雄とも魔王とも呼ばれるけど、罪の王って呼ばれることが多いかな。今日から俺が、君のマスターになる。良いね?』


 罪の王。


 その言葉にともなう覇気は、王と呼ばれる男の風格を感じさせた。


『……わかった、マスター。私はあなたに従おう。あなたの与える強さに、応えられるように』


 私は生まれた時に、名を与えてくれたマスターに忠誠ちゅうせいを誓った。


 そして、マスターからの教えを請い、あらゆる強さを身に付けて行った。


 彼の教えを受けた者として、自身が最強の存在であるという自負じふがある。


 しかし、それによって感じるむなしさがあった。


 師以外に、私の相手となる者がほとんど存在しない事実。


 特に同年代の者たちの中で、私と同等の強さを持つ者を見たことが無かった。


 高校1年生の2学期に、あの男の存在に気づくまでは。


 椿円華。


 私は未だに、その力を確かめられていない。


 円華の力は、私の領域まで到達しているのかどうか。


 私の中で、それを確かめたいという欲望が抑えきれない。


 早く戦いたい。


 罪の王に鍛えられた者と、強大な混沌の力を有している者。


 どちらが真に最強と呼べる存在として相応しいのかを。


 私はその機会が来ることを、今か今かと心待ちにしている。



 ーーーーー

 円華side



 クイーンへの復讐を終え、生徒会長選挙も契約通りに進藤大和が生徒会長の椅子に就くことができた。


 だからと言って、すぐに何かが変わるというわけではなかった。


 俺たちの日常は変わらないし、授業や試験に追われる事実もそのままだ。


 当たり前の学園生活に変化が無いのを、喜ぶべきか、不安に思うべきなのか。


 それに意識を向ける前に、俺には1つの事実を確認する必要があった。


 クイーンとの戦いで発覚した、目の前で見た1つの事実。


 俺はある男に、その事実を通して苦情くじょうを言わなきゃ気が済まなかった。


 早朝、電話で会う約束を取り付けていた男は、誰も居ない噴水公園の前に1人で立っていた。


 その後ろ姿を確認し、声をかける。


「おはようございます、岸野……先生」


「先生って呼ぶまでにがあったな。まさか、おまえ、俺に何か怒っているのか?」


 岸野は振り返り、俺と目を合わせては自嘲するように口角を上げる。


「わかっている、おまえの言わんとしていることは。おまえにあの姿を見られた時から、その怒りを買うことは想定済みだ」


 彼としても、こっちが文句を言いたい心境にあることは察していたらしい。


 遠回しな言い方をする気分でもないため、すぐに話を切り出す。


「……あんた、何で俺に黙ってた?魔鎧装を使えることを」


 岸野の魔鎧装、確かオーディンって名前だった。


 その力は、暴走した俺を止められるほどの能力を有していた。


「言えなかったんだよ。俺はあの時まで、オーディンの力をまた使う覚悟が持てなかった。おまえもわかっているだろうが、魔鎧装って代物はそう短絡的たんらくてきに使って良いものじゃない」


 岸野にヴァナルガンドのことを相談した時、違和感があったのは確かだ。


 魔鎧装に対して、当事者のように話していたからな。


 だけど、あの時にこの男は自分が魔鎧装の使い手であることを伝えなかった。


 後出しでオーディンの力を使われて、自分を止めてくれたことを感謝したと同時に、しゃくにさわったのは否定できない。


「椿、おまえに謝らなきゃいけないことがもう1つあったな。俺はオーディンの力を持ちながら、その力をあいつのために振るうことができなかった」


 あいつとはもちろん、涼華姉さんのことであることは言うまでもない。


 岸野が頭を下げた時、俺の中で怒りの衝動が行動に移っていた。


「ふざけんじゃねぇ‼」


 胸倉を両手で掴み、目を合わせて視線で怒りをぶつける。


「何でだよ、何で!?あんたのその力があったなら、姉さんを助けられたんじゃねぇのかよ‼何で姉さんが殺された日に、あんたはその場に居なかった!?どうして、姉さんを…‼1人で奴らと戦わせたんだよ!?」


 怒りのままに言葉を並び立てれば、岸野は俺から目を逸らさずにこう返した。


「すまない……」


「わかれよ、謝罪を聞きたいわけじゃねぇんだよ‼あんたは……姉さんの婚約者だったんだろうが!?あんたの姉さんへの想いは、何だったんだよ!?」


 わかっている、彼も辛い想いをしてきたことは。


 それなのに、込み上げてくる怒りが抑えきれなかった。


 岸野は俺の両の手首を掴み、グッと力を込めて震わせる。


「……言いたいことは、言い切ったか?おまえの怒りを受け止めるのは、あいつを救えなかった俺の役割だ。そして、もう1つ役割が残っている。おまえに今度こそ、俺の知る事実を伝えることだ」


「っ!?」


 ここまで言われて、彼の中で俺に対する怒りもあったはずだ。


 だけど、岸野はそれをこらえた上で、受け止めると言ってくれた。


 そんな態度を示されたら、これ以上何も言えなかった。


 胸倉から手を離し、感情任せの行動をじてうつむいてしまう。


「悪い、先生……。頭、冷えてきた」


「それは何よりだ。おまえの言いたいこと、俺に向ける怒りは、全て筋が通っている。だが、おまえの怒りをさらに買うことを覚悟した上で、伝えなければいけない想いと、俺だけが知る事実がある」


 岸野は怒りをぶつけた俺を否定せず、話を進めてくれた。


「俺はあの日、本当なら涼華を助けに行くはずだった。自惚うぬぼれと思うかもしれないが、オーディンの力はポーカーズ5人と同等のものだと俺自身も思っている。だからこそ、この力で助けようと……思ってはいたんだ」


 しかし、それは現実とはなっていなかった。


 岸野の想いとは真逆の結果になっていることに、疑問を抱かないわけが無い。


「おまえには伝えておくが、オーディンには少し先の未来を写真のように見ることができる能力がある。そして、それを実行できるかどうかは、所有者である俺の判断に掛かっている」


 オーディンも、俺の異能力と似たように未来を知ることができる力を持っていたのか。


 だけど、それを現実とするかどうかは岸野の意志に掛かっているのなら、最悪の未来が見えても変えることができたはずだ。


「オーディンの見せた未来の中で、俺はその戦いに参戦していた。そして―――」


 岸野が次に続けた言葉は、信じられない内容だった。


「最終的には俺がオーディンの槍で、涼華の腹を貫いていた」


「……何だよ、それ…?どういうことだよ!?」


 当然浮かぶ疑問だ。


 岸野は姉さんを助けるために、ポーカーズと戦うことを決めたはずだ。


 それなのに、最後には姉さんを殺していた?


 何でそんな結末になるんだよ!?


「オーディンが見せる未来は、俺の意思によって左右されるとはいえ、ほぼ確実に起こる現実となる。つまり、俺が参戦した場合、ポーカーズを退けることができたとしても、俺自身が彼女を殺していた可能性が……高い」


 岸野としても、認めたくなかった未来のはずだ。


 それでも、彼が姉さんを助けに行かなかった理由は予想がついた。


「あんたは姉さんを死なせないために、助けに行かなかったってことかよ」


「そう言えば聞こえは良いが、俺はその未来が恐くなって逃げたんだ。結果として、俺が行かなくてもキングによって涼華は死んでしまった。あいつが死ぬという未来を、避けることができなかったんだ」


 その事実を語る岸野からは、悔やんでも悔やみきれないほどの後悔を感じた。


 恵美がクイーンから読み取った記憶では、キングは姉さんを助けようとしていたらしい。


 にわかには信じられないけど、あいつが嘘をつくとは思えない。


 キングでも、岸野でも、涼華姉さんは死を迎える運命だったって言うのかよ。


「俺はその選択を後悔し、オーディンの力を呪った。だから、あいつが死んだ日からその鎧をまとったことはない。そして、オーディン自身も、その力を恐れた俺を1度は見限ったんだ」


「それなら、どうして……あんたはこの前、オーディンの力を使えたんだよ?」


 素朴な疑問をぶつければ、彼は俺の右肩に軽く手を置いた。


「おまえのおかげだ。おまえはヴァナルガンドと向き合おうとしていた。その姿勢が、俺の背中を押したんだ。だからこそ、俺はもう1度、あの力と向き合うことができた」


 岸野のらしくない台詞に対して、心の中でヴァナルガンドが俺たちの話を聞いていたのか、『気持ちわりぃ』と言いながらも声からはまんざらでもない感じが伝わってきた。


「おまえが変わったおかげで、その影響を受けている者は少なくない。復讐のためでも、守るためでも良い。おまえは確かに、変わっているんだ。おまえ自身の意思でな」


「変わっている……俺が…」


 その変化を自覚するまでに、どれほどの時間が必要なのかはわからない。


 だけど、岸野や周りから見た俺は、前の自分よりも変わっているのだろう。


 そして、これからも変わり続けるのかもしれない。


「少しは……俺も姉さんに近づけているのか?」


「さぁな。しかし、おまえはおまえだ。あいつになる必要は無い」


「……そうだよな」


 岸野の言葉を肯定しながらも、自分の中の姉さんへの渇望かつぼうは消えない。


 俺は未だに、姉さんの強さに届いている気がしないからだ。


 それを確かめる方法は、もう無いと言うのに。


 姉さんのことを思い出すと、クイーンを断罪した時に話していた内容を思い出す。


「1つ……いや、正確には2つだけど、気になることが在る。先生、わかってる限りで答えてくれ」


「……何だ?そんな、改まって」


 怪訝な顔をしている岸野に対して、ある名前を口に出した。


「RUINって言うのは、一体何者なんだ?」


 緋色の幻影の目的に関わっている存在。


 それは理事長との会話でわかってきた。


 だけど、クイーンは姉さんのことをルインの器だと言っていた。


 そのことが、ずっと頭の片隅に残っていたんだ。


「……おまえが何故、その名前を知っているのか。驚きが強すぎて、身体で表せないな」


「理事長から聞いた。組織の目的には、ルインの復活が関係しているってな。そして、クイーンは姉さんがルインが復活するために必要な器とも言っていた。……意味がわかんねぇよ。何で、姉さんがそんな得体の知れない奴に利用されなきゃいけねぇんだよ」


 自分がわかっている限りの情報を言えば、岸野の表情がくもる。


「ルインは、破滅の力を司る希望の血の根源と言われている存在だ。20年前の戦いで、最上の父親やおまえの師匠が追い詰めたが、前の宿主やどぬしが死亡した時に行方不明になったはずだが、今は組織がその抜け殻を管理している。しかし、それ以上のことは俺もわかっていない」


 希望の血の根源…?


 前の宿主が存在するってことは、クイーンの言っていた器って……。


「ルインの復活のために、組織は姉さんを新しい宿主にしようとしていたってことかよ……。その先に、奴らは一体、何を…‼」


「そこまではわからん。しかし、破滅の力を使うってことは、ろくなことじゃないのは確かだ」


 緋色の幻影への怒りが、俺の中で増幅していく。


 奴らのことを知れば知るほど、復讐心が駆り立てられる。


 姉さんの死の真実へ近づくためには、俺はまだ知らないことが多すぎる。

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