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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
真実と嘘の選挙戦
357/497

筋書き通り

 大和side



 13時25分。


 講堂で行われている、生徒会長選挙の状況は変化していた。


 何者かが流した一声メールによって、動揺が広がっては支持率が変動している。


 進藤大和 49%。


 仙水凌雅 51%。


 支持率の表示は5分置きに更新され、俺の支持率が、仙水の支持率に追い上げを見せている。


 投票可能時間は、あと少しで終了する。


 壇上では、支持率のグラフを見て仙水すらも動揺の表情を見せている。


「何がどうなってるんだよ…‼どうして、こんなことに…!?」


「おまえの中では、あのまま完勝する未来が視えていたようだな。しかし、現実は見ての通りだ。予言しよう、次の最後の結果発表の後、俺の支持率はおまえを越える」


 淡々とした態度で言えば、彼は奥歯を噛みしめる。


「仙水、おまえはこの大舞台で俺に勝つために、様々な策を巡らせたことだろう。俺個人を、この場で一対一の状況を用意した上で完璧な勝利を飾る。それを目標に、思考をらした努力に対しては、素直に称賛の言葉を送ろう」


「は、はんっ。まさか、もう勝ちを確定しているんですか?勝負は最後までわからない。このまま、俺が逃げ切ることだってあり得るはずだ。先輩、まだ勝負はわかりませんよ」


「それはおまえの願望だ。しかし、既に気づいているはずだ。あのメールの着信音が響いてから、場の空気が変わった。おまえには、何か心当たりがあるんじゃないのか?だからこそ、顔から余裕が消えている」


 横目を向ければ、仙水の表情からは既に笑みが消えている。


「これはあくまで、俺の憶測だが、全校生徒の間で広まっていた証拠探しが終了したという内容だろう。そして、それによって、票数が俺の方に流れてきている。これが意味することは、何なんだろうな?」


 彼からは言葉は返って来ず、表情が辛いものに変わる。


「USBメモリの存在を、おまえは知っていた。そして、それがどこにあるのかもわかっていた。その内容も。そして、それを裏で被害者たちに接触することで票を動かした……。弱みを握ることで、自分の方に誘導したんじゃないか?」


 否定する返しはないが、額から汗が流れている。


 仙水が選挙戦当日が近づくにつれて、表立って行動することが少なくなっていることには気づいていた。


 しかし、支持率は彼の方に傾いている事実に違和感があった。


 そして、1年生がUSBを探すことを、1度は止めようとした事実。


 混乱を止めるという目的があったとしても、下級生に圧力をかける程ではなかったはず。


 仙水が何故、他人の証拠集めを止めようとしたのか。


 そうまでして、止めなければならない理由があった。


 彼にとって、それが都合の悪い真実に近づかれる可能性があったからだと推測できる。


「先輩……聞いて良いですか?」


「あと少しで、投票時間も終了するが、最後に何か確認したいことでも?」


 右手にしている腕時計を見ながら聞けば、仙水は横目を向けながら聞いた。


「ここまでの展開、どこまでが先輩の筋書き通りなんですか?」


 その問いに対して、俺は表情を変えず、淡泊たんぱくにこう返した。


「今この瞬間までの、全てだ」


 この言葉を最後に、投票時間終了のブザーが鳴る。


 そして、俺たちの後ろに映し出される支持率の画面が、最後に切り替わった。


 進藤大和 52%

 仙水凌雅 48%


 それが示す結果に対して、その場に居た全員が言葉を失った。


 今日までの過程において、多くの人間が予想していた結果がくつがえされたのだから、当然の反応だ。


 この結果は、俺にとっては確定事項だった。


 進藤大和が、生徒会長の椅子を手に入れることは。


 場が静けさに包まれている中、現実を見せるように石上真央はマイクを口元に近づけて言った。


「投票の結果、次期生徒会長に選ばれたのは、2年Sクラス進藤大和様に決定いたしました。おめでとうございます」


 祝福の言葉と共に、手を叩いて拍手をする彼に続き、客席からも徐々にその音が聞こえてきては、次第に大きくなっていく。


 劣勢と思われる状況からの逆転劇。


 オーディエンスに強い印象を与えるのであれば、これくらいの舞台を演出するのはわけがない。


 完璧な勝利を見せたのでは、これからの俺の目指す学園像が薄くなってしまう。


「進藤先輩、次期生徒会長として、お言葉をちょうだいできますでしょうか?」


 司会者から促されれば、俺は席を立って演説台の前に移動する。


 そして、全校生徒を一瞥した後に口を開いた。


「まず、私のような者を生徒会長に支持してくださった皆様に対して、厚く御礼申し上げます。知っての通り、私はこの学園のシステムに対して疑念を抱き、それを変えるために力を求めました。その1つの力として、生徒会長の椅子が必要だった。言わば、私は今日この場にて、やっと目的のスタート地点に立てたに過ぎません」


 そうだ、生徒会長……全校生徒の頂点の椅子を手に入れたからと言って、それで終わりじゃない。


 ここからが、俺がこの学園全体を巻き込む、自己満足な目的の始まりなんだ。


「私の目指す学園の姿を、改めて話すつもりはありません。皆さんが、それに賛同してくださった結果、今の私の地位があると確信しているからです。ですので、今から話すのは、過去に伝えてきたことの復唱ではなく、未来の話にしたいと思います」


 演説台の両端に手を置き、顔をマイクに近づけては俯きながら話す。


「この学園は、弱肉強食の摂理の下に動いてきました。強き者が生き、弱き者は排除される……いや、死ぬ。その摂理に抗おうとする者も居れば、諦めを抱いた者も居るでしょう。しかし……」


 俺はそこで言葉を区切り、顔を上げて言葉を続ける。


「これからの学園では、何度失敗しようとも、這い上がる意思があるのであればやり直すことができる。私がそう言う学園へと変えて見せる。手始めに、私がこれから進める改革の1つを伝えます」


 全校生徒の目が、俺に集中する。


 この学園を変える最初の一手。


 それに対する期待と不安が入り混じっているのが伝わる。


 その重圧を受けながら、俺は宣言した。


「この学園における、進級時の退学制度を廃止する。1年生時ではFクラスが退学、2年生時ではE、Dクラスが退学となるこの制度には、何の意味もない。生徒の可能性を潰すこの仕組みは、もはや俺の求める学園像において不必要だ」


 生徒会長の座を手に入れた者は、学園のシステムに介入する権限を持つ。


 退学制度の一部廃止の話が出れば、全校生徒だけでなく、教師の間でもざわつき始める。


 しかし、それは予測していた反応だ。


「誰もがやり直すことができる学園。その実現を目指す上で、俺は誰かを切り捨てるシステムを否定する。強者が生き残るために、弱者の命が切り捨てられる仕組みでは、誰もやり直すことなどできない。そして、この退学制度の廃止は、改革の手始めに過ぎない。俺はこれからも生徒会長として、この学園の在り方を変えていく所存です」


 これからの学園の変革を訴えた後、俺は演説台を後にした。


 そして、1つの戦いの勝利を実感し、無意識に笑みを浮かべていた。



 ーーーーー



 選挙戦が終了した後、全校生徒が教室に戻る中、俺ともう1人、仙水凌雅だけが舞台上に残る。


 降壇こうだんを促す生徒会の人間には、「今は2人だけにさせてほしい」と伝えてある。


 俺たち以外は無人となった講堂の壇上で、仙水は後ろを振り返ってはスクリーンに映された支持率のグラフを見ている。


僅差きんさで負けた……ように見えているけど、もしかして、これも先輩の演出ですか?」


「どうだろうな。そう思いたければ、おまえの想像に任せる」


 仙水としては、自身の思い描いていた通りの展開にならなかったことに対して、不満が残っているのは表情でわかる。


「今度こそ、先輩に勝てると思ったんですけどね。最初から、これが全部筋書き通りだったなら、やっぱり、あなたは人間じゃない」


 皮肉のつもりか、俺が人間であることを否定してくる。


 しかし、それに対してこちらは不敵な笑みを浮かべて返す。


「確かにな。俺も自分が人間であると思ったことは、1度もない」


 肯定されては、面白くないというように舌打ちをする仙水。


「一応聞きますけど、先輩の中では俺の行動は全て予想の範疇はんちゅうだったってわけですか?」


「全てがそうだったわけじゃない。しかし、予測できた策略はあった。1年Sクラスの女帝への接触。そして、俺と1対1の状況を作り出すため、他のライバルを陥れる策略。その2点については、おまえの動きに組み込まれていることは想定の範囲だった」


「俺の序盤の策っすね。あの時は、先輩の敵意を俺に向けさせるのに必死でしたから。でも……見抜いていたからこそ、()()()()()()()ってことですか。俺にゴミ掃除をさせるために」


 仙水は俺の狙いが読めたのか、こちらの策略を整理していく。


「あなたが、この選挙戦で行った策略の中で、最大の要となったのは表立って何もしないこと。俺が先輩と戦いたいという願いを利用し、風間と近藤をリタイアするように誘導した。あなたに敵として認識されたいと思っている俺に、徹底的に無関心であることを貫くことによって…‼」


 彼の推理は正しい。


 何も全ての敵を、自分を主軸にして倒す必要は無い。


 盤上に居る人間の思考を読み、動かないことも策略の1つだ。


 現実として、仙水は俺に自分を敵として認識させるために、他の対戦相手を削ってくれた。


 それを見越していたからこそ、俺は仙水1人に標的を集中させていた。


 何も全てが予測通りだったわけじゃない。


 しかし、俺は仙水の状況を分析し、椿の動きに合わせて行動することができた。


 彼の動きを見通すことができたのは、こちらに情報を流すルートが存在していたからに他ならない。


「おまえの今後の成長のために、1つだけ種明かしをしてやろう」


 こちらの一言に、まゆをひそめる仙水。


 これは恐らく、最後まで気づいていなかった小細工こざいくだ。


「鈴城紫苑、彼女はおまえの陣営には着いていない」


「……はぁ?」


 流石に唖然とした表情になり、目を見開いている。


「おまえは、俺よりも早く彼女に接触し、協力を締結ていけつしたと思っていたことだろう。しかし、真実は異なる。おまえがあの日、俺を挑発するために、わざとあの場に現れた時、既に彼女が俺の方に味方する条件は成立していた」


「な、何を言ってるんですか?確かに俺は、あれよりも前に鈴城と契約を結んでいた‼あの時だって、先輩は予想外だって思ってたはずじゃ―――」


「椿円華。おまえは、彼の存在に踊らされたんだよ」


 全ては、椿があの場に居ることによって成立したブラフだった。


 あの時、俺は彼に鈴城との協力体制の条件について、何も知らせずに同行してもらった。


 鈴城紫苑は、仙水とこの俺、両方から協力の要請を受けていた。


 しかし、先に彼女と接触していた俺は、この時にある条件を提示されていた。


 『私を引き入れたいなら、椿円華を引き抜いてみせろ』と。


 あの時、椿が俺の味方になることを彼女に宣言したことが、鈴城をこちら陣営に移す条件として成立した。


 そして、俺たちのやり取りを見て、椿は鈴城を敵と認識した。


 その様子を見て、仙水の中で鈴城が自身の味方であるという認識を強く植え付けられる結果となった。


 俺の裏をかいたという優越感に浸り、逆に自分との契約ではなく、鈴城と俺との契約が成立した事実に気づくことができなかったのだ。


 結果として、鈴城は仙水の様子を観察できる立場になり、俺に情報を流す役割を果たした上で、椿の目的の助力を買って出てくれたのだ。


「あの時から、布石は打たれていたってことかよ…‼」


 悔しさのあまり、仙水は自身の両膝に拳を振り下ろす。


「でも、まぁ?これで全てが終わったわけじゃない。……俺はこれからも、あなたの首を狙いに行きますよ。生徒会長の座を奪われても、先輩への勝ち筋が断たれたわけじゃない」


「確かにその通りだ。地位はステータスでしかない。俺もおまえも、この学園で生きる学生でしかない。これから先も、おまえがAクラスで、俺がSクラスである限りは戦う機会はある。その時は、何度でも相手をしてやろう」


 仙水凌雅せんすい りょうがという挑戦者が、この程度で折れる人間だとは思っていない。


 俺という存在がある限り、この男は死ぬまで何度も挑んでくることだろう。


 俺自身もまた、それを望んでいる。


「仙水、おまえはこれからどうするつもりだ?」


「どうするって、そんなの決まってるじゃないですか。俺は進藤先輩への挑戦者であり、邪魔者です。生徒会長の座を目指したのだって、全力の先輩と戦うため。俺はあなたと戦えるなら、舞台は何だって良かったんだ」


 これを負け惜しみと捉えるかどうかは、難しいところだ。


 仙水自身にも、確かに目指す学園像があったはずだ。


 選挙期間中に彼から感じていた、勝負への熱。


 あれが俺個人への挑戦心だけであったとは、どうしても思えない。


「仙水、おまえに1つ、勝者として提案がある」


「はぁ?今更、何です?提案って言ってますけど、本当は命令でしょ。まぁ、この学園の摂理は、先輩がどう否定しようとも弱肉強食だ。敗者は、勝者の言うことを聞きますよ」


 渋々といった感じではあるが、聴く耳は残っているようだ。


 それならば、交渉する余地はある。


「おまえが望むなら、俺の近くで、俺のやることなすことを邪魔する機会を与えても良い」


「……なんすか、それ?俺のこと、バカにしてます?」


 目尻を吊り上げ、敵意を込めた眼光を向ける。


 それに対して、俺は薄く笑みを向けて返す。


「そうじゃない。おまえの実力は、素直に称賛するに値する。だからこそ、おまえのことを信頼した上で、俺を否定できる立場に立ってほしいと思っている」


 俺は右手を前に出し、先程まで敵だった存在にこう言った。


「仙水凌雅、おまえには俺の生徒会で、副会長の座にいてほしい」


 その提案を聞き、仙水は両目を見開いては、涙を浮かべた。


「……もしかして、本当はここまでが、先輩の筋書きだったってことですか?」


「どうだろうな」


 俺はその答えは示さず、あくまでも仙水の憶測は否定しない。


「いつか、あなたを倒す…‼この気持ちだけは、何があっても消えはしない」


「それで良い。その熱を感じたからこそ、俺はおまえの力を欲している」


 これは素直な称賛であり、彼は身体を震わせる。


 そして、悔しさを含んだ目で俺の手を凝視し、目を逸らした。



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