覚悟の共鳴
円華side
現実に意識が戻った時、身体は立ち尽くした状態だった。
辺りは黒い煙に包まれており、俺が目覚めるのを待っていたかのように、徐々に晴れていく。
そして、身体を覆っていた漆黒の氷がパリンっと砕け散り、人としての姿が露わになる。
「椿……」
「円華、おまえ……大丈夫、なのか?」
先生と基樹から声をかけられ、手を軽く上げて返事をする。
「ああ、何とか……な。迷惑かけちまったみたいで、わりぃ」
力が暴走していた感覚は残っている。
だけど、以前に暴走した時よりも、体力が残っているのがわかる。
まだ身体は動くし、刀は握れる。
「おまえたち……どこまで、私を虚仮にすれば、気が済むのぉおおお!?」
俺の暴走が止まっただけで、戦いが終わったわけじゃなかった。
怒りに任せ、七天美を振るえば鋼鉄の糸が切り裂かれる。
「マジかよ…!?まだあんな力が残ってたのか!?」
「俺たちが椿に構っている間、向こうに回復の時間を与えてしまったか。それなら、ここからは……」
臨戦態勢に入る2人の前に立ち、俺は氷刃が砕けた柄を鞘に戻してクイーンを見る。
「こっから先は、反撃時間だ。基樹、先生……これは、俺の復讐だ。だから、厚かましい頼みなのはわかってるけど、俺にやらせてくれ」
横目を向けて懇願すれば、2人は目を合わせてじっと見てくる。
「大丈夫なんだな?次におまえが暴走したら、今度は殺す気で止めなければならなくなる」
「問題ねぇよ。多分……少なくとも、今はもう、暴走はしない。決めたんだ、俺は信じるって……もう1人の自分である、こいつを」
白華を見て答えれば、俺の覚悟を受け止めるように、先生は小さく頷いてくれた。
そして、基樹も納得してくれたのか「わかったよ。選手交代だ」と相手を譲ってくれた。
俺はクイーンと相対し、向こうはもう1度妖蝶装を装着する。
「カオスの坊や。さっきは力に振り回されていたみたいだけど、そんな状態で私の相手が務まると思っているのかしら?バカにされたものねぇ」
「るっせぇよ。今度は同じヘマはしねぇ。おまえは俺の意思でぶっ倒さねぇと、気が済まねぇんだよ」
鞘に嵌めたスマホをタップすれば、画面に『魔鎧装モード』が浮かび上がる。
それをタップし、柄を握って語り掛けた。
「行こうぜ……ヴァナルガンド‼」
『ああ、やってやるぜ‼』
相棒の返事を聞き、右目に着けていた眼帯を外して抜刀すれば、紅の氷狼が刃から飛び出しては俺に向かってくる。
そして、近づくにつれて狼から人狼の鎧に変化しては右手に拳を握って突き出してくる。
俺はそれに対して左手で拳を握り、同様に突き出して合わせた。
その瞬間、鎧が弾けては身体の各部位に装着されては変身を完了し、白華の刃が紅に染まる。
『紅狼鎧ヴァナルガンド、装着完了』
周囲の凍気を氷刃で振り払い、クイーンに刃先を向ける。
「待たせたな。俺たちの本気を、これから見せてやるよ」
俺の変身を見て、クイーンは七天美の刃に触れては身体を震わせる。
「その姿……本当に、腹立たしい…‼何なのよ、おまえは!?何故、そんな力を…‼」
怒りに任せるように、妖刀を薙ぎ払うように横に振るって斬撃を飛ばしてくる。
それをこっちは、白華を縦に振り下ろして両断し、切り捨てる。
「この力がいつから俺にあるのかは、正直わかんねぇ。だけど、もうこいつを疑うのは止めたんだ。信じるって決めた」
自身の紅狼の籠手を見て、開いていた手に拳を握る。
そして、胸に押し当てて言葉を続ける。
「わかってるのは、俺が椿円華で、ヴァナルガンドはもう1人の俺であり、相棒だってことだけだ。今はそれだけわかってれば……十分だろ‼」
今度は俺から仕掛け、地面を後ろに蹴って接近する。
「許さない‼おまえの存在はぁ……許しちゃいけないのよぉおおお‼‼‼」
七天美を振り回し、数十の斬撃に爆破の粒子をまとわせて襲ってくる。
右目の力で、斬撃の軌道は視えている。
1つ1つ避けるのは面倒だ。
氷刃を横に向け、大きく横に振るって強風を起こす。
「椿流剣術 舞風‼」
強風は粒子の斬撃を巻き込んでいき、粒子同士が接触しては爆裂の連鎖を起こし、それがクイーンに迫っていく。
「くっ‼小賢しい‼」
羽根を広げて宙に逃げ、爆破を回避しては忌々し気にこっちを見下ろしてくる。
「ったく、その羽、厄介だぜ。降りてこいよ、逃げるだけが専売特許か!?」
「女王が愚民を見下ろすのは、当たり前のこと。精々、そこから私を崇め、爆破の裁きを受けなさい‼ダンシング・エクスプロージョン‼」
空中に粒子を展開し、安全圏から七天美を振るい、斬撃を飛ばす。
もはや、その攻撃はなりふり構っていない。
斬撃を走りながら回避しつつ、舌打ちをして苦言が漏れる。
「っち、これじゃ、ジリ貧じゃねぇか」
基樹に糸の結界を頼もうとも考えたが、それを切り捨てたのは七天美の刃だ。
すぐに破られて終わりだ。
「さぁさぁ、逃げ回りなさい、ワンチャン‼どこまで、耐えられるかしらぁ!?」
斬撃を飛ばしつつ、俺を煽ってくるのが腹が立つ。
こっちのペースを乱して、無意味に突っ込ませようとすることが目的か。
無策に挑むわけにもいかねぇが、このままやられるわけにはいかねぇ。
ないものねだりかもしれねぇけど、こっちにも翼があれば…‼
『おい、相棒。調子乗ってる似非女王を、地に叩きつける方法ならあるぜ?』
早速、ヴァナルガンドは打開策を見つけたらしい。
そして、それに対して俺は1つの予感があった。
「もしかして……いや、まさかだよな?」
『そのまさかだ。ただ、またおまえの覚悟が試されるがな』
「わかった。それでも良い。やってくれ」
爆裂の嵐を耐えつつ、予感的中で頭の中に大量の記憶が流れ込んできた。
この前は、東吾さんの記憶が流れ込んできて、モード・ガルムを解放できた。
っ‼次は誰の記憶だ…!?
ーーーーーー
場所はどこかの和風の屋敷。
そこに立っているのは、紫の甲冑を纏った武人と蜘蛛のような鎧を纏った戦士。
武人の腕には、赤みがかった茶髪のショートの女性が抱えられている。
蜘蛛の戦士は武人を指さし、嘲るように笑う。
『アハハハハッ、そうまでして、その女が大事か!?僕に騙されて、利用されて、君に見当外れの恨みを向けたバカな女‼それでも、その女を守るに値するとでも!?』
女性は武人の腕の中で涙を流しており、蜘蛛に対して言葉は返さない。
『少しだけ、待っていてくれ。すぐに終わらせてくる……』
『健人…‼どうして…そこまで!?私は―――』
『おまえを守りたかったのは、確かに約束があったからだ。だけど、それだけじゃない。……その答えは、あとで嫌になるくらい聞かせてやる』
武人は女性を後ろに下がらせ、刀を抜いては刀身から烈火のような炎が灯る。
『くだらない因縁に振り回されるのも、うんざりだ。ここで、清算する。俺の復讐心をな』
武人は両手で炎刀を握り、蜘蛛の戦士に刃を向けた。
ーーーーー
今のは……師匠……谷本健人の、記憶…?
そうか、前に師匠が言っていた復讐の過去が、これなのか。
師匠も、この憎しみに苦しんできたんだ。
そして、乗り越えて今のあの人が居て、俺を強さの意味で導いてくれた。
ありがとう、師匠……。
師匠への感謝を抱きつつ、戦いに意識を戻すとスマホから音声が流れた。
『データ、ダウンロード……完了。紅狼鎧ヴァナルガンドの能力を一部解放。【モード・ヴァナルガンド】、【モード・ガルム】に追加し、【モード・マルコシアス】が使用可能になりました』
マルコシアス…?今度は、何のタイプの変化だよ。
疑問に思いつつも、大体の能力は今の状況から想像がつく。
1度納刀してからスマホの『モード・マルコシアス』をタップし、再度抜刀する。
刃から放たれる斬撃が紫のオーラの狼となり、俺の頭上を駆け回っては円状の輪が展開される。
そして、紅と紫のオーラが咆哮をあげ、輪から光は放たれては身体を包み込む。
身体の両脚に紫のブースターが形成され、背中には同色の氷翼が追加される。
その両翼にも、3つずつ同様のものが装備されている。
俺が翼に意識を集中させれば、翼のブースターからバーナーが放たれ、身体を宙に浮かばせた。
そして、両脚のブースターを起動させて急加速し、クイーンに接近すれば氷刃と七天美が激突する。
ガキ―――――ンっ。
鍔迫り合いながら視線を合わせ、マスクの下で不敵に笑ってやる。
「よぉ、下界から這い上がって来たぜ?女王様‼」
「っ!?何よ、それ…‼狼が空を飛べるなんてっ…‼」
「狼が空を飛べないなんて、誰が決めた‼」
七天美の刃に粒子が集まっていき、爆破してはその勢いで吹き飛ばされるが、翼と脚のブースターで減速させて体勢を維持する。
ブースターを使っての加速と、翼を使用しての空中戦。
モード・マルコシアスは差し詰め、スカイタイプってところか。
このモードなら、狙いやすい。
クイーンが俺を目がけて爆破の斬撃を何度も仕掛けてくるが、それを全て空中でブースターを活かして回避しつつ、奴よりも高く上昇して見下ろす。
そして、落下と同時に両足と翼のブースターで加速し、左足を前に出す。
「メテオフォール・ストライク‼」
急降下と共に放つ蹴りに、クイーンは七天美を前に出して刀身で受け止めるが、耐え切れずに落下していく。
「んぐぅうううううううううっ‼ぎゃはぁああっ‼」
そのまま背中を床に叩きつけ、離れて相手の様子を見る。
「今の蹴り……あんだけの高さから落ちて、あいつ、生きてるのか?」
「魔装具を着てるんだ、あの程度でやられる相手じゃないだろ。しかし、大分ダメージは受けたはずだ」
基樹と岸野の心配する声に反応するように、クイーンは七天美を杖にして起き上がるも、ダメージは相当のようで妖蝶装の変身は解除されている。
「ここまで、私を苦しめる相手が……この学園で、この時代に、もう1人現れるなんて…‼本当に忌々しい存在ねぇ、カオスー‼」
恨めし気な目を向けつつ、その敵意は全く消えていない。
「もう諦めろよ。そんな状態で、まだ戦うつもりなら死ぬぜ?」
望んでいるのは、死じゃない。
クイーンには、聞きたいことが山ほどあるんだ。
それを確認せずに、死なれたらこっちが困るんだよ。
しかし、向こうは俺の予定など関係なく、憎しみのオーラが身体から放出されている。
「もう、この際……この身体がどうなろうと、どうでもいい‼ここで、おまえを、殺す‼女王の、プライドに賭けてぇー‼‼‼」
その声と供に、七天美の刃を自身に向けては腹部に刺した。
「なっ!?」
「何してるんだよ、あいつ!?」
俺と基樹の驚きを他所に、岸野は目を見開いては「不味い…‼」と先の展開を見通したような呟きをする。
「くっふっふふふふふっ‼あなたたちが悪いのよ‼私を心の底から怒らせるからぁ‼だからぁ~、ここで全員‼消えるのよぉ‼」
狂気の笑みを浮かべながら、七天美の刃がクイーンの血を吸い、顔や四肢など、身体中のいたる部位から血塗れの刃が生えるように、内側から出現していく。
クイーンの姿を一言で表すなら、刃の怪物だ。
そして、腹部から七天美を抜けば、数十個の歪な刃が、血を吸って枝のように刃から刃が生えるように連なった形状で現れる。
妖刀は既に身の丈を超えており、もはや大樹を手に持っている様にさえ見える。
「まさか、あれからさっきの斬撃を放たれたら…‼」
「あの刀から感じる、禍々しい強力な力…‼爆破の能力が付加されていないにしろ、威力は底上げされているはずだ。最悪の場合、この学園が……崩れる…‼ここだけじゃない、全校生徒、教師を道連れにだ」
最悪の未来が見え、悪寒が走る俺たち。
その表情を見て、クイーンは口から血を流しながらも嬉々として笑う。
「アハハハハハハハハっ‼これで終わり‼全てが終わりよぉ‼おまえたちが死ねば、私は満足なの‼もう、組織の実験材料なんて、どうでも良いわ‼全員、死になさぁああい‼」
その大樹のような妖刀を振るわれたが最後、学園全体が爆破の連鎖で崩れる。
だったら、どうすれば良い?
どうしたら、俺はみんなを守れる?
クイーンの思惑を覆すことができる?
考えてる余裕はあるか?
いや、時間がない。
右目の力で未来は視えるのに、クイーンを止めるための力も、奴が刀を振り下ろすまでに懐に入る速さも足りない。
視えているのに、止めることができない…‼
俺1人じゃ―――。
『1人でやろうとするからできねぇんだろうが、バカ野郎』
叱咤する声が、頭に響く。
そして、紅狼鎧の形状がモード・ヴァナルガンドに勝手に戻った。
『おまえは俺様を信じると言った。だったら、全てを賭けてみろ。おまえの覚悟を、力に込めろ。その覚悟が強ければ、それに応えてやる』
ヴァナルガンド……おまえ…!?
『あいつを止めるんだろ!?おまえに足りない分は、俺様が埋めてやる‼やるのか、やらねぇのか!?おまえが決めろよ、相棒‼』
決めるのは、俺……。
だったら、答えは決まってる‼
頭の中に、ヴァナルガンドの意思が伝わってくる。
そして、氷刃を鞘に納めて抜刀の構えを取る。
「ま、円華!?おまえ、まさか…‼」
俺のやろうとしていることが伝わったのか、基樹は目を見開く。
「俺とヴァナルガンドで、あいつを止める。これは……俺と相棒で、みんなを守るための……覚悟の証だ‼」
白華を通じて、ヴァナルガンドが力を蓄えているのが伝わってくる。
俺と相棒の意志が、1つに重なっているのを感じる。
そして、ヴァナルガンドがやろうとしていることを、頭ではなく、心で理解した。
「さぁ‼私をバカにしてきた愚か者たち‼無様に、塵になりなさぁああい‼‼‼」
クイーンは七天美を振り下ろし、さっきまでとは比べ物にならない無数の斬撃が奴を中心として全方位に放たれる。
それと同時に、俺も行動を起こしていた。
白華を抜刀して頭上に振り上げ、柄を両手で握る。
「喰らえ…‼」
そして、紅に輝く刃を振り下ろした。
俺の未来視と、ヴァナルガンドの力と速さを掛け合わせた覚悟の一撃―――。
『「共鳴技! 人狼之輝刃ぁー‼‼‼」』
その瞬間、刃から巨大な斬撃が放たれ、それが紅の狼の姿を成しては目にも留まらぬ速さで駆けた。
『ワォオオオオオオオオオオオ‼‼‼』
雄叫びをあげ、瞬足の速さでクイーンの斬撃を喰らっては消滅させていく。
もはや、斬撃がスローで動いているように軌道を読み、狼は瞬きする間に無数の斬撃を急激に消滅させ、クイーンの前に立っては目の前で威嚇するように咆哮をあげた。
クイーンはその光景に、全身を震わせながらも七天美を前に出す。
「な、何で…‼そんな、ありえない…わ…‼私の…力…が…‼獣……風情にぃ…‼」
「女王の怒りが、俺たちの覚悟に勝るなんて誰が決めた?これで終わりだ……。ヴァナルガンド‼」
『グワァアアアアアア‼‼』
俺の声に応えるように、オーラの紅狼はクイーンに突撃し、喰らいついてはパリーンっ‼と何かをかみ砕く音が響き、奴の身体を通過して消えた。
「いやぁあああああああああああああああ‼‼‼」
そして、クイーンの身体から生えていた刃が赤黒い粒子となって消滅していき、膝から崩れ落ちては、七天美を手放した。
「ここまで来れたのは、みんなの助けがあったからだ。1人だったら、絶対におまえを見つけることもできなかったし、こうしておまえの前に立つことも無かった」
クイーンの目の前に立ち、言葉を続けながらヴァナルガンドの鎧を解除する。
「おまえへの復讐を通じて、俺は仲間の大切さに気づかされた。その点は、勝手に感謝させてもらうぜ。だけど……」
白華を横に上段に構え、空虚に俺を見上げる敵に対して、冷徹な目を向ける。
「俺は守りし者、そして復讐者としておまえを倒す‼」
上段から振り下ろし、続けざまに十字に横に薙ぎ払った。
「ぐっ‼がはっ‼」
技を無防備に受け、後ろに倒れてはクイーンは気を失った。
「椿流剣術……十紋刃」
倒れたクイーンに背中を向け、氷刃を鞘に納めて小さく息を吐いた。
これで、女王への復讐劇はもう終わりだ。
あとは、向こうがどうなっているかが気になる。
時計を見れば、生徒会長選挙の結果がそろそろ出る頃だ。
才王学園の未来が、2つに1つに決まる。
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あぁ~、やっと出せた、ヴァナルガンドの必殺技‼




