能力と真実
探し物は見つかり、満足そうな表情をした最上を見て、俺は帰り道を同行して改めて同じことを聞いた。
「最上、今日最後の質問だ。答える気がないと言うなら、俺はおまえを敵と見なすかもしれない」
「答えるかどうかは別として、聞くだけなら構わない」
「これで聞くのは2回目だけど、今度は逃げずに答えてくれ。おまえは、屋上で出会った時に俺から逃げた。少なくとも、俺はそう受け取った。だから、悪いけどそれを前提に聞く。どうして、おまえはあの時俺から逃げたんだ?」
立ち止まって、逃がさないと言う意味を込めて最上の左目を見て聞けば、彼女は一瞬目を逸らした。
やはり、俺に何かを隠しているのは確かなようだ。カーディガンの袖を握り、今にも逃げ出したいと言う衝動に耐えているように見える。
そして、俺の手首を掴んできた。
「ここでは、話せない。だから、一緒に来て」
「どこに?」
「私の部屋」
「……マジ?」
「大マジ。私は冗談を言わない」
無表情で言ってくる最上の表情を見て、改めて何を考えているのかがわからない女だと思う。
別に断る理由は無いので、俺は頷いて最上の後ろをついて行く。
そして、アパートに着くと、一番上の階に連れて行かれ、その最奥の部屋に通された。
部屋の中は家具や電化製品が最低限の物以外は何も置かれていないので、誰かの部屋の雰囲気と似ているような気がした。
あ、俺の部屋か。
違うところはテレビが置いてあって、新作のゲーム機が接続されている。
ゲームは小学校の時以来してこなかったけど、名前ぐらいは聞いたことがあるソフトがいくつか……。
あれ?このソフトのほとんど、姉さんに強制的にするように言われてやらされたものだ。
暗殺系のものや戦争もの、パニックものがほとんどだ。
最上は俺がソフトを見ているのに夢中になっている間に、テーブルの上にオレンジジュースを置いた。
「円華は、どのゲームが好き?」
「いや、俺はゲームをしに来たわけじゃねぇぞ?話を聞きに……」
「対戦ゲームで私に勝てなかったら教えてあげない」
「んな……」
最上は口の中に棒付きキャンディーを入れ、俺の隣に座って格闘ゲームのソフトを籠の中から取り出す。
それは数年前に発売され、ネット上ではクソゲー認定された、日本に住んでるなら2人に1人は知っているアニメの格闘ゲームだった。
グラフィックは良かったようだが、格ゲーとしてはいまいちだったようだ。
当然、俺はやったことがない。その時はアメリカに浸っていた。
「俺、これやったことねぇんですけど」
「ふ~ん、だから?」
「だから、俺が勝てるわけねぇだろ。別のゲームを……」
「だが断る」
「いきなり定番の名言出してきたかぁ……」
アニメに興味がない俺でも、そのセリフくらいは知っている。
最上は勝手にソフトをゲーム機に入れ、電源を入れる。
こいつの戦法は読める。あくまで解答権は自分にあるのだから、答えるかどうかは最上の気まぐれにかかっている。
答えない名目として自分の有利なゲームで勝負をし、完勝して俺に諦めさせる気だろう。
―――そして、10分後。
俺は最上に勝ってしまった。
隣に座っている最上は目を見開いており、口がポカーンっと開いている。
どれだけ現実逃避をしようとしても、俺の操作したキャラの方に『WIN』と書いてあり、最上の操作したキャラの方には『LOSE』と書いてある事実は変わらない。
俺はこのゲームは初心者で、ただ同じ十字ボタンと□ボタンを連打しただけだが、それでギリギリだけど勝ててしまったのだ。
最上はプクーッと頬を膨らませると、人差し指を立てる。
「もう1回!」
「……はぁ?」
「一回勝負とは言ってない!3回勝負で勝った回数が多い方の勝ち!」
「それ、先に言えよな」
その後、2回戦目も俺が勝利したが、最上が「3回戦目で勝ちポイント3になる!だから、今までのは無し!!」と言ってきたので3回戦目に突入するが、それは俺の完勝で終わった。
ここで俺は悟ってしまった、最上は格ゲーに向いていないのだ。
「おい、3回も勝ったんだからさ、早く教えることを教えてくれませんかね?」
「……」
「もしかして、ここまで付き合わせといてやっぱりなしとか言わないよな?」
「……知って、後悔しない?」
最上の雰囲気が、一瞬で変わったのを感じた。
目の下が前髪の影で黒くなっているように見え、最上の水色の瞳が深い蒼になっているような錯覚を覚える。
「後…悔?」
「私の話を聴いたら、円華は前の円華に戻っちゃうよ?それでも良いの?」
「…ま、前の俺って……どうして、そんなことわかるんだよ。おまえ、俺のことを知ってるのか!?」
最上は俺の質問に答えずに、急に首に下げているヘッドフォンを耳に着けた。
やっぱり、こいつが緋色の幻影からの監視者なのか!?そして、復讐しようとしている俺を監視対象として……。
「それは違うよ。私は緋色の幻影とは全く関係ないから」
「…は?」
「ついでに言うと、椿涼華さんの復讐もついさっき知った」
「……お、おい」
「ねぇ、円華。椿涼華さんから教えられたんでしょ?信じたいなら、疑うところから始めるべきだって。なのに、どうしてよくも知らないクラスメイトを簡単に……」
「人の話を聞け!!」
俺は気持ちの高鳴りが抑えられなくなり、最上の肩を掴んでカーペットの上に押し倒した。
そして、無意識に殺気立ちながら最上を睨みつけた。
「おまえは……何者だ…!?」
「私は最上恵美。それ以上でもそれ以下でもない」
「そう言うことを聞いているんじゃねぇことは、話の流れで察してくれよ。おまえは、どこで俺の過去を知った?姉さんのこと知った!?復讐しようとしていることを知った!?答えろ!!」
「……動揺してるね。心の方も気持ちの波が乱れているようだから、演技じゃなさそう」
「質問に答えろ、最上恵美!!」
俺は今、どんな表情をしているんだろうか。多分、鬼のようなおぞましい顔をしているのだろう。
でも…それでも、この女のことを正確に知る必要があると本能が言っている。
俺が睨みつけていると、最上は俺の左目を指さす。
「目……紅くなってる。感情を表に出しすぎ」
「っ!!」
言われてすぐに左手で左目をおさえて最上から離れてしまった。
「知ってるよ、円華のことはほとんど知ってる。だって、さっき『視えた』から。円華が凍らせる『能力』を持っているように、私は人の記憶と思考を五感で認識する『能力』を持っている」
「……何だよ、それ……視えた?それに、認識って……」
じゃあ、さっきの俺の心の中の呟きも、最上には聴こえているってことなのか!?
「このヘッドフォンをしていないと聴こえないようにコントロールしている。円華の今の驚いた心の声も、バッチリ聞こえてるよ」
「……嘘だろ……そんなの、チートだろぉが」
最上はベッドの上に座って俺の目を見てくる。
「さっきの質問をもう1回聞く。どうして、円華はあのクラスメイトたちに気を許しているの?涼華さんの言葉を実行できてないじゃん」
「……おまえが何を言おうとしているのか、俺にはさっぱりわかんねぇよ」
「違うよ、円華はわからないんじゃなくて、わかりたくないんでしょ?そう思わされるくらいに、心を許しちゃったんだね」
「おい、最上……それ以上言うなら…!!」
俺が怒りと焦りで威圧しようとするが、最上には通じない。
「あのクラス……ううん、この学園で円華と関わっていた人の何人かは、円華の復讐を邪魔しようとしている」
嘘だ……。
「嘘じゃないよ」
違う…‼
「違わない、私には聴こえた」
真実じゃない‼
「これは真実‼起きていることは、変わらない‼」
俺はその場に崩れ、それ以上何も聞きたくないという気持ちから両耳を塞ぐ。
頭の中で、この学園に転入してからの3ヶ月の記憶が流れてくる。
麗音、成瀬、新森、基樹、岸野先生……そのほかにも、和泉や雨水と過ごした時間がフラッシュバックする。
最初はどうとも思っていなかった。だけど、仲間意識みたいなものが芽生え始め、楽しい日々だった。
復讐の気持ちが、薄れてゆくくらいに……。
最上は、俺の心を見透かしたように、見下しながらこう聞いてきた。
「円華……今の円華にとって大事なのは緋色の幻影への復讐?それとも、嘘にまみれたクラスでの楽しい高校生活?……円華は、何のためにこの学園に来たの?自分の口で答えて」
ヘッドフォンを外し、最上は俺の前にしゃがみ込む。
そして、無言で俺の答えを待っている。
どこで間違えた?どこからが誘導だった?いや、誰からの誘導だったんだ?俺の復讐心は、憎悪は、どこから薄れ始めて行ったんだ?
多分…いや、これは確実に最上が居なかったら気づかなかった変化だ。
初心に帰れ、俺は前に進むために復讐すると決めたんだろぉが‼
俺は、この3ヶ月で『構成された俺』を壊すために、顔面を力強く殴った。
痛みを感じる。これは、俺がまんまと誰かの手の平に踊らされたことに対する戒めだ。
そして、深い溜め息をついて深呼吸をする。
「俺がこの学園に来た理由?そうだな……消えかかっていた目的を再認識した」
顔を上げて天井を仰ぎ見、空虚を見つめる。
「俺は今まで何をしていたんだ?考えてみれば……俺を邪魔する者が居る可能性はあったんだ。すべてを疑うことを教えてくれたのは姉さんなのに、それを実行できていなかったんだ」
姉さん、ごめん。
俺は自分が何者なのか、改めて口にする。
「……俺は復讐者だ。こんな所で立ち止まっているわけにはいかない。この学園に敵が居るなら、すべて、誰であろうと排除する!!どこの、誰でもだ!!」
拳を握れば、血が出るほどに爪が食い込む。
最上は、俺の怒りで冷たくなっている手を温かい手で握ってくる。
「私は、今は信じられないかもしれないけど、円華の味方だよ?だから、利用したい時に、円華は私を利用すれば良い」
「最上……。ありがとな、俺……おまえのことを疑っていたのに。自分で自分が情けないけど……とりあえず、謝らせてくれ。本当にごめん」
「ううん、お父さんからの頼みだから。それに、円華が悪いわけじゃないからね」
「……お父さん?ちょっと待てよ、おまえの父親と俺の復讐に、何の関係あるんだ?」
そう言えば、俺は最上に肝心なことの答えを聞いていない。
最上は机の引き出しから何かを取り出すと、それを俺に見せてくる。
そして、それを見た瞬間に、俺は自分の目を疑った。
「それは…そのスマホって……!?」
最上が持っているのは、俺の持っているそれと同じだった。
黒いスマートフォンだ。
「そっか……円華も持っているんだよね、このスマホ」
「どうして、おまえもそれを持ってるんだよ!?」
今、最上を通して点と点が繋がろうとしている。
「……これは、私のお母さんのスマホ。そして、あるデスゲームで使用されたキーアイテム」
過去と現在が交錯し、思いもよらなかった事実を知ろうとしている。
「デスゲーム?もしかして、学園長が言っていた、20年前のデスゲームのことか!?」
「そこは、あのおじいさんも事実を言ったようだね。その通りだよ」
最上はスマホを起動して壁紙を見せれば、そこには銀髪で深い青い瞳をした男が写っていた。
「この人が私のお父さん……最上高太。20年前に緋色の幻影を1度崩壊させて、英雄って呼ばれてるんだ」




