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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
真実と嘘の選挙戦
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波風

 俺が仕掛けた、USBメモリを探索するための疑似的な特別試験。


 これを試験として成り立たせるためには、正直言ってDクラスが動いたって影響力が低いことはわかっていた。


 いくら大量のポイントが動くとしても、下位のクラスが草の根を分けてでも探そうとしたって、他クラスからは『下位のクラスが噂に流されている』という印象しか持たれない。


 だからこそ、巻き込むんだったら影響力のある陣営に動いてもらう必要があった。


 そのための人選は、既に済ませている。


 他人を動かせるだけの、実力を持った協力者たち。


 俺があの掲示板を出したことが、女王を追いつめる作戦の合図だった。


 昼休み、俺は屋上から校舎を見渡しながら、俯瞰ふかん的に現状を確認する。


 そして、左耳に着けているワイヤレスイヤホンからレスタの声が聞こえて来た。


『椿さん、お待たせしました。成瀬さんたちが、行動を開始されたようです』


「了解。じゃあ、立ててみるか。学校全体に響き渡るレベルの、波風ってやつを」


 ここから先は、俺の力がおよばない領域。


 だけど、不安は一切感じない。


 俺がここでできることは、自分の目的のために選び抜いた仲間たちを信じることのみだ。


 ーーーーー

 瑠璃side



 全く以て、重圧しか感じない立場を任されたものだわ。


 こういう時、矢面に立たされるのは大体が私なのが気に入らない。


 今日から始まるゲームの主催者しゅさいしゃは、自身の目的のためにボロを出すわけにはいかないという理由で、私を指名してきた。


 だけど、感じているのは不安だけじゃない。


 彼は言った。


 『俺はおまえたちを信じるだけだ。あとは自由にやってくれ』と。


 だったら、言われた通りに自由にやらせてもらうだけよ。


 精々、彼の用意した舞台を荒らし回ってやることにするわ。


 基樹くんに恵美、住良木さん、石上くんと共に、階段を上って2学年のエリアに足を踏み入れる。


 1つ上の学年と言うだけで、空気が違い、場違い感を覚える。


 だけど、それで気落ちしているわけにはいかない。


 先陣を切るのは、私たちの役目なのだから。


 1学年下のEクラスの存在に、多くの上級生からは怪訝な目が集中して向けられる。


 私は1分ほどその場を動かずに立ち止り、人々の注意が自分たちに向けられるのを待つ。


 成瀬瑠璃という存在が、どれだけ知られているのかはわからない。


 だけど、合同文化祭のときの騒動のことは、まだ学園全体で記憶に残っているはず。


 私はあの時、円華くんの無罪を証明するために矢面やおもてに立った。


 あの場には、全ての学年の生徒がほとんど集まっていたはず。


 きっかけは何でも良い。


 数人の先輩から、私に注目が集まったのなら目的は達成できる。


 そして、1人の女子が私に歩み寄ってくる。


「あなた……確か、成瀬瑠璃さんよね?1年の。2年生に、何か用事でもあるの?」


 石を投じて、波紋を広げるなら今しかない。


 私はその先輩に対して、少し大きな声で一声いっせいを投じた。


「急なことで、申し訳ありません。私たちは、2年生の先輩方にお話しをうかがいたくて、ここに来ました。ご迷惑かとは思いますが、少しご協力いただけますでしょうか?」


 その声に反応して、数人の上級生の足が止まる。


 そして、私の目の前に立つ先輩も、表情が変わった。


「は、話…?一体、何の話を聞きたいって言うの?」


 彼女の顔から、察しはついているのだろう。


 すぐにでも、余計なことを聞かれる前にこの場から離れたいという気持ちが、目の震えからうかがえる。


 だけど、すぐには手放さない。


「先輩は、玄関に貼られている掲示板のことはご存じですよね?今朝はあれだけ人だかりができていたんです。嫌でも目には入ったはずですが」


「それはそうだけど、話の内容が視えて来ないわね」


「申し訳ありません。でしたら、単刀直入に言わせていただきます。先輩は、あの掲示板に書かれていたUSBについて、心当たりはありませんか?」


「っ…‼」


 その存在に触れた時、彼女は目を見開いては険しい顔になる。


「風間さんの、いじめのデータのこと?どうして、あなたがそれを探しているの?1年生のあなたには、何の関係も無いわよね?」


「ただの慈善活動でないのは確かです。誰からかは知りませんが、1万の能力点が受け取れるのなら、私たちSクラスを目指す者としては掴めるチャンスは掴みたいと思っています。ですが…」


 私は1度言葉を区切り、住良木さんの方に視線を向ける。


「私たちのクラスにも、いじめの被害を受けた仲間が居ます。相手は風間先輩ではなかったとしても、いじめの問題を見過ごすことはできません。これは、彼女が言ってくれた言葉です」


 その言葉を皮切りに、住良木さんが口を開く。


「私も大小はあるかもしれないですけど、いじめを受けていた被害者の1人です。だから、自分たちのためじゃなくて、被害者のみなさんのためにも力になりたいんです‼だから、みなさん、風間先輩のいじめの証拠について、知っていることがあったら教えてくれないでしょうか!?」


 目の前にいる人だけでなく、廊下を通る人たちに声をかける彼女の訴えに、男女関わらず足が止まる。


 やはり、私のことは抜きにしても、いじめ問題の渦中に居た住良木さんの存在は大きかった。


 過去にいじめを受けていた生徒が、他のいじめ被害者を助けるために行動を起こそうとしている。


 この事実は1人だけでなく、数人の上級生が歩み寄ってくれた。


 その人たちは、私たちの話を聞いて協力してくれる姿勢を見せてくれている。


 だけど、それでも10人程度にしか満たない。


 もっと多くの人を動かすためには、やはり私たちだけでは足りない。


 だけど、焦りは感じていない。


 行動しているのは、私たちだけではないと知っているから。


 Dクラスの役割は、流れを作り出すこと。


 その流れに乗って現れる存在は、すぐに現れた。


「すいませーん!その話、私たちにも聞かせてもらえませんか?」


 明るい陽気な声が廊下に響き渡り、階段の方に視線が集中する。


 そこに立っていたのは、Aクラスの和泉さんと雨水くん、そして複数人の彼女のクラスメイト。


「私たちも、証拠のデータを探してるんですけど、何か知っていることがあるなら教えてほしいです」


 和泉さんの言葉に、多くの上級生に動揺が走る。


 1年Dクラスだけではなく、Aクラスも動き出している。


 掲示板から始まった証拠探しに、波紋が広がっているのを感じ始める。


「おーいおいおい、マジー?Aクラスもポイント狙いっすか?この前Sクラスの女帝に勝ったんだから、それで満足してくれよ」


 基樹くんが苦笑いを浮かべながら皮肉を口にすれば、雨水くんが睨みつける。


「あれで満足など、できるはずもないだろう。Sクラスに近づくためには、まだまだポイントが足りん。もらえるものは、もらっていく。そのための慈善活動だ」


 さりげなく言っているけど、基樹くんは和泉さんの影響力を今の発言で強くさせていた。


 和泉要が、Sクラスの女帝である鈴城紫苑に勝利した。


 その事実を知っている者が、2年生にどれほど知れ渡っているのかは定かでなかった。


 周りのザワザワとした反応から、事の重大さが浸透しているのがわかる。


 そして、心無しか和泉さんの顔も清々(すがすが)しいものに変わっているように思える。


「本当に、1年生がこの問題に介入するのか?」


「でも、私たちで探すってわけにもいかないよ」


「それは、そうだけど……。あの人が、何て言うか」


 上級生たちの声が右往左往うおうさおうする中で、靴音を立てて1人の男が私たちに歩み寄ってくる。


「おいおいおい、これは何の騒ぎだー?選挙日まであと少しなんだ。静かに過ごさせてほしいんだけどなー?」


 その声を聞き、過半数の生徒の顔色が青く変化する。


「仙水…先輩」


 石上くんが名前を呼べば、男は「よぉ」と軽く手を挙げては歯を見せて笑う。


 だけど、それが表面上だけでも不気味なものに見えてしまった。


 仙水先輩は、私や和泉さんなどの下級生を見渡し、やれやれと言うように肩を落とす。


「下級生が上級生の場をかき乱すのは、められることじゃないよな?一体、何の用件だ?」


 その言い方は優しく諭すようだけれど、背後からは青黒いオーラが見え隠れしている。


 表情には出そうともしないけれど、覇気で『さっさと帰れ』と言っているようにすら感じる。


 だけど、ここで引き下がるわけにはいかない。


「私たちは、風間直子先輩の行ってきたいじめの証拠について、情報を求めています。場を荒したように見えたのなら、申し訳ありません。ですが―――」


「掲示板に書かれていた風間の件ことは、俺が生徒会長になった後に片づけるつもりだ。おまえたち1年が、首を突っ込むことじゃない」


 こちらの話を聞く気はないのか、介入することを拒絶する。


「今大事なのは、もう終わっている風間の件を蒸し返すことじゃない。俺と進藤先輩の選挙戦の決着をつけることだろ。過去のことよりも、未来のことに目を向けろ。ポイント欲しさに、余計な波風立てようとするなよ」


 その言い方は威圧的であり、あごを突き出して見下ろしてくる。


 彼の覇気に、2年生のほとんどが怯んで黙り込んでしまう。


 それほどまでに、この人の実力に畏怖していることがわかる。


 私としても、決意としては言葉を返そうとしても、身体が口を開くことを拒んでしまう。


「あ、あの――ー‼」


「……何?」


 和泉さんも発言しようとするけど、横目を向けられただけで、額から冷や汗が流れて言葉が詰まってしまう。


 彼と正面から言葉を交わせる人物が居るとすれば、1年生の中には円華くんか鈴城さん、柘榴くんしか思い浮かばない。


 まずい。


 この人の意図はわからないけど、このままだと私たちがUSBを探す道義どうぎが通らなくなる。


 2学年の領域全体が、仙水凌雅の覇気に包まれている。


「石上、おまえもこんなことに協力してる場合かよ。生徒会の一員なら、逆に止めるべき立場なんじゃないのか?」


「それは…‼」


 反論しようにも、石上くんは言葉が出なくなる。


 言えるはずもない。


 これがクラスメイトの復讐のためだと伝えたところで、それを理解してもらえるとは思えないから。


 予想外だった。


 まさか、仙水凌雅が私たちを止めようとするとは思えなかった。


 この場では彼が正義であり、それに逆らう力は私たちには無い。


 流れが変わり、私たちが後退こうたいするしかないと思ってしまった時。


「ここで俺たちの動きを抑制するのは、先輩の主義に反するんじゃないですかね」


 基樹くんは下から、目付きを鋭くさせて仙水先輩にたんを発した。


「おまえ……誰だっけ?」


「気にする必要もない、ただのモブですよ。気分を悪くしたならさーせん」


 悪気なく平謝りする彼に対して、先輩は歯を見せて笑う。


「俺の主義に反するって言ったな。その理由を聞かせてもらえるか?」


「先輩が掲げる学園は、弱者が許されない学園でしょ?だったら、俺たちは弱者なんですかね。俺たちは理由はどうであれ、隠れている弱者を見つけだすために動いている。先輩の掲げる主義に則って、行動しているんじゃないですか?」


 仙水凌雅の掲げる、弱肉強食の学園。


 その信念に基づいて行動している自分たちを、否定することはできないと。


 だけど、それで仙水先輩は引き下がらない。


「混乱を起こすなって言ってるんだ。それに、俺が後で片づけるって言ったはずだ。それじゃ不満か?」


「そりゃあ、不満ですよ。だって、先輩が生徒会長になれる保証なんてないじゃないっすか」


 満面の笑みで言う基樹くんだけど、その場の空気が凍る。


「俺が生徒会長になれるかどうか…か。おまえは進藤先輩に軍配が上がると思ってるのか?」


「どうでしょうね。でも、あなたが勝つなんて保障も無いのに、そんな口約束をされても信用できないって言ってるんですよ。わかります?」


 面と向かって、喧嘩を売っているとも取れる言動に、先輩は肩を震わせる。


「クックククッ、アハハハハっ‼すっげぇ~な、今の1年は!?こんな奴が、まだ居たのかよ。傑作だぜ‼」


 愉快そうに笑い、お腹を抱えてはもだえる。


「モブって言うけど……いや、おまえは強者側の人間だな。あいつと同じかぁ~…面白い」


 楽しい玩具を見つけたと言うように、先程までの威圧的な覇気が消えて軽快な態度に変わる。


「俺の主義に反するって言われちゃ、戦いの日を前にこんな往来でおまえらを追い払うわけにはいかない……か。おまえの言葉で目が覚めたぜ、ありがとうな」


「いえいえ、どういたしまして。先輩には期待してますよ?それなりに」


 笑みを絶やさずに言う基樹くんだけど、そこに心は感じなかった。


 お互いに笑顔を向けているけれど、その周囲の空気からは逸脱しているのがわかる。


「わかったよ、おまえらの好きにすれば良い。だが、ほどほどにした方が良いことだけは、言っておくぜ」


 そう言って言葉を区切り、基樹くんと目を合わせる。


「今度会った時に、名前を聞かせてくれよ。その顔、覚えたからな」


 仙水先輩はそれだけ言い残し、その場を後にした。


 現状から、彼の許しを得ることはできたことになる。


 円華くんが目的としていた、波風を立てることには、予想外のことが在ったにせよ成功した。


 だけど、私としては不穏な縁ができたような気がする。


 聞き込み調査を再開する流れになる中で、基樹くんの方に視線を1度向ける。


 すると、彼は一瞬だけ、ニヤッと悪い笑みをしているように見えた。

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