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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
真実と嘘の選挙戦
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挑戦者の闇

 彼女の語るもう1人の怪物――――仙水凌雅せんすい りょうが


 あの男が、学園の裏に潜む存在に気づいている。


 その話を聞き、俺は心の中で動揺を抑えることができなかった。


 最悪の未来予想図が、頭の中で出来上がっていたからだ。


 そして、心が乱されて言葉が出ないでいると、恵美が話を繋いでくれた。


「仙水凌雅がクイーンの存在に気づいているっていう、確証はあるの?正直、学園の裏側の存在に気づくには、並大抵の探索力じゃ無理だし、奴らの隠蔽工作をかいくぐって見透みすかすことなんて普通はできないと思うんだけど」


 彼女の言うことは尤もだ。


 クイーンがそう簡単に尻尾を掴ませているなら、俺たちがとうの昔に断罪している。


 あの女王は、いろんな人間を影で操って自身が表に出ることは無い。


 姉さんの残した資料の通りなら、自分の存在に気づかれる前にトカゲの尻尾は切るはずだ。


 仙水がどこまでの実力を持っているのかは、未だに把握できていないが、あの女の存在に気づくのは普通の一学生が簡単にできることじゃない。


 奴はどういう手段で、女王の存在に気づくことができたのか。


 恵美の疑問に対して、近藤先輩は答えてくれた。


「あの男は四六時中、自身の駒を使って私の動向を監視していた。そして、その延長線上で私とクイーンが接触している所を目撃したんだそうだ。リアルタイムで送られてくる、配信映像を使ってな」


 聞いてみれば、俺たちはいぶかな顔を浮かべてしまう。


「いや、四六時中って……たった1人でそんなことをしていたら、流石にあんたでも気づくだろ?」


「1人じゃない。私も気づいた時には遅かったが、奴は私に辞退するように忠告してきた時に、嬉々として話してくれたよ。自分がどうやって、私とクイーンの繋がりに行きついたのかをね」


 近藤先輩は話してくれた。


 つい先日に体験した、仙水凌雅の執念(ゆえ)の種明かしについて。


 ーーーーー


 ー3日前、金曜日ー


 放課後で夕日が沈み始め、学園での選挙活動が終了した後。


 帰り支度じたくを済ませた近藤政は、玄関に向かって歩を進めていた。


 途中までは友人に同行しながら談笑をしていたが、彼女は背後から嫌な視線を感じては1人になることを選び、別れては別の廊下に枝分えだわかれしていく。


 そして、2階から1階へ降りようとした時、下から1人の男が階段を上がって来た。


「やっぱり、1人になることを選んだか。今までの傾向通り、だな」


 その男を目にした時、近藤は露骨に嫌な目を向ける。


「おまえは……仙水凌雅」


「おいおい、そう嫌な顔をしないでくれよ。偶然……ってわけじゃないけど、悪いことをしに待ち構えてたわけじゃないんだぜ?」


 そう言う彼は下から見上げているが、顎を突き出したような角度で、人を小馬鹿にしたような表情を浮かべている。


「ここ数日、私を監視していたのはおまえの仕業か?」


 風間直子が脱落した後、その日から彼女は周りから不気味な視線を常に背後から感じるようになった。


 それは学園内だけでなく、地下でも同様だ。


 マンションの外からも、窓から誰かに見られているような視線は感じており、誰かにずっと見られている感覚に襲われていた。


 正直、その目に心が疲弊ひへいしていたのは事実だ。


 彼女の問いかけに、仙水はパンパンッと手を叩いて称賛しょうさんする。


「正解。俺が駒を配置して、おまえの行動を逐一流してもらってたんだよ。ライブ配信でな」


 そう言って、彼が見せてくるスマホの画面には、今の近藤の後ろ姿と仙水自身が映っている。


 今、この瞬間も、彼女の行動は監視されていると言うことだ。


「犯罪行為だぞ、褒められたやり方じゃない」


「外の世界ではそうだろうな。だけど、ここは外とは隔絶された学園だ。人殺しも有耶無耶うやむやになるような所で、今更ストーキング行為で刑罰が出るはずもない」


「それは私が学園側に訴えなければの話だ」


「気づけよ。訴えることができない状況にするために、俺はおまえの前に姿を現したんだ」


 そう口にする仙水からは、絶対の自信を感じる。


 彼の態度に違和感を覚え、近藤は目尻を吊り上げる。


「おまえ、何を企んでいる?」


「企むなんて人聞きの悪い言い方はやめてくれよ。俺はただ、事実を教えようと思っただけだ。おまえにとって、大事な事実をな?」


 仙水はスマホの画面を切り替え、1つの写真を見せてきた。


 それが視界に入った瞬間、彼女は思わず目を見開いてしまった。


「流石に、驚いた表情だ。ひょっとして、見られたくなかった現場ってやつ?」


 そこに映っていたのは、2人の女性。


 近藤自身と、蝶の羽を広げたヴェネツィアンマスクをしている女性だ。


「この女、ハロウィンでもないのにな~んで仮面なんてしてるんだ?それに、おまえのこの委縮いしゅくした表情……只事ただごとじゃない関係ってところかな」


 彼女の心の奥底に手を突っ込むように、黒い手が伸ばされる感覚。


 近藤は何も言い返せず、その間に仙水は言葉を続ける。


「これは駒の1人が生配信してきた動画をスクショした写真なんだけど、この次の日にはそいつは学園から姿を消した。Eクラスの曽野崎そのざき……だったかな、よく覚えてないけど」


 駒にして利用しながら、その人間が消えても心を痛めるような様子すら見せない。


 仙水にとっては、周りの人間など惜しむべくもない存在なのだろう。


「この学園じゃ、時々ある出来事だから気に留める者は少ない。だけど、俺には大きな引っ掛かりを覚えるには十分な出来事だった」


 写真を突きつけながら、フフっと笑う。


「まるで、この女の存在を知ったから消された。そう考えてもおかしくないんじゃないか?」


「っ…‼」


 仙水が足を一歩前に進めると、近藤はそれに合わせて一歩下がる。


 そして、壁まで迫られれば逃げ場が無くなった。


「なぁ、近藤。1つだけ、簡単な取引をしようじゃないか?この選挙戦から降りろよ。そうしなければ、俺はこの女の存在を学園中にばらく」


「な、何をバカなことを言っている!?そんなことをすれば、学園内でとんでもないほどの死者が…‼」


 彼女は知っている。


 学園の裏側……いや、クイーンの存在に気づいた者たちは、軒並のきなみその存在を学園内から抹消されていることを。


 記憶を消されるだけでなく、自身の存在に気づかれた怒りをぶつけられ、その命を奪われるのだ。 


 その犠牲になっている生徒を、近藤は入学してから何人も目にしてきた。


 だからこそ、仙水が女王の存在を明るみに出せば、その原因を作った自分はもちろんのこと、多くの人間の命がクイーンの手によって握り潰される未来が見えた。


 仙水は近藤の怯えた表情を見て、視線を合わせれば静かに訴えかける。


「じゃあ、この舞台から降りるしかないよな。俺はさぁ、こんな事実は別にどうだっていいんだよ。ただ今同じ立場で、対等に戦える舞台で、あの人に勝ちたい……。それが、俺のやりたいことだ。その戦いの場に、おまえは邪魔だ…‼」


 仙水の目からは、黒い闘志を感じた。


 ただ1人の男と戦いたい。


 そのために、邪魔な人間を排除したい。


 それだけのために、多くの人間を巻き込み、犠牲者まで出ている。


 しかし、その事実を気にすることも無く、自身の欲望のために突き進んでいる。


 仙水が今、目の当たりにしてるもの。


 それは仙水凌雅という挑戦者の「闇」だ。


 近藤はその闇を前に、選択を迫られた。


 迫られる未来の重さに、彼女は苦しめられる。


 クイーンは、選挙戦で勝つことを要求した。


 ここで辞退すれば、多少の苦しみを受けることは承知している。


 しかし、それに恐怖を抱いた上で辞退することを拒めば、仙水が女王の存在を公表して確実に命を奪われる。


 どちらにしろ、天秤には自身が傷をこうむるものしか乗っていなかった。


 ーーーーー


 ー時は現在に戻るー


「それで決意したのが、少しでも生き残れる可能性が残っている辞退という選択だったってことか」


 近藤から話を聞き、俺は奥歯を噛みしめて怒りを抑える。


 彼女がクイーンの駒であった事実と、その裏で見殺しにしてきた命に対するものももちろんある。


 だけど、それだけじゃない。


 この選挙期間の中だけでも、仙水に対する嫌悪が段々と膨れ上がっている。


 あの男にとって、人が死のうとも道端のアリを潰したような感覚なんだと察した。


 そんな男が生徒会長の椅子に就けば、この学園は以前よりも荒れることになるはずだ。


 最悪、今よりも死者が出ないとも限らない。


「仙水がクイーンの存在に行きついた。だとしたら、本当にどうでもいいって思うのかな?」


 恵美は真剣な面持ちで、疑問を口する。


「話を聞いてるとさ、その人って勝つためなら何でもするって感じの人でしょ?それが学園の機密に気づいたのに、それを利用しようと思わないわけがないよね」


「関心が無い風を装いながら、近藤先輩に降りるように迫っていた。だけど、その時の先輩には仙水を信じるしかなかったってことだろ」


 視線を向けて確認を取れば、彼女は小さく頷く。


「正直に言えば、あの時の私は精神的に不安定だった。あの場で決断を迫られた時、その2つから選択するしかなかった。結果として、どちらを選んでも命を狙われることは変わらなかったようだけどね」


 肩を落とし、自嘲するように暗い笑みを浮かべている。


 もはや、笑うしかないという心象なのは想像にかたくない。


「……ねぇ、今さ、最悪な想像しちゃったんだけど、良い?」


 恵美は恐る恐る、小さく手を挙げる。


「仙水がクイーンの存在を掴んだことを、その時に既に知られていたら…どう?」


「・・・はぁ?」


 言っていることの意味がわからず、俺は思わず半眼で聞き返してしまう。


 彼女も言い表すのが難しいのか、「えーっと」と言いながら言葉を探している。


「だから、仙水がクイーンのことを知っていることに、クイーン本人が知っているならってことだよ。だったら、原因を作ることになったその人を始末しようとするのも納得……いくんじゃない?」


 クイーンが仙水に存在を気づかれていることを、知っている。


 その上で、彼ではなく近藤先輩を始末しようとした可能性。


 その場合、導き出される結論は最悪な展開に行きつく。


「クイーンは、切り替えようとしたってことか?自分の存在が露見される可能性がある近藤先輩を切り捨てて、仙水を新しく駒にするために」


 思い描いたのは、クイーンと仙水が手を組んだ場合の未来。


 クイーンの駒を1人見つけたところで、奴の思惑を崩せるわけじゃないってことか。


 あの女は多くの人間を影で操り、使い捨ててきた。


 そして、生徒会長の椅子に固執こしつしている。


 仙水とクイーンがその椅子を手に入れた場合に訪れるのは、弱肉強食の災厄さいやくだ。


 この選挙戦の重大性が、復讐の域を通り越してきた。


「増々、負けられなくなったじゃねぇか…‼」


 進藤大和VS仙水凌雅の一騎打ち。


 俺たちの予想通りなら、この先に何が起きようともおかしくない。


 こっちも打てる手は全て打つしかなくなった。


 向こうが人脈の駒を利用して仕掛けてくると言うなら、こっちも似たようなやり方で対抗するだけだ。

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