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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
真実と嘘の選挙戦
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一網打尽

 円華side


 時間は8時35分。


 和泉の案内で、2年Aクラスのマンションに着いてはエレベーターに乗り込む。


「確か先輩の部屋はぁ……8階!」


 和泉はボタンを押しては、言い知れぬ不安と焦りで手が震えているように見えた。


 当然か、意味も分からずに知り合いが危険かもしれないと言われたら、彼女の性格からして心配しないわけがない。


 俺も面識はねぇけど、焦りを覚えているのは同じだ。


 隣に立つ恵美が、さりげなく制服の袖を2、3回ほど引っ張ってくる。


「和泉を巻き込んで良かったの?もしも、行った先で近藤政が……」


「そうならないように、神頼みしとくしかねぇよ。最悪の場合は、岸野先生に頼むことも考えてる」


 脳裏に浮かぶ最悪の光景は、血塗れの部屋で倒れる近藤先輩と、それを見て泣き崩れる和泉の姿だ。


 後手に回ってしまった以上、現場に到着するまでは本人の無事を何度も祈るしかねぇんだ。


 俺のイメージが現実のものになった時は、メモリーライトで彼女の記憶を書き換えることも視野に入れている。


 こっちとしても、善意を抜きにして今死なれたら困る。


 空振りの可能性もあるけど、この選挙戦で勝つための手がかりが掴めるかもしれない。


 それだけでなく、クイーンに繋がる何かも。


 エレベーターが8階に着き、ドアが開くと同時に駆け出す和泉。


 その後ろを追いかけると、1つの部屋の前で止まった彼女はインターホンを押した。


 しかし、十数秒経過しても反応はない。


「もしかして、先輩はやっぱり学校に……」


「そう願いたいけどな」


 安易な希望にすがろうとするが、扉の向こうの静けさが俺の不安をあおった。


 そして、恵美のスマホの着信音が鳴った。


 画面に映る名前を見て、彼女はすぐに映し出されるメールを確認した。


「……成瀬からの連絡。近藤政は学校に来てないって」


 悪い知らせだ。


 それが耳に届き、和泉は血相けっそうを変えてドアを叩いた。


「近藤先輩!和泉です、開けてください‼」


 こんな時間に、学生が地下街に居たら嫌でも目立つ。


 それに、脱落者通知のメールで今や時の人である彼女が出歩いていれば、嫌でも注目を集めるはずだ。


 スマホで学園の掲示板を見ても、何の動きもないところを見ると部屋に居る可能性は高い。


 和泉が何度か呼びかけるも、ドアの鍵が開く気配はない。


「礼儀知らずの汚名は着せられるかもしれねぇけど、この際不法侵入も仕方ないだろ。和泉、近藤先輩と友達登録はしてるんだよな?」


「う、うん……」


 俺に促される形で、彼女はスマホを胸ポケットから取り出した。


 震える手で、スマホをドアの鍵部分にかざす。


 すると、キーロックがガチャっと開く音が聞こえた。


 もしもの時のために、麗音は和泉のかたわらに立っている。


 俺が閉ざされていたドアをゆっくりと開けると、部屋の中の異常なほどの静けさに緊張が走る。


「静か過ぎる…ね」


「うん。いい感じがしないのは、確かだよ」


 麗音と恵美の声を聞きながら、先導してリビングの方に進んでドアを開ける。


 その時、目の前に一筋の光が飛んできては上半身を仰け反らせる。


「うわっと!?……ったく、やっぱり、嫌な予感って奴はことごとく当たりやがるよなぁ…‼」


 苛立いらだち混じりの台詞と同時に、恵美がスカートの下に隠していたホルスターから、レールガンを取り出して構えた。


 俺たちの視線の先に居るのは、全身黒のレザースーツに身を包んだ鉄仮面が複数人。


 その中の1人は、寝間着ねまき姿の近藤先輩を、口を塞いだ状態で壁に押さえつけている。


 彼女の目には、恐怖で涙が浮かんでいる。


「先輩!」


 和泉が前に出ようとするのを、麗音が「待って!」と肩を掴んで止める。


 その時の表情は、猫被りモードから真剣なものに変わっている。


「ここは、円華くんと恵美に任せて」


 その言葉を受け、俺と恵美は2人を守るように前に出る。


「頼られるのは良いけど、おまえは観戦者側かよ。まっ、武器も無かったらしょうがねぇか」


 肩に担いでいた竹刀袋から、白華を取り出して氷の刃をさやから抜く。


 そして、目の前の鉄仮面に刃先を向ける。


「おまえらが居るってことは、その人は二重の意味で重要人だ。こっちに渡してもらうぜ」


 俺の言葉に、向こうは何も言い返して来ない。


 だけど、確かな敵意は感じる。


 そして、首をキキキッといびつな音をたてて左右に捻じりだし、一斉に迫ってきた。


 不規則に突撃を仕掛けてきた連中に対して、恵美がレールガンを連射する。


 電撃を受ける直前に、奴らは四方に散っては床や上、左右の壁に貼りついては四足歩行で近づいてきた。


「うわっ!動き方、気持ち悪っ!」


「言ってる場合か、真面目にやれよ」


 気持ち悪く、ゴキブリのように壁や天井、床をはいずってはこっちの死角を狙って急速に接近してきては前腕部《前腕部》に装着した刃を振るってくる。


 白華で刃を弾くと、大きく後ろに下がってはまた同じように這いずりだす。


 それが続けざまに複数人で仕掛けてくるので、こちらは攻撃に転じることができない。


 恵美にしても、動きがいびつで照準を定めることができずに無駄弾むだだまが続く。


「ったく、面倒くせぇ連携攻撃だな、おい」


 こいつら相手に、白華だけで戦うのは分が悪すぎる。


 動きを見つつ、左目に意識を集中させる。


 この密閉された空間の中で使える、椿流剣術は限られている。


 俺が前に出て一体ずつ倒していたら、和泉や近藤先輩に奴らの刃がいつ迫るともわからない。


 できるなら、一網打尽にする方が望ましい。


「あぁ~、イライラするっ…!こいつら全員、一か所に集められたらレールガンが当たるのにぃ‼」


 銃口を向けながら、焦りを覚えて苛立たしさを口にする恵美。


 確かに、こいつらを全員集められれば、そこに一点集中すれば良いだけなんだが……。


「全員を、一か所に……。そっか!」


 麗音は彼女の呟きを聞き、鞄を開いてはある部品を取り出す。


 それはエアブラストの物だ。


「ちょっとだけ、時間を稼いでて。あたしが何とかするから」


「何とかするって、おまえ、エアブラストを持ってたのかよ!?」


「分解して持ってたの!要ちゃんを守らなきゃだし、組み立てるのが面倒だっただけ!」


「そう言うことは先に言えっての」


 鉄仮面の集団が縦横無尽に、次々と振るってくる刃を弾きながら、悪態をついて舌打ちをする。


 麗音がエアブラストを組み立てるまで、奴らの攻撃を防ぎ続ける。


 左目の能力で、動きに反応はできているがカウンターには結びつかない。


「時間稼ぎでしょ。だったら、近づけさせなきゃいいだけ‼」


 恵美は左太ももにいたホルスターから、ガンキューブを取り出してはレールガンの銃口に装着する。


 マルチレールガンに変化させ、キューブがガトリング砲に変わる。


「当たれー‼」


 右へ左へガトリング砲で電撃を乱射し、鉄仮面たちを らばらせる。


「って、おい!近藤先輩に当たったらどうすんだよ!?」


 怒りに任せながら引き金を引いているためか、所々で彼女の付近に電撃が被弾している。


「当てるつもりはない。逆に近くを撃った方が、彼女にも奴らは近づけないから!」


「あー、なるほど」


 妙に納得してしまうが、こんなに乱射していればバッテリーが切れるのは時間の問題だ。


 恵美が弾幕を張って牽制けんせいしている間に、麗音はエアブラストを完成させ、構えてレバーを引く。


「待たせたわね。お望み通り、一か所に集めてあげるわ!」


 レバーを限界まで引き、周りの空気を急速に吸収していく。


 そして、エアブラストが小刻みに震え始めれば、彼女は姿勢をそのままにレバーを後ろに引いて離し、矢が前方に押し出された。


 白く光る矢が、強風を起こしながら天井に直撃して爆散し、周囲を巻き込んでは鉄仮面が螺旋状に回転しながら一か所に集まる。


「これなら……やれる‼」


 俺はその集まる強風を利用して跳躍ちょうやくし、そのまま接近しながら回転して奴らを斬り付ける。


「椿流剣術 回天‼」


 異能で身体能力を向上させた上での斬撃は、防御体制を取った奴らの刃を砕いては胴体や頭部に直撃させる。


 そして、強風が止んで床に落下らっかしては、そのまま鉄仮面は起き上がることなく伸びていた。


「久しぶりに、これ使ったけど……威力を調整できてよかったわ」


 麗音はそう呟いて、安堵あんどの息をついた。


 そして、壁に背中を預けて俺たちの戦いを見ていた和泉は、部屋の惨状や俺たちを見て、軽く自分の頬を引っ張る。


「……痛いね。これって、夢…じゃないんだ」


 俺も恵美も麗音も、その言葉にどう返して良いかわからなかった。


「悪い、和泉……。危険なことに、巻き込んじまった」


 本当に理解ができない状況にさらされた時、人はドラマのように声を出して叫ぶことは少ない。


 和泉は俺たちが戦っている間、一言もしゃべらなかった。


 本能で直感したのかもしれない。


 ここで、一言でも要らない言葉や疑問を挟んで、邪魔をしたら死ぬことになると。


「麗音、彼女を別の部屋に移動させてくれ。ここから先のことは、流石に巻き込みたくねぇ」


「……わかったわ」


 和泉の疑問に答えてやりたい気持ちもあるが、その前にやらなきゃいけないことがある。


 麗音が身体を支える形で、彼女と供に部屋を出る。


 そして、残されたのは俺と恵美、気絶している鉄仮面の集団、そして、怯えた表情の近藤政だ。


「危険は去ったって言うのに、表情が晴れねぇな。……一応、自己紹介は必要ですかね、初めましてだし。俺は―――」


「椿…円華くん、だね。助けてくれたこと、素直に礼を言うわ」


 感謝の言葉を述べているが、彼女は俺と目を合わせようとしない。


 ピンチを助けたヒーローに対しても、恐怖を感じているようだ。


 近藤先輩を見ていると、恵美が後ろからバシッと頭を叩いてきた。


「ねぇ、そろそろデリカシーって言葉を覚えようよ。女の子がパジャマ姿で、男の前で落ち着けるわけないじゃん」


「え?あ、あぁ~、そう言うことか!」


 言われて気づき、すぐに視線を外すと同時に後ろを向く。


「悪いね。私に用があったんだろうけど……着替える時間は、くれるかしら?」


「も、もちろんです!」


 俺が返事をしてから、近藤先輩は寝室に戻って行った。


 リビングに残された俺たちは、同時に複数の鉄仮面の方に視線を向ける。


「もしかして、こいつらもクイーンの駒?」


「その可能性は高いだろうな。さてさて、どこのどいつなのか、顔をおがませてもらうとするか」


 奴らの素顔を見ようと手を伸ばす。


 そして、その仮面を取って顔を見れば、思わず息を飲んでしまった。


「……マジかよ」


 奴らのあのいびつな動きの謎が、すぐにわかった。


 鉄仮面の下は、マネキンの顔だった。


 こいつらの正体は、機械人形だったんだ。

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