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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
真実と嘘の選挙戦
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2人目の脱落者

 円華side



 休み明けの月曜日。


 生徒会長選挙の当日まで残り5日を切ったこの日。


 午前8時を回った頃のことだ。


 全校生徒に、一斉にあるメールが送信された。


 その内容に目を通した生徒の多くは、驚愕の表情を浮かべたに違いない。


 かく言う俺も、思わずその文に対して目を疑ったからだ。


 登校の準備を終え、玄関の扉を開けてはメールの内容に目を通す。


 ー----


 生徒会長選挙実行委員会からのお知らせ


 この度たび、ご本人からの強い意向により、2年Aクラス 近藤政様が生徒会長選挙から脱落されました。


 今後、残り5日間の選挙期間は彼女を除いた2名の立候補者が生徒会長の椅子を争うことになります。


 なお、この決定は再度更新される可能性がありますことを、ご了承ください。


 ー----


 風間直子に続いて、次は近藤政まで盤上から降りた。


 しかも、今回に関しては理由が明らかになっていない。


 突然の出来事に、また学園全体が揺らぐのは確かだろう。


 この前の動画の時は、それ相応の理由があったから納得はいく。


 だけど、今回の脱落に関しては納得できない人間も少なからず現れるはずだ。


 近藤先輩に、一体何があったって言うんだよ……。


 いや、確かに彼女のことも気になるけど、状況を見れば俺にとっては好機なのかもしれない。


「残り2人……。相手は、仙水凌雅せんすい りょうがか」


 進藤大和が生徒会長の椅子を手に入れるために、最後に立ちはだかる存在が明らかになったわけだ。


 そして、安直な考えかもしれねぇけど、クイーンのこまを絞れたことになる。


 あの男からは、目的のためなら手段を選ばない風格を感じていた。


 風間直子を陥れるために、動画の件にも一枚嚙んでいるの可能性は充分にある。


 残り5日間だって言うなら、その間にクイーンを追いつめる策を練り上げ、進藤先輩を勝たせる方法を見出すしかない。


 そのための手がかりは、既に掴んでいる。


 頭の中でパズルのピースを組み上げながら、階段を下りるとその先で銀髪と白髪の女が2人立っていた。


「あれ、おまえら……」


「おっす。何かまた、面倒ことが起こりそうな感じだね」


 恵美が軽く手を挙げて挨拶してきたのに合わせ、麗音も「おはよ」と声をかけてきた。


「まさか、残り2人になるなんて思わなかったわ。近藤先輩のこと、引っ掛かってるんじゃないの?」


「……少しな」


 時間も時間で、立ち話をする余裕もないので、3人で歩きながら話を進める。


「だって、不自然だろ。原因もわからずに、脱落するって。誰かが裏で、近藤先輩を追い詰めたとしたって、何もわからなかったら気持ち悪くてしょうがねぇよ」


「それは同感。私たちにとっては、黒幕が標的と繋がっている可能性もあるからね。……できるなら、近藤先輩に直接話を聞けたら良いんだけど」


「流石にそんな簡単に会える相手じゃないわよ。初対面の先輩なんだし、何の伝手つてもなく会ってもらえるはずがないじゃない」


 麗音が冷静に反論する中で、俺も「だよなぁ」と少し落ち込みながら同意する。


 第一、こんな爆弾メールを投下されて、今日登校しているのかも怪しいくらいだぜ。


 それでも、何か方法はないのかと胸の下で腕を組んでうなる恵美。


 こいつのことだから、後先考えずに近藤先輩に会いに行こうとするのが目に見える。


 目を光らせておかねぇと、揉め事に巻き込まれる未来しか見えてこない。


 近藤先輩に接触できる方法。


 進藤先輩を通して会うという手もあるけど、残りの期間を考えると余計な手間をかけさせたくない。


 かと言って、今回の件での情報不足が原因で、後で痛い目を見るのは御免だ。


 あの人の立場を借りずに、情報を得る手段があるはずだ。


 そのための何かを見落としている気がするが、それを考える前に恵美が話題を変える。


「そう言えば、ヴァナルガンドとのみぞはどうなったの?ちゃんと解決した?」


 俺の頼みで仲介をした手前、その後の進展が気になっていたらしい。


 すぐに言葉を返すことはできず、視線を逸らしてしまう。


 それで勘づかれたのか、ジト目を向けられる。


「何の進展も無かったんだね」


「……るっせぇな。簡単に仲直りしようとか、そんな軽く言える仲じゃねぇのはわかってんだろ」


 頭の後ろに手を回し、バツが悪い表情を浮かべてしまう。


 実際、恵美のおかげでヴァナルガンドとの繋がりが歪んだ理由はわかっている。


 それでも、歩み寄るには俺はあいつが納得できる答えを出せていない。


 こんな状態で、ヴァナルガンドが俺を受け入れるはずがない。


 隣で話を聞いていた麗音は、こっちを見ながら人差し指で頬を掻く。


「魔鎧装の扱いがデリケートなのは、何となくわかったけど、肝心の切り札が無くて戦えると想ってるの?」


「思ってねぇよ、そんなこと。だから……納得はしてねぇけど、俺が戦えない時の策は考えてある。無策で特攻する気はねぇよ。そんなことをしたら、確実に死ぬ」


 ヴァナルガンドが使えない今、俺自身にクイーンと対等に戦える手段は残されていない。


 正直、歯痒はがゆい気持ちがないわけじゃねぇけど、そんなことを言っていられる状況じゃねぇしな。


「自分にできることをするしかねぇよ。目的を果たすためにもな」


 ヴァナルガンドのことを思い出すと、胸が苦しくなる。


 どうしたって、どうしようもない問題を解決する方法は見つからない。


 もしかしたら、俺はこのままヴァナルガンドの力を使えないままなのか。


 だとしたら、これから先も復讐を果たすための力が欠けたままになる。


 気づいたら、あいつの力を頼りにしていた自分に驚かされる。


 恵美の話を聞いてから、俺の中でヴァナルガンドの存在が大きくなっているんだ。


 今まで、助けられていた事実にすら気づけなかった。


 ずっと俺と共に居たのに、あいつの想いを知らなかった。


 知ろうとも、しなかったんだ。


 こんな俺が、ヴァナルガンドの力を使おうとしていたこと自体が、おこがましかったのかもしれねぇな。


 自責の念で頭がいっぱいになっていると、横から頭をトンっと手刀で叩かれる。


「痛っ‼」


「ネガティブ思考になってるの、表情に出てる。急に黙ったと思ったら、また自分を責めてたんでしょ」


 恵美に見透みすかされ、唸る声しか出ない。


「一応言っておくけど、片手間で相手できるほど、女王は甘くないわよ。今は目的に集中しないと、気づいた時には手遅れとか最悪じゃない」


「そんなことは、わかってる。……わかってんだよ、言われなくても」


 麗音の忠告に対して、怒りの感情をはらんだ声で返してしまう。


 クイーンや選挙戦の方に頭をシフトしようとしても、どうしてもヴァナルガンドのことが頭にチラついてしまう。


 このイラつきは、そんな自分に対してのものなんだ。


 俺のせいで空気が重たくなる中、地上エレベーターの前に到着して足を止める。


 次の番を待つ中で、3人で話を続けるつもりにもなれずに沈黙が流れているが、それを遠くから近づいてくる明るい声が破った。


「おーい。麗音ちゃん、おっはよー!」


 名前を呼ばれ、麗音が振り返れば「あれ、和泉さん!?」と少し意外そうな顔を向ける。


 それに反応し、俺と恵美も近づいてくる彼女の方を見る。


 いつもの屈託のない笑みで小走りで来た和泉は、両膝に手をついては前のめりな姿勢になる。


 その時、一瞬だけ胸元の隙間から見える素肌に目が行く前にスッと目を隠された。


「・・・おい、何だ、この手は?」


「別に。ただの予防」


 恵美はすぐに手を退けたが、不服そうな顔になっていた。


 こいつ、いつまで俺を変態扱いするつもりだ。


 当の和泉本人は気にしていないのか、背筋を伸ばしてはキョトンっとした顔になる。


 そう言えば、今日もかたわらに雨水の姿は見えないな。


 向こうも向こうで、仲直りはできてねぇみたいだ。


「こんな時間に会うなんて、珍しいね。いつもは、もっと早い時間に校舎に着いてるはずじゃない?」


 麗音の反応に対して、和泉は苦笑いを浮かべる。


「ちょっと、寝坊しちゃったんだ。目覚まし時計って、やっぱり慣れなくて。寝ている間に、止めちゃってたみたい」


「和泉って寝起き悪いの?ちょっと意外」


「朝は起きるのが苦手なんだよね。いつもは雨水が起こしてくれるんだけど、最近は……」


 雨水の話をしようとすると、途端に少し表情がくもった。


 ここは話を逸らしてやるのが優しさか。


「そう言えばさ、和泉はさっきのメール見たか?」


「え?あ、うん。近藤先輩のことだよね。あれを見て、少し残念だなって思っちゃったよ。私、あの人のことを応援してたから」


 確か前に話してた時も、近藤先輩と進藤先輩で迷ってるって言ってたな。


 和泉としては、複雑な気持ちを抱くのも仕方ないか。


 彼女はスマホを取り出し、画面を見ると小さく溜め息をついて肩を落とす。


「やっぱり、何の返信も来てないね。いつもなら、すぐに連絡を返してくれるのに。今日はちゃんと、学校に来てくれると良いんだけど……」


「ねぇ、それってもしかして、近藤政のこと?話の流れ的に」


「うん、そうだよ。近藤先輩とは仲良くさせてもらっていたから、連絡先を交換しておいたんだ。学年は違っても、同じAクラスってことでよく気にかけてくれるんだよね。お部屋にも、前に1度お邪魔させてもらったことがあるかな」


 和泉の返答を聞き、恵美と麗音は俺に視線を向けてくる。


 さっき見落としていたことに、今気づいた。


 そして、連絡が返って来ないという事実に対して、嫌な予感が働いた。


「和泉、おまえが先輩に連絡を入れたのは何時くらいのことだ?」


「えっ……7時30分くらい、だね」


 だとしたら、もうそろそろで45分が経過するくらいだ。


 それでも連絡を返さない?


 近藤先輩の人柄が聞いている通りなら、生真面目な性格のはずだ。


 女性だから外出に準備が掛かるとしたって、もう校舎に着いていてもおかしくない時間帯だ。


 謝罪のメールを返すくらいの時間は、あるはずだ。


 この状況に対して、違和感を覚えてならない。


 俺はすぐに成瀬に電話をかけ、それはすぐに繋がった。


『もしもし、円華くん?あなた、何やってるの?このままじゃ、遅刻す―――』


「遅刻する理由ができた。成瀬、俺の思い過ごしかもしれねぇけど、頼みたいことが在る。2年Aクラスの近藤政が、今校舎内に居るのかを確認してくれ。俺たちは、彼女の部屋に行ってみる」


『えっ!?ちょっと、いきなりそんなこと言われても…‼』


「理由は後で話すけど、今は時間がないかもしれない。わかったら、恵美に連絡してくれ」


 焦りが伝わったのか、成瀬は少し間を置いて「わかったわ」と言って電話を切った。


 次に和泉に目を向ければ、彼女は状況が掴めずに戸惑っている。


「ど、どうしたの?もしかして、近藤先輩に何かあったとか…?」


「わかんねぇけど、近藤先輩の部屋の場所がわかるなら、教えてくれると助かるぜ」


 俺だけでなく、麗音も彼女に「お願い、要ちゃん」と必死な表情で訴える。


 そして、俺たちの表情からただならぬ空気を感じてくれたのか、和泉は頷いてくれた。


「わかったよ。付いてきて」


 彼女の後に続き、俺と恵美、麗音はエレベーターから離れて居住エリアを目指すことになった。


 こういう時の嫌な予感ってやつは、憎たらしいほどによく当たるんだ。


 近藤政……彼女を、今失うわけにはいかない…‼

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