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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
真実と嘘の選挙戦
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女王のデータ

 円華side



 金本の勿体ぶった言い方に、俺はいぶかな表情を浮かべる。


 彼女には、冬休み中に俺のこの学園での目的が復讐であることは明かしている。


 だからって、あいつが慈善行為でこんな情報をぎまわっていたとは思えない。


 第一、Eクラスの状態からして、俺に構ってる余裕も本当だったら無いはずだ。


 それなのに、金本は連絡を寄越よこしてきた。


 あいつの性格からして、俺をめようとしているとは考えにくい。


 話を聞いてみる価値は、あるか。


「俺の復讐相手の秘密……。それは、どこからの情報なんだ?入手経路によっては、おまえがガセネタを掴まされてる可能性だってあるぜ」


『慎重なのね。でも、あんたの歪んだ性格からしたら当然だわ』


 俺の問いかけに対して、金本は情報元を言うのを渋っているように思えた。


「……言いにくい相手なのか?」


『そうじゃないけど、あんたが聞いたら複雑に思うんじゃないかって思うだけ。その名前を出したら、あんたは信じないと思うから』


「だけど、おまえはその誰かの言葉を信じたんだろ?だから、俺にそれを伝えようとしたはずだ」


 大方、誰なのかの予想は付いてきた。


 だけど、ありえないと思っている自分も居る。


 組織があいつの記憶を、そのまま保持させておくはずがない。


 第一、冬休みにあの男と接触した後、俺は岸野が組織の人間として動こうとしている所を見ていた。


 それでも、『もしかしたら』という薄い希望を感じていた。


「おまえがそいつを信じるなら、俺がその相手を信じられなくても、それを信じるおまえを信じるだけだ。話してくれよ、今更おまえに裏があるとか思ってねぇからさ」


 金本が信頼できる相手であることは、これまでの交流から分かっている。


 そして、こいつは感覚的に人の善悪を嗅ぎ分けることができている。


 柘榴のこともそうだし、阿佐美学園の一件でもそれは感じていた。


 そんな金本が信じられる内容なら、俺もそれを受け入れる器は持っている。


 こっちが話すように促せば、金本は重たい口を開いてくれた。


『あんたが、この選挙戦で倒そうとしている復讐相手。そいつは、常に自分が支配下に置いている人脈の秘密データを、肌身離さず持ち歩いている。紫の蝶がプリントされた、USBメモリーだって言ってたわ』


「蝶……」


 その言葉で頭を過ぎったのは、この前目撃したクイーンの魔装具。


 姉さんの手帳に書かれていた、クイーンの特徴を思い出す。


 裏から広げた人脈を操り、自らの手を汚さずに障害を排除しようとする。


 女王の支配下に置いている者たちが、あの女に秘密を握られていたことが原因だというのなら、それを手に入れれば大きな一手になる。


 利用できれば、あの女の手駒を0にすることもできるかもしれない。


 だけど、こんなクイーンにとって核になる情報を手に入れることができる人物なんて、1人しか連想できない。


『そして、このことを教えてくれたのは……柘榴よ』


 金本がその名前を口に出した時、俺は少し間を置いて「やっぱりか」と呟いた。


『椿の気持ちは、少しはわかるつもり。クラスメイトを皆殺しにしようとした奴の言うことなんて、信じられるわけがないわよね。今だって、あいつのことを許したわけじゃないでしょ?』


 電話越しではあるが、彼女がバツの悪そうな顔を浮かべているのが容易に想像できる。


「当たり前だ。あいつのしたことを許すつもりはねぇし、それは柘榴本人に直接伝えている。例え、あいつが罪悪感から自殺を図ったところで、それで消える罪じゃない」


 彼女の意見に肯定しつつ、言葉を区切って「だけど」と返す。


「あいつを許せない気持ちと、目的にかける想いは別の話だ。おまえが知っているかはわかんねぇけど、俺と柘榴は互いの復讐で協力するって契約を交わしている。あいつがこの件でガセネタを掴ませてきたなら、問答無用で今度は叩き潰すだけだ」


 仲間という認識はないけど、それでも互いの事情を他の人間よりは理解し合っている存在だ。


 そして、この情報は柘榴から俺への、契約する相手に足る存在かを試す挑戦状だと受け取った。


 クイーンの重要な情報を与え、その上で俺がこの選挙戦で討ち取れるかどうか。


 その結果の如何いかんによって、監獄施設から出た後のあいつへの身の振り方が変わるってことだ。


『叩き潰す……ね。あんたが言うと、本当に実行できるから余計に怖くなるわ。でも、そうね……私の感覚的な話になるんだけど、1つだけ言っても良い?』


「何で、そんな控えめなんだよ…。別に好きにすればいいんじゃねぇの?」


 半眼で言えば、金本は少し躊躇いながらも、少しずつ言いたいことを口に出してくれた。


『前に柘榴に会った時、なんていうか……初めて、本当のあいつが見れた気がした。初めてあいつと、本当の意味で向き合うことができた気がした。だから、多分、あんたと柘榴を負かしてくれたおかげなんだと思う。だから、その……。あぁ~、何かぁ…言葉が見つかんない‼モヤモヤする‼』


 言葉の途中から苛立ちを感じていたようで、整理できない気持ちを吐露とろする。


 だけど、俺は何となく向こうの言いたいことを察し、代わりに言葉で表してやる。


「素直に『ありがとう』って言えば良いだろ。面倒くせぇ奴だな、おい」


『はぁ!?椿、あんた、私のことをバカにしてるでしょ!?』


「してねぇよ。面倒な奴だとは思ってるけど」


『あんたねぇ~、そっちが欲しそうな情報を渡したのに、そう言い方って無くない!?』


 感情を露わにしてイチャモンを着けてくる金本の態度から、いつも通りの彼女に戻っていることを確認する。


「感謝はしている。あとは俺が今の舞台で暴れる準備を進めるだけだ」


『あっそ。選挙戦、あんたは進藤大和って人を推しているのよね?柘榴から言われたけど、私も自分のクラスに促して、その人に投票する必要があるらしいのよね』


「おいおい、言い方にすっげぇ違和感を覚えたぜ、今。おまえ、そんな素直にあいつの言うことを聞く気なのかよ」


 柘榴との間に何があったのかは知らねぇけど、今の金本にはあいつに対する警戒心や不信感が無いように思える。


『とりあえず、今回は言うことを聞いてみるって感じよ。私も無条件で、柘榴の言うことに、はいはいって従うわけじゃないわ。でも……』


 歯切れ悪く、逆説の接続語で止まる。


「でも……何だよ?」


『……あんたには、話すけどね。私、柘榴に対して少しだけ罪悪感を覚えてる』


 罪悪感。


 その言葉が示す意味の中に、彼女の場合は後悔という感情も潜んでいる気がする。


「それはもしかして、俺と協力して柘榴を倒したことを言っているのか?」


 思い当たることを聴けば、金本は黙ってしまう。


 図星か。


 こいつは、自分が気に入らないこと、そしてクラスが崩壊する危険性を考慮して柘榴と敵対することを選んだ。


 結果として俺たちは柘榴を止めることに成功した。


 だけど、それによって生まれる代償だいしょうに対しては、目を向けていなかった。


『柘榴が居なくなったことで、私たちのクラスにある弱点がわかったのよ。それを埋めるためには、あいつの存在が必要だってことが……わかっちゃったから、前の試験で』


「……そう言うことか」


 取捨選択試験の結果から、Eクラスが痛手を負っているのはわかっていた。


 もしも、あの試験に柘榴が参加していたのなら、認めたくねぇけど、あいつならフェイクニュースの動画を利用するまでもなく、自力でクラスの内通者を見つけ出すことができていたはずだ。


 それほどまでに、柘榴恭史郎という男の恐怖を利用した統率力は高かった。


 結果として、Eクラスには内通者がまだ残っているんだからな。


「おまえが柘榴を重要な存在として、認識できるようになったのはわかった。信じられるかかどうかは、これからのあいつを見て判断すれば良い。おまえのクラスがこの選挙戦で協力してくれるって言うなら、願ってもねぇことだしな」


 とりあえずの感想を伝えておくと、『あまり、期待はしないでよ』と釘を刺された。


 まぁ、金本のクラスでの立ち位置を考えると、影響力は中の上くらいだろうしな。


「話はわかった。教えてくれてありがとな。礼はいずれする」


『良いわよ。逆に私の方が、前の借りを返したかったってだけだから。でも、結果を出さなかったら、あいつの場合はまた面倒な揉め事を起こす気かもしれないから、気を付けることね』


「肝に銘じておく。じゃあな」


 通話を切り、頭の中で情報を整理していた。


 柘榴にポーカーズの記憶が残っているなら、岸野はメモリーライトをあいつに使っていなかったのかもしれない。


 それか、1度消した上で秘密裏に戻していたのか。


 どっちにしろ、あとで確認を取る必要はありそうだ。


 そして、重要なのはクイーンの情報だ。


 紫の蝶のUSB。


 あの女を見つけ出すための、唯一の手がかり。


 だけど、肌身離さず持っているって言ったって、全校生徒に抜き打ちで身体検査をしたところで時間がかかり過ぎる。


 どうやって、見つけ出すかな……。


 俺は左目を押さえ、校庭で最初にクイーンを見つけた時のことを思い出す。


 今にして思えば、あの時は左目が七つの大罪具に反応して視界が変わったように感じた。


 ヴォルフ理事長が与えたと思われる、この左目の新しい力。


 あの紅い世界を、また見ることができたなら……。


 ダメだな、現実的じゃない。


 クイーンのことを頭の片隅かたすみに残しつつ、俺は恵美の居る部屋に戻ることにした。



 ー----



 リビングに戻れば、タイミングが良かったのか恵美が身体を起こして伸びをしていた。


「むっん~~~~。ん?……あ、戻ってきた」


「それはこっちの台詞だっての」


 冷蔵庫からいちご牛乳を取り出し、彼女に手渡す。


「お疲れ様。何か成果はあったか?」


「それなりにはね。ヴァナルガンドが、何を考えていたのか。よーくわかったよ。そして、何で円華が変身できないのかもね」


 一気飲みした後に、恵美は得意げな顔で言っていた。


 俺は彼女の前に座り、テーブルに頬杖をつきながら一瞬だけ白華の方に半眼を向けた後に視線を戻す。


「じゃあ、頼むから聞かせてくれよ。ヴァナルガンドが、俺の何が気に入らないのかをさ」

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