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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
真実と嘘の選挙戦
334/497

大局

 円華side



 2学年が放課後になったところで、午前中に送ったメールの返信が来た。


『応接室で待っている』


 進藤先輩らしい、簡潔な返しだった。


 必要なことは直接顔を見合わせて話すつもりらしい。


 俺としては、確認したいことは2つ。


 風間直子の件は、進藤先輩の策で行われたことなのか。


 今回のことを通じて、彼は今後の身の振り方をどうするつもりなのか。


 これらのことを知らなければ、あの人と足並みをそろえることができない。


 応接室の前に着いてノックをすれば、中から「入れ」と短い返事がきたのでドアを開ける。


 部屋の中は静かであり、居るのはソファーに座っている進藤先輩1人だ。


「1人……みたいですね」


「おまえの望む状況にしたつもりだが、ギャラリーが居ないのは不服だったか?」


 軽口を叩かれ、俺は素気なく「別に」と返しては部屋に入ってドアを閉める。


 そして、こっちの視線の変化に気づいたのか、怪訝な目を向けてくる。


「警戒しているようだな。まさか、風間のことを気にしているのか?」


「あんたに聞きたいことの1つは、それだ。まさかとは思うけど、あれは先輩の仕業じゃないよな?」


「……何故、そう思う?」


 最初から否定することはなく、俺の疑いを受け止めた上で理由を求めてくる。


「あの動画のやり方は、俺たちが前回の特別試験でやったことだ。同じような方法で、風間の悪事をさらされた。1年生の中で、俺以外にもあんたの策略だって思う奴は居ると思うぜ」


「確かに、そうだろうな。敵の狙いの中には、風間直子を陥れることのみならず、俺への疑いを向けさせることも意図していたことに違いない」


 その言い回しから、進藤先輩は風間を陥れた何者かについて、思い当たるふしがあるように見えた。


「だったら、あの動画は先輩の策略じゃない…て、ことか?」


「俺の言葉を信じるなら、そう言うことになる。しかし、そろそろ脱落者が出る頃だとは思っていた。このやり方は、少々()が過ぎているとは思うがな」


 彼は俺に目の前にあるソファーに座るように促し、それに従って腰をろした。


「あの後、1年と3年は授業が中止になったと聞いている。あの動画が配信された後、2年生の間で何が起きたのか、知りたいか?」


「……大方予想はついてるけど、事実確認はしておきたいぜ」


「良いだろう。要約して、簡潔に話そう」


 俺たちが解放された後、2年生の間で起きたこと。


 進藤先輩の口から聞いた内容は、ジェノサイドという頭に浮かぶほどのものだった。


 風間直子及び、そのファンクラブに対する執拗しつような追及。


 動画を見たことでフラッシュバックした、女性被害者たちの悲痛な声。


 どれだけ言い逃れをしようとしても、1度目にした映像の衝撃をかき消すことなどできるはずもない。


 動画に映っていた男たちは、こぞって『風間直子に騙されただけ』『彼女に命令されたから仕方がなかった』と言い訳をしていたが、そんな安い言葉が受け入れられるような事実じゃない。


 被害者であることを明かされた女子たちは、これまで抑え込んでいた怒りを爆発させるかのように、ファンクラブの奴らや風間直子に集団で暴力を振るったらしい。


 被害の内容を知ってしまった者たちの中には、乱闘を止めようとする動きを見せる者もいたが、大半の者はただ見ていることしかできなかったという。


 風間は袋叩きにあい、錯乱してはわめき散らして動画同様の本性を露わにして暴れようとしたが、それを教師たちが駆けつけて抑えつけ、連行することで沈静化ちんせいかした。


「風間直子の処遇については、今も学園側で検討している。事が事だけに、そう時間がかかる内容でもないだろう。彼女の犯した罪を考えれば、今まで通りの学園生活を送ることはほぼ不可能だ」


「彼女の身の上に関することは、別にどうでもいい。自業自得だし、それに便乗した奴らが裁かれるのも当然の話だ。だけど、あの動画を流した奴はやり過ぎた。あの被害者の女たちは、自分たちが受けた仕打ちについて知られたくないって想いがあったはずだ。俺には、その気持ちを汲み取った上で行った行動だとは、到底とうてい思えない」


 被害者全員の同意を得て行ったことなら、俺も理解はできないけど、納得はできたかもしれない。


 だけど、進藤先輩の今の話で、その前提があったとは考えにくい。


 起こるべくして起きた、混乱だと言える。


「この混乱を収めるためには、誰かが代償を払わなければならない。阿佐美学園の事件で、騒動の発端となった真城結衣と日下部康則のように。これはもはや、そのレベルの問題だ」


生贄いけにえ…ってことかよ」


「集団の均衡きんこうを保つとは、そういうことだ。被害者が風間やそれに加担した者たちを許すとは思えないこともそうだが、この事実を知らされた上で、彼女をこのまま学園に留まらせることは、これ以上の混乱が生じるリスクを抱えることになる」


 進藤先輩はあくまでも、風間が処刑台に上がらなければこの混乱は収まらないと考えているようだ。


 だけど、俺には偽善者ぎぜんしゃのような思考が浮かんでしまった。


「言いたくねぇけど、風間がこの絶望的な状況から這い上がって、変わることだって考えられるんじゃねぇのか?あんたが目指してるのは、どんな絶望的な状況でも這い上がれる学園のはずだ。その思想を持つあんたに、安易に代償とかいう言葉を使ってほしくねぇぜ」


「風間がこの状況でも這い上がろう器の持ち主なら、俺もこんなことは言わない。だが、彼女がその器じゃないことは、今回のことで明らかになっている」


 風間直子は、自分の罪を受け入れることなく、逆上して周りに喚き散らした。


 変わろうとする意志がある者がとる行動じゃないってことか。


 戸木ときの時と、同じだ。


「この学園では、強くなるために常に変化を求める者しか生き残ることはできない。それは俺が生徒会長の座に着いたとしても、変えることができない不変のルールだ」


「だからこそ、誰もが強くなれるチャンスを掴める学園にするんだろ。俺たちは、その約束があるから手を組んだはずだ」


 風間の話をここで区切り、2つ目に確認すべきことに話題をシフトする。


「今回の件を受けて、先輩はこれから、これからの選挙戦でどう動くつもりなんだよ?」


 もはや、悠長に事を構えている場合じゃない。


 風間のような攻撃を受ける前に、打てる手は打たないといけない。


 しかし、俺の問いに進藤先輩はこう返した。


「どうするも何もない。今まで通りに事を進めるだけだ」


 平然と言っている態度からは、その言葉が冗談で言っているようには思えなかった。


「ちょっと、待てよ……。あんた、それ、本気で言ってるのか!?」


「当たり前だ。今は行動を起こす時ではない」


「今起こさなくて、何時起こすんだよ!?今回の風間みたいに、次はあんたが狙われる可能性だってあるんだぞ!?」


 進藤先輩に裏の顔が無いにしても、動画編集で何かの事件を彼の仕業に見せることだって考えられる。


 そこまでわかって言っているのか、この人は…!?


 俺の焦りが伝わったのか、進藤先輩はフッと笑って目を合わせてくる。


「俺のことを心配する必要はない。信じろ、何も無鉄砲でこんなことを言っているわけじゃない。『動かない』というのも策略の1つだ。その意味は、遠からず理解できるはずだ」


「……あんた、覚悟があって、そう言うことを言ってるんだよな?」


「当然だ。おまえが信じてくれるのなら、俺の戦い方を近くで見せてやれる。そこから1つでも学びがあるのなら、それに越したことは無い」


 進藤大和の戦い方。


 この人には、今の状況が俺とは違うように見えているのかもしれない。


「何も全ての物事ものごとを、自分を主軸に置いて解決する必要はない。もっと、視野を広げて大局たいきょくを見ろ。おまえはまだ、人をかすということができていない」


「……いきなり、説教かよ」


 頭の後ろに右手を回し、目を逸らせば「そうじゃない」と返される。


「俺はこの選挙戦を通じて、生徒会長の座を手に入れることもそうだが、この出来事が、おまえの成長に繋がれば良いと思っている。だからこそ、伝えるべきことはちゃんと伝え、考えるべきところは考えさせる。それが、椿円華という男の成長に繋がると信じているからだ。まぁ、これはおまえに、俺から学ぶ意思があればの話だがな?」


 からかうように声音を上げて言われれば、少し苛立ちを覚えながらも深い溜め息をついて冷静さを保つ。


「わかったよ。あんたのやり方を見てれば良いんだろ。だけど、それで負けたら目も当てられねぇからな?」


「敗北?悪いが、俺が負けるのは想像できないな」


 それは単なる傲慢な愚者の一言ではなく、確固たる自信を持った強者が口にすることで説得力が生まれる。


 進藤先輩が前者か後者かは、これから先でわかることだ。


「おまえの力が必要になった時は、この前のようにメールで連絡する。それまでに、おまえは自分の目的に集中し、迷いを振り切って来ることだ」


「…はぁ?何だよ、迷いって」


 視線を逸らし、意味がわからないという意思を示す。


 しかし、彼にその誤魔化ごまかしは通じなかった。


「気づいていないと思っていたなら、心外だ。今のおまえの目からは、心に迷いを抱えているのが伝わってくる。それを見過ごすほど、俺の眼鏡はくもっていない」


 眼鏡の位置を正し、見くびるなというような鋭い目を向けられる。


 その覇気を押し返すことができず、身体が少し固まってしまう。


「何に迷いを抱いているのかは、あえて詮索せんさくするつもりも無ければ、それを聞いて助言をするつもりもない。だが、1つだけ、おまえが自覚していない事実を突きつけてやろう」


 そう言って、彼は俺の顔を指さす。


「迷っているということは、おまえの中で答えは既に決まっている。頭ではなく、本能が決断しているものだ。あとは、理性でその決断に納得しようとしているに過ぎない。頭で考えるより、自分の心に問いかけてみろ。おまえは、何のために、何を成したいのか。そのために、何が必要なのか。答えは、もう出ているのだからな」


 指先が動き、顔から胸部に移動する。


 それを受けて、俺は自分の胸の中心に手を当てる。


「答えは……もう出ている、か。わかったよ、進藤先輩。今の言葉で、少し冷静になれた気がする。今はあんたを信じて、自分に集中しろってことだよな」


「それが巡りめぐって、俺が勝つために必要な力となる。忘れるな、おまえと俺の目的は同じだ」


「言われるまでもねぇっての」


 俺は進藤先輩を信じ、彼も俺の成長を信じる。


 その信頼に応えるためにも、俺は自分の中の迷いを断ち切らなきゃいけない。


 でも、俺1人じゃ無理な気がする。


 何度あいつと対話をしようとしても、それに応えようとしてくれない。


 仲介者が必要だ。


 そして、それができるとすれば、1人しか思いつかねぇ。


 俺は進藤先輩と別れ、応接室を出てはある女に電話をかけた。


「もしもし、俺だ。悪いけどさ…やっぱ、助けてもらっても良いか?」

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