種撒き
恵美side
取捨選択試験の終了日。
その結果は、午前8時にスマホに一斉送信されていた。
表示されている、各クラスの選択はこうだ。
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Sクラス=退学者1名、及び内通者であったため+1000ポイント
Aクラス=退学者0名のため-1000ポイント
Bクラス=退学者1名、及び内通者であったため+1000ポイント
Cクラス=退学者4名、しかし内通者は含まれていないため→±0ポイント
Dクラス=退学者1名、及び内通者であったため+1000ポイント
Eクラス=退学者0名のため-1000ポイント
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この結果を見て、1つの違和感を覚えたけど、それは胸の内に秘めておく。
今は試験が終了した事実を受け止め、私は自分のクラスには向かわずに別の教室に向かった。
それはCクラス。
そして、私の探し人はタイミングよく、教室の前に姿を現した。
「あら、ごきげんよう。最上恵美さん」
「……おっす。あんたに用があるんだけど、朝礼前だし時間はあるよね?木島江利」
お互いに挨拶は交わすけど、心の中では敵意を向けているのがわかる。
円華には、何も伝えていない。
今は戸木のことで参ってるだろうし、これ以上負担をかけたくないと思ったから。
それに、円華が居ないと何もできないと、この女に思われるのも癪。
これは私が1人で決めて、導き出した答え。
それを、目の前に居る魔女に突きつける。
「良いですよ。今日で試験も終わりましたし、何をしようかと暇を持て余していた所です。あなたとなら、有意義な時間を過ごせそうです」
木島は私の誘いに警戒を示すことはなく、快く承諾してみせた。
そして、曲がり角の方に視線を向ければ「あなたもどうです?気配が漏れてますよ?」と声をかける。
その声に反応して、姿を現したのは鈴城紫苑だった。
「好奇心に突き動かされてな、それに合わせて気配が漏れるのは悪い癖だな」
「まさか、あんたも来ていたとはね」
「考えることは一緒のようだな、小娘」
私と目を合わせると、女帝様はフフっと可笑しそうに笑った。
木島は鞄を持ったまま、私たち2人と人の居ない屋上に移動する。
そして、みんなの前で見せている顔から、魔女の表情に変化する。
「この前とは逆だね。君たちが私に会いにくるなんて、珍しい。こんなに天気が良くても、すぐに雨になりそうなほどに不吉に思えるよ」
頭上の晴天を仰ぎ見ながら、挑発するように不敵な笑みを浮かべている。
「そう思うなら、ここに来なきゃよかったのに」
「そんなのは嫌だよ。だって、恐くて逃げちゃうみたいじゃない。私は嫌いな人間に、尻尾を向けるのが嫌なんだよ」
「我儘な女だな」
「君にだけは言われたくないね。鈴城紫苑」
本性を現したところで、嫌悪感をぶつけ合う。
だけど、別に私はこの女とくだらないことを言い合いに来たわけじゃない。
鈴城紫苑のことは気にせず、本題に入る。
「手短に話すよ。あんたも私の顔を長く見たく無いだろうし。だから、単刀直入に言わせてもらう」
世間話をする気はないので、敵意全開にして睨みつける。
「今回の騒動、焚きつけたのはあんただよね」
「……へえぇ~。まさか、最初にその件で来るのが君だったとはね?増々、嫌いになりそうだよ」
否定はせずに、苛立ちを感じる目を向けてくる。
「ほお、否定しないんだな?」
「確固たる自信を感じるから。そう言う相手を前に、無理に否定するのは得策じゃない。あとで痛い目を見るのはわかっているんだ、長い人生経験からね。君もそうだろ?」
同意を求められれば、女帝は「どうだろうな」とはぐらかす。
否定しないこともそうだけど、魔女の態度には不可解な点がある。
まるで、誰かが自分の存在に辿り着くことがわかっているかのように、平然としている。
だけど、私が来ることは予想していなかったみたい。
「あの進藤大和の配信があった時から、私が裏で手を引いていたことを気づかれるのは、わかっていたよ。だって、私が騒動を誘発させるように仕掛けた人間は、全員意志が弱い者ばかりだったから。追い詰められれば、木島江利に唆されたって言い逃れようとすることはね」
「だったら、その証言から逃れる方法も用意していたってこと?」
「それは相手次第だったかな。私としては、黒幕として言い当てられてもどうでも良かったんだよね。……女帝様はともかく、君がどうやって私に辿り着いたのかは、どうでも良いことでは無いんだけど」
予想外の存在として、私は魔女の前に立っている。
言われてみれば、彼女に辿りつくための布石は冬休みの時から用意されていた。
「最初から、あんたが裏で糸を引いているんじゃないかって疑っていたよ。冬休みに、あんたが私に会いに来た時のことを、覚えていたから」
この女は、私に会いに来た時から、騒動を起こすことを予感させていた。
そして、私は自分の異能力を使い、戸木の円華に向けていた敵意に気づいていた。
だから、彼の動きをこの1週間、追い続けた結果、木島と繋がりを持っていることも知っていた。
それだけでなく、彼女が戸木を利用して円華を追い詰めようとしていたことも。
だけど、円華たちには何も伝えなかった。
理由は、円華自身が既に、内通者やその黒幕を見つけ出すために動いていたから。
それは1つのクラスだけでなく、1学年全体を巻き込むほどに大きな作戦。
そこに私の証拠もない不協和音を入れたら、円華への信頼が揺らいでしまうと考えた。
だから、今日、独りで魔女と対峙することを決めたんだ。
「私の動向に気づかなかったのは、あんたの落ち度。円華が居ないと何もできないと思って、高を括っていた結果がこれだよ」
「調子に乗って、あまり強い言葉を使わない方が良いよ?あとで惨めな思いをすることになるんだから」
黒い笑顔を向けてくる魔女だけど、追い詰められての苦笑いってわけじゃない。
本当に、窮地を感じていないというのが伝わってくる。
「1つだけ聞かせて。戸木にあの化け物になる卵を渡したのは、あんたなの?」
私の問いに対して、女帝は怪訝な顔を浮かべていたけど、話を静観する。
「あー、あれ?その通り、私が渡した。ある商人からもらった物を、面白そうだから横流ししただけ。使うかどうかの判断は、彼自身がしたことだよ。私に責任を押し付けるのは、筋違いじゃないかなぁ?」
「……そうだね。それに関しては、別に否定するつもりは無いし、あんたを責める気も無い。力を使うかどうかは、本人が決めることで、それに被る責任も本人のものなんだから」
私の冷静な返しに、挑発が空振りしたことで不服な顔になる。
「本当に、面白みがない子。そこは『あんたは間違ってる』とか、正義面してきた方が面白いのに」
「悪かったね、私は正義の味方じゃないから。でも……」
正義とか悪とかはどうでもいい。
それでも、1つだけ譲れないし、許せないことはある。
「私は椿円華のパートナーだから。円華と敵対するつもりなら、あんたは問答無用で標的だよ」
スカートを翻し、ホルスターにさしたレールガンに手をかける。
その目は、感情の起伏で蒼く染まりだす。
「パートナー…ね。気に入らな過ぎて、捻り潰したくなってくるよ…‼」
武器は持たずとも、その身体からは赤黒い覇気が視えてくる。
一触即発しそうな空気は、彼女が視線を別の場所に動かしたことで不発に終わった。
魔女が覇気を解いたんだ。
「本当に、気に入らない。だけど、少しは暇潰しにはなったかな。……それで?私が黒幕だってわかった所で、どうするつもり?証拠があるなら、それでも突き出してみる?」
「あんたが認めたなら、それで構わない。これを公表するつもりは、今のところは無いよ。私から円華たちに話すつもりもない。あんたが、また変な気を起こさない限りはね」
「その小娘と同じく、私もそのつもりだ」
女帝も私と同じ思考で、ここまで来たみたい。
これは脅しであり、褒められるようなことじゃない。
だけど、1つの重大な事実を公表しても、それが意味を成すかは別の話。
この女の場合、黒幕として公表された後の一手も用意しているはずだし、痛くも痒くもないと思う。
だからこそ、私という最も嫌っている女に、弱みを握られているという屈辱を与える。
「……ふざけたことを言ってくれるよね。でも、今日は許してあげる。別にこの程度で、あの子を追いつめることができるとは思ってなかったし、まぁまぁの遊びにはなったよ。種も撒けたことだしね」
意味深な言葉に、私は眉をひそめて「種…?」と復唱する。
「私がこの騒動でやりたかったことは、もう成功しているの。これから、この学年は大きく乱れることになる。その先で、あなたたちは生き残れるかしら♪」
「生き残るよ、そのために強くなるって決めたんだから。円華も…私もね」
最後にフッと歯を見せた笑みを浮かべた後、もう用は無いというように魔女は屋上を出て行った。
ドアを閉める瞬間に、彼女が鋭い目付きを私に向けて言った小さな一言は、この耳に届いた。
「……つまんないの」
そして、2人残されたところで女帝は私に横目を向ける。
「正直、おまえが木島の存在に行きつくとは思っていなかった。円華のパートナー、か……面白い。頭の片隅には置いておこう」
「あんたも、円華と敵対するつもりなら、容赦しないから」
「その言葉、覚えておこう。おまえの成長を、少し期待しておいてやる」
上から目線が癪に障るけど、今は突っかかる気も起きないからスルーする。
「我々も降りるとしよう、そろそろ、朝礼の時間だ」
女帝はそう言って、屋上を出ようとする。
その時に、不意に足を止めては「あー、そうだ」と言って振り返った。
「円華に伝えておいてくれ。ちゃんと、約束は守ってもらうぞ、とな」
「・・・約束?」
聞き返せば、あの女は意地悪な笑みを浮かべる。
「これは私と円華のプライベートな案件だ。仮にパートナーであろうと、プライバシーには配慮してもらおう」
「は、はぁー!?」
思わせぶりなことを言っておいて、その上教えないとか最悪‼
やっぱり、この女……嫌い…‼
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円華side
結局、内通者の正体はわかったけど、黒幕に繋がる証拠は無かった。
いや、消されたと言った方が正しいのかもしれない。
戸木のスマホからは、黒幕に繋がりそうなデータや通話履歴も綺麗に消されていた。
紫苑たちから情報を得ようとしても、あいつらも黒幕に繋がる情報は掴めなかったらしい。
結局、肝心なことは分からず仕舞いってことか。
あれだけのことをしたのに、収穫0は落ち込む。
だけど、今回の騒動で俺はクラスの中に存在しても良いんだと思えることができた。
そして、もっと強くならなければ、復讐を果たすことができないことも理解した。
今日で特別試験も終わり、次の復讐の舞台に頭を切り替える必要がある。
それは、言うまでもなく―――。
登校中にエレベーターを待っている間に、そのメールは届いた。
取捨選択試験の結果だ。
そこに書かれている内容に目を通した時、1つの違和感を覚えた。
それは、Dクラスの結果だ。
自分のクラスの下した決断だ、昨日のことだし記憶にある。
俺たちは、退学者を出していない。
それなのに、ポイントがプラスされている。
「どういうことだよ……これ?」
1人ごととして呟いたつもりだったけど、それに後ろに立っていた奴が反応した。
「これって言うのは、その結果のことかな?」
その声を聞いて、振り返れば予想外の男が立っていた。
長い前髪をした緑髪に挟んでいる、コンコルドが特徴の気に入らない奴。
「梅原…改」
「君はいつも、俺を見る時に嫌そうな目をするよね。もう慣れたけど」
そう言って、梅原は隣に移動してくる。
俺たち以外にも人が居るため、小声で話しだす。
「良かったね。不要な才能を切り捨てた結果、俺たちも君たちも多くのポイントを得ることができた。おめでとう」
「これは学園側の採点ミスだ。俺たちは、退学者を出していない。おまえたちの方は、どうかしらねぇけど」
「……本当にそうなのかい?」
何かを引き出そうとするように、揺さぶりをかけてくる。
「もしかして、君は気づいていないわけじゃないよね?この学園のルール、その真意をさ」
「もったいぶった言い方をしてくんなよ。余計にイラつくぜ」
睨みつけながら苛立ちを目で表せば、梅原は肩をすくめる。
「もしかして、とは思っていたけど、俺の見込み違いだったのかな。君たちが、どんな方法で退学者を出したのかは知らないけど、参考までに俺のクラスのやり方を教えておくよ」
さも聞くことが当然のように、奴は俺の返答も聞かずに話し出した。
「内通者を見つけ出すことは簡単だった。進藤先輩の配信のおかげでね、それは君のクラスもそうだったんじゃないかな?」
確かに、成瀬はあの配信で動揺を見せた戸木を内通者として審判をかけた。
そこは共通している。
「他のクラスでは、多分話し合いとか尋問とか、いろんなことをやったんだと思うけどぉ……無能な俺にできたことは、1つだけだったよ」
その言い方から、他のクラスとは異なるやり方で、Bクラスは退学者を出したと言うことになる。
それも、梅原個人によって。
「クラスメイトの内通者、椎名美穂。彼女の命を、この手で奪ったんだ」
奴の口した事実に、俺の中で衝撃が走った。
そして、昨日の戸木の断末魔を思い出す。
「おまえ…何で―――!?」
「何で?俺は間違ったことをしたとは思ってないよ。だって、この学園のルールに則っただけなんだから」
この学園のルール。
梅原は、その1点に固執している。
「退学=死。それが才王学園において、不変のルール。だけど、=って同じって意味だよね?だったら、死んだ人間も、退学者としてカウントされる。それは、この試験の結果に反映されている」
ずっと、退学することが死につながる、そのことに拘っていた。
梅原が提示する、もう1つの可能性を見ることを無意識に恐れていた。
退学=死。
それは、死=退学も同じ。
戸木は昨日死んだから、退学者としてカウントされたってことか。
「これから先、学園側はさらに迫ってくるんじゃないかな。命の選択を。その時、君は……この試験と同じ決断を、することができるのかい?」
梅原改。
俺はこの男の狂気と、初めて対面している。
梅原の目からは、悪意を感じない。
命を奪う選択を、当然の決断だと認識している。
それがわかった時、俺は心からこいつに怒りを覚えた。
改めて認識した。
この男は、俺の敵だ。
そして、この死=退学の事実が学園中に周知された時、才王学園は生と死がこれまで以上に入り乱れることになる。
この取捨選択試験は俺たちに、この学園のルールを真の意味で思い知らせたんだ。
これは増々、次の復讐は必ず完遂させなければならなくなった。
次の標的はポーカーズの1人、クイーン。
奴は生徒会長の座を利用し、裏だけでなく表の学園の意向まで支配しようとしている。
クイーンが生徒会の実権を握れば、これまで以上に苦しい状況になるかもしれない。
進藤先輩は、この学園を変えたいと言った。
それが、涼華姉さんの意思だと。
だったら、その手助けをするのが俺の役目だ。
絶対に、邪魔はさせねぇ。
次の生徒会長選挙で、必ずクイーンを……斬る‼
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