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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
弱者との内乱
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海牙襲来

 異形の獣へと姿を変えた、戸木との決着をつけようとした。


 その終盤の流れで、奴は俺にその槍を突き刺そうと現れた。


 鎧を装着していて、顔は見えないが殺意でわかった。


 目の前に立っているのはポーカーズのエース。


 俺の復讐のターゲットだ。


 白華の刃で牽制けんせいしながら、エースに注意を向ける。


「ジョーカーと言い、おまえと言い……探してる時は出て来ねぇくせに、立て込んでる時には現れやがって。そんなに俺の邪魔をして楽しいか?」


「あの道化師と俺は関係ない。俺の目的はただ1つ、キングを死なせたおまえを殺すことだけだ」


「キングは自分から死を選んだはずだ。責任転嫁してんじゃねぇよ。俺がおまえらを恨む理由があっても、そっちが恨んでくるのは筋違いだぜ」


 言葉で言っても通じないことは分かってる。


 逆恨みされていることも、キングってワードから、あの夜のことを思い出させられたことも気に入らねぇ。


 どっちにしても、俺とエースがこの場で衝突することは避けられないってことだ。


 奴が手に持つトライデントを軸に、その鎧の形状を観察する。


「この前は生身での登場で、次は鎧を着けての襲撃。さては、この前の戦いで俺が恐くなったか?」


「黙れ‼」


 わざと挑発して前の出来事をぶり返せば、瞬間湯沸かし器のように殺気を剥き出しにしては、一歩踏み込んで右手で槍を突き出してくる。


 それを氷刃で受け止め、拮抗させようとする。


 しかし、エースはひじを曲げて力を溜め、もう一歩踏み込んで押し込んできた。


「っ、マジかよ!?」


 力押しで負け、後ろに足が引きずられる。


 バランスを崩す直前で咄嗟とっさに、床に左手を着いて跳躍し、距離を開けて体勢を立て直す。


 身に着けている鎧の影響か、素早さも筋力も前と比較にならないほど上がっている。


 そして、離れてもすぐに距離を詰められ、高速の乱れ突きを仕掛けてくる。


「くっ‼うっ‼」


 ビキッ、バリンっ‼


 白華で防ごうとするが、速すぎて防ぎきれない。


 左肩や右脇腹をかすめ、その威力は紅氷をくだいてくる。


 氷の鎧はすぐに再生するが、槍を受けた衝撃は身体に伝わっている。


 攻撃を受けた場所に、しびれを感じる。


 だけど、ここで身体の意味でも、心の意味でもすきを見せるわけにはいかない。


「魔鎧装の力に目覚めたと言っても、所詮しょせんは氷の薄皮うすかわだ。ジャックが使用していた邪蠍装じゃかつそうを砕いたようだが、俺の海牙装かいがそう強硬きょうこう。格が違うと知れ」


「……ったく、聞いてもねぇのに比較しやがって。俺のヴァナルガンドと、おまえの鎧。どっちが上かなんて関係ねぇよ。戦いの結果は、性能だけで決まるもんじゃねぇってことを、教えてやる」


 白華を構え直し、エースの次の動きにそなえる。


 エースの魔装具……海牙装って言ったか。


 正直、鎧を装着した奴の覇気は、同じく鎧を使っていた柘榴とも比べ物にならない。


 思えば、柘榴はジャックが使うはずだったものを借りて使っていただけだ。


 ポーカーズの鎧を、その正当な所有者が使った上で発揮する力。


 それを甘く見ていたら、ヴァナルガンドの鎧を貫き、あの三又の槍で串刺しにされるかもしれない。


 自分の鎧の力を過信するな。


 ヴァナルガンドを装着していれば、絶対に勝てるわけじゃない。


『そうだ。勝ちたいなら、俺様の力だけに頼るんじゃねぇ。おまえの魂の牙を、研ぎ澄ませろ‼』


 内なる狼の声に呼応するように、力が徐々にき上がってくる。


 力に飲まれるな、心で制御しろ。


「カオス……おまえの血で、このトライデントの刃を染めてやる‼」


 奴はトライデントを引いて力を溜め、刃先に巨大な渦を発生させては螺旋状の水圧の刃を形成して突き出した


「ブラスター・オーシャン‼」


 遠方から接近する渦の刃に、白華を両手で持って防御の構えを取る。


 しかし、水圧に圧されて足場を崩され、後ろに吹き飛ばされながら前進に斬撃を受ける。


「ぐぁああああああああああああああ‼‼‼」


 渦が消え、床に仰向けで倒れては身体に力が入らない。


 ヴァナルガンドの鎧も、ボロボロになってしまい修復に時間がかかっている。


「鎧と完全に適合した者が、その魔装をまとった時、その固有の技を解放することができる。借り物の邪蠍装の力を、クイーンの駒が解放できるはずがなかったのだ。おまえは今、真の意味で魔装具と対峙しているのだ」


「はぁ…はぁ…魔装具の力で、俺を追いつめてる……そう、思ってんのか?口数が前よりも多くなってるぜ?テンションがハイになってるのは、調子が良い時か、不安な気持ちを誤魔化そうとしている表れだ。おまえはどっちだろうな」


「おまえとかたらうつもりはない。さっさと死ね!」


 エースは足を前に踏み出そうとするが、その動作を静止する。


 そして、俺の顔に影が刺しては上を見る。


『椿いいぃ……殺すぅうう…‼』


 戸木が起き上がっており、身体を見れば俺が付けた傷が再生しているのがわかる。


 エースに気を取られ過ぎたか。


 あの黒い卵には、再生力もあったようだ。


『ふんぬぁああああ‼』


 奴は拳を握り、それを頭部に叩きつけられる前に右手をついて身体をじらせると共に起き上がる。


「隙を見せたな、カオス」


 しかし、エースが背後に回ってきては後ろからトライデントを突き刺しては左脇腹をえぐってくる。


「んがぁあ‼」


 再生が追いついていない部分を突かれ、傷口から血があふれ出てくる。


 白華を後ろになぎ払って牽制けんせいし、後ずさりながら壁に背中を預ける。


 前方には、敵が2人。


 獣に成り果てた戸木と海牙装をまとったエース。


 互いの存在などどうでも良いというように、共通の標的である俺に殺意を向けて近づいてくる。


 どうする……どうすれば良い?


 正直、想定外の展開にマスクの下で動揺している。


『あきらめろ。向こうの方がパワーは強い。おまえの剣で勝つのは無理だ』


 ヴァナルガンドが語り掛けてくる。


 無理って言っても、やるしかねぇんだよ。


 おまえ、俺が死んだら自分も消えるって言ったよな。


 ここで死にたくねぇなら、おまえも打開策を考えろよ‼


 5秒経過する間に、ヴァナルガンドと口論になる。


『何を命令してやがる。この状況は、おまえの甘さが招いた結果だろうが。偉そうにしてんじゃねぇぞ』


 そんなことを気にしてる場合かよ!?まさか、おまえ、本当に勝つことを諦めてるわけじゃねぇだろうな!?


『誰が諦めたなんて言った!?ちゃんと俺様の言葉を聞きやがれ‼俺様は、《《剣》》で勝つのは無理だって言ったんだよぉ‼』


 剣で勝つのは…無理?


『狩りを成功させたいなら、状況に飲まれずに獲物を分析するんだな。あの2匹は、体感してわかるがパワータイプだ。おまえの剣の腕に合わせた、このバランスタイプじゃ相手にならねぇんだよ』


 おいおい、ちょっと待て?バランスタイプ?何の話してんだ!?


『俺様の力のタイプを変える。そのための供物くもつは、既に得ている。あとは、おまえが耐えられるかどうかだ』


 その言葉と同時に、頭の中に情報が流れ込んでくる。


 これは…記憶?


 ー----


 竜人の姿をした戦士が、巨漢の男と拳を合わせて衝突している。


 その戦士の感情が、痛いほどに伝わってくる。


 悲劇に対する怒り、愛する者を守るという覚悟。


 彼は痛みを抱えながらも、両手に拳を握って力を込める。


 そして、目の前の絶望を振り払うように強烈な一撃を叩き込んだ。


『俺は……俺の家族を守るために、戦う‼自分が何者かなんて、関係ねぇ‼おまえが彼女を苦しめるなら、ぶん殴って止めるだけだぁ‼』


 殴られる痛み、内側からの引き裂かれるような痛みを受けながら、戦士を戦い続けた。


 その戦士の背後で、金色こんじきの髪をした女性は涙を流して戦いを見ていた。


 ー----


 この記憶は……さっきの声は、東吾さん…?


 だったら、これは東吾さんの戦いの記憶。


 今の記憶が確かなら、あの人も鎧の力を…!?


 意識が戦いから逸れそうになる中で、装着していたスマホから音声が流れる。


『データ、ダウンロード……完了。紅狼鎧ヴァナルガンドの能力を一部解放。【モード・ヴァナルガンド】に追加して、【モード・ガルム】が使用可能になりました』


「モード…ガルム…?」


 また、新しい力かよ。


 さっきの東吾さんの記憶から、タイミングが良過ぎる。


『今はこの狩りの状況を変えることだけを考えろ‼小僧、今解放された力を使うんか、使わねぇのか!?自分で決めろ‼』


「使うに決まってんだろ‼」


 一か八か、賭けることには慣れている。


 白華を鞘に納め、スマホに表示された【モード・ガルム】をタップして再度抜刀する。


 すると、斬撃が黄色いオーラの狼となり、俺の周りを駆けまわっては足場に円状の輪が展開される。


『『ワォオオオオオオオ‼』』


 紅の狼と黄色の狼が共鳴し、輪から光が放たれては身体を包み込む。


 両腕と両足の籠手と具足が黄色に変化しては強硬になり、体格が一回り大きくなっては筋肉質な形状になる。


「何だ、その姿は…‼」


 エースは俺の変化に戸惑い、足を止めて警戒する。


「魔鎧装の形状が、適合者の素質に合わせて変化するのは知っている。しかし、それはより使用者の戦闘スタイルに合わせるための変化だ。おまえの鎧の変化は……どうなっている!?」


 確かに、俺はパワー系の戦闘スタイルはしていない。


 しかし、この見た目はどう見てもパワータイプの形状だ。


 刀の使い手に合わせた騎士のような出で立ちから、拳闘士のように鎧が変わった。


 そして、このスタイルでの戦い方が頭に流れ込んでくる。


 刀を鞘に納め、両手に拳を握って構える。


「2人まとめてかかって来いよ、1ラウンドで終わらせてやる」


「1ラウンド…3分だと…?ふざけるなー‼」


 状況の変化で冷静さをき、エースがトライデントを右手で構えて突っ込んでくる。


「見てくれが変わったところで、我がトライデントに串刺くさざしになる運命は変わらん‼」


 突き出された槍の先には渦が展開され、先程の技をもう1度繰り出してくる。


「ブラスト・オーシャン‼」


 渦が迫ってくる中で、左拳に力を込めてエネルギーを集中させ、狼の顎が後ろから拳を飲み込むように浮かび上がって形成される。


 そして、左手を突き出して放つ。


「ハウリング・インパクトォー‼」


 狼の顎から、咆哮と共に衝撃波が放たれては渦を相殺する。


 技のぶつかり合いが収まる中で、戸木が両手に爪を立てて突っ込んでくる。


「つぅばぁきぃいいいいいい‼‼‼」


 左手の形状を戻し、奴の両手首を掴んで動きを止める。


 そして、額をぶつけ合い、戸木の目を見る。


「おまえが俺に恨みや怒りをぶつけるのは勝手だ‼だけどなぁ、それが他の誰かを邪魔して良い理由にはならねぇんだよ‼これは、おまえが弱い自分を受け入れた結果だ。俺たちは、おまえの弱さを乗り越えて、次に進む‼」


 足を前に進めて押し返し、そのまま背負い投げで床に沈める。


「んがふぁああああああ‼‼」


 背中を打って伸びている戸木を見下ろしたまま、左拳を後ろに振るえば、裏拳がエースの顔面にヒットする。


「ぐぁぶっ‼」


「やっぱ、おまえ、前も言ったけどジャックよりも弱いぜ。動きが単調すぎて、話にならねぇよ。全然学習してねぇな」


 もろに拳を受けて後ろに倒れるエース。


 すぐにトライデントをつえにして立ち上がるが、自立はできていない。


「こんなことはぁ…ありえない‼魔装具を着けた俺が、カオスに…負けるなど‼あっては、ならない‼俺はぁ…キングの仇をぉおおお‼」


 逆恨みの殺意を向けながらも、実力差は変わらない。


 数々の戦いで成長していく俺と、1度の負けを経験しても変わらないエース。


 ここにも、変わる者とそうでない者の差が生まれている。


 それでも、実力の差があろうが容赦はしない。


 ここで、1つの復讐を完遂する。


「エース、覚悟しろ…‼」


 両手の拳に力を籠め、黄色のエネルギーをまとう。


 そして、棒立ちの奴の頭を掴み、腹部に拳を叩き込んだ。


「んぐふっ‼」


 鎧越しでも、拳の衝撃は伝わっている。


 何度も、何度もエースを殴る。


「がはっ‼ぶぇぐっ‼あがっ‼べぁあ‼」


 最後に下から抉るように顎に向かって拳を振り上げ、そのまま宙を舞って倒れる。


 モードをガルムからヴァナルガンドに戻し、白華を抜刀して向ける。


「おまえたちに、叩き込んでやる。罪を裁く、復讐の刃をな‼」


 脳が揺れたのか、頭を押さえながらふらついた足で立ち上がろうとするエースに刃を向ける。


 奴は下から、マスク越しにうらめしな目を向けてくる。


「カオスぅううう‼――――っ!?」


 しかし、その反応は次の瞬間に別のものに変わる。


 俺から視線を逸らし、その後ろを見ている。


「な、何故…あなた、が……!?」


 それは信じられないものを見るような、驚愕の声。


 そして、別の声が俺の耳に届いた。


『混沌の狼の力を、少しは扱えているようだな……復讐者くん?』


 復讐者。


 俺のことをそう呼ぶ奴は、1人しかいない。


 ゆっくりと後ろを振り返り、その存在が視界に入る。


「おまえ…は…‼」


 蒼いマントに身を包んだ、冠のように5本の角が生えた純白の鎧。


 奴は屋上の入り口の上に立ち、マントを風になびかせながら俺たちを見下ろしている。


 その存在を、この学園で見たのは2度目。


 俺の姉さんを、その手にかけた仇…‼


「どのつら下げて、俺の前に現れた…‼白騎士ぃー‼」


 俺の怒りの咆哮を聞きながら、奴はマスクの下でフフっと笑った。

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