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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
弱者との内乱
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炙り出し(Sクラス)

 瑠璃side



 昼休み、同時刻。


 進藤先輩のLIVE映像が無事に終了し、私は表情には出さないけど、小さくも長い安堵の息をついた。


 周りを見れば、川並くんに対しての興味が集中する。


 彼は頭の後ろを掻きながら笑って誤魔化そうとしていたけど、それで有耶無耶うやむやにできる状況ではない。


 私がこの場でしなければならないことは2つ。


 1つは顔を出してまで協力してくれた川並くんのフォロー。


 そして、もう1つは今、現在進行形で行っている。


「川並!今の動画、何だよ!?俺、何も聞いてない‼」


「悪い悪い。だってよぉ、実際に流されるまで言っちゃいけないって言われてたからさぁ……」


 入江くんに迫られた彼が、私に助け船を求めるような視線を向けてくる。


 仕方ないわね。


 私はスマホを胸ポケットに入れ、席から離れては彼の側に立つ。


「川並くんが《《私たち》》に隠し事をしていたことに、納得していない人も居ると思うわ。けれど、この動画で私たちの不安が少しでも払拭ふっしょくされたことは事実。これから、また例のメールが届いても、気にする必要が無いとわかっただけでもプラスに考えるべきではないかしら」


 クラスの中で、様々な疑問が生まれているのは確か。


 しかし、結果として状況が好転していることは、みんな実感している。


 そして、私も皆に隠している。


 私もまた、円華くんを通じて進藤先輩に協力している。


 LIVE映像で流れた動画の編集をしたのは、私自身。


 そして、Dクラスの中で協力してくれたのは川並くんだけではない。


 私はクラスメイトが落ち付きを取り戻そうとしている中で、1人の女子生徒に視線を向ける。


 伊礼瀬奈いれい せなさん。


 彼女は視線が合うと、張りつめていた糸が緩んだように安心した笑顔を見せてくれた。


 伊礼さんの存在は、今回の騒動を終息しゅうそくさせるためには無くてはならないものだった。


 文字や言葉での影響よりも、実際に目の前で起きている事実の方が影響が大きい。


 その発想から、フェイクニュースを利用して状況をくつがえすことが決定した。


 だけど、私には映像の撮影に関する技術が無かった。


 そこで手を借りることにしたのが、カメラなどの撮影器具のあつかいに詳しい伊礼さんだ。


 彼女は私が助力を求めた時に、少しだけ不安や迷いなどのうれいを抱いていたけれど、勇気をもって協力することを承諾しょうだくしてくれた。


 伊礼さんが撮影を担当し、私が彼女のアドバイスを受けながら供に映像を編集した結果できたのが、先程の動画。


 その影響力は火を見るよりも明らかであり、今の混乱の中で1つの結論に行きつくことができた。


 自分がさらしてきた事実が、嘘にされていく。


 今まで自分のやってきたことが、無にすことになるかもしれない。


 そう言う思考が働いたのだろう。


 みんなが川並くんに視線を向ける中で、1人の人物が違うものを見ていた。


 大事そうに両手で持っていた、携帯電話。


 彼は精神力が強いわけではないのか、徐々に腰を丸くしては肩を震わせていた。


 その態度だけで、内通者であると判断するのは早計かもしれない。


 だけど、行動から審議にかける必要を感じた。


 その人物の名は―――――戸木慎吾とき しんご


 特にクラスに対して貢献こうけんしたイメージは無く、能力としては平均にも届いていないと記憶している。


 それでも、1つだけ彼が内通者だった場合に問題が浮上する。


 私に届いた、円華くんの秘密を添付てんぷしたメール。


 あのデータを持っている内通者が、本当に彼ならば、上手に場を動かさなければ二次被害が起こる。


 このクラスの中で、円華くんに対して抱いている疑念はまだ完全にはふっしょくされていない。


 その中でも、人一倍彼に懐疑的な目を向けているのは戸木くん。


 この後の時間で、戸木くんの動きと円華くんの動きが上手く嚙み合わなかった場合。


 Dクラスは内通者を切り捨てるどころか、このクラスにとって大事な存在を失うことになるかもしれない。


 私の中で、円華くんの言っていた言葉がフラッシュバックする。


 彼がこのクラスを離れる未来もあるかもしれない。


 その望まない未来が、訪れる可能性。


 残り数十分で、昼休みが終了する。


 決断すべき時は、刻一刻こくいっこくと迫っていた。


 ー----

 紫苑side



 進藤大和のLIVE映像が終了した後、ずっと泳がせていた魚が血相を変えて行動を起こした。


 Dクラスの川並啓介かわなみ けいすけのように、このクラスでも私の命令で動画の撮影に協力させたこまが居る。


 それに対して、周りの有象無象うぞうむぞうが集まっていくが、その対応は木葉に任せ、私も早奈江を側に置いて動く。


 魚は携帯を手に持っては速足で教室を出て行き、人気ひとけのない階段の下に移動していく。


 そこで携帯を耳に当て、額から汗を流しながら誰かに電話をかけているのがわかる。


「な、何で…‼どうして、出ないの!?ちょっと、お願いだから、早くしてよぉ…‼」


「その電話は、おまえから情報を得ていた黒幕に繋がっていると考えて良さそうだな。……井塚舞いつか まい


 私が後ろから名前を呼べば、彼女はブルっと身体を震わせる。


 そして、そのまま固まっては少しずつ耳からスマホを離して下ろす。


「どう…して…?」


「何故?逆に聞かせてもらおう。どうして、私がおまえの裏切りに気づいていないと思っていた?」


 井塚は私の方に身体を向けず、その頭がフリーズしたのか「あぁ…うぅ…‼」と言葉にならない声を発している。


 つまらない。


 私の裏をかこうとし、クラス全体を混乱させた存在。


 自分が優位に立っていると思っていた内通者を、全く予想していなかった形であばくことで見られる反応に期待していたが、特に面白いことは起こらなかった。


「おい!紫苑様がお話されていると言うのに、背中を見せるなんて失礼だぞ‼」


 立ち尽くしている彼女に対して、しびれを切らした早奈江が肩を掴んでは自分の方に向かせる。


 こちらを向いた井塚の瞳からは、光が消えている。


 もはや、諦めの境地に達したような心境が、その態度から見て取れる。


「早奈江、とりあえずはそのスマホを回収しろ。それに知りたいことが在るかもしれん」


「は、はい!」


 言われてすぐにスマホを奪い取る早奈江だが、それに対しても抵抗する素振りを見せない井塚。


 ここまで覇気の抜けた彼女の様子が、逆に興味をそそられた。


 私は歩み寄り、感情を抑えて声をかける。


「混乱したことだろう、自分のしてきたことが学園側によって利用された挙句、事実が嘘として塗り替えられていく。動揺しないはずがない。だから、おまえは情報の真偽を確認するために行動を起こさざるを得なかった。裏で動いていた者については、そのスマホの履歴から分かるだろう。よって、黒幕の正体を追及するつもりは無い。しかし、おまえのその態度を見れば、1つだけ確かめなければならないことがある」


 俯いている井塚のあごを人差し指で下から触り、上に向かせて視線を合わせる。


「何故、Sクラスを……そして、私を裏切ろうと思った?おまえの実力で、この私に歯向かうことの意味が、わかっているのか?」


 井塚舞は、Sクラスには所属しているがそこまで能力が高い部類ではない。


 他の有象無象うぞうむぞうの例にれず、私が動かさなければ取るに足らない駒だと認識していた。


 それは裏を返せば、私の庇護下ひごかに居ればSクラスに残ることができる可能性はまだ残っていると言うことだ。


 しかし、彼女はそうしなかった。


 ひいでた能力があるわけではない弱者が、強者に歯向かう。


 それは何か策がなければ無謀むぼうであり、今回のような騒動がその一手なのだとしたら、やり方が幼稚ようち過ぎる。


 このような策を用意した黒幕の思考にも興味があるが、今は目の前に居る弱者の心境に対して好奇心が抑えられない。


 井塚の心の奥に潜む本性が見てたい。


 私の問いに対して、無言を貫く彼女に短く命令する。


「私が聞いている……答えろ」


 その言葉が耳に届いた時、井塚は目を下に向けながら口を開いた。


「……私は……本当は、Sクラスに居られるほど、実力があるわけじゃ…ない」


 小さな声から、少しずつ声量を上げて本心を引き出していく。


「周りの人たちは……みんな、レベルが高かった。勉強も、運動も…平均的な能力が、高かった。私だって、努力してみんなに追いつけるように、頑張った…‼なのに……2学期末の試験で、また私はクラス順位で最下位だった‼」


 努力したのにむくわれない。


 その事実が、彼女を追い込んだようだ。


「頑張っても、私のレベルじゃ追いつけない‼だったら、みんなの足を引っ張ってでも、周りのレベルを下げるしかないじゃない‼私はこれまで、ずっと頑張ってきたんだから、それぐらいの我が儘しても良いでしょ!?」


 もはや開き直り、自身の行動を正当化しようと感情を爆発させる。


 その時、初めて自分の意思で井塚は私と視線を合わせた。


 絶望に染まった目から、強者に対する憎悪の目に変化している。


 感情に比例して、その目の輝きと強さが増している。


「こいつ……何を…」


 それに対して、横から見ていた早奈江は狂気に圧されるように一歩下がる。


 しかし、私は気圧けおされるどころか――――笑ってしまった。


「フフッ、フハハハッ‼そうかそうかぁ、それがおまえの根源か。少しは面白い所があるじゃないか、舞‼」


 顎から指を離し、今度は頭を掴んでは壁に押し当てる。


「うぅっ‼」


「面白い理由ではある。自身が強者になれないのなら、周りを弱者にすれば良い。しかし、その発想は、弱者ゆえの思考だ。その時点で、おまえに強者になる器は無かったと言うことだ」


 私の手を両手で掴み、離そうとするが微動だにしない。


「うるさい‼うるさい、うるさい、うるさぁい‼私だって、強くなりたかった‼だけど、なれなかった‼頑張ったのに、強くなれないならどうすれば良かったのよ!?」


 強くなれない自身に対する悔しさが、わからないわけではない。


 今、彼女の目の前に立っているのが弱者だったのであれば、傷を舐めあうように同情で慰め合うのだろう。


 しかし、弱者に対して同情する心を、残念ながら私は持ち合わせていない。


 何故なら、私は過去に弱者であったとしても、今は強者なのだから。


「おまえはSクラスのレベルが高かったと言った。それならば、下位に落ちる選択もあったはずだ。真央が行動に移したように、1度下位に落ちて自身の力を付けるという道もあった。それをしなかった理由は、簡単に推測することができる」


 真央にそれができて、舞にはできなかった理由。


 それは至極シンプルなものだ。


「おまえは地位にこだわった。強くなろうとした?地位にしがみ付くためだけに、身のたけに合わないことを努力とは言わない。言葉を間違えるな、おまえは自分がSクラスであるという誇りを、プライドを守りたかっただけだ。自身のつまらないプライドを守るための行為を、努力なんて言葉で飾り立てるな。はなはずう々しい」


 自身の根源を崩され、舞は絶句しては壁に背中を預けて座り込む。


「どうせ、内通者の私のことなんて……退学させるんでしょ?どんな手段を使うのかは知らないけど、あなたは私をクラスから追い出す方法を考えついているから、ここに居るんじゃない?」


「・・・退学?何の話をしている?」


 ニヤッと歯を見せてみ、頭を掴む手に力が入る。


「退学なんてさせるわけがない‼私と言う狂者に反抗しようとする弱者など、斬新で面白い‼こんな楽しい奴を手放すわけがないだろ!?」


 退屈な日々を1日でも紛らわすことができるのなら、どんな者でも構わない。


 玩具は壊れるまで遊びつくすのが、私の流儀だ。


「これから、存分に楽しませてもらうぞ?改心なんてするなよ?そんな展開はつまらない。私を紛らわせるために、反抗し続けろ。今度も面白い展開を期待している」


 この言葉を聞き、舞は目を見開いては怯えた表情になる。


 私の中で、クラス内の新しい玩具が更新された。


 そのことに満足し、座り込んでいる彼女に背中を向けてその場を後にする。


「理解…できない…‼あなた……何なの…?何なのよー!?」


 内通者である自分を見つけ出しながら、退学させようともしない。


 クラスのポイントが減ることになるだろうが、そんなことはどうでもいい。


 この学園で起きていることの全ては、私の退屈を紛らわすための展開に過ぎないのだから。


 理解不能な行動に対して、井塚舞は言葉にならない叫び声を上げていた。


 教室に戻る道中で、早奈江が回収したスマホを渡してくる。


 その画面の通話履歴を見た時、目を細めて口角が上がった。


「やはり……予想通り、か」

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