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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
弱者との内乱
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情報交換

 雨水は諦めのオーラを全開にして、俺と金本を部屋に上がらせてくれた。


 部屋の構造は和泉のと変わらないが、置かれている家具などが違うだけで全然違う風に見える。


 特に違うと感じるのは、壁に置いてある4段のショーケースの中身だ。


「雨水、おまえ……こういうの好きだったんだな」


 ヒーローもののフィギュアがずらっと並んでいるのを見て、つい呟いてしまった。


 すると、彼は顔を真っ赤にしながら「放っとけ‼」と怒ってきた。


「意外と可愛い趣味してんのねぇ。ちょっと、見る目変わったかも」


 口元に手を当てながらニヤニヤとした笑みで言う金本をキッと睨みつけるが、げっそりした顔でソファーに腰を預けた。


「はあぁ~、おまえたちにこんな姿を見せることになるとは……屈辱だ」


「その屈辱を味わってでも、話したいことがあったんだろ?おまえのペースで良いから、聞かせてくれね?」


 俺と金本は対面するように並んで座り、ゆっくりで良いからと話すように促す。


 しかし、雨水としては彼女の存在が気掛かりらしい。


「俺は貴様と2人で話すために呼び出したんだが?その女は部外者だ」


「部外者って何よ?人が親切心でお見舞いに来てあげたのに」


「余計なお世話だ。嫌になったならさっさと帰れ。望まない親切の押し売りほど、迷惑なものはない」


 体調最悪な状態でも、口の悪さは変わらねぇな、こいつ。


 金本は売り言葉に買い言葉で苛立ちが顔に出て、「じゃあ、帰るわよ!」と言って部屋を出て行こうとするが、その前に俺が待ったをかけた。


「まぁ、待てよ、金本。雨水も、このままこいつを帰すのは得策じゃねぇんじゃねぇの?」


「……どういうことだ?貴様、何を考えている?」


 雨水は疑惑の目を向けてきて、金本もいぶかし気な表情で首を傾げる。


 状況は偶然成立したとしても、この3人がそろったことには確かに意味はある。


 感情に任せて視野をせばめたら、見えてくるものも見えてこない。


「お互いのクラスの状況について、情報交換しねぇか?もちろん、俺もDクラスの情報は、求められれば何でも話す。今回の特別試験についてに限定だけどな」


「唐突な提案ね……。でも、そんなの意味あるの?ぶっちゃけ、今の試験ってクラスの中での戦いでしょ?他のクラスは関係ないんじゃない?」


「そうでもねぇと思う。クラスの中に敵が居る。だからって、クラス内で内輪の揉め事を解決しなきゃいけないルールなんてねぇだろ?」


「俺たちが互いに、協力することも可能と言うことか……。しかし、互いのクラスの情報を共有することで、後々問題にならないとも限らないぞ?弱点をさらすことにもなりかねない」


「そんなことを言い出すなら、どうしておまえは俺を呼び出したんだ?クラスの中で解決できないと思ったから、俺に話を聞いてほしいって言ったんじゃねぇのかよ」


 図星を突かれたのだろう、雨水は言葉を詰まらせて目を逸らす。


「それを言ったら、私も……クラスの奴らには言えないこと、あんたに思いっきり漏らしてるわけだしね。このまま手ぶらで帰ったら、後が恐いかも」


 苦笑いを浮かべながら、席に戻ってくる金本。


 彼女のことを苦々し気に見つめている雨水に、俺はさりげなくフォローする。


「金本の人となりは、おまえだって文化祭の時にある程度は把握できたんじゃねぇの?こいつは、Eクラスの中だったら最も信頼できる。そんなに疑う必要はないと思うぜ?」


「貴様がそこまで言うか……。わかった、情報が多いに越したことは無い。それに、その女には柘榴恭史郎ほどの脅威は感じないからな。話した所でどうしようもできまい」


「はぁ?あんた、マジで蹴られたいの?」


 まぁ~た、余計なことを言って空気を悪くさせんなよ、こいつぅ。


「まぁまぁ、こいつなりに一歩いっぽ歩み寄ろうとしてるってことでさ……。じゃあ、先におまえが俺を呼んだ理由を聞かせてくれよ、雨水」


 改めて話を促せば、雨水は下を向いて表情をくもらせる。


「……お嬢様は、今の試験で退学することを選ぶかもしれない」


 絞り出すような声でそう呟く彼の辛そうな表情は、冗談で言っているようには見えなかった。


 俺は耳を疑い、眉をひそめる。


「予想外過ぎて、何て言って良いかわかんねぇんだけどさ。てっきり、Aクラスは退学者を出さない方向で話を進めると思ってたぜ」


「私も椿に同意よ。あんたの仲良しクラスが、自分たちから退学者を出そうとするなんて、にわかには信じられないんだけど。Aクラスは2学期の期末試験で大量のポイントもらったんだし、退学者を出そうとする?」


 雨水は俺たちの見解に対して、苦々しい表情を浮かべる。


 ここで、俺は金本の出した期末試験のことを思い出し、1つの事実を思い出した。


「そう言えば、今回の試験は退学免除権、適用されるのか?」


 Aクラスが、2学期末試験を利用した脱落戦の勝者となって手に入れた『退学免除権』。


 クラス全員に与えられたそれを利用すれば、退学者を出さずにポイントを守ることができるかもしれない。


「俺たちのクラスには、どこのクラスにもない特別ルールが付与ふよされたんだ。内通者を見つけ出し、退学免除権を使用した上で退学を選んだ場合、ルール上のポイントが与えられる。だが、免除権は使用するかどうかを選択することができる。使用せずに退学させた場合、その10倍の追加分をポイントとして与えられる」


 どっちにしろ、切り捨てる選択肢があるのは変わらねぇってことか。


「金本蘭、貴様が言った通り、俺たちは2学期の脱落戦に勝利した。いや、勝利してしまったと言うべきか……。この試験は、タイミングが悪すぎた。Aクラスは、中途半端な実力でSクラスに大きく近づいてしまったんだ」


 雨水は話してくれた、Aクラス内で起きた不穏な動きについて。


 それは彼が冬休みに危惧きぐしていた、大きな流れの変わり目だった。



 ー----

 蓮side



 時間は、特別試験発表後のホームルームまでさかのぼる。


 他のクラスと同じように、教室の中には暗い空気が流れていた。


 だが、他とは違い条件が1つ増えているだけに、少しは余裕をもって考えることができると思っていた。


 1人のクラスメイトが口を開くまでは。


「内通者……やっぱり、追い出さなきゃダメ、だよね?」


 俯いた姿勢で、重々しい口調でそう言うのは宮野祈里みやの いのり


 クラスの中でも、比較的に物事をネガティブに捉えやすい女だと認識している。


「それは、本当に居るかはわからないだろ?このクラスに、みんなを裏切るような人間が居るわけがない」


「じゃあ、何であんなルールになってるの!?クラスの中に裏切ってる人が居るって、学校は分かってるってことでしょ!?」


 彼女の隣の席に居る奈倉文雄なくら ふみおなだめようとするが、火に油を注ぐだけだった。


「祈里ちゃん、落ち着いて。不安な気持ちもわかるけど、悲観的に考えたら良くないよ。時間はまだあるんだし、すぐに答えを出さなくても良いんじゃないかな?」


 要お嬢様が宮野に歩み寄るが、彼女は「来ないで!」と言って怯えた顔を向ける。


「1週間なんてすぐじゃない‼それまでに、誰かを退学にしなきゃいけないなんて……正気でいられるわけがないでしょ!?」


 頭を押さえて震えているクラスメイトの姿に、教室全体が1つの考えに襲われる。


 退学させなければならない。


 その言葉は、彼女の中でポイントを切り捨てるという選択が無いことを示唆している。


「あのね、祈里ちゃん。例えこの中に内通者が居たとしても、別に退学にする必要は無いと私は思うんだ?だって、これまでクラスで一緒に戦ってきた仲間だもん」


 お嬢様の意見に対して、宮野は目を見開いては空虚に見つめる。


「退学に、しないでいい…?私たちを、裏切ったのに…?ねぇ、和泉さん……お人好しも大概にしてよ‼」


 大声をあげられるが、お嬢様は毅然きぜんとした態度を崩さない。


 しかし、俺にはわかる。


 彼女は驚愕で手を震わせていた。


「私たちが裏切った人を残すために、これまで頑張ったことを無駄にするつもり!?退学者を出さないってことは、ポイントが減るの!またSクラスとの差が開くってことなんだよ!?」


 皆、どこのクラスもSクラスを目指してこれまで切磋琢磨せっさたくましてきた。


 その成果とも言える能力点を失うのは、大きなダメージになる。


 それをお嬢様も気づいていないわけじゃない。


「で、でもさ、退学したら……死ぬんだろ?この学校のルール、わかってるよな?宮野、おまえはこのクラスの誰かに死ねって言ってるのと同じじゃないか‼」


「宮野さんに、その誰かを殺す覚悟はあるの?」


 小山内おさない塚田つかだが問い詰めるように聞けば、宮野は言葉が詰まる。


 これはただ、退学者を選別するだけじゃない。


 死者を選別する試験だ。


 それを選ぶとことは、人の死とは無縁で生きてきた人間には多大な重みとなる。


「じゃあ、この先、私たちを裏切ってる誰かが、また裏切らないって言いきれるの!?最悪の場合、殺されるかもしれないよ!?裏切り者はそのまま、今まで頑張ってきたポイントも無くなる‼そんなの、私は嫌ぁ‼」


 恐怖から来る錯乱状態。


 なまじ望みに近づいたからこそ、その一縷いちるの光にしがみ付こうとする。


 その恐怖は教室の中に広がっていく。


 しかし、この状態を止められる存在は―――このクラスには居ない。


 その原因を、俺はもうわかっている。


「確かに、誰かを切り捨てなきゃいけないのかも……しれない、ね」


 お嬢様が、辛そうな表情でそう呟く。


 裏切り者なんて居ない。そう信じたい。


 しかし、それをかき消すほどの恐怖がある。


 掴みかけた希望を、手放す勇気を誰もが持っているわけじゃない。


「それなら…もしも、誰かを切り捨てなきゃいけない事態になったなら……」


 やめろ……やめてくれ…。


 違うんだ、あなたは……おまえは、何もわかってない…‼


 俺にはわかる、彼女が今から何を言おうとしているのかが。


 だけど、そんな言葉は誰も望んでいないんだ…‼


「退学するのは、私じゃダメ…かな?」


 悲し気に、無理をして笑顔でそう口に出した。


 その時、クラスの中に広がった恐怖が一時的に収まったのを肌で感じた。


 だけど、それは褒められるようなやり方じゃなかった。



 ー----

 円華side



「自己犠牲。それが、和泉の選んだ答えなんだな」


 雨水は辛そうな表情で、全てを話してくれた。


 俺の言葉に、彼はうつむいたまま頷く。


 金本は終始言葉を挟まずに聞き、かけるべき言葉が見つかっていないようだ。


「おまえは、彼女のその決断を受け入れたのか?」


「受け入れられるわけがないだろ‼」


 大声を上げ、テーブルに拳を叩きつけながら怒鳴どなる。


「しかし、俺にはどうすることもできない…‼俺はあの方の執事だ。例え受け入れることができなくても、主の願いを叶えることが俺の役目なんだ。でも…‼」


 雨水は俺に情けない顔を向け、歯を食いしばっている。


「貴様なら……お嬢様を、変えてくれるかもしれないと…思って、しまった…‼椿…円華…どうか、お嬢様を―――」


「るっせぇよ」


 奴の言葉をさえぎり、胸倉を掴んでは背もたれに身体を押し付ける。


「っ!?」


「ちょっと、椿!?」


 金本が止めようと、俺の肩に手を伸ばしかけたが、怒り混じりの冷徹な目を向けて行動を止める。


 そして、その目を次は情けねぇ執事(もど)きに向ける。


「話したいことって、こんなバカげたことだったのかよ?おまえ、何を甘ったれてんだ?」


「甘ったれっ…‼貴様ぁ‼」


 胸倉を掴む俺の右手に、雨水は包帯を巻いている左手で掴んでくる。


 だけど、弱っている非力な手では離すことができない。


「俺がおまえの頼みを聞いて、和泉を助けられるなんて誰が決めた?ふざけんじゃねぇぞ。おまえにできなくて、誰があいつを助けられるってんだ!?ここで全部俺に丸投げして、なまけようとしてんじゃねぇぞ‼」


 彼は俺の言葉に、目を見開いて肩を震わせる。


 そして、掴んでいる手を離しては力が抜ける。


「……俺に、できることなんて―――」


「無いと思うなら、視野を広げて可能性を探れ。そのための協力なら、くさえんのよしみでやってやらねぇことはねぇ。でも、和泉を助けられるとすれば、軸はおまえだ、俺じゃない」


 こういう時、アニメとかマンガの主人公なら、2つ返事で『俺に任せろ』って感じのことを言えるのかもしれない。


 だけど、俺には無理だ。


 助けてくれと言われた所で、何でも解決できると思うほど傲慢ごうまんじゃない。


 誰かを助けることを求めてくるなら、その誰かを助けたいと強く思っているのはそいつのはずだ。


 だからこそ、俺はその主体にはなれない。


 できるとすれば、そいつが誰かを助ける手伝いだけだ。


「貴様は……酷なことを言うんだな。自分の無力さと向き合った上で、貴様を頼るッという苦渋の決断をしたと言うのに……」


「そいつは悪かったぜ。怠け者を甘やかすのを、優しさだなんて教わって来なかったからな」


 俺たちの対話を後ろから見て、金本は腕を組んでは溜め息をつく。


「あんたたち、協力するって言ってもどうするつもりよ?和泉さんの意識を変えるにしても、何をどうすれば良いのかわかってるの?」


「それを今から考えるんだ。……まずは、どんな結末を迎えるにしても内通者を見つけ出さないことには始まらねぇ。さっきの話を聞いてる限り、見えない内通者がそれぞれのクラスの恐怖を増長させているのは確かだ。明日も、例のメールは届くだろうし、またクラスが荒れなきゃ良いんだけどさ…」


 全ての根本は内通者の存在。


 それをどうにかしなきゃ、この試験が終わった後も不協和音は残ったままだ。


 メールのことを口に出せば、金本が頭をかきながら投げやりな感じで呟く。


「あの噂、本当にムカつくわよね。有ること無いこと、ばらかれて……。もういっそ、全部嘘でーす!ってことになったら、少しは不安も晴れるのに」


「バカか。そんなことができたら、ここまで騒動は長引いていない」


「確かになぁ。そんな簡単な手段があるわけ……。待てよ?」


 一瞬、俺も雨水と同じく彼女の短絡的な思考に呆れそうになった。


 だけど、今の一言に全てを解決する糸口が見えた気がした。


 スマホを取り出し、今までに見たメールの内容を確認する。


 情報の信頼性……それを覆す、あるいはかき乱す方法。


 それがあれば、モグラは事態の変化を察して穴から出てくるかもしれない。


 そして、そのための手段に必要な物の手がかりは、俺のスマホの中にあった。

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