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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
弱者との内乱
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女帝の予言

 紫苑side



 新学期が始まってからというもの、中々面白いことが起きている。


 この一週間で起きている、クラスの混乱を狙うような様々な個人情報の流出。


 それは私の庭でも起きており、疑心の目は至る所から絶えず、他人から他人に向けられている。


 私とて、その例外ではない。


 毎日毎日、決まった時間にメールが届く。


 しかし、それに対してクラスの中で揺さぶりをかける者は、()()()()()現れることはなかった。


 このことに関しては、期待外れだ。


 中途半端な火種ほど、不快なものではない。


 私の庭を荒そうとするのであれば、もっと気概きがいを見せてほしいものだ。


 しかし、今は思う存分遊ばせておこう。


 もっとデカい獲物を釣るために。


「紫苑様、そろそろ下校のお時間です」


 木葉このはの報告を聞き、組んでいた腕を離し、閉じた目を開く。


 いつもと変わらない退屈な終礼に対して、いつものように自分の世界に入ってしまったらしい。


 彼女に声をかけられなければ、このまま夜を迎えていたかもしれない。


 私の悪い癖だな。


 「わかった」と返事をして席から立ち、手ぶらで教室を出る。


 木葉は後ろから付きい、語り掛けてくる。


「今日の分のデータ収集の結果は、今お聞きになりますか?」


「頼む」


 短めな返事をすれば、彼女は胸ポケットからメモ帳を取り出して開く。


「Aクラスに変わりはありませんでした。しかし、和泉要と雨水蓮の両名の間にみぞができているようです。平穏を装っているように見せて、その内部の分裂は徐々に始まっているものと思われます」


「要も大変だな。次は?」


「Bクラスは幸崎ウィルヘルムが孤立している今、新しい統率者も未だ現れていません。しかし、それでも静かなのが少し不気味ですが」


「我々が把握していないだけで、既にウィルヘルムの代わりができているのかもしれんな。しかし、あのクラスは最初から、他人に対して無関心なやからが多い。そこまで気にしなくても差し支えないかもしれんな」


「では、次はCクラスについてですが―――」


「あのクラスのことは良い。大方は予想通りだということは、聞かなくてもわかる」


 Cクラスというワードで脳裏に浮かぶのは、木島江利の微笑み。


 血の気が多いあのクラスも、目だった騒動は起きていない。


 あの女が、自分の庭で騒動が起きることを良しとしないことから、何かしらの対策を講じた可能性も考えられるが……。


「紫苑様」


 木葉が低い声で名前を呼び、私の横に並び立つ。


 花園館を出てすぐの花壇かだんの前に、タイミングよく話題の女が居た。


「花をでるとは、おまえも乙女のような趣味があったのだな、江利えり


 木葉が止めようとする前に、私は前に出て江利に歩み寄る。


 名前を呼べば、彼女は私にその微笑みを向ける。


「ごきげんよう、鈴城さん。確かにお花を見るのは好きですが、今日の目的はそれではありません。あなたを待っていました」


 目的は私?


 それに対して、警戒心を好奇心が上回った。


「私に用件ということは、退屈しない話なんだろうな?」


「ええ、女帝と呼ばれる方に無駄な時間を取らせるわけにはいきませんから」


 笑みを浮かべたまま、皮肉めいたことを言ってくれる。


 江利は木葉の方にチラッと視線を向ける。


「お付きの方は、席を外していただけると助かるのですが?」


「話の内容による」


 すぐには了承せず、用件の内容を聞き出す。


「用件は、最近1年生の間を騒がせている噂の件についてです。あなたとなら、充実した意見交換をできると考えて、ここに来たのですよ」


 それを本心で言っているのか、それとも何かの策略の一環なのか。


 できれば、後者である方が良いのだが。


 木葉の方に手を軽く前後に振れば、彼女は納得していない顔を浮かべながらも渋々と下がった。


「場所を変えるか?立ち話をするのなら、私もギャラリーは皆無の方が良い」


 そう言って花壇の近くにある並木道に視線を向ければ、複数の視線が私から散った。


 私が木葉を同行させていたように、江利も複数のこまを付けていたようだ。


 同意しなければ、ここで要らない騒動が起きていたことだろう。


 それこそ、時間の無駄だ。


「構いませんよ?彼らは善意で私に同行したいと言っていた方々ですが、あなたの提案を断る理由はありません」


 あくまでも、自分の指示じゃないと言いたいようだ。


 見え透いた嘘を、息を吐くように言う。


 それも一種の才能か。


「では、私の行きつけのレストランなどいかがでしょうか?とてもおいしいビーフシチューがいただけるんです」


「それは楽しみだ。頭の使い過ぎで、少々空腹を感じていた所でな。実に調度良い」


 江利の案内で、2人でレストランに向かう。


 無論、私としては、その場所で面白い展開になることを心の底から願っている。



 ー----



 レストランは江利にとって、本当に行きつけだったようだ。


 扉を開けた瞬間に、彼女が笑顔を向けただけでウェイターが「いつもの席ですね」と奥の2席に通してくた。


 机を挟んで座り、おひやを出される。


 江利がビーフシチューを2人分頼んだ所で、話を切り出す。


「新学期が始まってからというもの、1年生全体が目に見えない脅威を感じています。柘榴くんが居ない間も、問題は絶えないようですね。私たちの学年は、本当に面白いですね」


 薄ら笑みでそんなことを呟く彼女だが、私は頬杖をついて露骨に小さく溜め息をつく。


「本当に、この程度で面白いと思っているのか?」


「……と、おっしゃいますと?」


 聞き返してくる時、一瞬だけ不穏なオーラを感じる。


「予言しよう。この程度の騒ぎは、残り2週間もしない内に終息しゅうそくする」


「それは、どういう意味での終息でしょうか?」


「この一件の()()()。その者が立てたシナリオ通りの終息ならば、それは複数のクラスが内部分裂によって崩壊すること。そうすれば、クラスが上がることも容易く、下から追われる危険性も下がる。しかし、その思惑は果たされることはない。確実に」


「それはまた、随分と自信満々におっしゃるんですね。あなたが行動を起こされるのならば、そうかもしれませんが」


「おまえの予想を裏切るようで申し訳ないが、私が主体的に動く予定は今のところないのだ」


 お冷を一口飲んで喉をうるおし、言葉を区切る。


「来週の内に、学園が緊急で特別試験を出してくるだろう。それが終息の序曲だ」


「特別試験を?それは興味深い考察ですね」


 もっと私の意見を聞きだしたいと思っているようだが、その頬から薄っすらと汗がにじみ出ている。


 不審感を帯びた目の理由は察しがつくが、えて今は無視しよう。


「1年全体を巻き込み、ほとんどのクラスが疑心暗鬼におちいるこの騒動を、学園側が利用しないと思うか?」


 2学期末のことを思い返せば、生徒の心境などお構いなしに仕掛けてきてもおかしくはない。


 イイヤツの思考が、私の推測通りならば、必ずこの状況を利用した余興を用意するに違いない。


 そして、目的のために人の負の感情を増幅させようとする。


 私の考えを聞き、江利は人差し指をあごに当てる。


「確かに、興味深い考察ですね。では、その特別試験の内容は、とても性質の悪いものになりそうですね。クラスメイトの信頼を試されるものとか……でしょうか」


「想像をしたら切りがない。しかし、何かが来ることははっきりしている。おまえの言う通り、性質の悪いゲームを今も現在進行形で考えていることだろうな」


「流石は鈴城さんですね。学園側の意向を先読みするだなんて。私では、そんな発想は生まれませんでした」


 とても愉快そうな笑みを浮かべている江利。


 それが私にとっては不愉快だった。


 しかし、様子見をするには、えさはこの程度で良いだろう。


 話が一区切りついた所で、ビーフシチューがテーブルに配膳はいぜんされる。


 私はそれをテーブルマナーを気にせずに皿を片手に持ち、そのまま口を付け一気飲みしてたいらげる。


「ゴクゴクゴクっ、ふぅ~~~」


 皿を机の上に置き、手の甲で口元をぬぐう。


「残念ながら、この店のものは私の口には合わないようだ。江利、おまえは1度病院に言った方が良い。睡眠薬入りのお冷に痺れ薬入りのシチュー。私でなければ、倒れていてもおかしくなかったぞ?」


「っ…‼」


 席を立ち、不敵な笑みで見下ろしてやる。


「もしかしたら、今度のメールの内容はこうかもしれないな。『1年Cクラスの木島江利は、毒入りの料理を食べる趣味がある』と。あまり、変なことはしない方が良い。どこで誰が見ているか、わからないからな」


 私からの優しい忠告を聞き、江利は何も言い返さずに下から鋭い目で睨みつけてくる。


「今度は常人でも楽しめるレストランに案内してほしいものだ。次は期待している」


 私はウェイターに代金を渡し、そのまま店を後にした。



 ー----

 ???side



 ジョーカーさんが入室しました。

 クイーンさんが入室しました。

 エースさんが入室しました。


ジョーカー「今期になってから、1年生が騒がしい。これもかの者の仕業だろうか?」


クイーン「そうでしょうね。私たちに無断で、学園を荒さないで欲しいものだわ」


ジョーカー「しかし、我々にはどうしようもない。善良な1年生の諸君には申し訳ないが、かの者の余興に付き合っていただこうか」


エース「しかし、いつまでも遊ばせるわけにはいかない。近いうちに、ゲームマスターが動くことは間違いない」


 イイヤツさんが入室しました。


イイヤツ「やぁやぁやぁ、僕の話をしてくれていたのかい?嬉しいねぇ」


ジョーカー「これはこれは、ゲームマスター殿がこのような集まりに来てくださるとは、今日はどう言ったご用件で?」


イイヤツ「どう言った用件?そうだね、君たちの話題になっていることについて、少し提案したいと思ったのさ」


クイーン「提案?あなたが私たちポーカーズに口出しをするなんて、本当に珍しいですわね。いつもは放任主義で任せてくれますのに」


イイヤツ「僕も最初はそのつもりだったんだけど、上からの命令だと仕方が無いよ。君たちに迷惑をかけることはない……いや、我々の目的のためには、近道となる修正だ」


エース「修正?一体、上は何をしようとしている?」


イイヤツ「今の1年生の混乱した状況に対して、特別試験デスゲームを仕掛けることになったよ。それも、醜い人間の本性が現れる、楽しいゲームさ♪」


 イイヤツはデスゲームの内容を話し、それに対してポーカーズ3人は画面の前で絶句した。


ジョーカー「……であるか。全く、あの者はまさか、こうなることを予期していたのかもしれぬな」


クイーン「だけど、それなら確実にカオスの坊やをほうむり去ることができるわ。クラスメイトの手で消されるなら、あの子も本望でしょうね」


イイヤツ「反対意見は無いようなので、このまま計画を進めさせてもらうよ。後の事は、後日改めて。エースくんも良いね?」


エース「……承知した」


 その後、ポーカーズとイイヤツは解散する。


 そして、俺はチャットを終了して壁を強く叩く。


「キングを消したあの男……殺すのは俺だ。他の誰にもやらせない…‼」


 何がデスゲームだ、くだらない。


 今すぐにでも、カオスをぶっ殺してやりたい。


 だけど、そうしようとすれば、ジョーカーが止める。


 あの男は最近、カオスに対して消極的だ。


 追い詰めることを躊躇ためらっている。


 それが増々気に入らない…‼


「俺がやる……俺がぁ…‼」


 壁に立てかけているトライデントを手に取り、強く握り締める。


 こうなったら、そのデスゲームとやらを利用してやる。


 その内容からするに、カオスのクラスを監視していれば隙は必ず生まれるはずだ。


 その時……今度こそ、カオスを……討つ…‼

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