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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
弱者との内乱
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血筋の証明

 頭の中に響いた声、これがスサノオの意識なのか。


 俺のことを、狩原浩紀の息子なのかを問いかけてきた。


 実際、それが事実であることを証明する方法は無い。


 父親と関わったことは1度も無い。


 母さんの話を通じて、何となく知っているだけの存在だ。


 そして、俺はその人と同じ《《眼》》を持っている。


 それが俺と狩原浩紀を結ぶ、いびつなつながりだ。


 両目に意識を集中させ、意図的に力を解放する。


「本当に、俺があの人の息子なのか、どうか……今から、確かめろ…‼」


 俺が聞いた父親の話。


 それは、あの人は言葉ではなく、その振る舞い方で周りに影響を与える存在だったと言うこと。


 その力を身近で感じ取ってきたのは、この魔鎧装も同じはずだ。


 だったら、俺も同じやり方で、自分の存在を証明するだけだ。


『良いだろう。その力……我に見せてみるがいいぃ‼』


 短剣から、身体に力が流れ込んでくる。


 全身が心臓になっているかのように、鼓動の衝撃が身体中に広がっていく。


「あぁぁ……うるぁああああああ‼‼」


 キュウビの時とは違う。


 伝わってくるのは、殺意の衝動じゃない。


 荒ぶる神の名の通り、力と共に流れてくるその意思は強暴きょうぼう


 だけど、飲み込まれるほどじゃない。


 これなら……使える…‼


 衝動と共に、頭の中に力を解放するためのコードが流れてきた。


 短剣を鞘に戻し、その言葉を口にすると共に抜刀する。


「暴れろ……スサノオォ‼」


 その鞘から黒いオーラが溢れ出ては自分の身体をおおっていき、鞘に彫られた8つの蛇が実体化して巻き付いてくる。


 巻き付いた部位から外装が広がっていき、俺の全身に装着されていく。


 そして、右手に持っていた短剣が太刀に変化し、内側からオーラを切り払う。


 俺の姿を見て、ディアスランガは『ひゅ~う』と口笛を吹いてはパンパンパンっと手を叩く。


『すげぇ~な、おい。一発で成功かよ?流石に相性は良いみたいだなぁ』


 水面に映る自分の姿は、前に奴が装着していた時と同じ鎧のものだった。


「成功…したのか。これが、魔鎧装…」


 あれだけ欲しかった力を、俺は手に入れた。


 だけど、この感覚は何だ…?


 みょうに……気持ちがたかぶってくる。


「余裕ぶってんなよ……ディアスランガ‼」


 太刀を握る手に力を込め、右足で足場をれば接近して上段から振りろす。


 それを奴は骨剣で受け止めるが、さっきとは違う。


 装着する前は重く感じていた骨剣を、スサノオの太刀が押している。


『ニヒヒッ、借り物の力はどうだよ?おまえに使いこなせるかねぇ~』


「うるさい‼」


 スサノオの戦い方は、この前の戦いで大体理解している。


 そして、変身している最中に動かし方が頭に流れてきた。


 今の俺に、どれだけ使えるのかはわからない。


 しかし、やらないと俺の存在を証明できない。


 蛇8匹の内の1匹を動かし、太刀に巻き付ける。


 その蛇は赤く、ディアスランガに刃を向ければ炎を吐き出す。


 迫る炎を骨剣で防がれるが、奴は足を引きずりながら後ろに押され始める。


『やっぱ、相手にすると厄介だな……こいつ。それでも、ちと火力が足りねぇなぁ‼』


 剣を勢いよく振るわれれば、火炎が風圧で消える。


 火炎放射も長時間できるわけじゃないのか。


『さぁさぁ、次はこっちのターンだぜぇ‼』


 骨剣を縦横無尽に振るいながら近づくディアスランガ。


 防御できる属性の蛇を……いや、ここはフィールドを活用する。


 足元に向かって刃を向け、火の蛇にもう1度炎を吐かせた。


 火と水は相反するもの。


 接触した瞬間に、水蒸気が発生して視界を曇らせる。


 それを関係ないとでも言うように、ディアスランガは水蒸気の霧に突っ込んでは俺に斬りかかる。


 しかし、奴が斬ったのは、俺とは別の物。


 隙を見て打ち上げた、水のスクリーン。


 骨剣を横に薙ぎ払った時には、俺は既に背後に回っていた。


 取った…‼


 中段構えから太刀を振り下ろせば、ディアスランガは振り返るが反応が遅れる。


『ぐふっ…‼』


 もろに斜めに斬撃を受け、傷を押さえながら後ろに下がる。


 そこで動きを止めれば、回復のチャンスを与えることになる。


 ここは一気に攻める。


「はぁあああ―――っ‼」


 下段から斬り上げようとしたその時、身体から一気に力が抜ける。


 それだけでなく、スサノオの鎧が解除された。


 太刀が短剣に戻り、刃が間合いに届かない。


 カ――――ンッ‼


 骨剣で短剣を弾き飛ばされ、砂利じゃりに刺さる。


 手甲は着けたままでも、糸を出す気力も無い。


 体力のほとんどを、スサノオの装着に持って行かれた。


「はぁ…はぁ……畜生…‼」


 立っているのもやっとの俺を静かに見て、ディアスランガは骨剣を肩から下ろす。


『まっ、最初にしては良い方だろ。俺に一撃入れただけでも上出来だろ』


 いま々しいと思っている相手に称賛の言葉を送られようとも、嬉しくない。


 奴はスサノオを拾い、刃についた砂を軽く払う。


『欲を言えば、もっと8つの力を使いこなせるようになれよな。あいつなら、その上で奇策を仕掛けることも容易くやってのけていた』


「……一々、父さんと比べるなよ」


 もう戦う力は残っていなくても、反抗心は変わらない。


 それに対して、奴は愉快そうにニヒっと笑う。


『そりゃあ、あいつの息子なら、比べるなって方が無茶があるだろ。今のおまえは、浩紀には遠く及ばねぇ』


 魔鎧装を装着しても、実力の差が埋まったわけじゃない。


 それどころか、奴は本気を出していないのは態度からわかる。


 この戦いも、遊びと変わらないってことか。


 奴はスサノオの刃を鞘に納め、『ほいっ』と俺に投げてきた。


 それを掴み取り、眉をひそめる。


「何のつもりだ?」


『貸してやるよ。奴らがきな臭い動きをしているらしいからな。これからの戦い、少なくともそいつを使えなきゃ話にならねぇ』


「きな臭い動き…?」


 気になったワードを復唱すれば、奴は遥か上空にある天井を見上げる。


『どこのどいつがいた種かは知らねぇが、そこら中で混乱と妬みの混じった匂いがする。……妬みって意味じゃ、おまえも変わらなかったけどな』


 ディアスランガの視線は俺に移り、指さしてくる。


『おまえ、もう1人のガキが魔鎧装を使えることを知った時、嫉妬しっとしたんだろ?』


「……嫉妬?俺が?」


 言われた言葉を理解できずにいる俺を、獣人は笑う。


『ニヒヒヒヒッ、おまえ、本当にわかってねぇんだなぁ?やり合ってる最中の瞬きほどの変化だったが、俺はちゃ~んといだぜ?疑問よりも強かった、おまえの嫉妬の匂いをな』


「そんなこと――――」


『無いって言うなら、何でおまえはあのガキを遠ざける?自分がおとっていることを認めたくねぇから、現実から目をそむけるため……だろ?』


 そんなんじゃない‼―――と、言いたい。


 だけど、その言葉が口から出てこない。


 本当に俺は、円華に嫉妬していたのか?


 自分がどれだけ努力しようと手にしなかった力を、あいつは知らない間に手にしていた。


 それが気に入らなかった。


『認めろよ。おまえは、あのガキよりも弱い。強さを追い求めるなら、あいつの側に居た方が良い。くだらねぇ嫉妬心で、強くなるチャンスを逃すつもりか?おまえはそこまでバカなのかよ?』


 畳みかけてくる言い方に対して、何も言い返せない。


 ディアスランガの言葉を、素直に受け入れたくない自分が居るのは確かだ。


 それでも、奴の言葉が正しいんじゃないかと思い始めている。


 そして、獣人は『それとも』と区切って顔を近づけてくる。


『それが嫌なら、俺と来るかぁ?鍛えてやるよ』


「っ‼…誰がぁ‼」


 大きく右手を振れば、奴は最小限の動きで避けては不敵に笑う。


『だったら、道は2つに1つだろ。おまえの欲しがってた力は手に入れたんだ。特にもう妬む必要もねぇだろ。さっさと仲直りしちまえよ、面倒くせぇ』


 そう言うと、この状況に飽きたのか、身体が黒い霧のように変化していく。


「おい……ディアスランガ‼」


 名前を呼べば、『あ?』と反応して首を傾げる。


 俺はスサノオの短剣を前に突き出し、奴に鋭い眼光を向ける。


「これは()()()()()。いつか、俺がキュウビの力を使いこなせるようになったら、その時はおまえがこれを装着して再戦しろ」


『……何のために?』


「スサノオを着けたおまえを倒した上で、改めて奪い返す。おまえよりも強くなったことを、証明した後でだ‼」


 目的を言えば、ディアスランガは肩に骨剣を担いでは左手で髑髏どくろおおい、肩を震わせる。


『ニヒッ、ニヒヒヒヒッ‼良いなぁ、おまえぇ‼その闘争心は、父親譲りだぜぇ‼確かにおまえは、あの狩原浩紀の息子だぁ‼』


 大笑いをしながら、その姿が薄れていく。


『強くなれよ……。気が向いたら、また遊んでやる』


 そう言って、ディアスランガが軽く手を振れば、完全にその姿が見えなくなった。


 透明化する能力か、それとも別の異質な何かが付加されているのか。


 髑髏の獣人が消えてから、一気に気が抜けそうになるのを耐える。


 手に持っているスサノオの短剣からは、俺を拒絶する意思は感じない。


 だけど、さっきみたいに何かを語りかけてくる様子もない。


 俺はスサノオに認められたのか、それともまだお試し期間なのかはわからない。


 少なくとも、感覚から認められていないってわけではないのは分かる。


 黒衣を使う時は、殺意の衝動が嫌でも襲いかかってきたからな。


 しかし、スサノオにはそれが無く、不思議なくらいに安定していた。


 気に入らないが、ディアスランガの言う通りだ。


 俺には魔鎧装の力が必要なんだ。


 まずはこのスサノオの力を完璧に使えるようになる。


 父親の血に頼る形にはなったが、背に腹は代えられない。


 強くなるためなら、何だって利用するしかない。


「仲直り……か」


 円華は、あんなことを言った俺を許してくれるだろうか。


 いや、そんなことは関係ない。


 話さなきゃいけないことがあるのは確かだ。


 俺はまだ、桜田家の刺客の件を伝えていないし、スサノオのこともあらかじめ言っておかないと不審がられる。


 特に恵美ちゃんからは、注意の目が強くなるのは容易に想像がつく。


 狩原浩紀という直接的なワードを出さなくても、あの男の娘ならばスサノオの話を聞いていても不思議じゃない。


「混乱と妬みの匂い……か。それも、あいつの言い草じゃ、1人や2人とかの話じゃないってことだよな」


 増々、あの掲示板の件が今日だけで終わる話じゃない気がしてきた。


 今日の出来事が、ただの氷山ひょうざん一角いっかくだったのなら……。


 場合によっては、俺も瑠璃ちゃんたちのフォローのために動かなくちゃいけなくなるかもな。


 そして、願わくば、スサノオを使える場面に遭遇したいものだ。


 川から上がり、怪しまれる前にすぐにアパートに戻る。


 幸い、ディアスランガとのことはその後も大事にはならなかった。


 あの時間帯に、不自然なくらい人通りが皆無だったのは少し疑問として残ったけど。

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