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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
弱者との内乱
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抱える歪み

 基樹side



 例の貼り紙について、うちのクラスではもう問題は無さそうだ。


 これも瑠璃ちゃんの影響が大きいだろう。


 朝礼前にくぎを刺したおかげか、昼休みも放課後も特に石上に対して向ける悪意は感じない。


 問題は別だ。


 あいつの前の席だからか、3学期になって2日目で嫌でも感じる視線がある。


 リュックに教科書を入れながら、さりげなく教室の中で周りを見渡す。


 椿円華に対する、敵意にも似た視線。


 新学期早々、問題が浮き彫りになってきた。


 まず第一として、円華自身も気づいていることだと思うけど、あいつはまだクラスメイトから受け入れられているわけじゃない。


 徐々にあいつを受け入れようとする奴らは増えているけど、不信感をぬぐえていない奴が居るのも事実なんだ。


 その原因は、誰が送ったのかもわからない、『椿円華は復讐者』だという内容の書かれた告発のメール。


 数人のクラスメイトに送られたもので、俺の入江から見せてもらった。


 入江はもう気にしていない様子で、円華とも普通に接しているけど、誰もがあいつみたいに人が良いわけじゃない。


 柘榴の時は鳴りを潜めていただけで、あいつを排除しようとしている存在はまだ残っている。


 問題は山積みだ。


 ただでさえ、円華は来年には桜田家の刺客から狙われることになる。


 このクラスのみぞに刺客が気づけば、そこを突かれるのは目に見えている。


 それまでに、少なくともクラスの中で円華を敵視する存在を把握し、どうにかしないといけない。


 ……って、何であいつの心配してるんだよ、俺は。


 あんなことを言っておいて、今更元に戻れると思ってるのか?


 自分で自分に呆れそうだ。


 誰にも気づかれないように小さく溜め息をつき、リュックを担いで教室を出る。


 前までは、円華や瑠璃ちゃんたちと一緒に帰っていたけど、昨日もそうだし今日も違う。


 あいつは終礼後に岸野先生を追いかけて行ったし、瑠璃ちゃんも女子グループで帰ってしまった。


 1人にした方が良いと思って、気を遣われたのかもな。


 正直、今はグループでつるんで行動したいって気分じゃない。


 校舎を出て、すぐにエレベーターで地下に降りれば、両耳にイヤホンを着けて雑音をシャットアウトする。


「どうしたいんだよ……俺?」


 あの時、円華に言ったのは本心だ。


 だけど、普段なら口には絶対に出さない。


 影に感情なんて求められていない。


 それを表に出すなんてもってのほかだ。


 なのに、あいつにこれまで思っていたことを吐き出してしまった。


 何であんなバカなことをしたのか、自分でもわからない。


 おかしくなったのは、あの獣人と戦った時からだ。


 ディアスランガの存在、その手にしていた父親の形見『スサノオ』。


 あれを見た時から、感情が制御できなかった。


 そして……円華が自分の魔鎧装を装着した時に、思ってしまった。


 『何で、おまえが使えるんだ』って。


 いつ?何で?どういう条件で?


 俺にできないことを、円華はできた。


 どれだけ制御しようとしても、俺は自分の魔鎧装を使いこなせていない。


 鎧を顕現けんげんできない。


 その事実を知った時、今までに感じたことの無い種類の怒りがあった。


 部屋に帰る気にもなれず、川の橋の上で立ち止って近くの手すりに寄りかかる。


 そして、無意識に奥歯を噛みしめ、拳を握って震わせる。


 言い表せない憎しみを感じている。


 このまま円華と会ったら、またあいつに当たってしまう気がする。


「俺って……本当に情けないな」


 周りに誰も居ないからか、心中の言葉をボソッと呟けば、それに対してどこからか反応が返ってくる。


『ああ、本当になっっさけねぇなぁ~、おまえ?』


 その声は近距離から聞こえ、横を向けば、すぐ近くにひょう髑髏どくろがドアップで飛び込んできたので大きく後ろに下がる。


「おまえはっ…‼」


『よぉ、良い反応してくれるじゃんか。ドッキリ大成功ってところか』


 右肩に骨剣を担ぎ、左手を軽く挙げて陽気に挨拶してくるのは、豹の髑髏どくろを被った獣人。


 忘れられない存在、ディアスランガ。


 敵意を向け、糸を通した手甲を両手に着けて臨戦態勢に入る。


「ディアスランガ……今日こそ、おまえから父さんの形見を―――‼」


『取り返せると思ってんのか?この前、あんなに無様な戦いをしたおまえが?』


 奴は構えることもせず、呆れたように首を傾げる。


『バカも休み休み言ってくれねぇと、疲れるのはこっちだぜ』


「黙れぇ‼」


 誰かが来る前に勝負をつける。


 周囲に糸を展開して囲み、油断しているうちに決める。


狩人の手品(ハンターズトリック) 黒鞭ブラックテール‼」


 糸を束ねて数十本のむちを生成し、ディアスランガを襲う。


 四肢や首だけでなく、骨剣もしばりつけるが獣人はたじろがない。


 俺の方に視線を向けた後で、首を回しては『フンっ‼』っと覇気を放つだけで黒鞭が解除されてしまう。


「そんなっ…何で!?」


『何でぇ?おまえ、本当にバカだろ』


 逆に動揺しているのは、俺だ。


 奴との力の差は、円華と共闘した時にもひしひしと感じていた。


 それでも、感情が先走った。


 自分で自分を制御できていない。


 こんなこと、前までは無かったはずなのに…‼


 俺は……どうしちまったんだよ、本当に。


 敵わないとわかっていながらも、身体が勝手に動く。


狩人の手品(ハンターズトリック)……装具アーマー‼』


 両手に糸をまとい、ディアスランガに突撃をかける。


 しかし、奴は防御の構えは取らず、逆に骨剣を空中に軽く投げて両手を広げる。


『受けてやるよ。叩きこんでこい』


 その挑発に乗り、俺は両手に拳を握って胴体や顔面に叩きこむ。


「うるぉおおおおお‼‼」


 装具アーマーの力は装着した部位の筋力増強。


 1秒間に5発以上の連打を放っているにも関わらず、ディアスランガはニヒヒっと笑っている。


『はぁ~いはいはいはいはいはい‼……あぁ~、もう、飽きたぁ‼』


 10秒経つ頃には、奴の横に振るった右手の甲が俺の頭部に直撃し、橋から川に落とされる。


 ザバーンっと水しぶきをあげながら落下し、受け身をとれなかったことで衝撃が直に身体に伝わる。


 骨剣が落ちるタイミングを見計らっていたのか、ディアスランガは空中で柄を握っては再度肩に担ぐ。


 そして、手すりに片足を乗せて見下ろしてくる。


『どうだ?少しは頭が冷えたかよ?』


 下から睨みつけながら、両手をついて身体を起こす。


 しかし、奴は俺の目を気にせずに川を指さす。


『その体勢のまま、下を見てみろよ?いい顔してるぜ、おまえ?』


 促されるままに、川の水面に映る自分の顔を見れば、その表情に戸惑とまどいを覚えた。


 感情をき出しにした、憎悪に歪んだ顔だ。


 違う、こんなの俺じゃない。


 こんなのは……違う…‼


 自身の顔から両手のグルーブに視線を移せば、ギリッと歯をきしませて身体を震わせる。


 どれだけ集中しようと、制御しようとしても、何も変わらない。


 円華のように……ディアスランガのように、魔鎧装を発動できない…‼


「何で……何でだよ…」


 感情があふれ出し、言葉が勝手に口から出てくる。


「何で、俺に力をくれないんだよ‼キュウビー‼‼‼」


 魔鎧装の名を叫べど、その声に応えてくれない。


 力の一部を使うことはできても、完全に引き出せているわけじゃない。


 鎧を顕現できなければ、魔鎧装としての力を使えていることにはならないんだ。


 おまえは、俺の何が気に入らないんだ?


 魔鎧装……キュウビの衝動は、俺の意識を飲み込もうとする。


 それを抑えこむことが……できない。


 抑えこもうとすればするほど、奴の衝動は大きくなる。


 飼いならすことができない。


 静かに俺を見下ろし、ディアスランガは『はぁ~は』と首を横に振りながら息を吐く。


『おまえ……本当にあいつの血を引いてるのかよ?』


 奴は橋から飛び降り、両足を川に突っ込んだまま俺の前に立つ。


『おまえに足りない物を教えてやるよ。あいつらには在って、おまえが圧倒的に欠けているものだ』


「誰が、おまえの教えなんて――――っ‼」


 顔を上げれば、黙って聞けと言うように、骨剣の刃先を突きつけられる。


『己を知り、受け入れる覚悟。鎧を使う奴らは、共通してそれを持っていた。おまえにそれはあるのか?いや、無いだろ』


 奴は両手のグローブに視線を移す。


『そいつが、おまえに応えねぇのがその証拠だ』


 己を知り……受け入れる…?


 そんなこと……考えたことも、無かった。


『狼の鎧を解放したあのガキは、とうにその覚悟を固めていた。おまえはスタートラインにすら立っていなかったんだよ』


 ディアスランガから突きつけられる事実に対して、否定する気力も無かった。


 ひたすら、強さだけを求めていた。


 己の目的のために、ただ力を追い求めてきた。


 そのために、自分というものを犠牲にしてきた自覚はある。


 力を求めれば求めるほど、邪魔になるものが『感情』だった。


 だから、それをひたすらそぎ落として、生きてきた。


 もはや、自分が今、どう思っているのかも自覚できなくなるほどに。


 それなのに……その先に待っていたのが、これなのか。


 今更、自分を知るなんてことができるはずもなかった。


 当の昔に、てたものだったから。


 俺には……魔鎧装を使う資格がないってことかよ…‼


 今までの自分を全て否定されたような、圧倒的絶望が迫ってくる。


『……はぁ~あ。おまえ、本当に見てらんねぇな』


 その中で、ディアスランガが俺の目の前で何かを落とし、水の中に沈んでいく。


 それを慌てて両手で掴んで水面から上げれば、自分の目を疑った。


「ディアスランガ……おまえ、これは…!?」


『何だぁ?嬉しくねぇのかよ?ずっと欲しがってた物だろ?』


 俺が手に持っているのは、鞘に納まったスサノオの短剣。


 父親……狩原浩紀の使っていた魔鎧装。


『あいつと同じ血を引いているおまえなら、そいつも譲歩して応えてくれるだろ。まずはそいつで、自分を知るために必要なものを探せ』


「おまえ……何のつもりだ!?これ以上、俺をみじめにして楽しいか!?」


 怒りの目を向ければ、ディアスランガはニヒっと笑う。


『楽しむ?何を勘違いしてやがる。楽しいのは、こっからだろ!?』


 そう言って、奴は肩に担いでいた骨剣の刃をふるい落とした。


 間一髪の所で身体を捻じらせ、短剣を鞘から抜いて受け止める。


『あいつの息子なら、最低限そいつの力くらい引き出してみせろ‼おまえの力を、可能性を、俺に見せるんだよぉ‼』


 やはり、こいつの性格はいかれてる。


 連なった刃を受け流し、大きく1歩下がって短剣を見る。


「父さんの使っていた鎧……スサノオ…」


 小さな剣だとしても、その重みは見た目以上に感じる。


 ディアスランガは、これを手にした俺のことを試そうとしており、逃げられるような隙はない。


 いや……こいつからは、逃げたくない。


 やるしか……ない‼


 短剣を右手で構えて強く握った時、頭の中に声が響いた。


『……浩紀ひろき子倅こせがれ…か』

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