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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
振動する冬休み
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予想外の根源

 円華side



 12月25日。


 世間的には、サンタが1日で世界中の家を回ってプレゼントを渡した日の翌日と言うことになっている。


 別にベッドの隣に靴下を吊るしていたわけじゃないから、何の贈り物もあるわけがない。


『起きたか、小僧』


 俺の意識が覚醒したことを察したのか、ヴァナルガンドが声をかけてきた。


「ああぁ~……だっっっる」


 昨日まででいろいろあり過ぎて、前もって予定していたことを終え、一気に身体が悲鳴をあげだしている。


 身体的にも、精神的にも疲れが押し寄せているのがわかる。


 切り詰めていた緊張の糸が切れたからか、身体を起こせそうにない。


「なぁ、ヴァナルガンド……俺、今、どんな顔してる?」


 壁に立てかけている白華の方に身体を向けて聞けば、奴がフッと笑う声が頭に届いた。


『ひでぇ面をしてやがる。昨日、めすに好意を示された男にしては、幻滅必至の面構えだぜ』


「好意……か」


 ヴァナルガンドの皮肉を受け流し、何とか身体を起こしては洗面台に行って顔を洗う。


 顔を濡らして鏡を見れば、黒い狼の幻が見える。


 いきなりの出現にも耐性がついたからか、感情の揺れは無い。


『おまえ、これからどうするつもりだ?』


「どうするって……漠然とし過ぎて、何を聞きたいのかわかんねぇよ」


 タオルで顔を拭きながら言えば、奴は鏡越しに俺の隣に来る。


『あの白髪女から言われただろ。おまえみたいなおすにも好意を抱く女を大切にしろと。それに対する、おまえの答えは何だ』


 ヴァナルガンドとは意識が繋がっているからか、こいつもあの場の状況は知っているらしい。


「言っただろ。恋愛とか、そういうのは後回しだ。俺の最優先事項は姉さんの復讐だぜ。それは、何があっても変わらねぇ」


『……本当にそうかぁ~?』


 からかうような聞き方をする狼に、俺は怪訝な目を向ける。


「何だよ?突っかかってきやがって」


『別にそんなんじゃねぇよ。ただ、人間ってのは欲望に忠実な生き物だ。おまえの理性がどう思おうが、本能じゃどういう動きをするかわからねぇからなぁ~』


 まるで何かを見透かしたような言い方に苛立ちを覚えたが、奴は歯を見せて笑っては玄関の方に顔を向けると幻が薄れて消えた。


 そして、突然部屋のインターホンが鳴った。


 ったく、誰かが来たなら、そう言ってから消えろよな。


 頭の後ろに手を回して溜め息をつきながら玄関に向かえば、勝手に鍵が解除されてドアが開いた。


 そして、入ってきたのは銀髪電波女だった。


「おっす……メリクリ」


「いや、メリクリじゃねぇよ。勝手に入ってくんな」


 呆れた目を向けるが、恵美はそれを気にせずに部屋に上がってきた。


「何の用だよ?クリスマス関連のことなら、昨日で終わっただろ?」


「それは円華の勘違い。クリスマスの本番は今日でしょ」


 こいつ、クリスマスって言ったら25日派だったか。


 じゃあ、昨日のパーティーは何だったんだよ。


 ふと見れば、恵美が片手に持っているバッグの中に小包が入っているのが見えた。


 律儀りちぎな奴。


 諦め半分で頭をかけば、キッチンに行って冷蔵庫を開ける。


 やべぇ、飲料がこの前鈴城にもらった奴しかねぇ。


 まぁ、良いか。


 コップを2つ用意し、炭酸水を入れて持っていけば、何故かテーブルの前に正座になっている恵美。


 いつもは寝転がったり、だらけた座り方をしているだけに妙に怪しい。


「おまえ、何で正座?」


「べ、別に?何でも…ないよ」


 そう言いながら、横髪で耳を隠して目を逸らすしぐさから怪しさが倍増する。


 何か企んでるのか?


 さては、どこかのバカと一緒にドッキリでもやろうとしてんじゃねぇだろうな?


 コップを目の前に置き、彼女の前に座って頬杖をついて見る。


 何故かモジモジとしており、部屋が熱いのか少し頬が赤くなっているように見える。


 いや、本当にどうしたんだよ、こいつ。


「とりあえず、これでも飲めよ。暇潰しで来たなら、少しは付き合ってやるけど」


「う、うん……ありがとう」


 そう言えば、俺も恵美に話しておかなきゃいけないことがあったな。


 立て続けに続いた予定が終わって落ち着いてきたし、そろそろ3学期からの動きについては相談したいと思っていたんだ。


 柘榴の一件から、これからポーカーズがなりふり構わずに仕掛けてくることがうかがえる。


 これはチャンスだし、奴らが尻尾を出した時に追いつめるために少しでも行動に移すつもりだ。


 恵美の手を借りなきゃいけない場面も、あるかもしれねぇしな。


 一応は、鈴城の話や生徒会長選挙のことも含めて情報は共有しておくか。


「そう言えば、おまえに確認したいことがあったんだった」


「……何?改まって。スリーサイズなら教えないけど」


「おーい、それは俺がジョークで言う十八番おはこだろうが」


 つか、本気でそれを聞いてるわけねぇだろうが。


 真面目な話をするために、咳払いをすれば、真剣な雰囲気にする。


「おまえさ、2学期の終業式の時のこと、覚えてるか?期末試験の結果発表の時だ」


「覚えてるに決まってるじゃん。いろいろと驚いたし、胸がモヤモヤした。和泉がらしくない感じしたし、鈴城も変な感じがした」


 鈴城…?


 そうか、あの時、恵美は和泉とAクラスの心の動きについては話してくれたけど、鈴城たちSクラスについては何も言ってなかった。


 だけど、彼女の近くに居た鈴城の感情の動きが視えていてもおかしくない。


「あの時……紫苑は、どんな心境だったんだ?」


 鈴城本人からは、その内心を実際に聞いた。


 だけど、恵美の能力と少しでも感情のズレがあったなら、彼女が信頼できるかどうかの判断に関わってくる。


「特に、負けたことに対して気にしている様子は無かった……かな。別に黒い感情みたいなものは無かった。それがあったのは、むしろ和泉の方で……。って、あれ…?」


 何かが引っ掛かったのか、彼女はジト目を向けてくる。


「今…紫苑……って、言った?」


「え?」


 急に目尻が上がり、前髪で影ができている。


「な、何だよ……。別に?本人から、名前で呼ぶように言われたから、そう呼んでるだけで……。ほ、ほら!あいつもさ、俺のことを名前で呼ぶし‼」


「へぇ~、あの女帝と名前で呼べる仲になったんだぁ~。ふ~ん」


 上目遣うわめづかいで睨みつけられ、何故か不機嫌になっているのがわかる。


 つか、俺も何で言い訳がましい言い方になってるんだよ。


 無意識に焦る気持ちを落ち付けるためにコップに口を付ければ、一気に飲み干して頭を冷やす。


 あぁ~、炭酸で喉がイガイガする‼


 恵美もコップに口を付けて一口飲めば、目が据わったまま言葉を続ける。


「別に良いんじゃない?円華がどこの女とどうなろうと、私には関係ないからね」


 そう言いつつも、不機嫌なのは変わらねぇのかよ。


 目を逸らして苦笑いで誤魔化そうとすれば、恵美の視線の痛さが増す。


 やべぇ、どうにかして空気変えねぇと。


 つか、この空気、夏休みの時も似たようなことがあったような…。


 ダァ~メだ、今回は何も解決策が思いつかねぇ。


 かと言って、ずっと恵美の機嫌を伺ってるわけにはいかねぇし……。


 考え込みそうになっていると、不意にバンっ!とテーブルを強く叩く音が部屋に響いた。


「おい、女男おんなおとこ‼ひっく」


「・・・はい?」


 現実に意識を戻して彼女を見れば、その表情の変化に気づく。


 目が座っているのは変わらねぇけど、真っ赤になった顔をグイっと近づけては胸倉を掴んで引き寄せてきた。


 顔を近づけては、目を合わせてくる。


「女に色目ばっかり使いやがって、見境みさかいなくその気にさせて楽しいかぁ?こらぁ~‼ひっく」


「え?あ、あの……え?ちょ―――っ!?」


 急な態度の変化について行けずにいると、恵美は強く俺を前に押し出しては、テーブルを飛び越えて床に倒れた所を馬乗りになってきた。


 そして、胸倉を掴んだまま前後に激しく振ってくる。


「この変態‼鈍感‼美人局つつもたせぇ~‼」


「ちょ、ちょちょ、ちょっとぉ!?恵美さん!?おまえ、何がどうして―――」


「あんな偉そうな女より、私の方が魅力あるもん‼」


 頬を膨らませては、襟から手を離して自身の上着を素早い動作で脱いでいく。


 あっという間に下着姿になるや、ブラジャーにまで手をかける。


 外そうとする前に「ちょっと待てって‼」と強めに注意すれば、恵美は急に顔をうつむかせる。


「怒られた……しゅん」


「しゅんって……おまえなぁ、いきなりどうしたんだってぇ……」


 急な変化に動揺を隠せずにいると、彼女は体育座りをして腕に顔をうずめる。


「私の方が……絶対に、可愛いもん……」


 これまでのこいつからは絶対に考えつかないような言葉を口走ってらっしゃる。


 え?何?これってポジティブ思考って言って良いのか?


 いつもの自己評価の低さはどこに行った。


「ま、まぁ、確かに恵美は可愛いとは思うけど……」


 何を拗ねてるのかを確認するために一応は同意すれば、ジト目を向けてくる。


「本当に、そう思ってる?」


「はぁ~……。はいはい、思ってる思ってる」


 投げやりな気分で言えば、彼女は悪戯っぽい笑みを向けて指をさしてくる。


「へぇ~、円華、私のことそう思ってたんだぁ~。素直じゃないんだからぁ~」


 そう言って、四つん這いで俺に歩み寄っては胸の谷間をチラつかせてくる。


「私のおっぱい……見たい?」


「んなっ!?おまえ、何言ってんだ!?バカなこと言ってねぇで、さっさと服着ろって‼」


 目線を逸らして言えば、彼女はまた顔を俯かせる。


「やっぱり、私のこと興味無いんだ。さっきの言葉も嘘だったんだぁ~」


「いや、それとこれとは話が別だろ!?」


「じゃあ、見たいのぉ?見たくないのぉ?」


 前のめりになって顔を近づけてこれば、威圧感で目を逸らすことができない。


 これはぁ……本心とは別に、こう言わないと進まないんだろうなぁ。


「見たい……です」


 不本意で……本当に!不本意で言えば、恵美はニヤァっと笑って俺の頭を抱きしめれば両胸に押し当ててきた。


「んぶふっ!?」


「へぇ~、へぇ~、見たいんだぁ~!?円華ってば、え~ろ~い~‼えっちぃなぁ~も~‼」


 顔に柔らかい感触が広がり、頭が真っ白になりそうなのを耐えていると、急に顔を胸から解放して離せば、再度恵美は背中のホックに手をかける。


「仕方ないからぁ~、エッチな円華にお披露目ひろめ~‼」


「お、おい‼おまえ、何やって―――んなぁ!?」


 露出した胸を見ないように目を逸らせば、彼女は俺の右手を取っては左胸に押し当ててきた。


「ほら……揉め‼」


「いや、だから、どうしてこうなるんだって!?」


 わからん、わからな過ぎる。


 え?何だ、これ?どういう状況!?


 いきなり、恵美が着ている物を脱いでは手を胸に押し付けてきてぇ…でかくて、柔らかくてぇ……じゃねぇよ‼


 理性を働かせて右手を離そうとしても、強い力で押し付けられているためそうはいかない。


「ほらほらぁ~、揉め揉めぇ~。おっぱい触らせてあげる女なんて、私しか居ないんだぞ~?もっと、私の存在に感謝しろぉ~‼」


「いや、だから、おまえ……。何か、おかしいぞ!?」


 抵抗すればするほど、てのひらに柔らかい感触が伝わってぇ……って、だから、そこから離れろよ‼


 あぁ~もう‼何か今日のこいつ、面倒くせぇ‼


 悪戯っぽい笑みで押し付けてくると思えば、段々と動きが落ち着いては、表情が曇っていく。


「私こと、もっと……ちゃんと、見てよぉ…」


 小さな声でそう言う恵美の瞳は、蒼く染まっていてうるんでいる。


 そして、顔を近づけてきては、俺の両頬に手を添えてくる。


 あれ……この、流れって……。


 唇と唇が触れる間際、脳裏に昨日の麗音の言葉を思い出した。


『本当にキスしたい相手は、別に居るでしょ?』


 あぁ、そうか。


 あの時、彼女にそう言われて、思い浮かんだのは紛れもなく……。


 俺、本当に……。


 無意識だった。


 あいつが顔を近づけてくるのに比例して、俺も近づいていって―――。


 気づけば、俺たちは目を閉じて唇が触れ合っていた。


 そして、彼女の腰に手を回して身体を密着させる。


「んんっ……んっちゅ、むっ…」


 今度は手ではなく、胴体を通じて大きく柔らかく、温かい感触が伝わってくる。


 自分のことを許せるかどうかって言うのは、まだ決められない。


 ずっと、許せないかもしれない。


 それでも、俺は誰にも……こいつのことを、奪われたくない。


 復讐者としての根源は、姉さんへの想いであることは変わらない。


 だけど、大切な者を守りたいという守護者としての根源が何なのか。


 それが漠然としたものじゃなくて、確かな誰かであることに気づけた。


 複数人の内の1人ではなく、確かに守りたい1人として。


 唇を離し、目を開ければ、視線を合わせて恵美に言葉を返す。


「見てるぜ……恵美のこと、ずっと…」


 雰囲気に流されるように彼女を床に横にさせ、おおいかぶさるように上になる。


 そして、自分の意志で恵美の胸に触れようとした瞬間――――。


 脳裏に、ある光景が広がった。



 ーーーーー



 場所はどこかの大部屋。


 一糸まとわぬ姿でベッドの上に横になる茶髪の女性が映り、その頬は紅潮している。


『来てぇ……高太ぁ』


 そう言って、前を隠さずに両手を軽く広げて迎え入れようとする女性。


 俺の視点は男のもので、彼女の豊満な胸に両手を伸ばして―――。



 ーーーーー



「……って、違ーーーーーーう‼‼‼」


 フラッシュバックに対してツッコみを入れれば、理性を取り戻して恵美から離れ、上着をかぶせる。


 危うく、雰囲気に流されてとんでもねぇことをするところだった。


 今のって、やっぱり、高太さんと優理花さんの…‼


 何だよ、あの人の記憶に関することって、戦いに関するものだけじゃねぇのかよ!?


 今度会うことがあったら、すっっっげぇ気まずいだろ、これ…‼


「あのぉ~、恵美、これは――――って、あれぇ~~」


 頭を激しく振って煩悩ぼんのうを捨て、恵美に言い訳をしようと視線を向ければ、彼女は気が抜けたように目を閉じて寝息を立てていた。


「ったく、しょうがねぇなぁ」


 頭を押さえて深い溜め息をつき、前を見ないように服を着させてはベッドに移動させた。


 その表情は安心したように、笑んでいるように見える。


「私のことを見てよ……かぁ。おまえ、俺のことをどう思ってんだよ?」


 大切な仲間だって思われてることは、もう嫌でも自覚している。


 でも、もうそれじゃ満足できない自分が居ることに気づいた。


 1人の男として、こいつの視界に入っているのかは微妙だ。


 さっきの態度だって、どういうつもりで……。


 テーブルを見ると、少し量が減っている炭酸水のコップが視界に入る。


 そう言えば、恵美がおかしくなったのって、これを飲んでからのような……。


「もしかして……」


 彼女と炭酸水を交互に見ると、1つの仮説が浮かんだ。


「今度から、恵美には炭酸の飲み物は絶対に飲ませらんねぇな、これ。特に人前じゃ絶対に」


 苦笑いを浮かべながら、今度から注意しなきゃいけないことが1つ増えたことに肩を落とす。


 ったく、炭酸で酔っぱらうなんて、誰が予想できるんだよ…。


 ちなみに、数時間後に恵美が目を覚ました時、あいつは今の状態についてすっぽり頭から抜けていたのであった。


 そして、あいつは自分が何をしに来たのかすらも忘れて、部屋を出て行ってしまった。


 結局、この時間って一体何だったんだよ……。

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