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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
振動する冬休み
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クリスマスパーティー 終了

 麗音side



 パーティーが始まってから、もう2時間が経とうとしている。


 久実ちゃんを中心に場が盛り上がっているのは別に良いとして、あたしは心の中で静かに不服な気持ちを押し殺している。


 円華くんは今、岸野先生と話していて、その様子を横目でじっと見ている銀髪の友人。


 彼女に対して、憤りを感じて仕方がない。


 ジト目を向けて痛いくらいの視線を送れば、恵美はそれに気づいて目が合い、ビクッと身体を震わせては恐る恐る目を逸らす。


 何故、目を逸らすのかしら~!?


 その後も笑顔で圧をかけ続け、軽く2回ほど手招きをすれば、彼女は渋々と重たい足取りで近づいてきた。


「ねぇ、恵美ちゃん?一体何をしているのかなぁ~?」


 笑顔を消さずに優しく問いかければ、恵美の目が泳ぐ。


「な、何って言われても……その、言っている意味がぁ…」


「わかるよね?チャンスあったよね?私、何度か『代わろうか?』って合図、送ってたよね?」


 あたしは円華くんには気づかれないように、恵美に目で訴えかけて席を替えるように促していた。


 それなのに、最初は首を激しく振って拒否していて、挙句の果てには冷や汗をダラダラ流しながらスルーされた。


 もう完全に予定が台無し。


 煮え切らない態度に腹が立った。


 そのあたしの気持ちがわかっているから、今は怯えた表情なのかもしれない。


「新森さんが場を用意してくれたと言うのに、本当にタイミングが悪いわね。勝手に席を立つ彼もそうだし、岸野先生と仲川先生が来たことも予想外だったけど、あなたも少しは勇気を出すべきじゃないかしら?」


 成瀬さんも合流し、恵美に対してジト目で追撃する。


「勇気って言われても…。だって、円華だって何か忙しそうにしていたし、邪魔したら悪いかなって……」


「それは言い訳でしょ。彼が1人で居る時間なんて、いくらでもあったじゃない?それこそ、教室を出た時に追いかけても良かったでしょ?」


「だ、だだ、だって‼いきなり、2人きりになるなんてぇ……それこそ、すぐに勘づかれると思ったから…」


 俯いて両手の人差し指を合わせてモジモジする姿に、余計にイライラがつのる。


「そこで臆病な部分を出してどうするの?このままじゃ、本当に関係は変わらないわよ。彼の場合、少し大胆に動いて意識させるくらいが丁度良いわ。鈍感さで言ったら、世界レベルよ」


 成瀬さんが呆れたように言えば、恵美は少し悲しい目になって首を横に振る。


「多分、鈍感とは、少し違うと思う」


「……どういうこと?」


 あたしが聞き返すと、彼女はチラッと岸野先生と話している円華くんを見た後で首に下げているヘッドフォンを触る。


「1回だけ……円華の心に入った時に、わかったんだ。円華はずっと、多くの人に否定されながら生きてきて、多くの人の命を奪ってきた。その経験から、円華はずっとある考えに縛られ続けている。それを否定する勇気は……今の私には、まだない…から」


 恵美の手は震えており、あたしの時のように円華くんの精神世界に入ったからこそ、感じられたことがあるのだとわかる。


 その経験がない成瀬さんは、彼女の状態を見て怪訝けげんな目を向ける。


「その彼の縛られてる考えって、何なのかしら?」


 多くの人から否定され、多くの人を奪ってきたから至る考え。


 あたしも彼とは比にはならないけど、同じように存在を否定され、人の命を奪った。


 だからか、自然と小さい声で言葉が出た。


「……受け入れられるはずが、ない」


 あたしがその考えに辿りつくと、恵美は小さく頷いた。


「私も……さっきまで、頑張って、少しでも……円華に近づこうとしたんだよ、これでも。でも……どうしても、チラついちゃうんだよね。あの時の、円華の悲しそうな顔が。それを知っているから、軽はずみに……恋愛とか、そういう風には近づけない」


 自分なんて受け入れられるはずがない。


 自責の念でその考えに囚われている。


 恵美は彼を孤独から解放することはできたけど、自責の鎖から解放するために踏み出すことはできない。


 当然だわ、知っているからこそ、感じ取ってしまったからこそ踏み出せなくなることがある。


 それでも、このクリスマスパーティーに参加することで勇気が持てるかもしれないと思ったに違いない。


 結果的には、行動に移すことはできなかったけど、恵美も彼を解放したいという気持ちはあった。


 それを無駄にはしたくない。


 あたしは、恵美と円華くんに救われた。


 それなのに、形として助けられてばっかりで、まだ恩返しもできていない。


 だから、あたしにできることをする。


 自分の中の、ずっと閉じ込めておこうと決めていた気持ちと決着をつけるために。


 暗い表情になる恵美と言葉を探す成瀬さんの前で、あたしは素で大きな溜め息をついた。


「はあぁぁぁ……。仕方がないわね」


「えっ……れ、麗音?」


 優等生モードを止めて、素の状態で恵美に薄く笑みを向ける。


 そして、軽く鼻を摘まんでじるように引っ張る。


「痛い痛い痛い‼」


 顔を真っ赤にして痛がる彼女は、両手で腕を掴んで強引に離す。


「何するの!?」


「また大事なことを黙っていたお仕置き。あんたって、本当に面っっっ倒臭い女ね」


「面倒臭いって何!?」


 いつもの調子で反抗してくる恵美と、私たちの様子を止めずに静観する成瀬さん。


 止めに入る人が居ないため、半眼で指をさす。


「良い?そう言うのは1人で抱え込むことじゃないの。協力してくれようとした久実ちゃんにも悪いし、一緒に後押ししようとしたあたしにも失礼でしょ。ちゃんと言わなきゃいけないことを伝えないから、こう言うことになるのよ。折角の時間が無駄になったじゃない」


「そ、それは……本当に、ごめん」


「まぁ、新森さんの場合は強引過ぎたから、あの子に関しては謝る必要はないと思うわね」


 決して恵美1人が悪いわけじゃないとフォローする成瀬さん。


 そこに関しては、あたしも反省する所だとは思う。


 だけど、今は恵美と円華くんの話。


「こうなったら、本番は明日に持ち越しね。今日はイヴだし、クリスマスって意味じゃむしろ、明日の方が良いかも」


「で、でも、明日になったって、私……」


「大丈夫、あたしに考えがあるから。意識してなくたって、少しは状況が変わるわよ」


 自信がない様子を見せる恵美に対し、あたしは先ほど思いついたことを2人にだけ聞こえるように小声で伝える。


 すると、恵美も成瀬さんも目を見開いてしまう。


「住良木さん、あなたって人は……。本気?」


「そ、そそ、そんなことしたら、円華が逆に…‼」


 顔を真っ赤にして動揺する恵美に対して、あたしはからかうような笑みを向ける。


「え~?何~?もしかして、心配?だったら、恵美も一緒に来れば良いじゃない。あたしはな~んにも、気にしないから。あたしが変なことをしないか、監視は必要でしょ?」


 近くに居ざるを得ないように挑発すれば、彼女は頬を膨らませる。


「……わかった。私は近くで、ちゃんと見てるから」


「それで良いのよ。その方が、彼の気持ちだってわかるりやすいわ」


 成瀬さんは「私はパス」と言って、観客は恵美だけになることが決定した。


 円華くんを見れば、あたしは少し心臓の鼓動が速くなった。


 ごめんね、恵美。


 あんたと円華くんのためって言うのもあるんだけど、ちょっと、この状況を利用させてもらうわ。


 あたしが、もう1つの意味で自分の殻を破るために。



 ーーーーー

 円華side



 時間は20時30分を回り、クリスマスパーティー終了。


 クラスメイトがそれぞれのグループにまとまって帰る中、俺は教室に残され、久実によって強引に片づけを手伝わされている。


 ったく、あいつ、気を遣わねぇ相手はとことんこき使おうとしやがって……。


 恵美や成瀬、麗音、基樹はもちろんだけど、真央と仲川先生も残って席の移動やゴミの回収などをしてくれている。


 岸野の野郎は、終わると同時に「仕事が残ってる」って言ってそそくさと職員室に戻っていきやがった。


「いやぁ~、楽しかったですね、クリスマスパーティー‼来年もまたやりましょうよ‼」


 仲川先生が陽気にそう言えば、久実が調子に乗って「おー‼もちろん、やるぞー‼」と返事をする。


 来年もこんなどんちゃん騒ぎをすんのかよ。


 また強引に巻き込まれるのは御免ごめんだぜ。


「椿くん、これもお願いします」


「はいはい」


 俺はゴミ回収係をしており、ゴミ袋を持って教室中を回っている。


 アクセサリーなどを回収している女子たちの邪魔をしないようにしながら動いていると、基樹が回収した紙皿の山を持って近づいてくる。


「これも……頼むわ」


「お、おう」


 顔を見ずにゴミを入れていくので、こっちもぎこちなく返事をしてしまう。


 この気まずさ、近いうちにどうにかしねぇとな。


 俺たちの様子を見て、成瀬が基樹を呼び出す。


「基樹くん、天井の画びょうを取るのを手伝って。届かないの」


「え?あ、わかったー!」


 あいつはすぐに離れていき、脚立きゃたつに昇ってそそくさと行動する。


 何だ?成瀬に呼ばれただけで、目の色が変わったような気がする。


 いや、俺との気まずい空気に耐えられなかっただけか。


 片づけは順調に終わり、教室の状態も2学期終了時と同じものになる。


 俺もゴミの回収が終わると、容量がいっぱいのゴミ袋が5個もできた。


「じゃあ、そろそろ僕らも帰りましょうか。みなさん、今日はありがとうございました。楽しかったです」


 真央がいつもの王子様スマイルで言えば、それぞれの返事をし、俺はゴミ袋を持って先に歩き出す。


「これ捨ててくるから、俺はここで。じゃあな」


 1人で行くつもりで1つずつ手に持っていくと、最後の5つ目の袋を麗音が持った。


「私も持っていくよ。1人じゃ大変だよね?」


「……勝手にしてくれ」


 要らないと言ったら後が恐かったため、恵美たちから離れて2人で歩く。


 その時に恵美が少しうれうような表情をしていたのが、少し気になった。


「どう?今日のクリスマスパーティー、楽しかった?」


 グループから離れれば素に戻り、パーティーの感想を聞いてくる。


「楽しいも何も、今日は入江の付き添いだったしな。来年やるなら、妙な役回りもなく自由にさせてほしいもんだぜ」


「それはお疲れ様。入江くん、楓ちゃんと上手くいくと良いよね」


「あいつが変に暴走しなきゃ大丈夫だろ。客観的に見ても、相性は悪くないんじゃねぇの?」


「そうだねー」


 その後もパーティーのことで他愛ない話をし、そのままゴミ捨て場に到着しては5つの袋を指定の場所に置いていく。


 そして、俺はそのまま帰ろうとしたけど、その前に彼女に「待って」と呼び止められた。


「何だよ?こっちはもう帰って寝たい気分なんだぜ?」


 正直、余計な気を遣ったせいで疲労が半端はんぱじゃない。


 すぐに帰りたいという意思を示そうとしたが、麗音と目が合えばその言葉をグッと飲み込んだ。


「……大事な話があるんだけど、場所、変えて良い?」


 彼女のその真剣な表情から、軽い気持ちで拒否したらダメなのを直感した。


 そして、俺は頷いて麗音の後ろをついて行った。


 案内された場所は校庭。


 ここは、俺と彼女にとっては因縁がある場所だ。


「覚えてる?この場所で、あたしが円華くんに負けた時のこと。あの時は、本当に……あたし、情けない顔をしてたよね。調子に乗って追い詰めようとしたら、あんたには通じなくて、泣きながら命乞いをして……冷たい目で、刀を振るわれた」


 当時のことを思い出すように、周りを見渡しながら言う麗音の表情からは、どんな感情を抱いているのかは読み取れない。


 年が明ける前に、あの時のことで恨み言を言いたいかと思ったが、その表情からは怒りは読み取れない。


 逆に黄昏ているように、おだやかな笑みを浮かべている。


「ねぇ……気づいてた?あの時、あたし、恵美と戦いながら言い争ってたんだ。今考えたら、凄くくだらないことで」


「……くだらないこと?」


 その時のことを思い出すと、俺は初めて使う白華で操られている生徒を薙ぎ払うので精一杯であり、廊下の窓から飛び降りたのは覚えてる。


 だけど、その間に2人が話していた内容については、今更だけど気にしている余裕はなかった。


 今は無いスタンガン型の異能具を掴んでいた右手を見つめた後、俺を見て口元を緩ませる。


「あんたのことで……言い合いになってた。女王蜂の針を使えば、あんたを手に入れることができるって思ってたけど、恵美にあんたは物じゃないって真っ向から否定されたよ。今ならわかるんだ、あの時の恵美の言葉の意味が。痛いくらいにね」


 自身の胸に手を当てて呟く麗音は、少しずつ口から出す言葉に力を込めていく。


「それだけ、俺の力が必要だったってことだろ?あの時は組織の一員だったんだ。そう言ってても、しょうがなかったんじゃねぇか?」


「……やっぱり、あんたは、そう言うよね」


 期待通りの言葉に満足しているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。


 麗音は悲しげな表情を浮かべて、一歩前に足を進める。


「そうじゃないよ、そんなんじゃない……。あたしはね、円華くん?菊池さんを殺した時は、確かに自分に危機感を感じたからやってしまった。だけど、恵美の時はそうじゃないの。……あたしは、後から出てきたくせに、あたしからあんたを奪うように一緒に居るあの子が……うらやましかったんだ。居なくなれば良いなんて、バカなことを思うほどに」


 麗音は、両目に涙を浮かべて言葉を続ける。


 それに比例して、俺はこの場から逃げたいような感覚に襲われるが、彼女の目がそれを許さない。


「どうしてかな……。こんな気持ちになったの、初めてだった。初めて、この学校で本当のあたしを見ても受け入れてくれる存在が、あんただったから……。いつからか、この気持ちが強くなって……抑えきれなくなって……いったんだよね」


 その気持ちが何なのかを、理解することを躊躇ためらってしまう。


 止めろ、そこから先は言わないでくれ。


 心の中でそう言おうとも、彼女には伝わらない。


 そして、口に出そうとしても、言葉が出てこない。


 ただ、立ち尽くして麗音の次の言葉を待ってしまっていた。


 そして、彼女は両手を自身の胸に当てて言った。


「椿円華くん、あたしはずっと、あなたのことが好きでした」

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