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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
振動する冬休み
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クリスマスパーティー 仲間の証

 案の定、教室に戻れば、久実がご立腹だった。


 腰に手を当てて仁王立ちで怒る彼女は、ビシッと指をさしてくる。


「30分近くも野郎2人でどこに行ってやがったんだ、コラー‼」


「いやー、俺たち偶然、同時に腹を壊してぇ―――」


「そんな言い訳が通用するかー‼集団行動もできんのかー‼」


 いつもの通り、ムキャー‼と言って怒りをアピールし、離れて席に着いている基樹と成瀬にもジト目を向ける。


「基樹っちも瑠璃っちも抜け駆けするし、円華っちのみならず、真央っちまで‼フリー過ぎるよ‼もうちょっと、クラスの交流を楽しもうよ‼もっと、熱くなれよー‼」


「おまえは逆に暑苦しいわ」


 俺たちの後ろから岸野先生が声を出せば、彼女は目を見開いた。


「えっ…先生、何でここに!?25回誘っても、『面倒くせぇ』の一点張りだったのに‼」


 いや、25回も誘ってたら鬱陶うっとうしいだろ‼


 押してダメなら引いてみろって言葉を覚えろ、こいつは。


 彼は目を横に向け、隣で軽く手を振っている仲川先生に視線を向ける。


「こ、こんばんはぁ~。お呼ばれしてないんですけど、来ちゃいましたぁ~」


 場違い感を恐れているのか、彼女は苦笑いを浮かべている。


「おー‼先生が2人も来るなんて、とんだサプライズだよー‼」


 テンションが上がる久実は、教室の中のみんなに声をかける。


「みんなー‼岸野先生が仏頂面ぶっちょうづらを引っ提げて来てくれたぞー‼あと、美人の仲川先生も‼」


 先生の来訪に対して、ほとんどのクラスメイトが集まっては先生も渋々教室に入る。


「おまえらなー、そんな条件反射で集まってくるなよ。余計に暑苦しい」


「そう言って嬉しいくせにぃ~。先生ったらツンデレなんだからぁ~」


「おい、新森。3学期始まったら覚えとけ。おまえだけ課題を倍にしてやる」


「そ、そそ、そりゃぁないよぉ~‼」


 久実と先生の様子を見て、クラスメイトたちは可笑おかしそうに笑う。


 相変わらずのクラスの様子を見ながら、仲川先生は微笑ましそうな眼差しを向ける。


「……やっぱり、岸野先生は生徒たちの前だと輝いて見えますね」


「そうっすか?そんなに変わらんねぇように見えますけど」


 自然と言葉に反応すれば、彼女は俺にも恐る恐る視線を向けてくる。


「えーっとぉ……椿円華くん、ですよね?」


「あ、はい、そうですけど。何か?」


「い、いや、その‼学園内でも有名な生徒さんだから、どんな人なのかなぁ……って思ったんですけど。普通な感じで安心しました」


 安堵の息をつく先生に対して、乾いた笑いを浮かべてしまう。


 いや、俺って教師からも変な印象抱かれてるのかよ。


 つか、この人、生徒に対しても腰が低いな。


 仲川先生と一緒に傍観者を決め込んでいると、岸野が恵美の居るテーブルのお菓子の束を見て半眼になる。


「おまえら、クリスマスパーティーって言う割には質素なことしてるんだな」


「し、質素って……これでも、みんなでお金を出し合って用意したんだよ?」


「全く、見てられないな。聖夜を祝うなら、もう少し体裁は保ったものを用意しろ」


 恵美が抗議するように頬を膨らませて言えば、先生は頭の後ろを掻いてスマホを取り出してはどこかに電話をしては、それが終わると手を軽く上げて注目させる。


「クリスマスって言ったらチキンだろ。今、注文した。今日は俺のおごりだ」


 チキンと言うワードに、男子を中心に歓喜の声が上がる。


「先生、最高ー‼」


「流石は先生、太っ腹ー‼」


「愛してるー‼」


 喜ぶ生徒たちの顔を見て、口角が緩んではまんざらでもない顔を浮かべる。


 そして、恵美が素気なく隣の空いている椅子を引く。


「先生も食べてくんでしょ?ここ、座って良いよ」


「おまえなぁ……。仕方ない、上から目線なのは、今日は大目に見てやる」


 促されるままに先生が椅子に座れば、男女関係なくクラスメイトが周りに移動する。


 クラスの交流はどこに行ったのか、岸野先生が来ただけで彼を中心とした輪が形成されていく。


 嫌々ながらも、生徒たちとコミュニケーションを取る姿に対し、一瞬だけ岸野の姿が姉さんと重なった。


 幻想の中の彼女は、生徒たちに無邪気な笑みを見せていた。


 姉さんが教師をしていた時も、こうやって生徒たちに受け入れられていたんだろうな。


「椿くんは、あの輪の中に入らなくても良いんですか?」


 立ち尽くしている俺に気を遣って、仲川先生が聞いてくる。


「俺はそんながらじゃないんで。それに……こういう光景を外から見るの、意外と嫌いじゃないんですよ」


「……そうですね。そう言う顔してます」


 微笑んだ顔で見透かされては、口に手を当てて視線を逸らす。


「俺、そんなわかりやすい顔してますか?」


「そんなことは無いと思いますよ。私がただ、人生経験上、人の顔色をうかがうのが得意なだけですから」


「いい特技だと思います」


「ありがとうございます‼」


 俺の言葉を素直に受け取る所から、純粋な人なんだろうな。


 何でこの学園で先生やってるんだろう。


 学園のやり方として、この純粋さと合いそうにないと思うけど。


 クラスメイトと先生が談笑を楽しんでいるのを見ていると、20分後にフライドチキンの宅配サービスが到着した。



 ーーーーー



 グループに戻ってチキンを食っては、脂っこい味が食欲を刺激してくる。


 グループごとのテーブルにチキンボックスが置いてあり、クラスメイトたちがチキンにかぶりついている中、久実が廊下から戻ってきて、その手には7段ホールのケーキを両手で持ってバランスを取っていた。


 見てみると、7つの段数で別々のケーキになっているらしい。


「待たせたにゃー‼お待ちかねのケーキだぞっ…とぉー!?」


 上を見ながら運んでいると、足を滑らせて転びそうになる前に真央と伊礼が彼女とケーキを持つ手を支えた。


「大丈夫、久実ちゃん?」


「せ、瀬奈っちも真央っちもセンキュー。危うく、最後の最後でやらかす所だったぜー」


 ケーキを近くのテーブルに置き、さっきの失態未遂を忘れたようにドヤ顔を向ける。


「見よ、このスペシャルケーキを‼チョコレートケーキからストロベリーケーキ、ブルーベリーケーキなどを全部合わせた特注品よー‼こっからはケーキパーティーだぜー‼」


 ケーキパーティーと言うワードに対し、麗音が思わず口を押さえるのを横目にとらえる。


「おまえ、どうした?」


「あたしはケーキは良いわ。今年はもうこりごりかも」


 そう言って恵美の方に視線を向けると、彼女もスペシャルホールケーキを見ては死んだ目になっては苦笑いを浮かべている。


 そんな2人の気持ちも気づかず、久実は1つずつケーキを切り分けては人数分配っていく。


 俺の元にはチョコレートケーキが届き、フォークも渡される。


 普通のケーキなんて食べるのはいつ以来だろうな。


 こういうのを食べるのは、正直柄じゃねぇし。


 それでも、空気を読んで食べるけどさ。


 麗音にもショートケーキを問答無用で渡されてしまい、恨めし気にケーキを凝視している。


 しょうがねぇから、後でもらってやるか。


 そして、ケーキが全員に行きわたるのを確認した後で久実は小袋を出しては中を開ける。


「みんながケーキ食べてる間に、可愛い可愛い久実サンタちゃんがプレゼントを配っていきまーっす‼喜んで受け取れい‼」


 恩着せがましいサンタだな、おい。


 久実が個別に配っていくのは、遠目から見てもバッジだとわかる。


 クラスメイトの1人1人によってデザインは異なるようで、俺の番になれば、渡されたのは犬のイラストが描かれていた。


野良犬のらいぬスタンプかよ……」


「ん?何か言った?」


「いーや、何でも」


 ここで変に文句を言ったら、また怒りを買いそうだから受け取っておいた。


 まぁ、犬ってイメージは別にわからなくもねぇけどさ。


 つか、この犬、目付き悪ぃーな


「これ、仲間の証だからね!無くしちゃダメだぞー?」


「おいおい、なんつー重いプレゼントだよ」


 無くしたと言ったらマジでキレそうなほど、久実は笑顔で圧をかけてくる。


 麗音や入江、坂木のバッジも久実のセンスのおかげかどこかにツッコミポイントがった。


 それを無邪気に渡す久実の様子から、文句を言うのははばかられる。


 まぁ、俺が言わなくても、誰かに絶対に抗議受けるだろ。


 その時に自分のセンスを見つめ直して欲しいもんだけどな。


 時計を見れば、もう20時前だ。


 お菓子とチキンとケーキを食べ、楽しい時間を共有したクリスマスパーティーも、そろそろお開きの時間になる。


 この時間で俺が手に入れたプレゼントは、久実から渡された仲間の証であるバッジだけ。


 目的としては、入江の付き添いで来ただけだし、何かもらえただけ良しとするか。


 そう言えば、パーティー中に何度か恵美と目が合ったような気がしたけど、何か用事でもあったのか…。


 あとで聞いてみるか。


 多分、パーティー中に自分をないがしろにしていたことを気にしているだけかもしれねぇけど。


 その時は素直に、入江のことを話して納得してもらうか。


 期せずして担任や他の教師も合流することになったクリスマスパーティーだが、結果的には成功ってことで良いんじゃないかと客観的には思う。


 それぞれのグループでの会話に花が咲いているのを見て、さりげなく岸野先生に歩み寄る。


「無理矢理連れて来られたって雰囲気出してたけど、意外と楽しんでますね」


「そう見えるか?」


「少なくとも、仲川先生にはそう見えてるみたいっすよ」


「楽しいかと言われたら、それは否定しない。しかし、戸惑う想いも少しはある。ここに居る資格が、本当に俺にあるのかってな」


 自分に対して場違い感が否めないのか、サングラスの奥の目ははかなげだ。


 それに対して、『そんなことない』なんて軽々しく言うことは俺にはできない。


「先生がそう思うなら、それで良いんじゃねぇすか。心の中で何を思っていたって、それが表に出なかったら別に誰も何も言いませんよ。思ってる分には勝手ですし」


「ふっ……ガキがわかったような口をきく」


 口角を上げては俺に鋭い横目を向けてくる。


 その右手の上には、久実に渡されたバッジが置いてある。


「久実のやつ、先生にもそれを渡したんすね」


「ああ、どうやらあいつの中で、俺はこういうイメージらしい」


 岸野先生が渡されたのは、たかのデザインのものだった。


「良かったじゃないすか、鷹ってカッコいいし」


「おまえのことだから、皮肉を言うと思っていたが、素直に褒められると逆に気持ち悪いな」


「えー、酷ーい、本心なのにー。泣いちゃうー」


 棒読みで言えば、先生はジト目になる。


「前から思っていたが、おまえのその取ってつけたようなキャラは本当に背筋が凍るほどに恐怖を覚えるから止めろ」


「はいはい、気を付けまーす」


 2人で教室の様子を見ていると、1人1人に注意が向く。


 もうグループ分けは関係なくなっており、それぞれが好きな席に移動して楽しんでいるのがわかる。


 恵美は麗音や成瀬と一緒の席に行き、思うように話せなかった鬱憤うっぷんを晴らすように2人と話している。


 基樹は真央や伊礼と一緒に久実の相手をし、いつもの陽気さを見せている。


 入江の方も、坂木との距離が近づけたことに満足しているのか彼女が女友達の元に行った後で腑抜ふぬけた顔になっている。


 あとで川並たちに自慢でもするんだろなー。


 そして、俺にも何かしら言ってくるだろうことが目に見える。


 途中参加の仲川先生は女子たちに囲まれ、コミュニケーションを取りながら距離を縮めようとしている。


 それぞれがそれぞれの時間を過ごす中で、俺と岸野先生は一歩引いて見ているだけで十分だった。


「この光景の中に、あいつが居たらどうだったんだろうな……」


「……多分だけど、あんたと同じ気持ちになっていたと思う。それを胸に秘めながらも、誰かのために笑っていたんじゃねぇか?」


「もしそうなら、俺はやはり、あいつにはおとる教師なんだろうな……。俺はあいつらに、あいつのような笑顔を見せることはまだできそうにない」


 自分と姉さんを比較する言い方をする岸野先生。


 そこには深く踏み込むつもりは無いけど、俺の率直な考えは伝えておく。


「誰も姉さんのようにはできねぇよ。姉さんは姉さんだし、あんたはあんただ。あんたは教師として、自分のできることをしていってくれよ」


「……生徒の分際で、偉そうな口をきくもんだ」


「多分、姉さんがここに居たら、そう言う言葉をかけるんだろうなって思っただけだ。俺の言葉じゃねぇよ」


「それだとしても、公私混同はいただけないな。口の利き方には気を付けろよ」


「以後、気を付けまーす」


 反省を一切感じさせない返事をすれば、先生は「まったく」と言って呆れる。


 そして、姉さんのことを話題に出したからか、話が切り替わる。


「2日後、だな…」


「なんだよ。あんたも知ってたのか」


「当然だ。仮にも1度は祝おうとしたんだからな」


 祝おうとしたってところから、実際にはそうしてねぇんだろうな。


 当然だ、姉さんはそう言うのを望む人じゃなかったから。


「椿……その日に、おまえと話がしたい。時間を作ってくれ」


「……考えとく」


 クリスマスパーティーが終わる間際まぎわ


 俺たちは、2人にとって大事な人の生まれた日に会う約束を交わした。

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