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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
振動する冬休み
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クリスマスパーティー 開幕

 円華side



 時間は5時30分を回り、集合場所のEクラスの教室に移動すれば、既に数人のクラスメイトが集まっていた。


 その中には恵美たちは居なかったが、代わりに俺を待ちわびていたと言わんばかりに入江が迫ってきた。


「何してたんだよ、椿ぃ~~~‼来るの遅い‼」


「いや、集合時間は6時だろ?逆に早いぐらいじゃねぇか」


「俺とおまえの場合は、そうじゃないの‼……はぁ~、こんなんで大丈夫かなぁ、この後」


 時間が迫ると共に焦りが大きくなる入江とは反対に、俺は冷静さを貫いて周りを見る。


 とりあえず、まだ坂木は来ていないみたいだな。


 教室の中を見ると、既にセッティングは終わっているようで机の配置などもグループごとに分かれており、青やピンクのテーブルクロスの上に袋詰めのお菓子と数字が書かれた札が1つずつ置かれている。


 閉まっているカーテンや壁の飾り付けもクリスマスを意識したものになっており、どこから持ってきたのかクリスマスツリーが中央に自己主張するように置いてある。


「なんじゃ、こりゃ……。あいつ、どれだけ気合入れてんだよ」


 そわそわしている入江もそうだけど、クラス内に居る男女のほとんどが気が気でない様子だ。


 久実の聞き取り調査の影響か、恋愛の相手を探す目的が大きいのかもしれねぇな。


 俺は入江の付き添いだから、そう言う狙いは一切ないけど。


「な、なぁ、ちゃんと麗音ちゃんには話してくれたんだよなぁ?なぁ!?」


「そんな心配しなくても、ちゃんとあいつからの協力は得られるようにしたって。あとはおまえが、坂木とどうやって距離を詰めていくのかが大事なんじゃねぇの?」


「そんな他人事みたいな言い方すんなよぉ~」


 肩を落として嘆く入江の肩にポンッと手を置く。


「まぁまぁ、俺もできる限りはフォローするつもりだし、麗音を信じて当たって砕けろ」


「砕けたくないから、こんなに緊張してるの‼」


 涙目で怒ってくるのをどーどーとなだめ、教室の端で立ち尽くしていると成瀬や恵美、そして基樹が教室に到着するのが見えた。


 そして、俺を見つけるとまっすぐに近づいてきた。


「あなたが先に来ているとは思わなかったわ。てっきり、時間ギリギリに面倒くさいというオーラ全開でやってくるものかと」


「多分、いろいろな事情が重ならなかったら、おまえの言っていたような気がするぜ」


 入江に視線を移して成瀬にアイコンタクトをすれば、『なるほど』と言うようにゆっくりと瞬きをしては口角を上げた。


「つか、おまえこそこういうイベントに積極的に参加するようには思えねぇんだけど?」


「私としても、本来ならばプライベートで人が集まる場所は苦手なのだけど、クラスの交流を促すということなら、参加しないわけにはいかないわ」


「流石はクラス委員様。頭が下がる」


 成瀬の後ろの恵美と基樹を見ると、2人の間には壁ができているように気まずそうな表情をする。


 基樹にいたっては、俺と目を合わせようとしない。


「気乗りしなそうな奴って言ったら、おまえもばっくれるんだと思ってたぜ、恵美?」


 名前を呼べば、あいつはビクッと肩を震わせては視線を逸らしてボソッと呟く。


「仕方なく……だから…」


「何だよ、歯切れ悪いな」


「ほ、放っといて」


 妙に不機嫌って言うか、ソワソワしてるのは何でだ?


 まぁ、恵美も純粋にクリスマスパーティーを楽しみにしてたって所かもな。


 いつもみたいに3人と雑談する空気になりそうになったが、その前に業を煮やして入江が俺の腕を掴んで離れさせる。


「俺をのけ者にするなよぉ‼」


「いや、してねぇよ。つか、本当に落ち着けって。始まる前からそんなりきんでたら、後から気が持たねぇんじゃねぇの?」


「そ、それはそうだけどさぁ~」


 人差し指を合わせてモジモジしている入江。


 こんな弱気で、よく俺に協力してもらおうとか考えたな、おい。


「とりあえずさ、坂木の様子を見ながら、おまえの自由にやってみたら良いって。ガチガチに緊張していると、逆に警戒されんだろ」


「そう、だよな。勇気を出して、男らしい所とか見せねぇとだよな‼」


 自分に言い聞かせている所からして心配だけど、こいつが暴走しないようにブレーキ役になるしかないか。


 そんなことを考えていると、入江の待ち人が麗音と共に教室に入ってきた。


 クラスの人気者は俺に気づいては、軽く手を挙げて挨拶しただけにとどまった。


 隣に居る坂木の様子を見ると、彼女はこういう場が苦手なのか、あまり良い表情をしていない。


「さ、坂木さん……今日も可愛いなぁ~」


「あー、はいはい、心の声が漏れてるぞー?」


 本人を目の前にした瞬間、これだよ。


 パーティーが始まったら、どうなるのか想像もしたくねぇよ。


 時間が近づくにつれて、徐々にクラスメイトが集まっては6時を回る。


 すると、部屋の電気が急に消えては急に真っ暗になり、黒板の前だけが照らされる。


「よく来たな、良い子たちよ。今日は聖なる夜、クリスマス‼さぁ、存分に祝おうではないかー‼」


 扉が勢いよく開き、教壇の上に赤と白のサンタの衣装をした久実が肩に大きな袋を担いでは仁王立ちで立つ。


 そして、その反動だろう。


 スカートがめくれ、若干下着が見えた。


「きゃっ‼」


 パッとスカートを下に押さえ、恥ずかしそうにうつむいては顔を上げられない様子。


 ったく、開始早々で空気を重くしてどうすんだよ。


 空気を読んで目を逸らす男子と、苦笑いを浮かべて事の成り行きを見守る女子たち。


 久実は恥ずかしさを誤魔化すためにゴホンゴホンッと大袈裟おおげさな咳払いをしては、何事も無かったようにピースサインをする。


「おーっす、良い子のみんなー‼サンタさんが、みんなへのプレゼントを持ってきてやったぞーい‼」


「……随分とガキっぽいサンタだな、おい」


「はい、そこの童顔くん、シャラーップ‼プレゼントあげないよ‼」


 ボソッと呟いたのが聞こえたようで、早速注意されてしまった。


 反省を生かしてスカートを押さえながら教壇から降りれば、部屋の電気がついた。


 そして、真央が教室に入ってきては久実に確認する。


「こんな感じで良かったですか、新森さん?」


「おー!真央っち、グッジョブだぜい!イェイ‼」


 電気係は真央だったのかよ。よく協力したな、あいつ。


 彼にサムズアップを向け、みんなに視線を戻す。


「さぁさぁさぁ‼待たせたな、みんなー‼クリスマスパーティー、はじめっぞー‼」


 元気いっぱいにパーティーの始まりを宣言すれば、それにノリのいいクラスメイトは「おー‼」と返す。


「今日は男女の交流を目的にしてるってこともあってー、テーブルごとに男女で座っちゃってくださーい‼決まらなかったら、くじ引きだかんなー」


 久実の指示に従い、俺と入江はとりあえず4人席に座って2人の女子を待つ。


 すると、それを待っていたように麗音と坂木が寄ってきた。


「円華くん、良かったら隣に座っても良いかな?」


「え?あ、ああ。俺は別に良いぜ。入江も良いよな?」


「お、おお、おう‼だだだ、大丈夫‼」


 緊張が顔に出ており、挙動不審きょどうふしんになっている。


 そして、そんなこいつを見て、坂木が怪訝な表情になる。


「あの……入江くん、体調が悪いんですか?顔から汗が出てますけど…」


「だ、大丈夫だって‼さ、ささ、さぁ、坂木しゃん、座って座って」


 麗音が俺の隣に座ったので、自然と坂木は入江の隣に座る空気になるが、どこかぎこちない空気になる。


 坂木が隣に座っただけで、あいつは背筋をピーンっと伸ばして固まってしまう始末だ。


「ねぇ、彼……大丈夫なの?」


 坂木が入江に心配する目を向けている内に、麗音が小声で聴いてきた。


「大丈夫に見えるかよ、あれが。ちゃんと俺らでフォローしねぇと、入江の青春が一瞬で終わる勢いだぜ」


 苦笑いしながら答えれば、彼女はそれを受けて優等生モードに戻る。


「入江くん、そう言えば最近、ギターは練習してる?」


「ぎ、ギター!?ま、まぁ……時々。最近、また好きなバンドが新曲を出したから、それの練習をね」


「入江くん、ギターを弾けるんですね。凄いです!」


 隣に座っている坂木が無邪気な称賛をすれば、入江は激しく手と首を横に振る。


「そ、そそ、そんなことないって‼俺、まだまだそんなに上手じゃないし‼」


 全力で激しく否定されては、謙遜けんそんのレベルを超えて不快感を与えてしまうだろ。


 ったく、入江のやつ、てんぱり過ぎだぜ。


「そう言えば、入江の好きなバンドって有名な奴だっけか?」


「ああ、うん、AOZORAってグループだよ。新曲の動画を出したら、再生回数が1日で100万超えるような、今イチ押しのバンドなんだ」


「そのバンド、私も知ってます。新曲の『ストライク・バード』、とても良かったですよね?」


「え?坂木さん、あれ聞いたの!?」


 話のとっかかりが見つかり、好きなことの話になるとすぐに緊張がほぐれて饒舌じょうぜつになる入江。


 2人が話に集中しているのを見て、こっちも自然と2人で話す流れになる。


「なぁ、これって本当に偶然か?」


「そんなわけないでしょ。入江くんがAOZORAが好きなのは知ってたから、楓ちゃんにそれとなく、この前あった時にすすめてただけよ」


「用意周到なことで」


 おかげで、入江の緊張はほぐれて、スマホを取り出しては音楽の話で花を咲かせている。


 このままの調子なら、当初の目的通りに友達になることはできるかもな。


 そうなると、俺たちの仕事はもう無くなるわけだけど……。


 これ、俺が居る意味絶対に無かったよなぁ。


 入江と坂木が談笑しているのを見ていると、麗音に「ジュース取ってきて」と言われ、仕方なしに立ち上がって前のテーブルに移動する。


 テーブルの上には多くの種類のジュースが置いてあり、紙コップを4つ用意してオレンジジュースを注いでいると、隣に気まずそうな顔を浮かべる恵美が近づいてきた。


「……何つー顔してんだよ、おまえ」


「くじ運が悪かった。グループで特に話すこと無くて、お見合い状態だよ」


「じゃあ、ご趣味は?って聞いてみたらいいんじゃねぇの?」


「そう言う問題じゃないし。……円華の所は、麗音と仲良くやってるの?入江の方は上手くいってる?」


「遠目で見ててもわかるだろ。多分、上手くいってるんじゃねぇの?」


「……そう言う風には、私には全然見えないけど」


 恵美が麗音たちの方にジト目を向ければ、入江の必死の圧に対して坂木と麗音がもう苦笑いになってるのがわかる。


 やべぇ、ここは俺がブレーキかけるしかねぇか。


「ちょっと、戻るわ。おまえの方も、少しは俺たち以外とも話せるように頑張れよ?」


「余計なお世話。……だけど、うん、頑張って……みる」


 他にも何か言いたげだったけど、入江が気になってそれどころではなく、恵美から離れて席に戻った。


 とりあえず、その後は入江のブレーキ役になりながら、坂木の話を麗音が引き出すという形で場の温度調節の役に回っていた。


 周りの奴らと違って、俺には色恋沙汰いろこいざたの縁は今回はねぇみたいだな。

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