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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
振動する冬休み
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晒される歪み

 ???side



『新世代の力が必要になる』


 奴はそう言って、俺をこの場所に導いた。


 それが何を表しているのかを、初めは全く理解できなかった。


 しかし、ガキどもとディアスランガの遊びを見て気づいたことがある。


 奴は俺たちの時とは違うやり方で、ガキどもを成長させようとしている。


 そして、その期待を知ってか知らずか、あいつらの力は底が知れない。


 まだまだ発展途上であり、その力は俺たちの届かなかった領域に近づくかもしれない。


 これから先、この挫折ざせつをあいつらがどう乗り越えていくのか。


 その道の先にあるのは、栄光か破滅か。


 それを決めるのは、あいつら次第だ。


 霧が広がる商店街の中、目線の先に異様な人影が映る。


『ミストカーテンを展開して様子を見に来れば……これは幻か?』


 純白の鎧に蒼のマントで身を包んだ騎士の姿をしている。


 白騎士に歩みよりながら、パンパンパンっと手を叩く。


「こりゃぁ、面白いコスプレ衣装じゃねぇか。見た目だけなら、懐かしさすら感じるぜ」


 声をかければ、奴はマントを右手でひるがえして突撃を仕掛けてくる。


 跳躍ちょうやくして右脚で回し蹴りを仕掛けてこれば、それを右手を突き出して払う。


「良い一撃だ。中々やる」


『おまえは……ここに居てはならない存在だ…‼』


 怒気をはらんだ声を発し、受け止めた右脚を軸に身体を捻じっては左足に緑の炎をまとってもう一撃を入れてくる。


 それは俺の右頬に直撃するが、その時に奴は『っ!?』と兜の下で息を飲む。


「確かに良い一撃だ。だがぁ……あのバカにはおよばない」


 蹴りを受ける時には、変身は終えていた。


 身体の上に、赤黒く刺々(とげとげ)しい西洋の鎧を身にまとい、豹の髑髏のフェイスガードが拳を受け止めている。


おせぇぞ、ディアスランガ」


『うるせぇ、直近でガードしてやったんだから礼ぐらい言いやがれ』


 身体が悪魔のように変化していくのを目撃し、白騎士は大きく後方に下がる。


 顔に付着した火は、左手の甲でぬぐえばすぐに消える。


『20年も昔の亡霊が……今を生きる者たちに干渉するな』


「勘違いするなよ。俺はおまえらの邪魔をするつもりはねぇよ。むしろ、おまえのファンなんだぜ?」


 魔人態となり、臨戦態勢には入らずに仮面越しに澄ました顔を向ける。


「精々、あらがってみせろ。おまえたちの内、誰が最後に笑うのか。楽しみにしているからよ」


 懐からワイヤーガンを取り出せば、地下の天井に向かって打ち込んでその場を宙に浮きながら離れる。


 白騎士はただ俺を見上げるだけで、追撃しようとはしない。


『魔王に会ったら伝えておくんだな。おまえにできないことを成し遂げるのは、真の王であるこの俺だと』


「……やれるもんなら、やってみろ」


 商店街を上から俯瞰ふかんして見れば、霧が晴れては大人がぞろぞろと入っていく。


 意識を失ったガキどもも、奴らが回収するだろう。


 人間の群れの中で、一際目立ひときわめだつ銀色の髪を少女が視界に入ってはサングラスを外して凝視する。


「あれから16年。本当に、おまえは後悔していないのか?――――最上ぃ」


 俺たちの物語は、とうの昔に終わっている。


 これは新世代あいつらの物語だ。


 ここから先、奴らが突き進む先に何が待ち受けているのか。


 何を選び、何を失うのか。


 奴らが掴むのは希望か絶望か、それとも別の何かか。


 あいつらには、俺たちの知らない何かを掴む可能性がある。


 悪戯の神の血脈が、気まぐれを起こせば……な。



 ーーーーー

 円華side



 最悪だ。


 年が明ける最後の最後まで、俺はこうなる運命だったのかよ。


 まさか、聖夜の前にまた倒れることになるなんて思いもしなかった。


 意識を取り戻して、ベッドの上で目が覚めればそこは自室ではなく、どっかの施設の救護室だった。


 前よりはヴァナルガンドの力に対する耐性がついてきたのか、上半身を起こして身体の可動域を確認する。


 全体的に気だるさは残っているけど、動けない程じゃない。


「よぉ。目、覚めたか?」


 声が聞こえて隣のベッドを見れば、基樹が横になっていた。


「……気分はどうだ?」


「最悪。……がらにもなく、熱くなっちまったらこの様だ。嫌だねぇ、ほんっと」


 陽気さを取り戻している基樹の目は、正常に戻っていた。


 あの時のあいつの目は、一体何だったのか。


 いや、気になるのはそれだけじゃない。


「基樹、おまえ……魔鎧装の存在を知っていたのか?俺のヴァナルガンドと反応した、あの力は……」


「知るかよ、そんなの」


 そう言って、俺に横になったまま背中を向ける。


「鎧の方は、影の養成機関を卒業する時に教えてもらってたんだよ。……あれは、親父の形見かたみだったんだ」


「形見って……魔鎧装が?それなら、おまえの父親は――――」


「なぁ!……らしくなくね?俺がシャドーだって知っても、今まで深入りしてこなかったのに、こういう時だけ踏み込んでくるのかよ」


 顔は見せないけど、声を聞いただけで怒りを感じているのはわかった。


 都合が良過ぎるって話か。


 基樹だって、俺に対して疑問はあるはずだ。


 ヴァナルガンドを装着した時のあいつの驚愕の表情は忘れていない。


「……黙ってて、悪かった。ヴァナルガンドのこともそうだけど、俺たちはお互いのことを知らなさすぎるよな。おまえが聞いてこないから、話さなくても良いんだって思ってた。俺たちは仲間なんだ。だから……」


「このままで良いよ」


 互いに歩み寄ろうと手を伸ばそうとした瞬間、基樹はそれを拒絶した。


「おまえにはおまえの目的があるみたいに、俺にも俺の目的がある。そのためにお互いが必要だから、協力しているだけ。……それで良いじゃん。別に互いを理解しようとか、そんなのは別にどうでも良いだろ」


「はぁ?おまえ……何言ってんだよ?今まで、そんな風に思ってたのか!?」


 ベッドから立ち上がり、肩を掴んでこっちを向かせれば、その表情を見て目を見開く。


「思ってたら……悪いかよ?」


 その目からは光が消えており、哀しげな顔を浮かべている。


「いくら仲が良くたって、誰にでも互いに絶対に踏み入れられない部分がある。自分の全てを共有するのが友情かよ?他人の全てを知ろうとするなんて、相手を支配したいって思っているのと同じだぜ」


「支配したいわけじゃねぇ。俺はおまえのことを理解したいだけだ‼」


「理解されたいなんて思ってねぇって言ってんだよ‼」


 声を荒げる基樹は、俺に怒りの目を向ける。


「おまえが自分の力を隠すのは勝手だよ。だけど、俺はそれを知りたいなんて思わない‼おまえを理解したいなんて、思ってない‼だから、おまえも俺の事情に土足で踏み込もうとするなよ‼」


「基樹、おまえぇ…‼」


 拳を握って震わせると、あいつは先に俺を押しのけてはベッドからおりる。


「……悪いけど、円華。俺はおまえみたいに、恵まれてないんだよ。力の意味でも、心の意味でもさ」


 悲しい目を向けてそう言えば、基樹は椅子に置いてあった荷物をもって救護室を出て行った。


「俺の……どこが恵まれてるって言うんだよ…‼」


 あいつのことを追いかけることができず、行き場のない怒りを枕に拳を叩きこむことで発散する。


 この力があったから、俺は多くの人間から拒絶された。


 普通の人生なんて送ることもできず、誰かと共に居ても孤独を感じていた。


 それを救ってくれたのは、椿家のみんなと師匠、ラケートスだけだった。


 みんなが居なければ、俺はもう名実ともに怪物にちていた。


 俺は力に恵まれていたわけでも、精神的に強かったわけでもない。


 恵まれていた部分があるとすれば、そこじゃないんだ。


 だけど、それを基樹に言っても届かない気がする。


 今日、初めてわかった。


 あいつは何かにとらわれている。


 そして、俺たちにそれを明かすのを躊躇ためらっている。


 基樹も俺と同じだったんだ。


 仲間にも隠している何かがあって、それを知られることを怖がっている。


 それを俺が追及する資格があるのか?


 自分が人外の力を持った化け物だってことを、みんなに隠しているのに。


 口元に手を当てて考え込みそうになると、救護室のドアをコンコンコンっと3回ノックするのが聞こえた。


「また思い詰めた顔してる。悩みは絶えないね」


 部屋の前に立っていたのは恵美であり、その肩には白華の入った竹刀袋しないぶくろかついでいた。


「おまえ……何で?」


「何でって、ここに運んでくるように先生を通して救護班を手配したのは私なんだけど?」


 そう言って、部屋に入ってきては白華を返してくる。


「はい、相棒。ギャーギャーギャーギャーやかましいから、さっさと受け取って」


「あ、ああ、悪かったな」


 不満そうな顔で渡してきたのを苦笑いで受け取れば、ワンテンポ遅れて白華と彼女を交互に見る。


「・・・今、やかましいって言ったか?」


「うん。ヘッドフォンをしてたら、白華……って言うか、その中に居る魂?みたいなのが、ずっと獲物がどうとかうるさかった」


 そうか、恵美はヘッドフォンをしたら物の声が聞こえるんだったか。


 今は外しているから聞こえないだろうけど、着けてる時の異常さは半端はんぱねぇだろうな。


「……もしかして、おまえが商店街に白華を持ってきたのって、こいつの声が聞こえたからか?」


「そうだよ。いきなり、『小僧の所に連れていけ‼』って下の階から大声で聞こえたから」


 ヴァナルガンドの声が、恵美にも聞こえるのか。


 だったら、こいつの殺意も伝わったんじゃないのか?


『心配しなくても、この剣に居るうちは手も足も出ねぇよ。まぁ、その小娘は運び屋としては優秀だったぜ』


 俺の思考が伝わったのか、頭の中にヴァナルガンドの声が響く。


 おまえ、その娘を殺せとか散々言ってたの覚えてるか?


『こんな器におさまったんじゃ、奴隷は1人でも多い方が良いからな。俺様の声が聞こえる小娘は生かしておいてやる。俺様の気まぐれに感謝しろ』


 運んでもらったのに偉そうに。


 確かにこいつ、ギャーギャーうるせぇわ。


「……円華?」


 唐突に黙ったからか、恵美が怪訝けげんな顔で首をかしげる。


「あー、いや、ちょっと野良犬が生意気だなって思っただけだ。身体も動くようになってきたし、そろそろ帰るか」


 荷物を持って外に出る準備をすれば、彼女は隣のベッドを見て何かを思い出したような顔をする。


「そう言えば、狩野が何か不機嫌そうな顔だったけど、何かあったの?」


「……基樹と会ったのか?」


「会ったって言うか、見かけたから声をかけたんだけど、凄い怒った顔で睨まれた。あいつのあんな顔、初めて見た。それに……」


 何か言いづらそうに俯きながら、肩を震わせる。


「それに……何だよ?」


 気になったので促してみると、恵美は恐怖の表情で見上げて言った。


「何か……あの目は、誰かに似ていたような気がして……。ちょっと、恐かった」


「誰かって、そんな漠然としたこと言われたってわかんねぇよ」


 頭の後ろを掻きながら、さっきの戦闘で起きたことを振り返る。


 その中で、基樹関連のことでもう1つ引っ掛かってることがあった。


「デリットアイランドの関係者で、基樹のことを知っている人って……誰か居るのか?」


「え?そんな人、居るはずないと思うけど……この学園に来るまで、狩野のことなんて誰からも聞いたことないし」


 恵美の持っている情報の中では、基樹と罪島の関連性は見当たらない。


 だったら、ディアスランガとの戦いの時に現れたあの男は一体……。


 最後に見たあの男の目は、サングラス越しのものでもはっきりと覚えている。


 基樹を見る目が、悲し気に見えたんだ。


 結局、あの戦いは一体何だったのかは、今になっては分からない。


 ただ死なないように抗うのに必死で、これまでの自分の戦い方が通じなかった。


 基樹との共鳴が無かったら、ヴァナルガンドの力があっても死んでいたかもしれない。


 それほどまでに、ディアスランガは強かった。


 見えるだけじゃダメなんだ。


 それを活かすための『速さ』と『力』が必要なことに気づけた。


 また戦う時が来るかもしれない。


 こんな所で、立ち止っている場合じゃない。


 魔鎧装の力を手にしたからって、それで全てに片が付くわけじゃねぇんだ。


「……もっと、強くならねぇと。俺の目的を果たすためにも、今のままじゃいられない」


 救護施設から帰宅するまでに、恵美にディアスランガとの戦闘について情報を共有した。


 その中で、恵美は奴の名と基樹の言動を振り返り、ある可能性に辿り着いた。


「ディアスランガ……形見の魔鎧装……もしかして…‼」


「何だ?何かわかったのか?」


 俺が問いかければ、点と線が繋がったかのように驚愕の表情を浮かべて彼女はその仮説を口に出した。


「その父親って……狩野の父親は―――――狩原浩樹、かもしれない」


 それは仮定の話だったとしても、俺たちに衝撃を与えるには十分だった。


「冗談……だろ…?」


 あの狂気の死神と、基樹が……親子?


 狩原浩樹の亡霊が起こした、今回の騒動。


 これはただの試練ではなく、この先に続く俺と基樹の抱える歪みをあらわにした。


 そして、この時に生まれたかすかな疑念は、俺たちの心に黒いくさびを打ち込んだんだ。

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