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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
振動する冬休み
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力の共鳴

 ディアスランガ……狩原の亡霊が、精神世界だけでなく現実にも現れるとは。


 奴の名を聞いた瞬間、頭に痛みが走ってはヴァナルガンドとは別の声が流れてくる。


『それが本当におまえの望みなら、それを止めるのが俺の役目だ』

『こんなもんじゃ足りねぇだろ!?もっと、本気を出して来いよぉ‼』

『狂気に飲まれたおまえの魂を、今、解放する。これはそのための力だ‼』


 高太さんと狩原の声が流れてくる中で、視界が記憶の世界に染まる。


 目の前に居る異形の敵を前に、氷の十字剣を持った自身の隣に上半身が裸のボロボロの男が並び立つ。


『なぁ、最上……ここで1つ、おまえに言っておきてぇことがあったわ』


 男は横目を向け、口角を吊り上げてニヒっと笑う。


『俺はおまえが心底気に入らねぇ。ぶっ殺してやりたいほどにな』


 それに対して、こっちも笑ってこう返した。


『初めて気が合ったな、狩原。俺もおまえには、死んで欲しいって思ってる』


 互いに口に出すのは、相手を否定する言葉。


 それでも、妙な安心感が伝わってくる。


 そうか、2人はただ敵対していただけじゃなかったんだ。


 高太さんと狩原浩樹は…‼


『切り替えろ、小僧‼』


 ヴァナルガンドの叱咤しったが聞こえた瞬間、記憶の世界から意識が戻り、目の前にディアスランガの太刀が迫る。


『祭りの最中に、別のことに気を取られてんじゃねぇよ‼』


 反応が遅れた。


 この剣はさっきの骨剣とは違う覇気を放っている。


 紅狼鎧の防御力で耐えきれるか…‼


せろ、円華‼」


 後方から基樹の声が聞こえれば、身体を限界まで仰け反らせ、後ろから迫る黒鞭が太刀に巻き付いて抑え込んだ。


 その隙を突き、膝をバネに反動を付けて体勢を戻すと同時に白華の剣先を突き出す。


「椿流剣術 瞬突しゅんとつ‼」


 強力な突きを受け、地面を引きずりながら後ろに下がるディアスランガ。


 突きを受けた腹部からは、凍気とうきが煙のようにっているが損傷は見られない。


 腹部を押さえながら、獣人は肩を震わせる。


『やっぱ、戦いっていうのはさぁ、リスクがあるから面白れぇんだよなぁ。そう思うだろぉ?スサノオぉ』


 スサノオ?それが、あの鎧の名前か。


 鎧がそれに反応するように、全身の8匹の蛇が実体化してうねり出す。


 それを見て、基樹はギリっと奥歯を噛みしめる。


「あいつを止める……その太刀を返してもらうぞ……狂剣ディアスランガァ‼」


 両手と両足に糸を巻き付け、あいつは走り出す。


狩人の手品(ハンティングトリック) 武具アーマー‼」


「バカ、魔鎧装を着けてないおまえが前に出たって…‼」


 止めようとしたが、もう遅かった。


 ディアスランガに迫る速度は常人のそれを超えており、懐に迫るのに5秒もかからなかった。


 そして、その両手の籠手で拳を連続で叩きこむ。


「うぉおおおおおおお‼‼」


 ガキンガキンッと金属のぶつかり合う音が響くが、スサノオの鎧には通用しないのか、ディアスランガは微動だにしない。


『そんな中途半端な力で、通用するわけねぇだろぉ‼』


 左手で右拳を掴んで投げ飛ばされれば、建物に直撃する前に俺が左腕の籠手を伸ばして距離を詰め、背後に回って受け止める。


「基樹、1人で突っ走るな‼」


「うるさい‼あいつはぁ……俺が倒さなきゃいけないんだぁ‼」


「おまえ――――っ!?」


 落ち着かせようと言葉を駆けようとしたとき、基樹の目を見て兜の下で目を見開いた。


 憤怒を露わにするあいつのその目は、白い部分が黒くなり、瞳が紅に染まっていた。


 この状態を、俺は1度見たことがある。


 その変化に驚愕きょうがくしたことで力が抜けてしまい、基樹は俺を振り切って再度ディアスランガに向かって走り出す。


「その剣を返せ、ディアスランガぁー‼」


『はぁ?元からおまえのもんじゃねぇだろ!?』


 ディアスランガは太刀に左足から上がってきた蛇を太刀に巻き付かせ、刃を地面に突き刺した。


 その瞬間、地面が揺れて基樹の体勢が崩れてしまい、隙が生まれる。


 そして、太刀に巻き付く蛇が左肩のものと入れ替われば、その刃に高圧の水をまとう。


『文字通り、頭冷やせよ‼』


「くっ!?……障壁バリア‼」


 太刀が振るわれた瞬間、寸前の所で基樹は両手に巻き付けた糸を展開して障壁を生成する。


 しかし、水圧の剣は容易に鋼鉄の盾を切り裂いた。


「っ‼基樹ぃー‼」


 白華を投げつけて太刀を弾き、倒れる前に左手の籠手を伸ばして基樹の首を掴み引き寄せる。


 そして、そのまま右手で拳を握ってあいつの左頬を殴り飛ばす。


「ぶふっ‼……何すんだよ!?」


「あいつの言った通りだぜ。頭冷やせよ。血が上ったままじゃ、勝てるものも勝てねぇだろうが‼」


 俺の言葉を受け、基樹はビクッと身体を震わせる。


「激情に走って、らしくねぇことしてんじゃねぇよ。おまえはいつもヘラヘラして、時々俺をからかってくるくらいが調度良いぜ」


「円華……。はあぁ~、だよな」


 今ので頭が冷えたのか、額を押さえる。


 俺が手を差しだせば、その手を糸を巻き付けた右手で握る。


 その時、紅狼鎧の籠手と基樹の糸が反応して輝き出す。


 籠手は紅に、糸は黒に光る。


「何だ…!?」


「これは…!?」


 こんなこと、今まで体験したことが無い。


『そうかぁ……こいつは、面白れぇ狩りになりそうだぜ…‼』


 ヴァナルガンドの高揚する声が響く中、能力を解放していることで鋭敏になった聴覚がどこからか声を捉えた。


「これが、新世代の可能性って奴か……」


 声のする方向に顔を向ければ、ディアスランガの向こうの建物の屋上に人影が見えた。


 灰色のジャケットに身を包んだ、長身の男だ。


 向こうも俺たちのことが見えているのか、少し声を張って言葉を続ける。


「おい、ガキども‼この程度で終わりかぁ!?」


 それは挑発であり、俺たちをあおっている。


 単純にイラついてきた。


 俺だけでなく、それは基樹も同じようだった。


「そんなわけ……」


「ないだろ…‼」


 2人の感情に共鳴するように、基樹の糸が俺の右腕の籠手に巻き付いては形状が変化していく。


 頭の中に、紅狼鎧を通じて情報が流れ込む。


 それを見て、ディアスランガは愉快ゆかいそうに笑う。


『2つの力の共鳴…‼面白れぇなぁ‼身体がうずいてしょうがねぇよ‼』


 太刀に8匹の蛇の力をまとい、紫、緑、白、黒が入り混じった光を放つ。


『こっちもぉ……全力を出してやらねぇとなぁ…‼』


 ディアスランガも、鎧の力を全開にしてぶつかってくる気らしい。


「一か八か……一発本番かよ」


「それでも、やるしかない‼」


 籠手が紫に染まり、右肩に黒いマントが備わる。


「行くぜ……基樹‼」


「ああ、おまえに賭ける。一発、ぶちかまして来い‼」


 その声を受け、俺はディアスランガに向かって突撃をかける。


 まずは、さっき投げつけてしまった白華を回収する。


 奴の背後の地面に刺さっている氷刀を確認した。


『楽しもうぜ……この瞬間をぉ‼』


 太刀に巻き付いた内の3匹の蛇が口を開き、火と水、雷の球を乱れ撃ちしてくる。


 基樹の糸の影響なのか、身体能力が魔鎧装の力に上乗せされている。


 ギアを2からいきなりトップに上げたような気分だ…‼


 慣性の法則が働き、すぐに回避行動に移せない。


「右手を前に振り回せ‼」


 基樹の指示を受けて右手を薙ぎ払う動作をすれば、黒のマントが風を巻き起こしては蛇の攻撃をまとめ受け流した。。


「マジかよ…!?」


「驚いてる場合か、さっさと仕掛けろ‼」


「それもそうだ‼」


 すぐにディアスランガの背後に回り、右脚で急ブレーキをかけると共に左手で白華を回収する。


『まだまだ、楽しめるだろぉ!?』


 まるで俺が刀を取るのを待っていたかのように、一瞬の遅れの後に振り向くと同時に太刀を横に振り回してくるのを白華の刃で受け止める。


「重いっ…‼けど、さっきよりはぁ……こらえきれる‼」


 白華とスサノオの太刀。


 高速の攻防で、1分間のうちに数十回ぶつかり合う。


『やっぱり、良いなぁ‼チャンバラはよぉ‼』


「こっちは遊びじゃねぇんだよ‼」


 ヴァナルガンドの力を解放し、右目で奴の動きを先読みして適応する。


 だけど、先を見通してもすぐにその行動に移ってくるために一手先に踏み込むことができない。


 それだけ、こいつの剣裁きは素早すぎるんだ。


 一瞬で良い、隙を作ることができれば、俺たちの力を叩きこむことができるのに…‼


 俺の思考が伝わったのか、それとも同じ考えだったのか。


 ディアスランガが上段から太刀を振り下ろそうとした瞬間。


 奴の背後から黒鞭が伸びて太刀と腕全体に巻き付いて動きを固定した。


「やれ……円華ぁ‼」


 あいつ、もしもの時のために自分の糸を残してたのか。


 流石だぜ…ダチ公‼


 そして、その隙を逃がさない。


 糸が腕に巻き付いた時に、このマントの使い方が頭に流れ込んできた。


 右腕に意識を集中させれば、マントが上に巻き付いては形状が変わる。


 右手の籠手に、漆黒の大きな鉤爪かぎづめをまとう。


獣爪突破じゅうそうとっぱ‼」


 拳を握り、その一撃をディアスランガの腹部に叩きこんで鎧を削る。


『ぐぅるるるるるるぃ‼‼』


 奴は踏ん張って、真っ向から耐え切ろうとする。


 俺たちの力を合わせた一撃でも、この魔鎧装には通じないのか…!?


 いや、それでも…‼


「押し切ってっ……やるよぉおお‼」


 足に力を入れ、腰を捻じっては拳をさらに押し込む。


 そして、ディアスランガの足が地面から離れた。


 その瞬間、フッと力が抜けるのを感じた。


『おまえら、悪くねぇな』


 優し気に呟く奴の声が耳に届けば、ディアスランガは後ろに吹き飛んだ。


 遠くまで飛び、基樹の横を通り過ぎる。


「やった……よな?」


「おいおい、変なフラグを立てる言い方すんなよ」


 ヴァナルガンドの装着時間も限界に達し、変身が解除される。


 この一撃で終わらなければ、本当に万事休ばんじきゅうすだ。


 そんな中、拳の威力で生じた強風で巻き上がった土煙の中から、パンパンパンッと手を叩く音が聞こえる。


『良かったな、おまえら……合格だってよ♪』


 そう言って、土煙を風圧で切り裂いては変身を解除した獣人が姿を現した。


 それも今の攻撃が直撃しながらも、何ともなかったと言うように陽気に笑っていやがる。


 俺たちの力を合わせた一撃が、通じなかったんだ。


 ディアスランガは俺と基樹の顔を見渡し、首を傾げる。


『どうした?まさか、今ので俺をやれたと思ったのかよ?そんなマンガじゃねぇんだから、パワーアップイベントが起きたって早々に勝ちフラグが立つわけがねぇだろ』


 実力差をマジマジと見せつけられ、俺たちの戦意が薄れていく。


 だけど、それは敵も同じようだった。


『今日は中々面白かったぜ?これで、あいつも少しは満足しただろ。……おまえたちを後押ししたのは、ちと予想外だったけどな』


 そう言って、ディアスランガは背中を見せて歩き出す。


 そんな奴に対して、基樹は残った糸を束ねて1本のナイフを生成し、力を振り絞って投げつける。


 それはさっきまでなら容易く避けられただろうが、背中に刺さっては後ろを向く。


『……何の真似だ?』


「待てよ……。その剣を……スサノオの太刀を、置いていけ…‼」


 あいつの執念はまだ残っているのか、震える足で立ち上がってはディアスランガを睨みつける。


『……その諦めの悪さ、血は争えねぇな』


 面白そうにフッと笑い、ナイフを背中から抜いては基樹の足元に投げて地面に刺す。


『次会う時までに、考えておいてやるよ。じゃあな』


 そう言って、奴は陽気に手を振っては黒い霧のように消えていった。


「何だったんだ……あいつは」


 ディアスランガ。


 奴との戦いには、今更だけど違和感があった。


 戦う意志は感じても、敵意を全く感じない。


 ただ純粋に戦いを楽しむだけの凶刃のような戦士だった。


 そして、死神の試練……さっきの合格って言った意味は……。


 頭の中に様々な疑問が浮かんできて考え込みそうになると、隣にいる基樹がバタンッと倒れた。


「基樹‼」


 すぐに駆け寄って呼吸を確認すれば、ただ意識を失っただけなのがわかった。


 かく言う俺も、今の戦いで力を使い果たしては立っているのも精一杯だった。


 いつ倒れてもおかしくねぇ。


 安堵の息をつくと、遠くの方から人影が近づいてくる。


 さっき、俺たちに声をかけてきたサングラスをかけた長身の男だ。


 灰色のジャケットに両手を突っ込んで近づいてきては、一定の距離を開けて止まる。


「……あんた、一体、何者だ?」


 こっちの問いに答える気が無いのか、男は基樹の方に顔を向ける。


「そいつは?」


「息はしている。気を失ってるだけだ」


 生きていることを伝えても、表情1つ変わらない。


 そして、次は俺に視線を移す。


 特に、俺の目を見ているような気がする。


破滅ルインの呪縛からは、解放されたみたいだな。あいつの言っていた通りか」


「……何の話してんだよ?あんた、俺の何を知っている!?」


 意味の分からない言葉に苛立たし気に反応すれば、男はフッと笑う。


「いや、少し気になっていたことがあったが、それが杞憂きゆうに終わったってだけの話だ。……上手く成長できたみたいだな、おまえ」


 まるで俺を知っているかのような口ぶりに1つの仮定が浮かぶ。


「あんた……もしかして、デリットアイランドの関係者か!?」


 その問いを待っていたかのように、口角を上げる。


「……どうだろうな?」


 男の笑い方に、デジャヴュを感じた。


 だけど、そんなことはありえないとも思った。


 だって、あの男は――――。


「そいつを、頼む」


 そう言って男は基樹を一瞥いちべつした後で、俺の横を通り過ぎて行く。


「待てよ‼あんたは、まさか―――っ‼」


 男が遠ざかっていくのに合わせて、俺たちを覆い隠すように白い霧が広がっていく。


 そして、待ったを聞かずに男は離れていき、こっちも追いかける気力がない。


 霧が視界を覆っていく中で、基樹だけでなく俺の意識も遠くなっていった。

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