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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
底辺からのプロローグ
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椿円華のプロローグ 後編

 襲われた夜が明け、俺が目を覚ましたのは暗くて狭い、ろうそくの火が両端りょうはしに付いているだけの四角い部屋の中でだった。


 入口は鉄格子てつごうしになっており、出られない。もう、牢獄ろうごくだな。


 昨日のことは覚えている。自分から流れる赤い液体…血を見てから、急に頭がおかしくなって…人を…殺した。


 一体、俺は何なんだろうか。人間じゃない…のか。


 右手で自分の頬に触れるも、別に冷たさは感じない。


 昨日のヘルメット男はあんなに寒がっていたのに。


 カツンっカツンっと誰かがこっちに来る靴音が聞こえる。多分、階段を下りている音。


 そして、鉄格子の前に誰かが正座で座った。


 ああ、桜田家の当主様か。相も変わらず怒っているような顔をしてやがる。


「目が覚めたようだな、円華。おはよう」


「あなたが俺に朝の挨拶あいさつをしたのなんて初めてじゃないですか?気持ち悪いですよ」


「そうだろうな。何故なら、おまえはもう桜田家の者ではないからだ。つまり、他人行儀たにんぎょうぎの意味で挨拶あいさつをしたまでだ」


 今、何て言った?俺はもう、桜田家の者じゃ……ない?


「どういう意味ですか?」


「おまえは今日から、椿家の人間になるのだ」


「…え?」


「椿家は、桜田家の本家や分家の者の中でも道を外れた者が集まる場所だ。おまえは昨日、自身の能力で人をあやめた。よって…もう桜田家の者ではいたられなくなった」


「……意味がわからない、俺は、あなたの息子だろ!?」


「私はおまえの出生届けを政府に出していない。よって、おまえは存在しないことになっている。椿家が『養護施設ようごしせつから養子ようしとしておまえを迎え入れたこと』にすれば、おまえは見事、椿家の子どもとなる」


「…!!」


「不服か?だが、受け入れろ。栄光えいこうある桜田家の名に泥を塗るわけにはいかないのだ」


「……ッフ、ククククッ…アハハハハっ!!」


 あの時、俺はどう言う気持ちで笑ったのかは漠然ばくぜんとだが覚えている。ただ、込み上げてくる笑いを堪えることができなかった。


 見捨てられた悲しみ?やっと解放されたと思った喜び?


 いや、ただただ人間と言う生き物に絶望しただけだった。


 唯一信じていた姉には見殺しにされそうになり、自分の身を守ることに必死になっていたら、周りからは化け物を見るような軽蔑けいべつの視線を向けられ、今ここで父親からも、くだらない家のプライドのために親子の縁を有無うむを言わさず切られた。


 これで、頭が壊れずにいられようか?いや、もうズタズタに壊れてしまい、笑うしかない。


 もう、人間なんて信用できない。すぐに裏切るんだ、裏切られるんだ。


 何でこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。


 当主は笑っている俺に、哀れむような目を向ける。


「私がにくいか、円華」


 俺は笑うのを止め、黙ってコクンっと頷く。


「では、ただ私だけを恨むがいい。決して、奏奈や他の者を、ましてや自分の力を恨むな。良いな?」


「…うるさいんだよ……今の俺は、あなたのことを見てるだけで、手が勝手に冷たくなってくるんだ…!!身体が……あなたを殺したがってるんだよ!!」


「……」


「何とか言えよ!!いつも、いつもいつも、あなたは俺のことを見ていなかった!!見ようとしていなかった!!あなただけじゃなくて、あの母親面したババアもそうだ!!気づいてないとでも思っていなかったんですか!?あなたたちは、俺のことを、ただ一緒に住んでいる子どもとしか見ていなかったんだ!!愛情なんて、向けてくれなかったじゃないか‼」


 俺が興奮状態になって今まで思っていたことを吐きだすと、当主は無言だったが、静かに腰を曲げて頭を下げた。


 当主が頭を下げたところを、俺は始めて見たかもしれない。


「すまなかった……」


「……」


「私たちは、おまえと奏奈のことは愛していた、本当だ」


「そんなの、信じられるわけがない!!」


「そうだろう、わかっている」


「あなたのその、何もかもがわかっているような態度がイライラするんだ!!」


「……いずれ、すべてがわかる」


「何だよ、それ……意味がわからない!!今、すべてを教えろ!!」


 当主は俺の言葉を聞かず、立ち上がって行ってしまう。


「おい!待ってよ……待ってくれよ!!」


 鉄格子から顔を出して必死に叫べば、当主の足は止まり、俺の方を向く。


「おまえは、誰だ?」


「え…?」


「それがわかったのなら、おまえにすべてを知る権利が生まれる。それまでは、何を話したところで意味はない」


 その言葉を最後に、当主はまた歩きだし、今度は何度叫んでも歩みを止めることは無かった。


 そして、入れ替わるように、昨日見た片目の男と、ポニーテールで制服を着ている女が、この牢獄に近づいてきた。


 椿家の者が、早速お迎えに来たのか。


「円華様…いや、もう椿家の一員だから、様付けする必要はねぇか」


「椿…清四郎…」


 俺が下から睨みつけると、清四郎は溜め息をついて頭の後ろをかく。


 そして、隣に立っている涼華は声を殺して笑っている。


「おいおい、今から親になる男を名前で呼ぶんじゃねぇよ」


「あなたのことを親だと思う気はない。椿家の一員になる気はない、1人で生きて行く!!さっさとここから出せ!!」


威勢いせいがいいな、嫌いじゃねぇ。けどなぁ、それだけじゃ、この先の人生は生き残れないぜ?」


「あなたたちには関係ない!!」


 俺は警戒心をき出しにし、何も聞く気はない。


 すると、涼華が俺をスカートのポケットに手を突っ込んで見下ろす。


「親父、少しこいつと2人だけにしてくれ」


「あ?おまえに説得できんのか?」


「できるかどうかじゃないだろ、やらなきゃいけねぇんだ。それに、ヤクザ顔の親父よりも、美少女のオレの方が向いてる」


「自分で美少女って言うな。おまえの顔はベーシックだ」


「うっせーよ、アホ親父。さっさと行けよ」


 涼華が軽く太股ふとももを軽く蹴ると、清四郎は「痛っ!」と言って太股を抑えながら、不満げな表情をして行ってしまった。


 そして、涼華は改めて俺のことを見下す。


「どんな気分だ?信じていた奴らから裏切られるのは」


「……最悪だ」


「そうか。けど、おまえも無心で裏切られないと思ったのにも原因はあるな」


「……」


「家族だからって、見捨てられないとでも思ったか?世の中、そんなに甘くない。まだ平和な日本を出れば、子どもの臓器を売って金にしている女や、生まれてすぐの子どもを、子どもの居ない金持ちに売って、その国では半生は生きていける金をもらっている奴らも居る。そう言う現状から考えれば、おまえはまだ恵まれてるほうだな。だから、何も考えずに信じてしまった。それがこの状況の原因の1つだ」


「…うるさい」


「言い返せないか、おまえは何も知らないもんな?今までの人生、1度も外に出たことがないらしいじゃねぇか。可哀かわいそうに」


「うるさい!!」


 両手を鉄格子から出して涼華に触れようとすれば、手首を掴まれる。


「身体は冷たいのに、頭は熱いようだな。ガキだな、おまえ」


「…うぅぅ!!」


「そう言えば、オレのことを話してなかったな。オレは椿涼華つばき すずか、今日からおまえの姉になる。ついでに、迷惑な話だが、おまえの教育係にもなった。オレが、おまえを一人前にしてやる」


「そんなこと、頼んで―――っ!!」


 言い終る前に鉄格子をすり抜けるように手を通し、手刀を俺の喉元のどもとの寸前で止める涼華。


 そして、その目は透き通っていて、俺の怒りを吸い込むようにじっと見る。


「おまえに残された選択肢は2つだ。1つは、オレに従って生き伸び、今のおまえを苦しめている不条理を壊す手立てを捜す。もう1つは、ずっと意固地いこぢになってこの牢屋に留まり、餓死がししていくかだ」


「…何だよ、それ!?」


「言っておくが、ここはもう椿家の中だ。この牢屋も椿家が管理している。この家は、そんなに優しい家じゃないぜ?食べるものも、自分に必要なものも、全部自分で集めなきゃいけねぇ。子どもだろうと、手は貸さない。手伝いが必要なら、それ相応の見返りが求められる。当然、この牢屋に心優しい誰かが、食パンの1枚も持ってくることは…ない。ここで2つ目の方を選ぶなら、おまえはえに苦しみながら、運命におどらされて死んでいくだけだ。あわれだねぇ」


 涼華の目は本気だ。多分、本当のことを言っている。


 どうすれば良い?この女に従わなきゃいけないのか?この女は信用できるのか!?また裏切られるんじゃないのか!?


 涼華に従うと言うことは、こいつの言いなりになると言うこと。また裏切られるんじゃないかと思うと…恐い。


 俺は身体が震えてきて、何も言えない。


 そして、俺の心を見透かしたように溜め息をつき、涼華はこう言った。


「利用できるものは最大限に利用しろ。物だろうと人だろうと状況だろうと、自分の周りに存在するものは、少なからず自分の運命を打ち破るための武器になる。今、オレはおまえに救いの手を差し伸べている。『この状況』を利用できるかどうかは、円華、おまえ次第だ」


「……1つ、聞かせてくれ」


「初めての質問だな、何だ?」


「俺は人間に裏切られた…もう、信用できないかもしれない…。どうすれば良い?どうしたら、もう1度信じられるかなぁ…!!」


 俺自身は気づいていなかったが、その時、目から涙が出てきたらしい。


 泣いていたんだ、俺は。


 そんな俺の頭の上に手を置き、あらっぽく撫でる。


「おまえ、まだ人間を信じたいのか?」


「…わからないよ…!!けど……胸が…痛いんだ!!さっきから、ずっと……チクチクと…痛い…!!」


 両手で胸の中心を触ていると、痛みを感じて仕方がない。


 誰か助けてと叫びたくなる!


 涼華は俺の頭を撫でながら笑いかけた。


「そうだな。人を信じたいなら、その前にうたがえ。信じることと疑うことは対称じゃねぇんだ。信じたいから疑う。その過程をずに信じたと勘違いしたなら、それは期待きたいと言うものだ。期待は裏切られることが多い、今回の二の舞になるだけだ。だからもしも、おまえがオレのことを信じたくなったら、俺のやることなすこと全部を疑って来いよ。おまえのことを裏切ると『期待』しろ。そしたら、おまえの中の期待を全部裏切ってやる」


 そう言って、涼華は俺の頭から手を離した。


 そして、牢屋の鍵を開けて扉を開ける。


「さて、それで……どうする?そこから一歩でも外に出れば、おまえは椿円華として生きることになる。そしたら、おまえに理不尽りふじんあらがすべを教えてやる。それか、ここで理不尽を呪い、理不尽に弄ばれたまま死ぬかだ。抗うか、死ぬか、選べ」


 3歳の頃の俺には、それは人生で初めての選択だった。今までは、あの男やババアにずっとやることなすこと選ばれてきたから。


 だけど、そこに迷いは無かった。


 死にたくないとは思っていたけど、それよりも、理不尽と言うものが気にいらなかった。


 言葉の意味はわからない、だが、それが俺を苦しめているのなら、絶対に許さないと思ったんだ。


 だから、俺は決意を込めた目で、その牢屋から出て、『桜田円華さくらだ まどか』から『椿円華つばき まどか』になる時に誓った。


 この理不尽の分、あらゆる面で強くなって、絶対に見返してやる。


 こうして、牢屋に弱い桜田円華を脱ぎ捨て、新しく椿円華が始まったんだ。


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