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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
打ち砕く脱落戦
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既視感の怒り

 円華side



 朝7時を回っている。


 俺はベッドに身体を預け、自分の不甲斐ふがいなさを呪っていた。


 どうして、こうなった……。


 どこから、間違えていた?


 予感はしていた。


 柘榴が卑劣ひれつな手段に出ることは、わかっていたはずなのに…‼


 やはり、嫌な予感が的中した。


 昨日、金本から届いていたメール。


『柘榴がEクラスの生徒をFクラスに狙わせてる。キボウノチとか言う、何かヤバい薬を飲ませて危険っぽい』


 あれは、Eクラスのクラスメイトが狙われているという警告だった。


 成瀬や麗音などに連絡を取ろうとしても、誰一人として繋がらなかった。


 Fクラスに捕まったってことだろう。


 金本は訳もわからずに送ってきたんだろうが、希望の血を摂取しているのなら、並みの生徒が抗える奴らじゃなくなってる。


 その中に、恵美も含まれてる。


 昨日、メールを見てすぐに地下中を走り回っても見つからず、電話をかけまくったが反応は無かった。


 迂闊うかつだった。


 気が抜けていた。


 柘榴恭史郎と言う男の狂気を、見誤っていた。


 完全に、俺の判断ミスだ…‼


「畜生ぉ…‼」


 怒りが収まらねぇ。


 俺は、また……同じことを繰り返すのか?


 今度は、手が届いたはずなのに。


 天井に手を伸ばして宙を掴んでも、手の平には何も無い。


 焦りと怒りによって寝つけるわけもなく、一日中、意味の無い自問自答を繰り返していた。


 俺はどこで間違えたのか。


 止めることはできなかったのか。


 前までの俺なら、気づけていた、備えることができた脅威じゃねぇのか。


「俺は……弱くなっちまったのか…!?」


 その呟きに、頭の中で声が響く。


『ああ。おまえは弱くなった』


「っ!?」


 久しぶりに聞いた、闇の声。


 しかし、今度は声だけじゃなかった。


 気配を感じて横を向けば、そこには1度だけ見た幻が映る。


 全身が黒い、狼の姿をした幻影。


「……おまえ…!?」


『おまえは弱くなった。俺の言った通りだろ?仲間なんて不要だってな』


「……」


『仲間なんて持ったから、おまえは今、心に傷を負っている。大切な者を守るための復讐者だと?ふざけるな。おまえは、誰を守れた?』


 闇は4本の足を進め、俺に歩み寄ってくる。


『結局、おまえは誰も守れないんだよ。姉さんだって死んだじゃないか。おまえは強くなるための理由を、また失うんだ。このまま、くだらねぇことでウジウジしている間にな』


「…うるせぇ……おまえに、何が―――‼」


『わかるんだよ。何度も言わせるんじゃねぇぞ、小僧。俺は、おまえだ。おまえの中で生まれ、おまえの中で全てを見てきた。おまえの感じていることは、全て、俺も感じているんだよ。その怒りもなぁ…‼』


 闇は俺の上に乗り、狼の瞳を俺の瞳と合わせてくる。


 その目は蒼紅に染まっており、眉間にしわが寄っているのがわかる。


『おまえが俺の言葉を否定したいのなら、行動で示せ。牙を抜かれたって言うのなら、俺がおまえの代わりに、獲物を喰ってやる。そして、おまえの大切な者も、まとめて、喰らい殺してやる…‼』


「……そんなこと、させるわけねぇだろ‼」


 身体を起こして闇を払えば、ベッドの横で再度狼の姿を形成する。


 そして、俺の目を見て口を開き、牙を見せる。


『牙はまだ抜かれてなかったみたいだな。だったら、おまえのやるべきことは決まっているだろ?』


「わかってる……。俺は弱くなったかもしれない。だけど、だからって……後悔している暇はねぇ…‼」


 闇の言う通り、やるべきことはわかっている。


 俺の大切な者を傷つけるなら、誰であろうと―――。


 自身の感情を奮い立たせた時、スマホの電話が鳴った。


『椿さぁああああああああんっ‼』


 レスタの涙声が響き、画面を見れば泣き顔の彼女が映っていた。


 そして、彼女に意識を向けて瞬間、闇の姿が薄くなって消えた。


「レスタ!?どうして、おまえが…」


『大変なことが起きてるんですぅ‼成瀬さんや、Eクラスの皆さんが閉じ込められてぇ…‼』


「閉じ込められた……。場所は、どこだ?」


 画面を変えて地下の地図を開き、離れた地点にある建物が赤く点滅する。


『ごめんなさいです。成瀬さんの携帯の電源が落とされる直前で、私は別の端末に逃げることができたんですけど……。建物内のセキュリティを突破するのに、時間がかかってしまって…‼すぐに伝えようと思ったのにぃ‼』


「場所がわかっただけ良い。よく知らせてくれたぜ。これで、みんなを助けに―――」


 すぐに準備をして助けに行こうとすれば、画面の中のレスタを端に押しのけて電話の通知が来る。


 画面には『最上恵美』の名前が映る。


 だけど、一縷いちるの希望を感じたわけじゃない。


 むしろ、逆だ。


 この状況で本人からかかってくるとは考えにくい。


 電話に出れば、俺は必死に冷静さを装いながら「誰だ…?」と聞く。


『誰?最上本人からの、助けを求める電話だとは思わなかったのかよ?椿円華』


「柘榴っ…‼」


 抑えろ。


 今、怒りを感じ取られれば、あいつのペースに乗せられることになる。


「恵美は……Eクラスのみんなは、無事なんだろうな?」


『ああ、安心して良いぜ?今は何もしてねぇよ。だが、それもこれからのおまえの行動次第だがなぁ。知ってるんだろ?金本からの最後の情報は伝わってるはずだぜ?』


「金本がおまえを裏切っていたことには、気づいていたのか」


『当たり前だろ、めてんじゃねぇよ』


 気づいていながら、金本を泳がせていたってことか。


 それも、俺を追いつめるために織り込み済みだったのかもしれない。


「おまえとの勝負は、2日後の試験で決めるってことになっていたはずだぜ?自分で言ったことを破るのか?」


『クッフフフ、別にそのつもりはねぇよ。俺は今回の脱落戦でおまえたちを潰すとは言った。だが、世の中には不戦勝と言う言葉もある。勝負の前に、その舞台に立たせないようにするのも立派な戦術だろ?』


「言い訳もはなはだしいな」


 やはり、あいつが純粋に試験で決着をつけるわけもなかったか。


 期末試験を受けることができないようにすれば、それでもEクラスを退学させることができるってことかよ。


『当然、おまえはEクラスのカスどもを助けようとするよなぁ?自分の手駒が減るのは、避けたいだろ?』


「おまえと一緒にするな。俺はクラスのみんなを駒だなんて思ったことはねぇ。みんなを解放しろ。おまえの復讐したい相手は、俺なんだろ!?」


『……ああ、その通りだ。そして、俺は言ったはずだぜ?おまえの大切な者は、全て俺が壊すってなぁ…‼』


 その言葉と同時に、携帯に1つのデータが送られてくる。


 それを開けば、数枚の画像が添付されていた。


 成瀬や麗音、久実、真央、川並などの、クラスメイトの倒れている写真だ。


『そいつらを助けたいなら、急いだ方が良いぜ?その部屋には1時間後、一息吸っただけで即死する毒ガスが放出される予定だからなぁ』


「おまえ……そんなことまで…!?」


『俺は本気だ。やると言ったらやるって言ったはずだ。おまえのせいで、おまえに関わった奴らが死ぬんだ。罪の意識にさいなまれるってもんだよなぁ?』


「みんなは死なせねぇ。場所はもうわかってる。みんなを助け出した後は、おまえの番だ」


『クフフフっ、そう焦るなよ。おまえの都合の良いように行くわけがねぇだろ。主導権を握っているのは、この俺だぁ‼』


 そう言って、画面が切り替わる。


 次に映ったのは、写真の画像じゃない。


 左下にLIVEと書いてある、たった今配信されている映像だ。


 そこに映っているのは、椅子に縛り付けられた恵美だった。


 見れば、気を失っているのがわかる。


 そして、そこに柘榴が映る。


『見えてるかぁ?おまえの大切な女は、今、俺の手中にあるのさ』


「柘榴……おまえぇ‼」


『おおぉ、良い反応だなぁ!?』


 恵美の髪を引っ張り、表情を苦痛に歪ませる。


『最上を助けたいか?助けたいよなぁ。だったら、このFクラスの教室に来てみろよ。無事に来れたなら、ボーナスで毒ガスを操作する起動装置も付いてくるぜ?急がねぇと……』


 彼女の左胸に手を這わせようとする前に「やめろ‼」と声を荒げてしまう。


『クフフフッ……アーハハハハッ‼初めて、おまえの焦った声を聞いたぜ。いい気分だぁ』


 柘榴が画面の向こうで合図を送れば、こっちのスマホに60分のカウントが映しだされる。


『さぁ、ゲームの時間だぜ、椿円華ぁ‼』


 奴は恵美から離れて近づき、レンズを覗きこむ。


『おまえの動きは常に見ているからなぁ。おまえが言った、最期の勝負だ。楽しもうぜぇ?』


 その言葉を最後に電話が切れ、画面が切り替わった。


『椿…さん……?』


 画面の中のレスタが、心配する顔を向けてくる。


 スマホを見れば、カウントダウンは始まっている。


 迷っている時間はない。


「はぁ…はぁ………っ‼ぐぅうううっ‼」


 焦りを感じていると、急に頭痛に襲われる。


「何でぇ……こんな時にぃ…‼」


 1分1秒を争う状況で、能力を使ったわけじゃないのに激しい痛みが頭に走る。


 そして、頭の中に記憶が流れ込む。


「うぐぁああああああああああ‼」



 ーーーーーー


 場所はどこかの白い部屋。


 その中に足を踏み入れ、視界に入ったのはあられもない姿の優理花さん。


 彼女の周りを囲む、3人の不気味な笑みを浮かべる男。


 その光景を見て、感じたのは激しい怒り。


 だけど、それは荒々しいものではなく、それとは対極的な静けさを感じさせる。


 これは……高太さんの怒り…?


 優理花さんを弄ばれたことに対する、底知れぬ殺意。


 彼はそこに至る道中で見せられていた、その光景を。


 そのやり方は、高太さんから冷静さを奪うための手段だった。


『おまえは、俺の女を散々辱めて苦しめたんだ。……許しをわなくていいし、つぐなわなくても良い。ただ、この世から一秒でも早く消えてくれ』


 愛する者を傷つけられた彼は、命乞いをする男に対して、躊躇ためらいもなく――――冷徹な瞳で、男の首をねた。


 自分のせいで大切な者を傷つけられた怒りは、倫理観を超越していた。


 男たちの亡骸を見下ろしながら、その顔は人の命を奪った罪悪感を覚えているものではなかった。


 彼はそれが当然のように、ただただ冷たい目を涙と鼻水で歪んだ男の生首に向けていた。


『……やっぱり、殺しても気分は晴れないな』


 小さくそう呟いた高太さんの声が、優理花さんに聞こえたのかはわからない。


 だけど、彼女は高太に歩み寄って、後ろから彼を抱きしめた。


 まるで冷え切った心を、自身の身体で温めようとするように。



 ーーーーー



「っ‼…あがはぁ…はぁ…はぁ…‼」


 頭痛が治まり、時間を確認すれば10秒も経っていなかった。


「今の記憶は……いや、まさか…‼」


 タイミングが良過ぎるせいなのか、今の記憶と柘榴のやり方に共通点が見えた。


 これは偶然なのか?


 20年前の出来事が、別の人間で再現されようとしている?


 考えすぎなのかはわからない。


 だけど、今の記憶の映像で、俺の中で何かが切れた。


『椿さん?……大丈夫…ですか?』


「……ああ、大丈夫だ。気分はすこぶる、最悪だけどな…‼」


 柘榴のやり方がいつも通りなら、ここから先の展開は容易にわかる。


 あいつが俺たちを退学させようとして、この手段を選んだのなら、その手を利用するまでだ。


 白華を取り出し、少しの準備を終えて部屋を出る。


 時間は残り55分。


 足を止めている時間はない。


 アパートを出てすぐに、出口で横から殺気を感じては、いきなり襲いかかってきた奴に回し蹴りを喰らわせて吹き飛ばす。


「ぐるぶぁ‼」


 地面に倒れたのは、制服を着ている生徒。


 その目は濁った赤に染まっている。


「やっぱり、そう容易たやすくはいかねぇよな」


 その生徒を皮切りに、ぞろぞろと赤い目をした生徒がゴキブリのように物陰からいて来やがる。


 金本のメール通りなら、全員Fクラスで柘榴の奴隷だ。


 こいつら、記憶泥棒事件で倒した3人組と一緒だ。


 目に焦点が合っておらず、獣のように鼻を鳴らしている。


 希望の血を摂取して、理性を失っているんだ。


 そんな連中が、今度は3人どころか10人近く。


 しかも、道なりにまだ何人も居るのがわかる。


 流石に、俺1人でどうにかなるのかよ……これ。


 眼帯を取り出して右目を隠し、左目に意識を集中させる。


 その瞬間、頭の中に再度声が響いた。


『俺様の力を、貸してやろうか?』


「……何?」


 闇は語り掛け、助力を申し出る。


 それに対して、俺は心の中で言葉を交わしながら、襲いかかってくるFクラスの奴らの攻撃を身体をじりながら回避し続ける。


「……わかった」


 問いに対する答えを導き出した時、白華を抜刀して生徒の1人を切り上げた。


 柘榴……おまえのことだ、どこかで監視の目を付けてるんだろ?


 だったら、久しぶりに――――赤い雪を見せてやる。


「ぎぁがぁはぁああっ‼」


 そして、その生徒の斬られた部分が赤く染まり、そのまま動かなくなる。


 切り上げた刃を下に降ろせば、赤い液体が一滴いってきずつ落ちていく。


 白華の刃が、赤く染まっている。


「レスタ…岸野先生と、BC……桜田生徒会長に伝言を頼む」


『は、はは、はいぃ‼一体、何でしょうか!?』


 驚いているレスタに対して、俺は敵であるFクラスの群衆に赤く濡れた刃を向けながら言った。


「今から椿円華は、1年Fクラスを皆殺しにする」

円華くん、ぶち切れ一直線で殺人予告。

もはや、何をするかわからないwww。



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