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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
打ち砕く脱落戦
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息抜き

 円華side



 期末試験の日である月曜日まで残り3日を切り、今日は金曜日。


 授業を全て終えて放課後になって帰ろうとすれば、その前に成瀬に声をかけられた。


「円華くん、少し良いかしら?」


「?何だよ、改まって」


 彼女はおもむろに、俺が手に持っているスマホを指さした。


「あなたにお願いがあるの。レスタを少しの間、貸してほしいのよ」


 名前を呼ばれて画面が起動し、横からひょこっとレスタが『呼びましたか?』と姿を現す。


「明日と明後日でテスト対策をするために予想問題を作っていたのだけど、過去の問題のデータが少ないのよ。だから、彼女に情報収集と分析の支援をお願いしたいの」


 サラッと言ってるけど、過去の問題のデータって……。


 性懲しょうこりもなく、当たり前のようにまた学園のデータベースに侵入したな、こいつ。


 まぁ、俺は最近レスタの力を借りることと言ったら、暇な時に雑談に乗ってもらうことくらいだし、彼女も普段はネットの海を泳いで退屈を紛らわしていた。


 画面を見れば、新しい遊びを見つけた子どものように目をキラキラさせている。


「やる気みたいだな、レスタ」


『はい‼夏休みぶりの真面なお仕事にワクワクしています‼』


 そう言うレスタの、一瞬俺に向けた涼しい目を見逃さなかった。


 あー、この子、俺が事ある事に存在忘れていたことを根に持ってるな、これ。


 すいません、ぶっちゃけ電子機器を扱う作戦はあったはあったけど、使いどころがわかりませんでした。


 俺に対する不満が溜まっていたのだろう、レスタは俺のスマホから彼女のスマホに何の躊躇ためらいもなく移動した。


「よろしくね、レスタ」


『こちらこそです。張り切ってお役に立ちます‼』


 レスタはビシッと敬礼し、成瀬は扇子を広げては口元を隠し、ジト目で俺を見る。


「私、あなたよりこの子と相性が良い自信があるわ」


「張り合うなよ、電子系はおまえの方が強いんだ。まっ、俺が言えたことじゃねぇけど、仲良くしてやってくれよ。あと、できるだけ無視はしてやんなよ?めっちゃ泣くから」


『椿さん‼』


 失言した俺に、顔を真っ赤にしてプクーっと頬を膨らませるレスタ。


 それを見て、成瀬は呆れたような溜め息をつく。


「あなたって、本当にデリカシーが無いわね。いろんな意味で」


「すんません、徐々に学んでいくんで猶予ゆうよください」


 目を逸らして苦笑いを浮かべながら謝れば、用件が終わったかと思えば「それから、もう1つ」と付け足してきた。


「明日からの勉強会は、あなたにも参加して欲しいのよ」


「は?そんな話、聞いてねぇぞ」


 想定外の要求に怪訝な顔を浮かべて言えば、「それはわかっているわ」と返す。


「あなたにはみんなの護衛のために、その場に居て欲しいの。今日まで、柘榴くんは私たちのクラスに何も仕掛けて来なかった。彼がこのまま、試験の日まで黙っているとは思えない。だから、今日もみんなにできるだけ集団で下校するように言ったのだけど……」


「何も起きないことが、不気味ってことか」


「そう言うこと。あなたの存在を抑止力にして、もしもの時は、基樹くんや石上くんと一緒に対処してほしいと思ってるわ」


 確かに、成瀬の言う通りにした方が良いかもしれねぇな。


 今の柘榴は、何をしでかすかわかったもんじゃない。


 相変わらず、金本から何の連絡も無いことが気掛かりだしな。


 嵐の前の静けさって言うのも変かもしれねぇけど、日が経つに連れて不安をあおられるのもわかる。


 そんな中で、勉強に集中するのも難しいかもしれない。


 成瀬にとっても、みんなにとってもな。


「……わかった。じゃあ、何時にどこに集まれば良い?」


「それは予想問題を作り終わった後で決めるから、少なくとも9時までにはあなたに連絡するわ。だから、みんなにも言ったけど、明日と明後日の予定は1日開けておきなさい。良いわね?」


「へいへい」


 軽く返事をすれば、成瀬は俺に凍るほどの冷たい目を向けてきた。


「返事は…?」


「1回でしたね、すんません‼」


 聞かれてすぐに思い出して謝れば、冷たさを消して「よろしい」と言って話を切り上げる。


「それじゃ、頼んだわね」


「了解したよ、クラス委員長」


 離れていく成瀬から視線を離して帰る支度を終え、教室を出ればBクラスの教室の方に視線を向ける。


 危険を承知で様子を見に行けば、そこには既に柘榴や金本、内海の姿は無かった。


 そして、柘榴が居ないBクラスは、テスト期間中だと言うのに談笑している奴らが数人残っている程度だった。


 これは俺の考え過ぎか?


 次のテストはクラスの階級は関係なく、最下位になれば即退学させられる。


 退学=死であることはわかっているはずだ。


 それなのに、こいつらの様子からはそれに対する危機感が伝わってこない。


 自分たちが退学することはありえないだろうと、楽観視しているならそれまでだが……。


 怪しまれる前にBクラスから離れ、外からチラ見程度で他のクラスの様子もA、C、Dと確認していく。


 どのクラスの生徒からも、一瞬見ただけで雰囲気から少なからずの緊張感を覚えた。


 Bクラスだけ、どうして……。


 引っ掛かりが頭に残りながらも校舎を出て、エレベーターに向かう。


 すると、見慣れた銀髪の後ろ姿が見えて、その横を数人の生徒が通り過ぎて行く。


 おい、歩くスピードが亀並に遅くねぇか?


 よく見れば、足の動きがおぼつかなくなっており、右に行ったり左に行ったりして真っ直ぐに歩けていない。


 額に手を押し当てて深い溜め息を吐き、速度を上げて歩み寄る。


「おい……恵美」


 名前を呼ばれて肩をビクッと震わせ、恐る恐る横に立っている俺を見上げる。


「円華?あれ、何で?追いかけてきたの?」


「いや、さっき校舎から出たばっかなんですけど」


 恵美はホームルームが終わるとすぐに「帰って勉強する」と言って、英語の教科書を両手で持ちながら教室を出て行った。


 もしかして、あの後から今のペースで進んでたのかよ。


 よく誰も気に留めなかったな。


 いや、変人扱いされて関わろうとされなかっただけか。


「おまえ、顔に疲れが出てるぞ?ちゃんと休んでんのか?」


 疲れが溜まっているのか、顔が少しやつれているように見える。


 目が充血してる所から、睡眠時間も足りていないんだろうな。


「休んでる時間なんて無いよ。テストまで、あと少しなんだし…」


「そんな状態で勉強したって、頭に入るわけねぇだろ。……ったく、ちょっと付き合え」


 頭の後ろをいた後、あいつの手を引いてエレベーターに向かう。


「えっ……円華!?」


「今日はゴールデンフライデーだぜ?少しくらい羽を伸ばしたって、ばちは当たんねぇよ」


 地下に降りて俺が恵美を連れて行ったのは、大型のゲームセンターだった。


「な、何でゲーセン?」


「何でって……おまえ、ゲーム好きだろ?」


「それと、ここに連れてきたことに関係あるの?」


「だから、気分転換だって。根を詰め過ぎたって、成績は伸びねぇぞ。付き合ってやるから、好きなゲーム選べよ」


「付き合ってやるって……恩着せがましい」


 乗り気じゃなく不服そうに、彼女は頬を膨らませる。


 こういう時、上手く乗せる方法は心得ている。


「せっかく、1学期の時のリベンジマッチをしてやろうと思ったんだけどなぁ。そうか、俺に負けるのが嫌だからって言うんだったら、しょうがねぇか」


「……今、何て言った?」


 ムッとした顔になり、目を鋭くさせる。


 それに対し、こっちも悪い笑みを向けてやる。


「いや、俺は別に良いんだぜ?おまえがまた、最初にやった時みたいに全敗した時のショックを受けたくないって言うなら、ここで帰るだけだし。うんうん、プライドを守るのって大事だもんなー」


「あ、あれはわざと手を抜いてただけだし‼」


「いやいや、そんなに意地張らなくても良い――――って、おい‼」


 強がって怒りの目をジーっと向けてくる恵美は、俺の腕に両手を回してゲーセンの中に引っ張って行った。


「意地張ってない。今度こそ、円華を泣かせてやるんだから‼」


 やる気にさせることに成功した。


 本当に、こいつは負けず嫌いの部分を突くと乗せやすい。


 俺は見えないようにベッと舌を出した。



 ーーーーー



 最初に連れて来られたのは、ゾンビを撃つシューティングゲームの前だった。


 1人でもできるみたいだが、2人で協力することも、スコアを競うことで対戦することもできるらしい。


 この前、川並や入江と初めて来た時に一緒にやって以来、1度もやったことはねぇけど。


 恵美はゲーム台の前で仁王立ちをし、銃を取って自身満々な顔を浮かべる。


「フッフッフ、この前は苦手な格闘ゲームだったから引けを取ったけど、銃を使うゲームなら私の方が分があるんだからね‼」


 自分の得意な分野で勝負するつもりのようだ。


 てっきり、格闘ゲームでリベンジをしてくると思ったんだけどな。


 しかし……弱った。


 俺は銃を使った遊びは昔から下手へただ。


 川並や入江とやった時も、10体もヒットしなかった。


 まぁ、良いか。


 目的は勝ち負けじゃなくて、恵美のガス抜きだし。


 成功体験を積ませることも大切だ。


 俺も銃型のコントローラーを手に取り、100円を投入する。


「俺の凄腕に度肝どぎも抜かれんなよ」


「それはこっちの台詞」


 2人同時に画面に表示される『START』に照準を合わせて引き金を引けば、ゲームが始まった。


 俺のスコアは画面の左上に表示され、恵美のスコアは右上に。


 画面の至る所から出てくるゾンビに対して、恵美は『キャー、恐ーい』と言うことも無く、ターゲットを狙うスナイパーの目をして、頭部を的確に打ち抜いていく。


 ただ倒すだけじゃなくて、頭部を打ち抜くことで『ヘッドショット・ボーナス』と言うポイントが加算されるのがこのゲームの特徴だ。


 つか……俺が反応するよりも早く、照準を合わせて打ち抜かれてる気がする。


 その証拠に、俺は3分以内に2体しか倒せていないにも関わらず、あいつはもう100体以上倒しており、もはやスコアは圧倒的に差が開いている。


 そして、結果は言うまでもなく……。


 スコアボードに999100:4と映し出され、今度は俺が惨敗することになったとさ。


 その画面を見て、苦笑いしか出なかった。


「やっぱり、姉さんみたいにはいかねぇな…」


「こんなに圧勝するなんて思わなかった。ある意味、凄腕だったね。照準は合っていたのに、何でヒットする時に逸れちゃったの?」


「……知らね。俺に銃はやっぱり向いてねぇな」


 姉さんや親父に、何度か銃の撃ち方を教えてもらったことはある。


 それでも、最終的には1m先の的にギリギリ命中するかぐらいにしか上達しなかった。


 だから、師匠の剣の修行に死ぬ気で食らいつくことになったわけだけど。


「何か可哀想に思えてきたから、今の勝負は無しにしてあげようか?」


「は?別に悔しくなんてねぇし」


「はいはい、わかったわかったー」


「いや、その反応は絶対にわかってねぇ奴だからな!?」


 結局その後、リズムゲームやカーゲーム、メダルゲームなどと手を伸ばしていき、最後はクレーンゲームで恵美が好きなアニメのマスコットキャラのストラップを取ってゲーセンを出た。


 その時には夜の7時を回っており、腹が減ってきた。


「もうこんな時間だし、いつものファミレスで晩飯済ませるか」


「う、うん……」


 ぎこちない返事に違和感を覚えたが、特に追及せずにファミレスに行って2人席に通された。


 対面して座り、俺はオムライスを、恵美はパンケーキを頼んだ。


 そして、注文した後で彼女は聞いてきた。


「ねぇ、何で今日は、私に付き合ってくれたの?」


「別に特に理由はねぇよ。いて言うなら、幽霊みたいに顔がやつれてたおまえを見てられなかったからって所じゃね?」


「そんなに酷かった?私の顔」


「まぁ、生気は感じなかったな」


 自身の両頬に手を当てて不安そうな顔をする恵美。


「だけど、今はさっきよりもマシになったんじゃねぇの?少なくとも、血は通ってるように見えるぜ」


「ま、まるで人を死人だったみたいにぃ…」


 不服そうにブツブツ呟く恵美を見て、自然と口角が上がってしまった。


 一応、この前のことの恩返しの意味はあったんだ。


 文化祭の時、俺の心はこいつの強引さに救われたから。


 何度拒絶しようとも、それを無視して俺の側に居てくれると言ってくれた。


 その言葉が、俺を雁字搦がんじがらめになった孤独の鎖から解放してくれたんだ。


「おまえは、本当に……強い女だよ」


「っ!?ど、どうしたの?いきなり」


 無意識に呟いていたのか、恵美は目を見開いては頬を紅潮させて驚く。


「え?あ、いや……この前聞いたから、どんなもんかと思ったけどさ。流石は、ゲームでポイントをかせいでいただけあるなって思っただけだっつーの」


「ふ~ん。何か、言い方が誤魔化してる感があるけど……まぁ、いいや」


 視線をウェイターの方に向ければ、頼んだ物がテーブルに運ばれてきた。


 俺がスプーンが取ってオムライスを食べていると、恵美は途中から「円華」と名前を呼んで来たから顔を上げれば、彼女は小分けにしたパンケーキをフォークに刺して向けていた。


「あーん」


「・・・は?」


 目が点になって頭に『?』が浮かんで露骨な反応をすれば、恵美は耳まで顔を真っ赤にして俯く。


「口、開けて……あーん…して、あげるから」


「いや……何で?」


 誰かに食べ物を食べさせてもらうなんて経験、幼少期以来無いし。


 つか、思い返せば、食べさせてもらうと言うよりは、口の中に無理矢理突っ込まれた記憶しかねぇ。


 だからか、過去の経験から警戒してしまう自分が居る。


 躊躇ためらっている俺に、恵美がそのままの体勢で言った。


「今日の……お礼、だから。お母さんが、男の人にしてあげたら、喜ぶって……言ってた」


 いや、優理花さん、何て危ない教育してっらっしゃるんだよ!?


 まさか、高太さんにそう言うことしてたのか!?


 心の中で溜め息をつき、彼女の行動の理由を知って気持ちを切り替える。


 そして、ぎこちないながらも、身体を前に出してパンケーキに顔を近づける。


「わかった……。食べれば、良いんだろ?」


「う、うん…‼」


 恵美は徐々にフォークを近づけながら、もう1度「あ、あぁーん」っと言って、口の中にパンケーキを入れ、俺は口を閉じてパクっと食べて離れた。


 そして、顔を逸らして額に手を押し当てる。


「何だよ、これ……。死ぬほど恥ずかしいな」


「フフッ……円華、耳まで真っ赤。可愛い」


「るっせぇよ。誰のせいだっての」


 意地悪な笑みを浮かべている恵美を横目で見れば、あいつも耳まで赤いままだった。


 そして、恵美はその後、俺が口を付けたフォークを変えずにそのままパンケーキを食べていた。


 何か、妙にその光景に胸がそわそわした。



 ーーーーー



 会計を済ませてファミレスを出れば、2人でアパートに戻るつもりだったけど、恵美は別方向に歩き出した。


「恵美、どこに行くんだ?」


「ちょっと買い忘れた物があったから、雑貨屋さんに行ってから帰るよ。円華は先に行ってて?」


「俺も付き合うぜ。何があるかわかんねぇし、この時間に女1人は危ねぇだろ」


 心配になって一緒に行くと言えば、怪訝な顔を浮かべる。


「意外。円華が私のことを女として心配してくれるなんて」


「おい、こら。おまえ、俺のことを何だと思ってんだ?」


「う~ん。……女の子の胸に顔を突っ込んで、癒される変態?」


「この前のこと、まだ根に持ってんのかよ!?」


 嫌なことを思い出し、少しでも早くその場から離れたいと思ってしまう。


 俺が呆れていると、恵美は右脚を軽く叩いてフフっと笑う。


「大丈夫。武器はいつも持ち歩いてるし、もしもの時はちゃんと呼ぶからさ」


「……絶対だぞ?強がって危ない目に合ってたりするのは、無しだからな」


「円華、心配し過ぎ。少しは信じてよ」


 これ以上言うのは逆効果だと察し、俺は軽く頷いて「わかった」と返事をする。


「じゃあ、明日は成瀬が勉強会するって言っていたから、遅れずに来いよ?」


「うん。円華も面倒くさがって来ないのはダメだからね」


「へいへい」


 俺と恵美は分かれ、互いに背中を向けて歩き出した。


 時間はもう8時を回っている。


 しかし、成瀬からの明日の予定についての連絡はまだ来なかった。


 その代わりに届いていたのは、金本からの1通のメールだった。

女の子に「あーん」して食べさせてもらえるとか、羨ましい‼

優理花ちゃん、ナイス教育‼



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