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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
打ち砕く脱落戦
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魔女の誘い

 景虎side



 頭がいてぇ。


 今朝、目が覚めた時に感じたのは痛みだった。


 昨日、椿に勝負を挑んだ。


 そして、結果的に俺は奴から逃げた。


 椿が、俺よりも強かったから逃げたわけじゃない。


 俺は負けてねぇ……。


 そうだ、あいつはあいつ自身の力で、俺を屈服させたわけじゃねぇからだ。


 俺が屈していない限り、それは敗北にはならねぇんだ。


 その……はずだ。


「うるぁあああっ‼」


 身体を起こし、ベッドの横にある壁を強く叩けど、苛立ちは治まらねぇ。


 これも全て、椿のせいだ。


 あいつの言葉の1つ1つが、俺の怒りを逆撫でした。


「今度こそぉ……あいつをぉ‼……あいつ…を…?」


 怒りと共に、いつもなら殺意が湧き上がってくる。


 なのに、今はそれを感じない。


 怒りはある。


 椿の野郎が気に入らないのは事実だ。


 それなのに昨日の戦いの後から、何かがおかしい。


「あの野郎ぅ……何を、しやがったぁ」


 あいつを叩き潰したいと言う想いはある。


 それなのに、それが殺したいという意思に達しない。


 殺意が力を強くさせる。


 そう、俺は先生から教えられてきた。


 人を殺したいという感情が、力の根源になると。


 今の俺には、それが無い。


「どういうことだぁ…。何なんだよ、これぇ……気持ち悪いぃ‼」


 腹に不快感を覚え、もう1度ベッドの上に倒れて天井を見上げた後、時計を見る。


 時間は10時35分。


 完全に遅刻だ。


 これも、あいつのせいだ。


 部屋に戻ってから、怒りで寝ることができなかった。


 目を閉じれば、椿から一方的に痛めつけられた場面が浮かんだ。


 そして、奴の言葉が頭の中で何度も再生される。


 その中でも、強く頭に残っている言葉を呟く。


「力以外の強さって……何なんだよ」


 今まで生きてきて、そんな物を見たことがない。


 ずっと、力が全ての世界で生きてきた。


 生き残ってきたんだ。


 過去のことを思い返せば、俺に関わった者たちは全て、強くなるために力を求めていた。


 力が無ければ、自分を守る術が無かったからだ。


 力を手に入れた者は強さに辿たどりつき、手にできなかった者は強者に踏みつぶされる。


 そんな世界で、俺はこの『力』を手に入れたんだ。


 俺は、強い……。


 強い…はずだ…‼


「俺とあいつで……何が違うってんだ」


 誰かに力で打ちのめされるのは、何度も体験してきたことだ。


 それは気にしていねぇ。


 最後に、俺が自分の力で奴を叩き潰せば良いだけの話だ。


 ずっと、そうしてきたんだ。


 俺は自分を虚仮こけにした奴らの大切な物――命を、最後には俺自身の力で奪ってきた。


 その結果が、今の俺と言う存在だ。


 力を覆すために必要なのは、力だけだ。


 それがわかっているはずなのに、椿の言葉が頭から離れずにこびり付いてやがる。


「ああぁ……クソォ‼」


 むしゃくしゃした心を晴らすために、シャワールームに行って頭からシャワーを大量に浴びたが、それで消えるようなものじゃなかった。


「俺はぁ……俺はぁあ‼」


 壁に両手を着いて頭を打ち付けようと、痛みを感じるだけで気分は晴れねぇ。


 叫んだ所で、その場で反響するだけだ。


 鏡を見て、自分の姿を確認すれば、所々の古傷が目立つ。


 火傷の痕や刺し傷、切り傷などがあり、それは最近のものじゃない。


 当然だ、今じゃ傷は勝手に治っちまうんだからな。


 それでも、この力でも、それを手に入れる前の傷を跡形あとかたも無く消すことはできないらしい。


 だが、それで良い。


 この傷の1つ1つが、俺が力で強さを証明した証だからだ。


「……その、はずだ」


 シャワーから上がり、服を着て頭の上からタオルを被り、ベッドに戻ろうとすれば、インターホンが鳴った。


 まだ午前中で4限の時間だ。


 こんな時に来るのは、経験上教師くらいだ。


 ます々、怒りが込み上げてくる。


 今の感情を隠さずにドアを強く開ければ、そこに居たのは教師じゃなかった。


御機嫌ごきげんよう、内海くん」


 元クラスメイトで、Dクラスの木島江利が、制服姿で軽く手を振り、微笑みを浮かべながら挨拶をしてきた。


 いや、俺がこいつをその名前で呼ぶのは気が乗らねぇ。


「魔女……てめぇ、何しに来た」


「フフッ。内海くん、あなた……その呼び方、人の目の付く所では止めてって言ったよね?」


 下がっていた目尻めじりが吊りあがり、本性を露わにする。


 そして、勝手に部屋に入っては靴を脱いで上がってきた。


「おい、てめぇ‼勝手に入ってんじゃねぇよ‼」


「相変わらずうるさいなぁ、君は。人の良心には、素直に応えた方が良いと思うけどね」


 奴から似つかわしくない言葉が飛びだし、睨みつける。


「良心…?何を企んでやがる」


なぐさめに来たんだよ。昨日、椿円華にコテンパンに叩きのめされた君をね」


「……何だと?」


 昨日の戦いを傍観していた者が、あの場に居るはずがねぇ。


 椿も俺も、近くに誰も居なかったから戦ったんだ。


 あの時、椿以外の人間の気配は感じなかった。


 警戒されていることを見抜き、それに悪戯な笑みを浮かべる。


「私にわからないことは無いんだよ?この学園で起きていることは、何でも知っているんだからね♪」


「地下中にある監視カメラでも乗っ取ったのか?」


「そんなこと、か弱い私にできると思う?」


「おまえなら、何でもやりかねねぇんだよ」


 Dクラスに居た時から、こいつの得体の知れなさは、顔に厚い皮を被っていても隠しきれていなかった。


 何をしでかすかがわからない匂い。


 それが気に入らないと思いながら、こいつに目を光らせていた。


 いつか、こいつを殺したいと思った時のために。


 しかし、俺が奴に鼻を利かせていたことには、すぐに気づかれた。


 その結果、あいつはすんなりと俺の前で今の本性を現しやがった。


 そして、自分が魔女ウィッチと呼ばれる存在であることも明かしてきたんだ。


 その後は、俺と坂橋派以外のクラスの奴らを掌握した。


 互いに干渉せず、奴は俺を飼い犬にしようとはしなかった。


 俺も奴を獲物として選ぶことはしなかったからな。


 その理由は、女だからじゃない。


 こんな感覚は生まれて初めてだったが、一言で言うなら――――本能が、この女を殺すことを拒絶したからだ。


 警戒心を向けられながらも、魔女は気にせずに勝手に机の前にある椅子に座りやがった。


「それで、感想はどうなの?2回連続で椿円華に黒星を付けられたら、やっぱり心が折れちゃった?」


「ふざけんな、俺は負けてねぇ‼あんなの、勝負とは認めねぇ‼」


「そうだねぇ…。殴り合いの途中から口喧嘩になったのは、流石に予想外で笑っちゃったよ♪」


 口喧嘩。


 そんな生易しいもんじゃねぇ。


 俺たちは拳だけでなく、言葉を通じても殴り合っていたんだ。


 足を組んでは正面を向けてきて、観察するような目を向けてくる。


「君って自分が強いって言いながら、ボコボコにされることが多いよね。椿円華にもリベンジマッチを挑んで惨敗だし、今は柘榴くんにも飼いならされている状況。君の心の強さには、素直に敬意を表するよ」


 椿のことだけでなく、恭史郎のことも話に出してきやがった。


 確かに、俺は椿のことを出汁だしにあいつに挑まれ、1度屈したように見せた。


 だが、それは表面上だけだ。


「俺は恭史郎に負けたわけじゃねぇ‼あいつが椿を狙うなら、その動きに合わせて俺が喰らおうと思っただけだ」


「じゃあ、彼に手なずけられたわけじゃないと?」 


「当たり前だ‼俺を支配したと思っている恭史郎のことも、その内殺してやるさ…‼」


 恭史郎には素直に殺意が込み上げてくる。


 しかし、俺の決意を聞いて魔女はフフっと笑う。


「君には、無理なんじゃないかな。少なくとも、今は。椿円華でも、柘榴くんを止められるかどうか」


「……確かに、今はあいつを殺すことはできねぇ」


「へぇ~、そこは素直なんだね」


「前のあいつとは、匂いが違う。あんな匂い、嗅いだことがねぇ…」


 文化祭が終わった次の日から、恭史郎の匂いが変わっていた。


 得体の知れない『力』の匂いだ。


 あれに挑むのは、今じゃない。


「おまえ、何でも知ってるって言うなら、あいつの変化のことも知ってるんじゃねぇのか?」


「それは当然だよ♪でもね、今は種明かしをしたい気分じゃないんだ。教えるつもりは無いね。……でも、今、君が抱えている葛藤への参考になる一言を送らせてもらうよ」


「あ?どういうことだ。おまえ、俺の心が見通せるとでも言いてぇのか?」


「そんなの、昨日の君の動揺を見ていたら簡単だよ。だって、最終的には言い返せなくなって、逃げちゃったんだもんねぇ」


「っ‼てめぇ…‼」


 胸倉を掴もうと手を伸ばそうとすれば、魔女は俺を指さし、少し歯を見せる笑みになる。


 その動きに反応し、手が止まる。


「君が求める答えを得たいなら、柘榴くんの近くで事の終わりを共にすることだ。君にとっては良くも悪くも、この試験期間中に2人の因縁は終わるんだからね」


「因縁…だと?」


 復唱して聞こうとすれば、その前に魔女は立ち上がって目を合わせてくる。


「それについては、君には関係ないことだよ。でも、その内、君にも柘榴くんからお呼びの声がかかってくる。衝突する2人の姿を見て、君が何を感じ、どういう答えを得ようとするのか。それが私は、楽しみでならないよ♪」


 はにかんだ笑みをしているが、それが純粋なものではないことは匂いでわかる。


 気づいていない内に、こいつに何か利用されているような気がしないでもねぇ。


 それでも、こいつの口にする言葉が偽物には感じないのも事実だ。


「……恭史郎の計画に乗れば良いんだな?そうすれば、この腹の気持ち悪さも消えるってんだな?」


「多分ね?十中八九じゅっちゅうはっく。そして、君は私の思った通りの結論に辿りつくと思うよ♪」


「おまえの予想なんてどうでも良い。俺はただ……あいつの言っていた言葉の意味を知り、否定したいだけだ…‼」


 力以外の強さなど、そんな物があるはずが無い。


 しかし、そう言える確証がない。


 それが得られるなら、何だってしてやる。


 俺の答えを聞いて満足したのか、魔女は玄関に向かって足を進めていく。


「じゃあ、私は学校に行くよ。君も少なくとも、明日からは復帰した方が良いんじゃないかな?」


「余計な世話だ。……おい、魔女。おまえ、どうして今日、ここに来た?俺とおまえは、もう同じクラスじゃねぇだろ」


 問われれば後ろを振り返り、あごに人差し指を当ててキヒヒっと笑う。


「君には、強くなってほしいから……かな?今よりも、ずっと。こんな所で、踏み留まってもらっちゃ困るんだよ♪」


「ほざくな、おまえに面倒をみられるつもりはねぇ。俺は、俺の意思で強くなる。おまえの玩具になるつもりはねぇ‼」


「……そっか。そう思うなら、それで良いよ」


 魔女は大人しく部屋を出て行き、また俺は1人になる。


 しかし、不思議とさっきまで抱いていた苛立ちが和らいだような気がする。


 あの女のことは気に入らねぇが、このことだけは感謝してやってもいい。


 やるべきことは見えた。


 そして、タイミングが良いことに、スマホの着信音が鳴る。


 メールの相手は『柘榴恭史郎』。


 あいつの言う通りになりやがった。

内海に接触した魔女(木島江利)の目的とは何だったのか?


初の景虎くんsideは案の定、力とか強さとか言うワードばっかりwww。




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