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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
打ち砕く脱落戦
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戦力外通告

 波乱の夜を超えた翌日は、静かなものだった。


 あの後、内海がどうなったのかは知らねぇけど、Bクラスに特に波乱の様子は見られないことから、あいつは柘榴に昨日のことは報告していないのだろう。


 当然か。あの口ぶりからして、柘榴に黙って俺に仕掛けてきたみたいだからな。


 内海があれで学習してくれたなら、この後も喧嘩を売ってくることは無いはずだ。


 これで柘榴の駒を1つ使えなくしたと考えても良いのかは微妙だけど。


 頭の中で今後のことに頭を働かせながら、遠目でサッカーボールを蹴って攻防を続けているクラスメイトを眺めている。


 今は体育の時間で、男女に分かれてサッカーをしている。


 チームを組んだ川並から「椿はキーパーな!」と名指しで言われたため、ゴールの前に棒立ちで陣取っている状態だ。


 もしかして、この前1対1でボールを奪い合った時に3戦3勝したことを根に持ってるのかもしれない。


 少しは手加減すれば良かったかもな。


 いや、それはそれでスポーツマンシップに反することになるのか?


 勝負事の心理は難しい。


 守りが必要なのかと言いたくなるほど、川並が猪突猛進に相手チームのゴールに向かってボールを運んでいく。


 流石はラグビー部……と、言いたいけど、あいつは例外か。


 部活はラグビーでも、スポーツはオールマイティーいけるとでも言うように運動神経が良いみたいだ。


 それに、あのオラオラ系の性格もあって、相手を圧しているのもあるんだろうな。


「……暇だなぁ」


 青空を見上げていると、後ろから「おーい」と基樹に声をかけられる。


 あいつはゴールの裏で、1人でリフティングをしていた。


「やることねぇ~って顔してやんなって。一応、形だけでもやる気出しとけば?」


「余計なお世話だ、コノヤロー。川並が頑張ってるから、こっちにボールが来ないんだからしょうがねぇだろ?つか、おまえは何してんの?」


「俺は体調が悪いってことで、見学させてもらってんの」


「こんな元気にボール蹴ってる見学者が居てたまるか」


 ズル休みか。まぁ、こいつらしい。


 体育教師の鈴野先生を見ると、川並たちのプレーの方に目が行っていて、こっちには気づいてない。


 入江たちクラスメイトも、基樹のことには気づいていない。


「おまえって髪の色は派手なのに、影薄いよな」


「ハハハァ、反応に困るぅ~」


 笑って誤魔化してボールを宙に浮かせながら、少し真面目なトーンで話を切り出した。


「テストまで残り5日を切ったけどさ。これから、柘榴のことはどうするよ?」


「……考え中」


 基樹も警戒していたし、そのことで声をかけてきたのは、俺からの見解が得られないことでしびれを切らしたって所か。


「みんな、瑠璃ちゃんたちの教えが良いからか、全体的に成績は上がってる。だけど、今回の期末試験はただ学力を競うだけで終わらない気がするんだよな」


「それは俺も同感だ。現に昨日、内海から襲撃を受けた。返り討ちにしたけどな」


「……そう言うことか」


 納得したような口ぶりに怪訝な顔を浮かべると、基樹はボールを高く上げてヘディングをしながら言った。


「瑠璃ちゃんから頼まれて、着替える前にBクラスの前を見てきたんだよ。偵察も兼ねてな。そしたら、そこに内海の姿は無かった。柘榴が右腕を連れていないことに違和感はあったけど、円華が関係してたってことか」


 内海は休みだったのか。


 ただの体調不良ってことは、あの野生児には無さそうだけど。


 昨日の一戦が、あいつに何か影響を与えたのなら、それはそれで良い。


 このまま、どんな形でも良いから試験日まで大人しくしていてくれ。


「柘榴の動きも、そうだけど…さっ!」


 ボール遊びを止めて、地面に落としてシューズの裏で固定する。


「他のクラスはどう見るよ?もしかしたら、BクラスやFクラスだけじゃなくて、D、C、Sも俺たちに集中砲火してくるかもしれない。……それはどう見るつもりよ?」


「柘榴はともかく、他の3クラスには、そこまで心配してねぇよ」


「?それはなして?」


「クラスをまとめている奴らが、俺に対して悪い意味で興味津々だからだ」


 Sクラスは鈴城紫苑、Cクラスは幸崎ウィルヘルム、Dクラスは魔女ウィッチ……木島江利。


 この3人とは最低1度は接触したことがあるが、どれも俺のことを退学させようとしているとは思えない。


 鈴城は、花園館での茶会と体育祭での真央との一件で、俺を観察対象として見始めた節がある。


 観察対象を退学させようとは思わないはずだ。


 幸崎は、あの性格から分かりにくいけど、それなりに友好的に接してくれている。


 悪い意味で裏表がないあいつの場合、柘榴と同じように潰そうとするなら宣戦布告でもしてくる。


 貴族(笑)のプライドがそうさせるだろう。


 問題は……魔女だ。


 俺を玩具と公言した奴が、退学という形で手放そうとするとは思えない。


 今回の試験で救済措置はないのなら、ここで興味の対象を潰そうとするとは考えにくい。


 各クラスのリーダーの見解を聞き、基樹は「なるほど」と言って頷く。


「だったら、今回は本当に柘榴だけに焦点を絞って良いっぽいな」


「正確には、BクラスとFクラスだけどな」


 心配事が杞憂きゆうだったことで安心したのか、声が陽気なものに戻る。


「瑠璃ちゃん、麗音ちゃん、石上が中心となって、みんな退学をまぬがれるために頑張ってる。欲を言えば、1位を取って退学免除のチケットも欲しい。だけど、そのためには……」


「柘榴を止めなきゃいけない。わかってることだろ。喧嘩を売られたのは俺なんだ。それに……けじめはつけるさ」


 無意識に威圧感を放っていたのか、基樹はオーバーに身構えて「こぉわ‼」と怯えた態度になる。


「前はそんなに、あいつに敵意向けてなかったじゃん……どったの?」


「試験が無事に終わったら話すぜ。今は時間を無駄にしてる余裕はねぇだろ。おまえも、真面目に勉強しろよな」


「……へいへい、わかってますよー」


 適当な返事が聞こえてくれば、遠くから鈴野先生が「こらー!狩野‼見学が何してるー‼」と怒声を飛ばしてきた。


「あっ、いけね。バレちった」


「当たり前だろ、アホ。素直に注意を受けてこい」


「うぇ~ん、ダチをかばってくれないの~?」


「更正させるために手を離すのも、ダチの務めだろ」


「えぇ~、尤もらしいこと言われた……」


 ブーブーと文句を垂れながらも離れていく中で、最後に背中を向けながら言った。


「力が必要な時は、ちゃんと頼れよ?……ダチなんだからよ」


「わかってる……ありがとな」


 長く話していたから時計を見ていなかったが、気づけば授業終わりのチャイムが響いた。


 結局、ゲームを見ていなかったから具体的な攻防戦はわからないけど、スコアボードを見れば「15:0」で圧勝だった。



 ーーーーー



 授業が終わって昼休みになれば、教室の端にいつもの6人で集まってはランチタイムに入る。


 麗音と成瀬は優雅に弁当、もしくはサンドイッチを食べている。


 基樹もBIGサイズのポテチとコンビニのチキンを食べているが、俺と同じで2人の女子からの気迫に圧倒されていた。


 背後に『全!集!中!』と燃える文字を浮かばせながら、参考書を片手にナポリパンをリスのように頬張っている女子が2人。


 恵美と久実だ。


 片や英語の長文をモゴモゴ言いながら音読しており、片や数学の公式を暗唱している。


 テストまで残り1週間切ってるからって、気合が入り過ぎだろ。


 このままだと途中でガス欠すんぞ、こいつら。


「2人とも、口に物を入れたまま話すのは行儀が悪いわよ?」


「ほんばごどばばがっでるびっ(そんなことはわかってるしっ)‼」

「ぼがっでるぼんっ(わかってるもんっ)‼」


 成瀬の注意も気にも留めない様子であり、彼女も呆れてこれ以上言うのを止めた。


 麗音や基樹も苦笑いを浮かべるだけに留まっているが、視線から麗音の場合は主に恵美に対して呆れの度合いが強いように見える。


 勉強への意欲という圧に耐え切れなくなり、俺は「ジュース買ってくる」と言って席を離れた。


 その時の「逃げたな」と言う他3名からの冷たい視線には、背中で痛みを感じた。


 校舎を出て外の空気を吸いに中庭に出れば、ドーナツ状の円形の椅子に座っている巨躯きょくが見え、急いで引き返そうとした。


 大丈夫、絶対に気づかない。


 だって今、本読んでたように見えたし‼


 しかし、奴は自分への視線に敏感なようで、分厚い本から目を離して声をかけてきた。


 それもうるっせぇほどの大きな声で。


「ハァーハハハッ!やぁ、御機嫌ごきげんよう‼ミスターツーバキー‼」


 名指しで呼び止められたあぁ~~~。


 わざとわかるように肩を落として猫背になりながら、後ろに横目を向ける。


 Cクラスの幸崎が、ドレッドヘアをなびかせては歯を光らせ、ビシッと手を軽く挙げていた。


 こうなったら無視しても、追いかけて強引に話を始めるパターンとみた。


 しぶ々近づき、少し話をすることにした。


「おまえ、いつも1人で行動してるよな。クラスに友達とか居ねぇの?」


「友人?ミスター、君は可笑おかしなことを言うねぇ。友人とは、対等な関係を言うものだろ?この学園に、私に釣り合う人間が居るとでも思うのかい?」


「……居ねぇだろうな。聞いた俺がアホだった」


 まず、こいつの人となりを数日も観察すれば、仲良くしようと思う奴がまれだろう。


 まぁ、調度良い。


 これでもCクラスの実力者やってるみたいだし、できる限り情報を少しでも引き出してみるか。


「そう言えば、おまえの所のクラスはどうするんだ?今回の脱落戦。最下位のクラスは全員退学だって話だし、そっちも勉強会かなんかしてんのか?」


「あぁ、その話かね?それは、今の私には関係ない話さ。私個人として?こんなつまらない試験で学園を去るつもりは毛頭ないが、こればかりは下々の者たちの成果に掛かっているからねぇ。当然、私が本気を出せば、全教科で満点を取ることなど造作もないことだがね‼」


 前髪をかき上げ、人差し指を立ててアピールをしてくる幸崎。


 今のは、内心決まったって思ってることだろう。


「あー、はいはい。凄い凄ーい」


 軽く手を叩いてスルーすれば、奴は咳払いをしては自身のクラスの方に視線を向け、少しました表情になる。


 その変化に、少し違和感を覚えた。


「どうした?おまえが、そんな顔するなんて珍しいな」 


「……ふむ。これは他クラスの君に話しても、さしたる意味も無いのだが、退屈を紛らわすために少し付き合ってくれるかね?」


「別に良いけど、俺が聞いてもいい話なんだろうな?」


「もちろんさ。丁度、平民からの見解も聞きたいと思っていた所だったからねぇ。君は実にタイミングが良い」


 隣に座るように促され、流れで幸崎の隣に腰を掛ける。


 そして、奴は少し腰を曲げて話を始めた。


「結論から言えば、私はクラスの平民から必要ないと言われたのだよ」


「・・・は?」


 予期してなかった一言に、ポカーンと口が開いてしまう。


 その反応にハハっと乾いた笑いをする幸崎。


「その反応も当然さ。私ほどの高貴な存在が、取るに足らない平民たちに存在を否定されてしまったのだからねぇ」


「いや、おまえ……俺の勘違いだったのか?Cクラスのリーダー……だった、よな?」


「その通り。この学園は実力主義。それはCクラスも例外ではない。私のクラスでナンバー1の実力を持っていたのは、私以外にはありえないのだからねぇ」


「……だったら、どうして、おまえがリーダーの座を降ろされたんだよ?」


 俺の問いに対し、幸崎は自身のクラスに強い眼差しを向けていた。


「思えば、君がその名前を出した時に、そのボーイに注意を向けておくべきだったのかもしれない。梅原改……彼は君とは正反対の、私が最も嫌うボーイだったよ」


 梅原の名前が出てきたことで、俺の意識もCクラスの教室に向いた。


「詳しく聞かせてくれ。おまえ、梅原に何かをされたのか?」


 幸崎は小さく頷き、話してくれた。


 俺には見せていなかった、奴のもう1つの一面を。



 ーーーーー



 幸崎がリーダーの座を降ろされることになった日は、試験期間に入ってから俺が奴と話した日と同じだった。


 柘榴がEクラスに宣戦布告をした時、Cクラスでも事が起きていた。


 試験期間中にも関わらず、クラス全体としては学力向上に向けた集団での計画は立てていなかった。


 代わりに、その日に行われたのは、今後の方針を決める話し合いだったらしい。


 事の発端は、幸崎が教室を出て行こうとした時に、梅原が話しかけたことから始まる。


「幸崎くん、ちょっと良いかな?」


「失礼、ボーイ。高貴な私には、平民に割いている時間は無いのでね」


 奴は声をかけられようと、それを気にも留めず席を立とうとした。


 しかし、その時に「待ってよ」と言って梅原は右肩を掴んで動きを止めた。


 不用意に肩に手を触れられたことで、幸崎も反応を示さざるを得なかった。


「この手を退けてくれるかな?」


「退けたら、話し合うことも無く行っちゃうよね」


「聞こえなかったのなら、もう1度言おう。私には、君たち取るに足らない民と関わっている時間は無いと言ったのだが?」


「大丈夫。()()()も、君に割いている時間は最小限に抑えたいって思ってるから」


 梅原の言葉に応えるように、クラスメイトが幸崎の机を囲んだ。


 それは正確には数えてないが、クラス全員と言っても良いほどの人数だった。


 周りを見渡し、幸崎は少し目を鋭くさせた。


「これは、どう言うことかな?」


「俺たちの意志を表したいって思ってね。でも、君にはどうでも良いことかもしれないけど」


「平民の意志など、貴族には遠く及ばないと思うが……。ここは、耳を傾けた方が良さそうだねぇ」


 腕を組んで聞く態勢に入れば、梅原に「手を離してくれるかい?」と言い、それに応じて手を肩から離したようだ。


 そして、梅原は幸崎を見下ろしながら話した。


「単刀直入に言って、今回の試験から、もう君の力は借りないことに決まったよ」


「……ほぉ?それは興味深い決定だ。それがどう言う意味なのか、わかって言っているのかい?」


 幸崎はクラスメイトの1人ひとりを見渡しながら、言葉を続ける。


「このクラスでナンバー1の実力を持つ者は誰だい?言うまでもない、この私だ。学力、身体能力、共に()()()私に勝てる者は居なかった。だからこそ、私はこのクラスの統率者となった。その事実を、君たちは受け入れていたのではなかったのかね?」


「その通りだ。君はこのクラスの誰よりも強い才能を持っている」


「だったら、私の下で兵隊アリとして働くことが、これから先も生き残る上で重要なファクターとなることは、無知で無能な君たちでもわかっていることなのではないかな?」


 自身の強さという事実を盾として使う幸崎に対して、梅原はフフっと笑う。


「確かに、君はこのクラスの誰よりも強いよ。俺たちのような凡人は、たばになっても勝てないだろう。だけどね?君は肝心なことを忘れてるんだよ」


「肝心なこと……?」


 奴は満面の笑みを向けて言った。


「その事実が、クラスには何の貢献にもなってないんだよね」


 クラスへの貢献。


 リーダーとして、幸崎は結果を出していないと梅原は言いたいようだ。


「君の実力は素晴らしい物だ。このクラスにとっては、宝のような存在だよ。だけどね?」


 その時に奴の笑みが変化したことを、幸崎は見逃さなかった。


 笑みを浮かべながらも、それは純粋なものではなかった。


「このクラスには、宝は必要ないんだよ」


 梅原と目が合った時、幸崎はその視線を外すことができなかったらしい。


 一瞬、恐怖を抱きそうになったから。


「私が必要ない…。ボーイ、君は今、そう言ったのかい?私の実力を知りながら」


「うん、必要ないかな。この半年、君の素晴らしい才能を近くで堪能たんのうさせてもらったよ。それは感謝している。だけど、もう十分だから」


「……言っている意味がわからないな、ボーイ。君の言葉は、矛盾していることに気づいているのかい?」


 幸崎の実力を認めながらも、奴をクラスとして手放すという梅原。


 その言葉に対して、クラスメイトは誰も疑問に思っている様子は無い。


「矛盾?それは君の今までの行動を振り返れば、普通に合点が行くことに気づいていないからだよ」


 梅原は幸崎の机の周りをゆっくりと歩きながら、言葉を続ける。


「君は実力を持っていて、それを俺たちに示してくれた。その才能は、1年生の間でも上位……いや、トップ3に入ると言っても過言じゃない。だけど、クラス同士での競争では目立った成績は残せていない。いつも中間近くの成績だ。俺たちはこのまま、Cクラスで留まるつもりはないし、もっと上を目指したいという気持ちが強いんだ。だけど、それは君の下で達成できる目標じゃない」


 正面で足を止め、向かいあう。


「実力を安定して発揮できない強者は、俺たちの統率者には要らないんだよね。はっきり言って……邪魔だ♪」


 笑顔を向けて言っているにも関わらず、放っているのは言い知れぬ威圧感。


 しかし、それに押される幸崎じゃない。


「そうかい。では、これからは常に本気を出して、真面目にクラスのために貢献すると言えば、少しは可能性が見えてくるかな?」


「残念だけど、それは無いね。この場凌ぎの口約束なんて、君が守るとは思えない」


 梅原は机に手を突き、顔を近づけて目を合わせる。


「俺たちは平民だからさ、弱いんだよ。でも、君は強い。強い君が、取るに足らない弱い平民の俺たちの気持ちを理解しろって方が……無理があったよね?強者と弱者は、水と油なんだよ。だから―――」


 親指を立て、自身の首を横に切る動作をする。


「君と言う強者に期待と希望を抱くのは、もう止めるよ。このクラスに、使えない宝石は必要ないのさ」


 それは、万に一つの可能性にすがる選択肢を排除した決断だった。


 この先、『もしかしたら、幸崎が自分たちを、その力で導いてくれるかもしれない』と言う希望を断ち切ったんだ。


 実力を兼ね備えていても、それを発揮しなければ意味がない。


 戦力外通告をしながら、梅原は言葉が出ない幸崎に言った。


「馬の耳に念仏かもしれないけど、高貴な貴族様に、無知で無能な平民から教訓を1つ授けるよ」


 人差し指を立て、笑みを浮かべたまま続けた。


「いくら素晴らしい才能を持っていても、それを来たるべき時に行使しないなら無価値と同じなんだよ♪」


「うぅっ‼」


 その言葉が、幸崎の怒りの導火線に火を点けた。


 立ち上がり、奴の腕を力強く掴んで自身に引っ張れば、より近くから梅原の瞳が大きく見える。


 奴から見た、その瞳の先は――――。



 ーーーーー



「―――歪み、だったよ。狂気という言葉が相応しいかもしれない」


 言葉を口に出した後、幸崎の額から一滴の玉の汗がこぼれた。


「その後、どうなったんだ?」


「梅原改に手を出そうとした私を、平民たちが取り押さえたよ。流石の私でも、彼1人を守るために必死に押さえ込もうとする数の力には勝てなかったさ」


 自嘲気味に笑う幸崎からは、いつもの強気な所が見受けられない。


「言うまでもなく、その後は梅原改がCクラスの新たな統率者となった。そして、私の存在は今現在、無かったものとして扱われている」


「……それは、辛いな」


 素直な感想を述べれば、それに対しては高らかに笑って吹き飛ばす。


「ハーハハッ‼辛い?それは違うよ、ミスター椿。むしろ、晴れ晴れした気分さ‼私はこれから、私のためだけに、私自身の力を行使することができるのだからねぇ‼これほど喜ばしいことはない‼」


 これから、幸崎ウィルヘルムと言う男がどう言う風に行動するのかは俺には読めない。


 こいつは、いろんな意味で規格外過ぎるからな。


 だけど、この時のこいつの笑い声は、クラスから拒絶された悲しさを隠すために強がっているように感じたんだ。


 それにしても、問題は梅原だ。


 今の幸崎の話が嘘だとは、こいつの性格から到底思えない。


 それが梅原の一面なのだとしたら、不気味過ぎる。


 他人の才能を認めながら、それを拒絶する。


 話している間の幸崎の疲弊ひへいを見るに、相当精神的に追い詰めたようだ。


 こいつの心を痛めつける目的もあったのかもしれない。


 これがやり方なら、この先、これから梅原の統率するCクラスと衝突することになったのなら、その時は危険かもしれないな。


 梅原が相手なら、俺もクラス競争に復帰することになるかもしれない。

Cクラスのリーダー交代‼

しかし、そのやり方はあまりにも……。



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