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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
打ち砕く脱落戦
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笑顔の裏側

 敦side



 時間はさかのぼりり、ホームルーム前。


 職員室には、1年のクラス担任をしている教師が集められ、突然の学園側の判断に困惑していた。


 それは俺も例外ではない。


 間島先生が、もう1度目の前の男に確認を取る。


「今回の2学期末試験で、1つのクラスを脱落させる……ですか?」


「はい、その通りです。これは決定事項ですので、悪しからず」


 黒いスーツを着た男は、運営側の使者だ。


 普通なら、こんな下っ端には何を言っても状況は変わらないと割り切る。


 大人なら、仕事の上でこういう上からの突拍子のない命令にも黙って従うのが社会人としての常識だ。


 しかし、そこで黙っていられる教師は、俺とBクラス担任の牧野先生だけだった。


「そんな急な決定、我々だけでなく、生徒も納得がいくはずがありません。どういうことなのか、説明してもらいたい‼」


「確かに、説明責任は果たしてもらいたいのは同意ですね。いきなりクラス全員退学なんて話になれば、混乱は避けられないですから」


 間島先生に続き、坂本も便乗して説明を要求する。


「申し訳ありませんが、私はただ決定事項を皆さまにお伝えすることのみを仰せつかってきました。説明は、私からは致しかねます」


「まさか、それでこの状況を押し通すつもりじゃないですよね?今までとは違い、今回ばかりは黙って言うことを聞けと言うのは無理があるでしょう」


 Fクラスの担任の女性教師、瀬戸先生が詰め寄るが、男は表情1つ変えない。


 彼女の怒りからの気迫は尤もだ。


 言ったら何だが、この脱落戦は下位のクラスほど不利になる。


 現在最下位のクラスならば、振るい落とされるリスクも高い。


 かく言う俺のEクラスも、余裕はないが。


「申し訳ありません。私には皆様への説明と言う任は課されていません」


「それの一点張りか。……使えない‼」


 吐き捨てるように言って離れようとする瀬戸先生の言葉に、男はこう返した。


「使えないのは、君たちの頭の方なんじゃないのかい?この給料泥棒」


 確かに、その声は男の口から吐き出された。


 しかし、先ほどまでの機械的なものとは違う。


 陽気で人を挑発するような言い方に、俺を含めたその場の全員から恐怖の感情が浮かび上がる。


 そして、男が指を鳴らせば、職員室中のPCが自動で起動し、白いタキシードを着た黒い笑顔の仮面の紳士が映る。


『やぁ、皆さん、お久しぶり。管理AIのイイヤツです』


 イイヤツ。


 電子生命体(AI)である奴は神出鬼没しんしゅつきぼつ


 この紳士が人前に姿を現すのは、決まって災厄デスゲームに関係する時だけだ。


 つまり、本当に脱落戦で振るい落とした生徒は全員、殺す計画のようだな。


 イイヤツは男の視界を通じて俺たちを見渡す。


『この子はアンドロイドでね、データに無いことは言えないことを許して欲しい。この学園の教師である諸君なら、大人として寛大な対応をしてくれると思っていたんだけどね』


「それと今回のことは、話は別でしょう。我々も、生徒も、いきなりの変化に対応するためには情報が必要です」


 Dクラスの眼鏡をかけた男性教師、荒木先生がイイヤツに言葉を掛ければ、それに対して唸り出す。


「この道10年の荒木くんがそういう反応となるのは、予想外だったね。それなら、仕方がない…」


 男が荒木先生に歩み寄れば、右手をかざす。


 その瞬間、彼の身体に電気が走り出す。


「ぐぁはぁあああああああ‼‼」


 大量の電気が遠隔で流され、悲鳴の叫びを発する。


 それを見て、Cクラスの女性担任である村田先生と瀬戸先生は、口を押さえて顔を背ける。


 女性に対しては、刺激が強かったか。


 そう思って牧野先生を横目で捉えるが、彼女は荒木先生を見てもその貼りついた笑みを崩さなかった。


 電流を止めれば、荒木先生は倒れてしまい意識を失う。


『軽い電気ショックだ、死にはしない。……しかし、君たちは一体、今更何を言っているんだろうねぇ?』


 アンドロイドの身体と、全てのPCの画面を通じて、仮面の紳士は威圧感を放つ。


『君たちに、組織の計画に対して文句を言う権利があると思っているのかな?今まで、何人の生徒を死なせてきたと思っているんだい?』


 イイヤツの言葉が、耳を通じて身体の中に毒のように流れ込んでくる。


『生徒の混乱だって?そんなの、勝手にさせておけば良いじゃないか。事態の変化について行けないのなら、置いて行かれるのはわかっていることだろ?それが自然の摂理だ』


 紳士の言葉に、教師全員が反論できない。


『君たちは生徒のためと言っているけど、それは本心じゃない。君たちは、自分の保身のために怒っているに過ぎない。そうだろ?』


「そ、そんなことは無い‼我々は―――がぁはぁああああ‼‼」


 間島先生が否定すれば、次は彼の身体に電気が走って膝をつく。


 流石に鍛えているだけあり、荒木先生とは違い意識は保ったか。


 アンドロイドは間島先生を見下ろす。


『嘘をついても、僕にはわかる。自分のクラスが消えれば、担任としての自分の評価も下がるかもしれない。そして、教師である自分も処分されるかもしれない。その恐怖から逃げるために、自身を正当化したいだけだろ?』


「違う…‼俺たちはぁ―――ぎゃあぐぁはぁああ‼」


 間島先生は、本当に生徒を第一に考える教師のかがみとも言える存在だ。


 しかし、今は彼のその性格が、彼自身を苦しめる。


 2度も自身の言葉を否定され、イイヤツの声色が低いものに変わる。


『僕の言葉を否定する権利は、君たちには無い。この学園に於いて、組織の命令は絶対だ。それに反すると言うことがどう言うことか、わかっているはずだ』


 イイヤツから伝わる、支配者の威圧感。


 これにさからうことはできない。


 最悪の場合、教師であろうとも殺される。


 生と死が隣り合わせなのは、何も生徒だけじゃない。


 俺たち教師も、生き残るためには上手くことを運ばせる必要がある。


「少し、良いですか?イイヤツ」


 軽く手を挙げる俺に、アンドロイドは視線を向ける。


『何かな、岸野くん?』


()()()()()本心で言います。死にたくないし、他のクラスはどうなろうと、俺自身のために、自分のクラスの生徒は誰一人死なせたくない。教師の偽善は抜きにして、少なくとも、生徒たちには公平に行きませんか?」


『……ふむ、100点満点の提案だね』


 イイヤツは手を軽く叩いて拍手をする。


『相変わらず、君の正直な性格は清々しくて好きだよ?岸野くん』


「それは、どうも」


 ここで心にもない「光栄です」なんて言葉を付け加えれば、今の発言の効果が無くなる。


 イイヤツはこの展開を想定していたのか、PCの画面を変える。


 それは3学期からの新制度についてのものだった。


『これまでの体制では、生徒たちの潜在能力を引き出すことはできなかった。クラス内の優秀な指導者について行けば、結果が出るという傾向にある。最悪なことに、全てのクラスを対象とした特別試験では、生徒に機能停止にまで追い込まれる始末だしね』


 言葉の最後で、アンドロイドの視線が俺に向く。


 その生徒の中に、椿が含まれているのは間違いない。


『これでは、組織も生徒の能力データを採取することができなくなる。それでは、本来の目的から逸れることになってしまうだろ?したがって、新しい体制に移行することが決定した。生徒1人1人が、本来の実力を発揮できる舞台を整える』


「そのための、脱落戦と言うことですか」


『その通り。これは篩だよ。3学期からは、新しくクラス同士の対戦が行われる予定だ。これから起きる新体制に参加する資格があるクラスのみが、生き残れば良い』


 これまでの試験では、確かに少数の指導者に便乗している生徒が多く存在していたのは事実だ。


 しかし、これからはそうはいかなくなる。


 生き残りたければ、自身の実力を示すしかない。


 まずは、日々積み重ねている学力で示す必要があると言うことか。


『この学園は、あくまでも子どもたちの能力を計るために存在していることを忘れないで欲しい。人は生命の危機を感じる時にこそ、眠っている本来の能力を発揮するものだからね?』


 イイヤツの理論を否定するつもりはない。


 死を感じた時、人は力を解放する。


 しかし、やり方が気に入らない。


 組織の奴らは、子どもたちを被検体としか思っていない。


 吐き気をもよおすほどの邪悪。


 それに対して正面から対抗する手段は、今はない。




 -----

 円華side



 勉強会の日程が決まり、クラスは解散することになった。


 恵美たちと校舎を出れば、玄関の前に久しぶりに見る気に入らない笑顔の男が立っていた。


「あれって……」


 恵美が奴に反応して何か言いかける前に、歩み寄って目を鋭くさせる。


「こんな所で何してんだよ、梅原?」


「何って……そんな怖い顔をしないでよ」


 睨みつけようとも、笑顔を崩さない梅原。


 その視線の先に恵美を捉えようとするのを、立ち位置を変えることで阻止する。


「あいつに用か?」


「ううん、ちょっと気になっただけ。君なら、理由は聞かなくてもわかってくれるだろ?」


「どうでも良い。今はテスト期間中だ。部屋に戻って勉強しなくていいのかよ」


「心配してくれるなんて嬉しいな。でも、大丈夫だよ?勉強は日々の積み重ねだしね」


 さっさと帰れと遠回しに言っても、梅原にその気は無いようだ。


「待っていたのは君だよ、椿くん。少し話がしたくてね」


「また、そのパターンか。おまえのこと、嫌いだって言ったよな?」


「だから、その認識を変えるために、話をしに来たんじゃないか」


 話す意思が無いことを伝えても、また付いてこられて話し出すだろう。


 こいつを、恵美には近づけたくない。


 成瀬たちに先に行くように手でジェスチャーした後、「場所を変えようぜ」と伝えた。


 2人で移動したのは、誰も居ない校舎裏だ。


「こういう場所に誘われたらさ、パターンって2つに分けられるよね?告白されるのかー、待ち伏せされて、複数の不良から集団リンチにあうのか♪」


「そのどっちでもねぇから、安心しろよ」


「それはそれで残念だな。告白だったら、喜んでOKって言ったのに♪」


 マジかよ、こいつってそっち系か。


 いや、くだらない冗談か。


 バカらしい、早々に話を終わらせよう。


「まぁ、告白するのはこっちの方なんだけどね」


「・・・はぁ?」


 ドン引きな顔をすれば、「あ、そっちの気はないから大丈夫」と真顔で言われた。


 止めろよ、今の話の流れだと警戒するだろ。


 梅原は貼りついた笑みを消し、目が開いて瞳を見せる。


「ちょっとね、君の俺への好感度を上げるための種明かしをしに来たんだよ。このテストで、俺もこの学園を去ることになるかもしれないからね」


「種明かし?一体、何の手品てじなをしたって言うんだよ」


 見当がつかない俺に対して、奴はフフっと笑ってはスマホを取り出す。


 そして、画面にある動画を出して見せてきた。


 映っているのは、カラオケルーム。


 その中で話している、柘榴と木島。


「……そう言うことか。道理で、体育祭の時に裏切り者を知っていたはずだぜ」


 体育祭の時に届いていた、差出人不明のメール。


 あれに添付されていた、柘榴たちの密会の動画だ。


 これがあったからこそ、俺は体育祭の時にあいつを止めることができたんだ。


「俺の送った情報は、有効に使ってくれたようだね。安心したよ。やっぱり、君は思った通り、強い才能の持ち主だったみたいだ」


「……俺を試したのか?」


「結果的にはそうなるかな。でも、君の手助けをしたかったのは本当だよ?」


 ひょう々とした態度が鼻につくが、今はそれよりも疑問がく。


「一体、どうやってあんな動画を用意したんだ?」


「たまたまだよ。クラスの友達に悪戯いたずらを仕掛けようと、ビデオカメラを設置してたら、都合よくあの2人が写ってたんだ。それを使わせてもらっただけ」


「そんな偶然、信じられるかよ」


「信じてもらうしかないんだけどね。運は良い方なんだ」


 貼りついた笑みに戻ったことで、これ以上追及しても意味がないことを察した。


「まぁ、そんな素晴らしい才能を持っている君でも、今の柘榴恭史郎に勝てるかどうかはわからないけどね」


 柘榴の名前を出されれば、俺の表情が険しくなる。


「全クラスで噂になっているよ?彼がEクラスに宣戦布告をしたってね。今の君に、柘榴くんを止めることはできるのかな?」


「できるかどうかじゃねぇ。止めるしかねぇんだよ」


「健闘を祈るよ。君の才能は、ここで失うには惜しいからね」


 他人事のように言う梅原に違和感を覚え、「ちょっと待てよ」と返す。


「おまえ、何でそうも他人事なんだよ?今回の脱落戦、全てのクラスに退学の危険がある。おまえも無関係じゃねぇだろうが」


「凡人は凡人なりに頑張るよ。でも、素晴らしい才能を持つ者同士のぶつかり合いを見るほうが、自分が頑張るよりも面白いのさ。俺にとってはね」


「他人はおまえの娯楽を満たす道具じゃねぇよ」


「……そんな風には思ってないんだけどね」


 言いたいことを言って満足したのか、梅原は俺から離れようと背中を向ける。


 あいつだけスッキリするのは不満が残るから、こっちも言いたいことを言っておくか。


「思い出した、俺もおまえに言いたいことがあったんだった」


「ん?何かな」


 振り向いて嬉しそうに聴いてくる梅原に、冷たい目を向ける。


「恵美は誰にも渡さない。もちろん、おまえにもな、梅原」


「……それは、君から俺に対する宣戦布告ってことで良いのかな?」


「どう受け取ってもらっても良い。だけど、これが俺の意思だ」


「ふうぅ……こればっかりは、何とも言えないね。俺も彼女には本気だから。負けないよ」


 梅原に恵美は渡したくない。


 いや、梅原だけじゃない。


 誰にも渡すつもりはない。


 大切な者は、2度と手放さないと決めたんだ。


「独占欲が強い男は嫌われるから、精々気を付けることだね」


「ご忠告どうも」


「でも、君の素直な気持ちを聞けて今日は嬉しかったよ。お互い、テストを乗り切れたらいいね。共に頑張ろうじゃないか」


 手を差しだしてくるあいつの手を、取ることができなかった。


 こいつに対する並々ならぬ嫌悪感が、それを拒んだんだ。


 久しぶりに話してみて、改めて自身の気持ちを認識した。


 俺はこの笑顔を貼り付けた男のことが、誰よりも嫌いなんだ。


「じゃあね、君の活躍を楽しみにしているよ。でも、俺たちも負けないよ」


 何事も無かったように手を戻し、背中を見せて離れていく。


 それを見送りながら、奴から伸びている影の黒さが、人のものよりも濃く感じた。

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