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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
打ち砕く脱落戦
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現れる統括者

 そもそも、何故俺……隻眼の赤雪姫アイスクイーンが死亡扱いでアメリカを去ったのかと言う話。


 その原因の大半は、この細目野郎カルル・ヴァリアだ。


 こいつは前から、俺の存在を許していなかった節があった。


 そして、グラン大尉に対して激しい嫌悪を向けていた。


 グラン大尉は正当に実力で士官までの椅子まで上り詰めた男であり、彼を影で英雄視する者が居るレベルで軍全体から尊敬の眼差しを受けていた。


 対して、カルルの場合は黒い噂が絶えない男だった。


 実力はグラン大尉と差はほとんど無かったが、野心が強く、裏から手を回して今の椅子まで上り詰めた。


 しかし、その噂は事実だった。


 市民のテロリズムを誘発してテロを起こさせ、軍の中で他の部隊で裏切者を意図的に生み出したこともある。


 そして、それらを自身の部隊で鎮圧、あるいは問題を解決することで功績を上げてきた。


 自作自演で人々を苦しめた、人の皮を被った外道。


 この男の策により、俺にとっては仲間を、グラン大尉にとっては部下を2人失っている。


 マイクス……リーガ……。


 2人の死は今でも忘れられない。


 1人は裏切者を使った策によって殺され、もう1人はその裏切者として俺が手を下した。


 あの悲しい出来事の影に、この男の存在が隠れていることに気づきもしなかった。


 ラケートスにとっては、こいつはいつかは葬らなきゃいけない復讐の対象だった。


 しかし、先手を取ったのはカルルだったんだ。


 奴はラケートスの中でも、隻眼の赤雪姫アイスクイーンとして功績を上げていく俺に危機感を覚え、今までの自身の行ってきた犯罪の1つの容疑者として俺を仕立て上げ、今までの俺の殺人暦を理由に危険人物と見なして上層部の不安感をあおり、捕らえようと動いていた。


 この時に姉さんの復讐を理由に軍を退こうとすれば、国外逃亡と見なされて余計に疑惑の目を向けられることはわかっていた。


 そして、最終的には自身の犯してきた大量殺人の経歴を俺に押し付けて公的に殺すつもりだった。


 それに気づいたグラン大尉は、俺を救うために部隊のメンバーと結託してテロ鎮圧活動中に死を偽装して、秘密裏に日本に送り届けてくれた。


 そのせいで、自分の身を隠すために半年間は真面まともに日を拝めない生活を送ることになったけどな。


 今、どういうわけか俺が死んだという嘘は見抜かれ、アメリカに連れ帰って当初の予定通りに事を進めようとわざわざ足を運んでいる。


 グラン大尉は俺のフォローはできず、黙って事の成り行きを見守っている。


 変に俺を庇えば、即強制送還と言われているのだろう。


 両手で拳を握り、怒りで血管が浮き出ている。


 グラン大尉……隊長はどうして、敵であるカルルと共に才王学園に来た。


 考えろ。


 この人は力が強いだけじゃない。


 心の意味でも、戦略の意味でも強い人だ。


 俺はこの人の強さに、何度も救われたじゃねぇか。


 焦りを見せないように震える両手を隠すため、制服のポケットに突っ込めば違和感を覚えた。


「上官の前でポケットに手を入れるとは、無礼にも程がありますね。……良いでしょう。あなたがそこまで、未来を捨てて反抗的な態度を取り続けるというのであれば、私にも考えがあります」


 カルルは俺に歩みより、笑みを浮かべる。


「今、君と言う大量殺戮兵器たいりょうさつりくへいきを、この国に帰してしまったという大罪を犯したラケートスの愚か者たちがどうしているのか。興味はないですか?」


 今度はラケートスを使って、心を揺さぶるつもりか。


「待て、カルル少佐‼あいつらのことは―――‼」


「自業自得ですよ、グラン大尉。あなたに許したのは付き添うことまで、今の立場で口を挟む権利はありません。私はただ、事実を述べるだけですので」


 その話は不味まずいと感じたのか、グラン大尉が間に入ろうとするがカルルはそれを許さなかった。


「君も罪な人だ、赤雪姫アイスクイーン。自分の利己的な目的のために、部隊の全員を地獄に叩き落したのですから」


 そう言いながら、俺を詰め寄っては笑いながら責めるように言う。


「君がこの国に戻った後、当時のラケートスのメンバーは皆退役し、軍人としての未来を捨てたのですよ?君のような、人を殺す才能しかない危険因子のためだけに、彼らは自身の未来を棒に振ったのです。実に嘆かわしい行為でしょう?そうさせたのは、他でもない君ですが」


 否定できない。


 いや、しちゃいけない。


 俺はラケートスのみんなの想いを背負い、日本に戻ってきたんだ。


 カルルは黙って聞いている俺に、事実を叩きつけ続ける。


「君も身勝手な人形ですね。自身の同胞の1人を手にかけただけでなく、他の同胞の未来も踏みにじったのですから。軍を辞めたメンバーの中には、行方不明になった者や、テログループに所属した疑いのある者も居ると聞いています。このままでは、他のメンバーに付けた監視もより厳重にしなければなりません。私の愛する国を、邪悪な犯罪者から守るために」


 軍を辞めたメンバーは監視を付けられている。


 今日この日に俺に接触した時に、人質として使うために生かしておいたと言いたいのか。


 カルルは人差し指を立て、歪んだ笑みを浮かべる。


「人の人生を奪うことしかできない兵器の君ですが、私は君と違って人間ですので慈悲の心もあります。そこで出てくるのが、私たちが今日、ここに来た目的です」


 人質の命を握っていることを説明した後で、もう1度奴は命令する。


「軍に戻りなさい、椿円華。そうすれば、君が仲間だと思っていた者たちの罪は不問にしましょう。目的か、仲間か、選ぶのは君です」


 そう言って言葉を区切り、額に人差し指を押し当てる。


「まぁ、今の君に選べれば……の話ですが」


 俺はポケットに手を突っ込んだまま、カルルと目を合わせる。


 その瞳には静かな怒りを宿し、意識を少しでも抜けば瞳が紅に変わるかもしれない。


 心の導火線に火を徐々に近づけられている状態で、俺は笑ってやった。


「選ぶかどうか?その言葉、そっくりあんたに返してやるよ。カルル・ヴァリア」


「……何?」


 カルルは目を鋭くさせ、怪訝な顔を浮かべる。


 奴から離れ、ポケットから1つのUSBメモリを取り出す。


「散々脅してくれたけどな。あんた、自分の立場を理解してねぇよ。あんたが俺たちの命を握ってるわけじゃない。あんたの未来は、今、俺の手の中に在る」


 そのUSBを見て、奴は目を見開いては冬の寒さに関係なく額から汗がにじみ出る。


「その、メモリは!?」


「俺が……いや、ラケートスが、あんたの思い通りに動いたことは1回しかねぇ。そして、これからもそれ1回切りだ。俺がこの国に戻る時に、あんたを警戒しないわけがねぇだろ?当然、あんたのやることなんてお見通しだ。だから、みんなは俺にこれを預けてくれた」


 カルルはUSBに向かって手を伸ばしたが、その手を強く払ってメモリを持っている手で拳を握って目の前に突きだして寸止めした。


「俺たちは、あんたの秘密を握っている。そして、これはあんたがバカにした俺の部隊ファミリーからの御守りだ。これがある限り、あんたは俺に手を出せない。そして、俺が居る限り、あんたはあいつらに手を出せない。大人しく、死人を気にせずに、これまで通り善良な市民を守っててくれよ」


 最後に不敵な笑みを向けながら言ってやれば、カルルは青筋を立てて懐からハンドガンを取り出した。


「大量殺戮兵器の分際で、私を脅すというのか!?」


「カルル少佐、おまえって奴は―――」


「黙れ、アシモフ‼おまえの意見など求めん‼」


 グラン大尉は怒声を浴びせられながらも、俺の前に立って盾になる。


「そこを退け、邪魔をするな‼私は上官だぞ!?」


「例え上官殿であろうと、俺の大事な部下を殺させるわけにはいかん。引き金を引くのなら、引けば良い。銃弾を受けることには慣れている」


 強い覚悟を込めた眼差しに、カルルは委縮しそうになりながらも両手で銃を構え直す。


「後悔することになるぞ?」


「そんなものを気にして、大事な部下の命を背負えるわけがない」


 その広い背中越しにではあるが、久しぶりに伝わってくる。


 この人の、身体には収まりきらない程に巨大な信念を。


「隊長……」


 小さく昔の呼び方を呟けば、グラン大尉はフッと笑った。


 カルルは手を震わせながら、人差し指を引き金にかける。


「良いでしょう。私にたて突く者への罰は、銃弾による報復ほうふくです‼」


 奴が引き金を引こうとした瞬間、応接室の扉が開いて1人の男が姿を現した。


 その男は神父服に身を包んでおり、やせ型で目を細めていた。


 顔立ちから、日本人じゃないことはわかる。


 俺を含めた3人の意識を自身に集中させ、カルルに目を向ければ奴の身体が強張ったまま止まる。


 周りとは異質なオーラを放っており、その場を掌握した。


「おやおや、大きな声がしたので様子を見に来てみれば、困りましたねぇ」


 男の声は、言葉にする内容とは裏腹にとても落ち着いたものだった。


 そして、笑みを浮かべて腰に両手を回したままカルルに近づいては、上からハンドガンに触れてゆっくりと降ろさせる。


「そんな物騒な物を、我が校の大切な生徒に向けないでいただけますか?」


 その声が聞こえた時、カルルは正気を取り戻して男を睨みつける。


「おまえ‼私に一体何を――‼」


 黙らせるように男はカルルの口に自身の手を押さえつけ、もう片方の手の人差し指を自身の口元に近づける。


「静かにしていただけませんか?少し落ち着きましょう。ここはアメリカではなく、日本。郷に入っては郷に従い、問題があるのであれば、話し合いで解決しましょう」


 カルルを椅子に座らせ、俺とグラン大尉にも視線を向ける。


「あなた方も座ってください。とことん、双方が納得するまで、話し合いましょう」


 その優しそうな顔で言う言葉とは裏腹に、男の雰囲気はそれを拒否することを許さない覇気を感じさせる。


 さっき、この人は我が校って言ってたよな。


 それなら、才王の関係者なのか。


「あんたは、一体……」


 相手に問いかければ、男は胸に手を当て、目を細めたまま笑顔で言った。


「申し遅れましたね、1年Eクラスの椿円華くん。私はヴォルフ・スカルテット。この才王学園の理事を務める者です」


 才王学園の理事長、ヴォルフ・スカルテット。


 この男、雰囲気からして普通じゃない。


 目の前に立っているだけで、妙な気持ち悪さを感じた。

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