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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
打ち砕く脱落戦
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動き出す恐怖

 学園側としては楽しい合同文化祭と言うイベントが終わり、それとバランスを取るように生徒たちには新たなる試練を言い渡される日が、刻一刻と近づいてくる。


「期末試験なんて嫌いだぁ~~~~‼‼」


 ファミレスで久実が、広げたノートの上に突っ伏して項垂うなだれながら、テーブルの下で地団駄じだんだを踏む。


 それを見て呆れるのは、俺と恵美、基樹、成瀬、麗音だ。


「そんなことを言ったって、点数は上がらないわよ?中間テスト、理系科目は赤点ギリギリだったじゃない。試験期間より前に対策を練らないと、また同じことの繰り返しだわ」


「ううぅぅ~~~~、数学なんて嫌いじゃ~~~。面積の計算なんて、将来なんの役に立つんだよ~~~」


「建築関係の仕事とかだったら、必要になるだろ」


「うち、そんな仕事しないもんね‼関係ないもんね‼円華っちのバカ、アホー‼」


 マジレスすれば、暴言が飛んできて呆れてしまい、ドリンクのカルピスを飲んで頭を冷やす。


 成瀬と麗音が久実の両隣を挟むように座って逃がさず、彼女を勉強に向き合わせている間、俺も頬杖をつきながら、隣で英語のノートを広げて手が止まっている恵美に横目を向ける。


 教科書の長文を和訳させているが、顔からダラダラと汗を流していて両目に「?」が映って見える。


「授業中、俺の背に隠れて寝てるから、こんくらいの英文もわかんねぇんだよ」


「う、うるさいな。これは、わからないわけじゃなくて、念のために問題のスペルミスを探そうと…」


「そんなことしてる暇があったら、普通に取り組んでくれよ」


 恵美も久実ほどではないけど、この前の中間試験では英語の点数が半分を切っていた。


 わからない英単語や文法があったら聞けと言ったが、負けず嫌いが災いして質問して来ない。


「あ、すいませーん‼フライドポテト、おかわり」


 ウェイトレスを呼んでメニューを注文する基樹は、ただの暇つぶしに来ただけって所か。


 合同文化祭が終わってから、またこの6人で共に居ることが多くなったのは良いが、才王学園に活動の舞台が戻ってからは問題が浮き彫りになってきている。


 隣と前でノートに釘付けになっている恵美と久実に目を向けながら、俺は後ろの席の会話が気になって耳を傾けた。


「その話、本当なの?」


「うん、BクラスとFクラスが最近、AクラスとEクラス生徒を付け回してるみたい。何だか気味悪くない?ただでさえ、Bクラスって……ほら……」


「言いたいことはわかるよ。あの人たち、恐いし。柘榴くんとか特に。Fクラスを舎弟にしてるって噂だし。あんまり、関わりたくないよね。」


 後ろで話しているのは、1年の女子2人か。


 先に動きを見せたのは柘榴か。


 文化祭では大人しくしていたみたいだけど、それが終わったから行動を再開させたってことか。


 いや、力を溜めて、それを爆発させたくて仕方がないって感じか。


 AとEへの干渉を他クラスにも気づかれるってことは、大胆に動いているようだな。


 俺も最近、誰かにつけられているような気はしていたが、おそらく柘榴の手の者だろう。


 挑戦権は残り1回しか与えない。


 そろそろ、こっちも我慢の限界だ。


 打てる手を全て使ってかかって来い。


 腹の探り合いも終わりにしようぜ、柘榴恭史郎。


 俺の思念が伝わったのか、窓の外を見れば電灯に背中を預けてこっちを見ている知り合いに気づいた。


「悪い、ちょっとトイレ。基樹、代わりに恵美の勉強見ててくれ」


 適当な理由をつけて席を外し、ファミレスを出て不機嫌そうな女に近づいて声をかける。


「今日の俺の見張りはおまえか?かなも―――」


「ちょっと裏に来い、バカ‼」


 強引に腕を引っ張られては路地裏に連れて行かれ、金本はスマホを突きつけてきた。


「メール、何回も送ったんだけど?どうして気づかなかったのよ」


 見せられたメールには『柘榴の命令で監視するように言われたから、このチャンスに会いたい』と言う内容のものがずらっと上から下まで並んでいた。


「わ、悪かった。クラスメイトの勉強を見てて気づかなかったんだ」


「そんなところだとは思ったわよ。でも、あんた、状況を理解できてるの?柘榴が本格的に動き出したって言うのに」


「……本格的って言葉が気になるな」


 率直な感想を言えば、金本は周りに誰も居ないことを再確認してから目を鋭くさせた。


「あいつは、次の試験であんたたちEクラスに仕掛けるつもりよ。それも、今までみたいに全体にじゃない。椿、あんたにピンポイントで狙いを定めてる」


「次の試験って、残りの日数から考えたら期末試験しかないよな。筆記試験で何を仕掛けてくるっていうんだよ?」


「そこまでは聞かされてない。だけど、執拗しつようにEクラスの生徒の動向を詳しく知ろうとしていた。Aクラスにも同じようなことをしているけど、それはついでのような感じね」


 AクラスとEクラスを狙うのはカモフラージュ。


 本当の狙いは、俺個人を潰すことと考えるべきか。


 金本は嫌な汗を額から流し、強い眼差しを向けてくる。


「……あんた、文化祭が終わってから柘榴の顔を見たことある?」


「いや、全く。ここ数日、Eクラスに挑発をかけてくることもなかったからな」


 彼女は自分で自分を抱きしめるようにして、身体を震わせる。


「今のあいつは、何か変なんだよ。あいつの顔を見ていると、身体が恐怖で動かなくなるんだ。逆らうことを許さない。今日だって、口答えするクラスの奴らを完膚なきまでに叩き潰した。今までも、私たちのことを恐怖で支配しようとすることはあったけど、あそこまで行き過ぎたものじゃなかった‼」


 金本の頭の中で、柘榴がどんな顔をしているのかはわからない。


 だけど、彼女の態度で1つだけわかることがある。


 あいつは今、人として間違った道を進んでいるということだ。


「金本、おまえがわかる限りで良い。柘榴は、いつからそんな風に変わったんだ?」


 俺の質問に、金本は息を整えて落ち着きを取り戻してから答えてくれた。


「……文化祭が終わった次の日のことよ」


 彼女は話してくれた。


 柘榴恭史郎が、力という恐怖でBクラスを支配した時のことを。



 -----

 蘭side



 時は文化祭の翌日まで遡る。


 その日の放課後、柘榴は突然、誰かが教室を出る前に教壇の上に座っては黒板を裏拳で強く叩いた。


 大きな音はすぐに教室中に反響し、全員の動きを止め、あいつに視線を集中させた。


「今、ここから出た奴は、2度とこの教室に足を踏み入れることができないと思え?大人しく、俺が良いというまで席に座ってろ」


 全員にそう命令すれば、それに従って立っていた者は席に座り直す者がほとんどだった。


 だけど、そうじゃない勇敢と書いて無謀なバカも居た。


 野球部の石田だ。


「はぁ?今は何の試験の期間でもないだろ?俺たちは部活があるんだ。勝手に出させてもら――んぶぁあ‼」


 言葉の途中で、柘榴は石田の頭を掴んで顔面に膝蹴りを食らわせた。


 腰を丸めて、顔を押さえながらうずくまる石田。


「うぅううう‼目がっ…‼鼻がぁあああ‼」


「うるせぇ、わめくな。これは、主の命令に背いた罰だ。奴隷の分際で、調子に乗ってんじゃねぇよ」


 頭の上に足を置き、柘榴は汚物に向ける目で見下ろす。


 その行動だけで、場の空気はさらに悪くなった。


 おかしい。


 柘榴の行動が、いつもと違う。


 私の目は大人しく席に座っている内海や平に向き、そして次に皆の顔を一瞥いちべつする。


 いつもなら、こういう暴力的な制裁は自分では行わず、内海や平にさせていた。


 そして、まず最初にあいつはクラスに向けた約定を破っている。


 柘榴の命令が絶対なのは、筆記試験や特別試験、能力点アビリティポイントが関係するイベントの時だけだったはず。


 それを条件にしていたから、納得がいかなかったクラスメイトも従っていた。


 だけど、今は何の試験も公表されていない。


 と言うか、昨日合同文化祭が終わったばっかりよ。


「俺の命令に反し、この雑魚を保健室に連れて行こうって言う勇者は居るか?」


 その問いに対して、全員が目を逸らす。


「居るわけねぇよなぁ。おまえら全員、俺に歯向かうことがどう言う事かわかっている。だから、今、俺の命令通りに良い子で座ってるんだもんなぁ‼」


 愉快そうにそう言い、石田の頭を横に蹴って倒れさせては机と机の間を歩いてはクラスメイトの顔を1人1人見渡していく。


「おまえたちクズが、今Bクラスの立場を維持できているのは、おまえたちの実力か?違う。この俺が根回ししたからだ」


 柘榴の言葉を否定することはできない。


「おまえたちを動かし、引っ張ってきたのは俺だ。だったら、その対価は払わねぇといけねぇよなぁ?俺からの地位と言う恩恵おんけいを受け、何も返そうとしないのは公平フェアじゃない」


 実際、あいつの力で引っ張られてきた部分は大きい。


 だけど、違う‼


 今のあいつには、言われたくない。


「クズは俺の言う通りに動いていれば良いんだよ。この柘榴恭史郎の従順な奴隷になってさえいれば、これから先、奴を完膚なきまでに潰した後、AクラスでもSクラスでも這い上がれるんだからな」


 言い終わると同時に足を止め、右側の席に座っている大人しい女子、松井を睨みつけて目を合わせる。


「松井、何だ?その反抗的な目は」


「……ふぇ?」


 松井はただ、柘榴の言葉に震えていただけだった。


 怯えていただけのはず。


 それなのに、その泳いだ目すらも柘榴は許さなかった。


「それは恐怖の目じゃない。恐怖を外側に押し出して、俺に怒りを感じている奴の目だ」


 松井の髪を引っ張って立たせ、間近で目を合わせる。


「いやぁああ‼痛いぃ‼」


「目を逸らすなぁ‼答えろよ、おまえは俺に反抗的な目を向けただろ!?クズな奴隷の分際でぇ‼」


 松井に怒声を浴びせる柘榴の姿を見て、私は皆とは別の意味で恐怖を感じた。


 何してんのよ……柘榴。


 あんた、最低な野郎だとは思ってたけど、こんなことをする男じゃなかったなかったでしょ。


「柘榴ぉ‼」


 名前を叫ぶと同時に席から立ち上がり、私はあいつを睨みつける。


「何なのよ、あんた。一体、私たちをどうしたいっていうの!?」


「……あぁ?」


 柘榴は松井の髪から手を離して解放し、私に近づくと手の甲を顔に向かって振るってくる。


 わかっていた。


 今のあいつは、反抗する者に身体的な制裁をくわえようとする。


 わかっていたからこそ、すぐに反応して右手で防御の構えをした。


 なのに―――。


「ぶぁがぁああ‼」


 防御したことが、意味を成さなかった。


 身体を横に飛ばされ、受け身も取れずに床に倒れてしまう。


 何て馬鹿力してんのよ。


 前にこいつに喧嘩を挑んだ時とは別人。


「おまえたちをどうしたいか……だって?決まってんだろ、金本ぉ。わざわざ言わせるなよ」


 そう言って、柘榴は私に近づいて起き上がれないように腹部を踏んでは腰を丸めて顔を近づける。


 そして、目を合わせ、ささやくような声でねっとりした口調で言った。


「思い知らせたいんだよ。おまえたちが、あいつに地獄を見せるための駒だってことをなぁ…‼」


 その時の顔は、次の日になっても忘れることは無かった。


 人間が見せるものとは思えないほどの、歪んだおぞましい笑顔だった。

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