面倒な執事
学園長との話は終わり、俺は一礼して学園長室を出る。
「わざわざお時間を作っていただき、ありがとうございました、学園長」
「いや、君とは1度話をしてみたいとは思っていたのだ。こちらとしても願ってもない事だった。今後とも、精進したまえ。…期待しているぞ、椿円華よ」
「はい。その、最後に質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
「うむ…何かな?」
「学園長は生徒の味方ですか?それとも、学園の味方ですか?」
恐れずにまっすぐ目を見て聞けば、学園長は間をおかず、俺の目を見て言ってくれた。
「無論、君たち次代を担う者たちの味方だ」
「…わかりました。それを聞けて安心しました。それでは失礼します」
「うむ、気をつけてな。稲美とも、今後変わらず仲良くしてやってほしい」
「努力はします」
俺、成瀬と仲が良いってイメージなのか。全然仲良くできていない気がするんだけど。
もう1度礼をして背中を向け、そのまま学園長室を離れる。
敵組織の名前はわかった。
だけど、姉さんに手を下した者のことはわからなかった。
これを復讐への一歩前進と捉えれば良いのかは微妙だな。
俺にとっては緋色の幻影については今はどうでも良い。
あくまで直接関係しているのは、組織の中に居る姉さんを殺した者だけなのだから。
深呼吸して頭を切り替え、奏奈が待っているだろうエレベーターに向かう。
これからのことをどうするか考えながら歩いていると、角を曲がってきた人とぶつかってしまった。
「うわっと!!」
「きゃっ!!」
ぶつかると同時に、白い紙が何十枚も宙に飛んでしまう。
それを床に落ちる前に全部取れば、ぶつかって尻もちをついている人…薄い赤い長髪をした女子に渡す。
「悪いな、前を見ていなかった」
「だ、大丈夫大丈夫、ありがとう!…って、えー!?」
俺から、おそらくクラスへの配り物だろうプリントを受け取ると、こっちを見て目を見開く女子。
そして、自分で立ち上がるとすぐに目をキラキラさせて俺に顔を近づけてきた。まるで観察でもするように。
「お、おい…」
「君、椿円華くんだよね!?人狼ゲームの時は完敗したよ~。逆にクラスの人狼を当てちゃいけないなんてこと、よく気づいたよね?」
「あ、ああ…どうも」
何だ?こいつ。無駄にテンションが高い……というか、眩しっ。
「私はAクラスの和泉要。よろしく」
「はぁぁ…俺はFクラスだし、あんたはAクラスだろ?校舎が違うんだから接点がない。よろしくできるわけがないと思うぞ」
「そうかな?私は、君と仲良くしたいなぁって思ってるんだけどな」
何をどうしたら、元軍人で人殺しの俺と仲良くしたいって思考が生まれるのかが理解できない。
こういう人種とは極力関わらない方が良い気がする。
「少なくとも、俺がFクラスから上がるか、あんたがFクラスに転落しないと実現は不可能だな」
無表情で終始話していると、和泉は何か思いついたような表情をしてパンッと手を叩く。
「なら、私が君が上のクラスに行けるように協力するよ!」
「…え?」
予想外の打ち返しが来た。
言っている意味がわからない。
「そうだねぇ、一番手っ取り早いのは、2週間後の期末テスト。そこで、合計点で他のクラスを超えればいいわけだから…。ねぇ、この後勉強会とか予定にあるかな?」
「あ、ああ…一応あるけど…」
あ、あれ?これって、話がおかしな方向に向かっていないだろうか。
と言うか、この和泉要と言う女のペースに乗せられているような気が…。
「よし!じゃあ、AクラスとFクラス合同で勉強会しようよ!!」
「は…はぁああ!!いやいや、そんなこと急に、しかも独断で決めても良いのかよ!?」
「うん、Aクラスのみんな、友好的だから大丈夫!!」
すいません、うちのクラスは集団意識が半端ないです。
転入した当初はマジで疎外されてました、俺。
何よりも勝手に成瀬の予想外のことをしてしまうと、あいつの怒りが俺に向いてきて、絶対に八つ当たりされる。
「い、いやー、Fクラスはそうじゃないからなー…難しいぜ?特に仲間意識が強い奴ばっかりだから、狂犬みたいに威嚇してくると思う」
「そうなの?私、住良木さんと友達で、メールする仲だよ?」
「れ…住良木とか。…ちょっとすまん、電話する」
Fクラスの勉強会の目的は、赤点回避すること。おそらく、赤点を取ったらマイナスポイントが付いてしまうんだろうな。
なら、Aクラスに上るくらいの力がある奴らが協力してくれるのは、願ったり叶ったりではないだろうか。俺が参加するかどうかは別にして。
試しに麗音に電話をかけてみると、すぐにかかった。
「ちょっと良いか?最重要な話があるんだけど」
電話越しに、何かガヤガヤと騒がしい声?が聞こえてくる。
『話をするのは別に良いけどー!もうみんな、寮のロビーにある待ってるんですけどー!?』
「あ?予定では6時のはずだろ。今はまだ4時だぞ?つか、声でかい」
『今、ロビーじゃみんながうるさいから、近くのトイレから電話してるの!成瀬さんが赤点組だけじゃなくて、50人全員を集めちゃって、あたしと成瀬さんと菊池さんだけじゃ手が付けられない状態なんだから!巨乳お姉さんに鼻を伸ばしてる暇があったら、とっとと帰って来てよね!!』
巨乳って……胸なんて別にどうでも良いだろ。
「赤点組だけじゃなかったのか?どうして全員?」
『事情はあとで説明するから、早く来なさいよ!』
「はいはい。話が変わるけど、助っ人と一緒に行っても良いか?」
『助っ人?誰のこと?』
「Aクラスの和泉って女。知り合いなんだろ?」
『和泉さん!?わ、わかった。成瀬さんは私が説得しておく…って言うか、もう猫の手も借りたいって言うような表情してるから大丈夫だと思う!!さっさと連れて帰ってきて!!』
「了解、すぐに行く」
俺は電話を切って溜め息をつく。
成瀬のやつ、どうして全員なんて…もしかして、祖父である学園長から何か言われたのか?
真意を確かめるのは後にし、和泉の方を向く。
「許可は取れた。早速頼むよ」
「うん、じゃあ行こうか!」
2人で校舎を出ようとすると、「お嬢様、お待ちください!!」と言う男の声が聞こえてきた。
お、お嬢様…?
恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはビシッと制服を着こなしている、青髪でパーマのかかった男が近づいてきた。
その男を見て、和泉はバツの悪そうな表情をする。
「要お嬢様、もう帰宅の時間は過ぎております。寮にお戻りください」
「雨水…どうして、ここがわかったの?」
「お嬢様の行くところなど、執事としてはわかっていて当然でございます。…して、何故そこの危険分子と一緒に居るのでしょうか?」
俺のことを目を細めて睨んでくる雨水。
お嬢様と執事ってことは、彼女に仕えてるってことか。
和泉家は、少なくとも金持ちのランクってか。
つか、危険分子ってマジで失礼だな、こいつ。
和泉が俺を庇うように立つ。
「い、今からFクラスの寮に行こうと思うの。勉強会に参加したいと思って…」
「Fクラスの寮に?お言葉ですが、お嬢様が最下級のゴミの集まりであるFクラスの寮に赴く理由がわかりかねます。勉強会など、お嬢様には必要ないはずです。早急にご帰宅を」
雨水は俺から離そうと、強引に和泉の腕を掴んで引っ張る。
「雨水…!!痛い…痛いって!!」
「早く帰りましょう、このような輩と付き合っている暇はありません」
話を聞かない系執事か、一番厄介な奴だな。
「おい、こいつ嫌がってるだろ?主の嫌がることをする執事なんて、二流を下回って三流だな、おまえ」
「…何?」
雨水の腕を掴んで睨みつければ、こいつも俺のことを睨みつけてくる。
「お嬢様は、貴様たちとは相いれない存在だ。関わろうとするな」
「そのお嬢様が俺たち下々の者と交流を深めたいって言ってんだ。執事なら、主の1つの我儘くらい叶えてやれよ」
「貴様に俺とお嬢様の何がわかる?」
「知るか、興味ない。俺はただ、嫌がってる女に強引に接してる男が気にいらないだけだ」
「ならば、どうする?」
これ、どうしよう?和泉は申し訳なさそうに俺のこと見てるし、時間もないし、この薄いって男は話通用しないし。ここは業においては業に従えか。
「そうだな。軽くできて、すぐに終わる勝負をしようか?それで、白黒はっきりつけよう」




