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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
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変わらない関係

 康則side



 -真城結衣が投票審判を受けていた同時刻-



 逃げなくてはならない。


 ここよりも遠くに。


 ここじゃないどこかへ。


 命の危機を感じずにはいられない。


 阿佐美学園から脱走し、人が多い場所に向かって走り続ける。


 あれだけの力を得ながらも、異能具をもらいながらも、俺は失敗してしまった。


 そんな人間を、クイーンが許すはずが無い。


 結衣は間違いなく退学になり、学園を追い出される。


 その次に怒りの目を向けられるのは、間違いなく俺だ。


 俺は彼女と接点を持ち過ぎた。


 学園に残っていれば、間違いなく潰される。


 その前に、雲隠れしなければならない。


 人目が付かないように、校舎の後ろにある森から街に出ようとする。


 今、全ての注意は結衣に向いている。


 この隙を逃がすわけにはいかない。


 恐怖心を抱えながら、走り続ける。


 この人気の無い森の中で、俺を捕らえられる者が居るはずもない。


『逃れられると思ったか?己の犯した罪から』


 その声は頭の中に響くように、その場に反響する。


 それに反応して足を止めてしまい、問いかける。


「誰だ!?」


 前後左右を確認するが、声の主の姿は見えない。


 全方位に警戒心を向けていると、木陰こかげからその者は姿を現した。


『おまえを裁く者……とでも、言っておこうか?』


「っ!?」


 姿を現したのは、蒼いマントを羽織っている純白の鎧の騎士だった。


 最初に目を引いたのは、その王冠のような5本の角。


 複眼はエメラルドグリーンに輝いており、全身に緑色のラインが入っている。


「おまえは……一体!?」


『耳が悪いな。言っただろ?おまえを裁く者だよ、日下部康則』


 白騎士は俺にゆっくりと歩み寄ってくる。


 逃げようとして振り返れば、その瞬間には既に目の前に立っていた。


「んな!?な、何で……今……前に、居たのに…‼」


『深く考えるな。おまえには、もう無駄なことだ』


 白騎士は手の甲で俺の顔を払うように殴り、背中を地面に着かせて見下ろしてくる。


『どうだった、自作自演のヒーローごっこは?楽しかったか?』


「ヒーロー……ごっこ、だと?ふざけるな‼俺は、皆を導くために、正義のために…‼」


『誰かがおまえにそれを求めたのか?そうでないなら、それは単なる独りよがりな押し付けであり、自己満足の独善だ』


 俺の胸倉を掴み、フルフェイスマスクのバイザーの向こうから鋭い眼光を感じる。


 まるで深淵をのぞき込むように。


『さぞ、ご満悦だっただろう?クイーンの部下に悪事を働かせ、邪魔者に濡れぎぬを着せて正義を執行するヒーローの三文芝居さんもんしばいは。だが、その物語も遂にフィナーレだ』


 白騎士の鎧の緑色のラインが発光し、右手にエメラルドグリーンの炎が灯る。


『おまえは、禁忌きんきの力に手を出してしまった。その罪を償う方法は、1つしかない』


「あぁ…ぁああ……あぁあああ‼」


 逃げようにも、恐怖で足がすくんでしまう。


 腰が抜けて、立つこともできない。


 もはや、自暴自棄になりそうだった。


 両目に意識を集中させ、身体から力が湧き上がってくる。


「俺に……罪など…な…い……。俺はぁ……正義だぁああああ‼‼」


 右手で拳を握って振るえば、それを左手でパーンッと軽々と止められた。


所詮しょせんは根源の一欠片ひとかけらを薄めただけの力だ。その程度、俺には通用しない』


 そのまま右手を掴まれて固体され、逃れることができなくなる。


 そして、燃える右手で頭を掴まれた。


「ぎぃやがらはぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼」


 顔が燃える。


 熱い、痛い、苦しい。


 その手を引きがそうとしても、ビクともしない。


 緑炎りょくえんは一気に全身に広がり、焼けていく。


 俺の正義が……力が……通用しない。


 これが圧倒的な力とでも言うのか。


 白騎士は頭から手を離し、焼けただれる俺を見下ろす。


「おれ…はぁ……せいぎ……をぉ…‼」


『正義?その言葉で、死ぬ間際まで自分をつくろうか。見下げた根性だな、日下部康則』


 騎士はフンっと嘲笑う。


 そして、前髪を引っ張って顔を引き寄せた。


『おまえは多くの人間の努力を踏みにじり、自己満足のために絶望に陥れてきた。見てみたかったんだ。そんなおまえが、復讐者くんたちに、自分の積み上げてきたものを足元から崩されていく様をな』


 意識が消えかける中で、戦士は頭から手を放して立ち上がり、マントをひるがえして背中を向ける。


『まぁ、でも、そこまで面白くもなかったな。所詮おまえは禁忌に手を染めようとも、その程度の器でしかなかったということだ。去年と変わらず、退屈な男には変わりない』


 最後に視界に映ったのは、左手で向けてきたサムズダウン。


『愚かなる罪人よ。大義たいぎの前に、ひれ伏すが良い』


 その姿を見たが最後、俺の目は緑炎しか映らなくなった。


 炎が身体と心を飲み込み、俺のすべてを焦がしていく。


「ぐるぁああああああああああああああああああああああああ‼‼」


 戦士の圧倒的な力に絶望し、叫ぶしかなかったのだ。


 魂が燃え尽き、身体が灰となるその瞬間まで。



 -----

 円華side



 門の前まで見送られ、俺と麗音、一翔は向かい合う。


「昼休みだろ?俺たちに構ってて良いのかよ?」


「知り合いが来たら、見送りくらいするのは常識だろ」


 ぶっきらぼうに言えば、一翔は素っ気なく返してきた。


「取り戻せて良かったな、おまえの居場所」


「……まぁね。悔しいけど、君のおかげだ。感謝している」


 一翔は手を差しだしてくる。


 それは握手を求めているということは当然わかる。


 だけど、あえて俺はその手を取らずにそっぽを向いた。


「ちょっと!?」


 麗音が小言を言いそうになったが、それを一翔が「良いんだ」と言って薄く笑みを浮かべる。


「僕にはそうじゃなくても、君には心から頼りになる仲間が居る。それがわかっただけでも、僕は嬉しかったよ、円華」


「……はぁ。なぁ、一翔」


 名前を呼び、頭の後ろをかいて深呼吸をする。


「な、何だ?別れ際に何を言うつもりだ?」


 麗音も俺の言葉が気になるのか、一翔と交互に見てくる。


 2人の視線を受けながら、俺は半眼を向けて言った。


「な~に、一気に丸くなってるんだよ?気持ちわりぃ。寒気がするわ」


「・・・はぁ!?」


 一翔は目を見開いて驚いたと思えば、眉間にしわを寄せて指をさしてきた。


「君って奴は、いつもいつも‼そうやって、僕を怒らせて楽しいか。この偏屈者‼」


「おまえが急に調子狂う態度を取ってくるから悪いんだろうが、アホ真面目‼」


 俺たちは互いを睨みつけ、いつものように言い合いが始まる。


「大体、君は思ったことを顔と口に出し過ぎなんだよ‼もっと、周りのことを考えろ‼」


「何でもかんでも口を挟んでくるおまえには言われたくねぇんだよ‼もっと、空気を読むことを覚えろ‼」


「少なくとも、僕は君よりは周りが見えている自信があるけどね‼」


「自分を客観視してみろよ。おまえの鬱陶うっとうしさにうんざりしてる奴は何人か居るはずだぜ!?もっと人との距離の詰め方を考えろっての‼」


 互いに頭突きをして目を合わせ、同時に離れてはハンっ!と鼻を鳴らして顔を逸らす。


 俺も一翔も相手の顔を見ずに言って離れる。


 そして、一翔は麗音には笑顔を向けて言った。


「じゃあね、麗音。また会える日を楽しみにしてるよ」


「……まぁ、気長に待っててあげるわ」


 帰りのバスに向かい、麗音を先に入れて後ろを見る。


 一翔はまだ校門の前に立っており、俺を見ている。


 俺たちは約束を果たした。


 確かに、大切な幼馴染って言葉に嘘はねぇ。


 だけど、それ以外にも俺の中で一翔を表す言葉がある。


 それを伝えずに別れるのは、違うと思った。


「一翔。俺たちは……友達じゃねぇからな」


 そこで言葉で終わらせたら、昔と変わらない。


 それに気づいているのか、一翔も落ち着いて次の言葉を待ってくれる。


 今思い返せば、昔からこいつと俺の関係は変わっていない。


 いや、変える必要なんて無かったんだ。


 互いのことが気に入らないと思いつつも、認めてる部分は確かにあった。


 幼馴染だけど、仲間とか友達って言葉はしっくりこなくて、仲良く談笑するような仲じゃねぇし。


 つか、そんな場面を想像しただけでむずがゆい。


 俺たちが互いに抱いている感情は、大切だという気持ち以外にもあるからだと思う。


 負けられない、こいつにだけは。


 憎しみや怒りとは関係なく、純粋にそう思える相手。


 気持ちを震わせてくれる存在。


 俺は右手で拳を握り、一翔に向かって突き出した。


「俺たちは幼馴染で……ライバルだ」


 一翔も同じことを思っていたのだろう、陽気な笑みを浮かべて左手の拳を合わせてきた。


「当たり前だ‼」


 拳が合わさった時、俺は久しぶりに純粋な笑みを一翔に向けることができた。


 昔のように戻るつもりはないし、戻れるとも思っていない。


 これが今の俺たちの関係なんだ。


「円華」


 拳を合わせたまま、あいつは真剣な眼差しを俺に向けてくる。


「君がもしも、暗闇の道を進んでしまった時は……僕が、君を引きずり戻すよ」


 その一言が胸に刺さり、温かさを帯びて馴染なじんでいく。


 こいつ、俺の目的に気づいていたのか?


 確かにこれから先、知らず知らずのうちに闇に飲まれてしまう事があるかもしれない。


 その時に、俺を止められる存在が居るとすれば―――。


「……その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」


 そう返して拳を離し、俺はバスに乗り込んだ。


 一翔の場合はありえないかもしれねぇけど、こいつが1人で暴走することだってあるかもしれない。


 その時に止められるのは、多分俺だけだ。


 これは新たな約束だ。


 互いの存在があるからこそ、前に進むことができる。


 幼馴染であり、ライバルであり、互いを止められる存在。


 それが俺にとっての一翔で、一翔にとっての俺なんだ。


 バスは阿佐美から離れていき、後ろを見れば一翔が小さくなっていく。


「当分幼馴染に会えなくなるのは、やっぱり悲しい?」


 心配した顔で麗音が聞いている。


「……まさか」


 俺はそう言って、外の風景を眺めていた。


 進む道は違っても、それが交わらないわけじゃない。


 次会う時までに、俺はもっと強くなる。


 今回は引き分けだったけど、次は必ず勝ってやる。


 俺の中で復讐以外の大切な目的が、また1つ増えてしまった。

感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます。


これにて、『隣り合わせの文化祭』編は終了です。

いやー、長かったっすねー。

お付き合いいただきありがとうございました‼

当初の予定通り、エモい展開が表現できてたら幸いです。


最後の最後で現れた、謎の純白の戦士……いやー、やっと出せたわ、こいつ。


円華とこの戦士の邂逅する日は、いつになることか……。


いや、姿が違うだけで、もう会っていたり?そうじゃなかったり?


次章『打ち砕く脱落戦』編をご期待くださいませ。

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