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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
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投票審判

 円華side



 文化祭の後日。


 向こうの生徒会に準備ができたと呼び出され、俺は麗音と共に阿佐美学園に赴いた。


 通されたのは体育館。


 そこは全校生徒が集まっており、1人の女子生徒が敵意と言う矢面に立たされている。


 生気が抜けているが、真城結衣だ。


「結衣……」


「あんまり、頭出すなよ?俺たちは特別に通されてるだけなんだ。あくまで、ここからの結末は、こいつら次第だぜ」


 俺たちは体育館でも人の目につかないように後ろの方で、影を薄めてこれから起きることを見守る。


 ステージの前には生徒会の役員が並んでおり、一翔の姿もある。


「これより、阿佐美学園生徒会主催による、1年生全員参加の元、真城結衣への投票審判とうひょうしんぱんを行います」


 投票審判。


 それが生徒会の出した答えか。


 真城は全校生徒を巻き込み、学園を混乱に追い込んだ張本人だ。


 普通なら厳重注意で済む所だろうが、今までの悪い行いが露見されたことでそれどころではなくなった。


 本当ならば、即退学が妥当な結論だろう。


 しかし、俺の提示した条件がそれをさせなかった。


 今まで苦しめられた者たちが、ただの退学で気が済むはずが無い。


 そして、最も苦しめられたのは1年生だ。


 手を下すなら、自分たちの手で。


 これは阿佐美1年から、真城結衣への大がかりな復讐の舞台になる。


「生徒の皆さんには、予めアプリをダウンロードしてもらっています。そのアプリに、今から提示する議題に対して賛成の者は〇を、反対の者は✕を選択してください。制限時間は10分です。なお、時間内には何度選択を変えても構いません」


 役員の先頭に立っている者……阿佐美の生徒会長は真城を見下ろす。


「その間、真城結衣。あなたには弁明の機会を与えましょう。彼らの善意に訴えるもよし、悪意を以て脅すもよし。あらゆる話術を使い、皆を誘導して見なさい」


 そう挑発的に言えば、生徒会長は議題を提示した。


『1年Aクラス 真城結衣を退学に処す』


 示されたと同時に、ステージに設置してある時計がカウントダウンを開始した。


 そして、真城は口を開いた。


「みんな、私を退学にするなんて……そんな酷いことぉ、しないよねぇ~?」


 この期に及んで、猫なで声でか弱い女を演じ始める。


「私、みんなにたくさん酷いことをしてきたよ?だからぁ、みんなのために心を入れ替えて、一生懸命頑張るから‼みんなに許されるように、罪を償わせてください‼本当にごめんなさい‼」


 頭を下げて皆に謝罪する真城。


 その姿を見て、麗音が隣で「気持ち悪い」と呆れた声を出す。


 こんな偽物の態度が通じると本当に思っているなら、神経を疑うぜ。


 謝罪する直前に、瞳が紅に変わったのが分かった。


 まだ自分の能力が通じると思っているのだろう。


 いや、この場合は能力にすがるしかないというのが正しいのか。


 真城の言葉を受けても、1年生全体で彼女に対して感情が動かされた者が居ないのは空気でわかった。


 動揺すらも走らない。


 皆、早々に、それぞれの想いを込めて、自らの意思を記す。


 その間も真城が言葉を続けるが、もはやその言葉に耳を傾ける者は居なかった。


 無駄だよ、真城結衣。


 おまえの能力は、もう誰にも通用しない。


 退学を免れようとする真城の姿を真っ直ぐに見て、麗音は拳を震わせる。


 それが何に対する怒りなのかは、俺にはわからない。


 しかし、確かな強い想いを目を通じて発していたのはわかる。


 10分はすぐに経過し、集計が成された。


 生徒会長が、結果を口にする。


「もはや、数えるまでもない。結果は―――賛成全員、反対0だ」


 その言葉を聞き、真城は膝から崩れて床に座り込む。


「な……ん……で…?」


 その瞳は紅から戻っておらず、今も常時能力を発動しているのだろう。


 しかし、通用しない。


 効果があるはずがねぇんだよ。


「真城の能力は……あいつに対する『恐怖』、あるいは『信頼』を基に、相手の心身を支配する能力だったんだ」


「……それに気づいていたから、文化祭当日に成瀬さんの仕掛けを使ったのよね」


 信頼と恐怖、どちらかが鍵になっていることは、濡れ衣を着せられた時に気づいていた。


 麗音の告白を聞いて、才王側から俺の疑いが薄れたのに、阿佐美側では何の変化も見られなかった。


 その時に、真城の瞳が変化したのは今でも覚えている。


 能力を発動して、心を掌握していたのだろう。


 揺らがない信頼か、絶対的な恐怖を使って。


 だからこそ、全ての生徒が集まる場を利用して彼女の悪事をさらしたんだ。


 信頼だった場合、彼女の行ってきた悪事の証言を聞いて失望する。


 恐怖だった場合、自分以外にも同じ痛みを分け合える仲間が居ることが立ち向かう勇気を与える。


 どちらにしても、あいつの能力を無効にすることは可能だったというわけだ。


「哀れだな……真城結衣。あいつは、やり過ぎた」


 結果を見て満足し、帰ろうとすれば麗音が「待って」と強い口調で言う。


 ステージの方を指させば、情緒不安定な真城が一翔にすり寄っていた。


「柿谷くん……嫌、だよ……‼私……退学、なんてぇ…‼本当にぃ……心ぉ……入れ替えるからぁ……助けてぇええええ‼‼」


 泣きじゃくりながら一翔の前にひざまずき、助けを請う真城。


 あの女、考えやがった。


 今回、真城に最も苦しめられたのは一翔だ。


 あいつが彼女に同情して一言「許す」と言ってしまえば、それで流れが変わる可能性もある。


「ごめんなさい‼ごめんなさい‼ごめんなさい‼ごめんなさい‼」


 必死に謝り、許しを請う真城。


 そんな彼女を見下ろし、一翔は片膝をついて手を差し伸べる。


「……真城さん、もう……良いよ」


 そう優しく声をかけてしまった。


 あいつ、この場でお人好しを発揮する気じゃ…‼


 固唾かたずを飲んで見守るしかない。


 真城は震える手で一翔の手を取ろうとする。


 2人の手が触れようとした瞬間、パンっと乾いた音が響いた。


「ぇ……」


 声にならない声を発し、目を見開く真城。


 一翔は大きい動作で、その場に居る全員に自分の意思を示した。


 あいつは、真城の手を払ったんだ。


「君の今までの悪行は、この学園だけじゃとどまらない。もしかしたら、僕はこの学園だけの話なら、君を許していたかもしれない。君のことを、もう1度信じたかったのも事実だ」


 「でも」と区切り、一翔は立ち上がって怒りの目を真城に向けた。


「真城結衣。君は、君のことを友達だと思ってくれた住良木さんを裏切った‼君のことを信頼していた人の心を踏みにじったんだ‼それだけは……友達を裏切るような君を、そして、この場に居る全員を苦しめた君を‼僕は……許すことはできないよ…‼」


 必死に怒りを抑えようとしていたのだろう。


 あいつの顔は険しくなっており、拳を握って震わせている。


「罪を償うと言うのなら、僕らの目の前から消えてくれ…‼‼」


 右手を横に振り上げ、真城に相応しいショウダウンは下された。


 その時、彼女の目から光は消え、絶望を絵に描いたような表情をしていた。


 そして、この光景を見て俺と麗音の脳裏に苦い思い出がよみがえった。


「ちょっと……あたし、あんたに殴られた頭痛くなってきたんだけど」


「はははっ、耳がてぇわ」


 互いの顔を見て苦笑いを浮かべながらも、事のなり行きを見て安堵の息をついた。



 -----

 麗音side



 投票審判が終了して、1年生が体育館から出て行く。


 結衣は生徒会の役員に連行され、今から退学処分の手続きをすることになる。


 彼女は最後まで、後ろで見ていたあたしに気づくことは無かった。


 あたしの脳裏には、人の絶望を快楽にしていた女の末路が強く残った。


 今の光景を、一生忘れることはないだろう。


 円華くんが生徒会長に挨拶をしておきたいと言って行ってしまい、1人体育館の隅に残される。


「あれ……住良木さん?」


 あたしの存在に気づいて、柿谷が近づいてきた。


 正直、今一番気づかれたくなかった相手だわ。


「どうして、君がここに?円華が来るって話は聞いてたけど」


「その円華くんに連れて来られたの。……結衣の最後を見ておけって」


「そうだったんだね。君の納得できる形で終わらせることができたかはわからないけど、役に立てたなら嬉しいかな」


 無邪気な笑顔を向けてくる柿谷に対して、あたしはどういう顔をして良いかわからない。


 さっきの結衣に対する言葉が頭に残っていて、何かを言わなきゃいけないのはわかってる。


 でも、言葉がまとまらない。


「あの……その……あたしのことを、何で……」


 柿谷はしどろもどろしてるあたしに首を傾げていたけど、すぐに言いたいことに気づいたのか苦笑いを浮かべる。


「さっきはごめんね?でも、あれは僕の本心だよ。君が真城さんとの過去のことを話してくれた時、本当に許せないと思ったんだ。彼女に謝られた時に思い出したのは、君のあの時の悔しそうな顔だったから」


「何それ?じゃあ……もしかして、あたしのために結衣の手を払ったとでも言うつもり?」


「え?う~ん……それもあるかな。才王で最初にできた友達を、悲しませたくなかったからね」


 平然と言う彼の一言に、あたしは「え!?」と動揺してしまう。


「ちょ、ちょっと‼いつ、あんたとあたしが友達になったのよ!?」


「だって……割と普通に話せたから、もう友達かなって思って……。だ、ダメ?」


「ダメっ……て言うか、あたしは……」


 良いとも言えないし、ダメとも言えない。


 胸がモヤモヤする。


 あたしは、柿谷のことをどう想ってるの?


 最初に会った時は、気に入らない偽善者だって思っていたし、今もそれは変わらない……と、思う。


 でも、それ以上に、今回の件では一応世話になった?わけだし。


 多分……あたしの殻を破れたきっかけに、彼のことも入っていると思うわけで…。


 あぁ~もう‼何であたしが、こんなバカ真っ直ぐな男に心がぐちゃぐちゃにされようになってるのよー!?


 もう、しょうがない‼


 冷静を装って、腕を組んで言う。


「麗音……」


「・・・え?何?」


 聞こえなかったようで聞き返された。


 あー、もう、ムカつく‼


「だから、麗音よ!……友達だって思うなら、別に……あたしのことは、名前で呼んでも…良いわ」


「え、本当!?だったら、僕のことも一翔って呼んでよ」


「……考えておくわ」


 目を逸らして受け入れるけど、視界の端に嬉しそうに笑う柿谷……一翔の笑顔が映る。


 本当に……あたしもどうかしてる。


「ありがとね。あたしのことで、怒ってくれて」


「いや、そんな……。誰かに感謝されたのは、久しぶりな気がする。いつもは、鬱陶うっとうしがられるからね」


「あー、その気持ちわかるわぁ~。あんたって、本っっ当に超が付くぐらい鬱陶うっとうしいもんね」


「え!?酷い‼」


 オーバーに悲しむ一翔を見て、思わず口角が上がってしまう。


 その後も円華くんが戻ってくるまで、一翔をいじって遊んでいた。


 喜怒哀楽が激しくて、表情豊かな新しい男の子の友達。


 彼と話しているだけで、あたしは不思議と笑みがこぼれていた。

感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます。


真城結衣、断罪‼

そして、新しいカップルの予感……かな?多分。


文化祭編も次でラストです‼

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