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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
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嬉し涙

 とりあえず、その後の1時間はゴタゴタだった。


 岸野たちが来るのを待ち、その後はいろいろと事情を説明した後に後で詳しいことを聞くという形で地下から解放され、地上の新鮮な空気が吸えたのが30分後のことだった。


 そこには先生たちを呼んでくれた雨水や金本の他に、恵美や麗音、成瀬たちの姿が在った。


「まさか、本当に俺たちが戻る前に終わらせるとはな。貴様のことが末恐ろしく思うぞ」


「俺1人で片づけたわけじゃねぇよ。決着をつけたのは一翔だ」


 雨水と話した後、麗音たちからドーム内で起きたことを聴いた。


 どうやら、俺の無実は真城の言葉の信憑性の皆無から証明されたらしく、そこに居た阿佐美側の生徒会役員から謝罪を受けた。


「椿くん、この度は我が校の生徒が迷惑をかけました。心から謝罪します、申し訳ありませんでした」


「……そっちの生徒会は、随分と動くのが遅かったな。事が終わってから顔を出すなんて、虫が良過ぎるんじゃねぇの?」


 疲れてはいるが、気に入らないという気持ちが抑えられずに鋭い眼を向けてしまう。


 それに対して向こうの役員の何人かが反抗しようとしたが、それを先頭の男が止める。


「おっしゃる通りです。今回、僕ら生徒会は無力でした。日下部くんを通じた2学年、1学年の数の圧力に圧されて、身動きが取れなかったのです。言い訳になるかもしれませんが、柿谷くんを実行委員に潜り込ませるので精いっぱいでした」


 一翔を実行委員にしたのは、生徒会の意向だったのか。


 それにしたって、言いたい文句はまだある。


「日下部だけじゃない。真城を野放しにしていたのも、あんたたちの権力が弱かったことが原因なんじゃねぇのか?そのせいで、どれだけの人間が……一翔が苦しんだと思ってんだよ!?」


 俺の言葉に言い返せないのか、生徒会は黙り込んでしまう。


「円華……言いたいことはわかるよ。でも、もう、それぐらいにした方が良いんじゃない?私たち、別の学園の生徒なんだし。これ以上は……」


 恵美に言われ、頭を冷静にする。


 そうだよな、俺は部外者だ。


 これ以上言えば、踏み込み過ぎることになる。


「……わかってる。言いたいことは山ほどあるけど、今は全てみ込んでやる。だけど、最後のけじめはちゃんとつけてもらうぜ。……こいつのためにもな」


 意識の無い一翔を見た後で、生徒会に目を向ける。


「椿円華くん、君は今回の事件の功労者と言っても過言ではありません。我々生徒会の権限を最大限行使し、あなたの望む条件を実現させましょう」


 話のわかる人間で助かった。


 もう余計ないざこざをするのも面倒だったところだ。


「……真城結衣は、どうしてる?」


「気を失っている彼女を、そこの住良木さんと最上さんが我々に渡してくれました。今は阿佐美学園に連行し、目が覚めるまで監視するつもりです。日下部康則も、同様に」


「そうか……。だったら、俺が提示する条件は2つだけだ」


 1つ間を置き、今思いついた内容を伝えた。


 そして、生徒会はそれを受諾じゅだくしてくれた。


 それは阿佐美にとって、公平で利のある条件だったからだ。


 俺は一翔を生徒会に預け、その場をみんなと共に後にした。


「はあああぁぁぁぁぁぁ~~~~」


「はははぁ、でけぇ溜め息だな、おい」


 肩を落として猫背になり、一気に力が抜ける。


 立っているのも億劫おっくうになり、基樹に身体を支えてもらい、ベンチに座って空をあおぎ見る。


「つっっっっっかれたぁ~~~~~」


 時計を見ると、もう午後2時を回っていた。


 もう何も考えたくねぇし、やりたくねぇ~。


 可能なら、今すぐに帰りたい気分だ。


「はい、円華」


 恵美が隣に座り、リンゴあめを渡してくる。


「リンゴ飴?」


「うん、2年生の屋台で売ってた。頑張った円華にご褒美」


「ご褒美って……」


 受け取りはしたが、苦笑いをおさえきれない。


 しかし、それだけでは終わらなかった。


「じゃあ、俺もご褒美っと」


 基樹が膝の上にたこ焼きを置いていき、にっしっしと笑う。


「まぁ……昼飯食ってなかったから助かるけど」


 たこ焼きを1個口に含んで噛みながら、麗音を見る。


「そっちも、決着はついたみたいだな」


「ええ、おかげさまでね」


 彼女の目からは、今までには無いほどの強い光を感じる。


 憑き物が取れたという言葉を表しているみたいだ。


「それにしても……本当に忙しい1日だった。せっかくの文化祭なのに、真面な楽しみ方できなかったなぁ~」


 少し残念な気持ちで呟けば、成瀬がフフっと笑って「何を言っているのかしら?」と言う。


「文化祭は、まだ終わってないわよ?」


「・・・はい?」


 日下部との戦いが終わり、正直ヘトヘトの状態である。


 しかし、それを知ってか知らずか、恵美が腕を掴んで強引に立たせる。


「一緒に店を回ろう?……みんなで」


 笑みを浮かべて言う彼女に対して、その提案をこばむ勇気は残っていない。


 俺は頭の後ろをかき、恵美、麗音、基樹の陽気な顔を見て釣られて口角が上がってしまう。


「しょうがねぇ。働いた分、羽を伸ばすか」


 正直、今回の文化祭が成功したのかどうかはわからない。


 俺たちがやったことが、誰かを救えたのかも自信がない。


 ただの一時しのぎにしかなっていないのかもしれないしな。


 それでも、途中で合流した久実も含めて6人でドーム内を見て回れば、祭りが始まる前の張りつめた空気は消えていた。


 代わりに感じたのは、ぎこちないながらも和やかな雰囲気。


 所々で見えたのは、2つの違う制服の者たちが笑い合う姿だった。


 それが見れただけでも、俺たちの行動は無駄じゃなかったんだと実感できた。


 こうして、俺たちの1年の文化祭は幕を閉じたんだ。



 -----

 一翔side



 ここは……。


 そうか、僕は……日下部先輩との戦いで……羽羽斬ハバキリを使って……。


 あの奥の手は、僕が力を注げば注ぐほど強力になる。


 その代わり、その後の反動が大きい。


 身体は動きそうに無いし、全身が軽い筋肉痛だ。


 今だって、自分が起きているのか眠っているのかもわからない。


 ただ、どこかの部屋で、窓から入ってくる涼しい風が心地いい。


 今、一番痛いのは円華に殴られた左頬かな。


 あいつ……本当に容赦なく、全力で殴ってきた。


 やっと……殴ってくれたんだ。


 あの時の約束を、果たしてくれた。


 それが本当に嬉しくて……戦いの最中だったけど、必死に歯を食いしばってこらえていたんだ。


 だけど、ここには誰も居ない。


 張りつめていた心がほぐれ、両目から涙がこぼれる。


 今まで、僕は悲しいことでしか涙を流したことが無かった。


 だけど、これは今までの涙とは別のものだとわかる。


 嬉し涙だ。


 目蓋まぶたを開ければ、潤んだ視界に天井が映る。


 そして、その右端に人影が見えた。


 えっ……人の気配なんて、全然感じなかったのに。


 人影の方に目を動かせば、日の逆光で顔が影になっていて見えない。


 だけど、シルエットから女性だと言う事はわかる。


 そして、才王の制服もわかった。


「あなた……は…?」


 女性は僕の頭に手を置いて、優しく撫でてくる。


 そして、落ち着いた声で言った。


「頑張ったね……カズちゃん」


「……っ!?」


 その呼び方で僕の名前を呼んだのは、これまで1人しか居ない。


 そして、彼女はもう僕たちの前に現れるはずがない存在だ。


 身体を無理矢理起こし、彼女にしがみ付こうとする。


 だけど、まばたきの間にその姿は消えていた。


「今のは……幻……覚…?」


 それにしては、現実感がある。


 頭を触られた感覚が、まだ残っている。


「そんな……ことって……。でも……」


 そんなことがあるわけないと思いながらも、今自分に起きたことが動揺を誘う。


 制服の胸ポケットから写真を取り出し、ピンク髪の少女に焦点を当てる。


「蒔苗……。君は今、どこに居るんだ?」


 名前も記憶も書き換えられた彼女は、生きているとしても、僕のことを覚えているはずが無い。


 それでも、もしも……。


「本当に疲れてるな、僕は……」


 溜め息をついてベッドに再度預けようとすれば、部屋の外から「柿谷」と僕を呼ぶ声が聞こえた。


 入口の前に、Dクラスの山下くんやAクラスの長野さん、そしてSクラスのみんなの姿が在った。


「みんな……どうして?」


「どうして?おまえの様子を見に来たからに決まってんだろ」


 山下くんが呆れたように言い、長野さんが前に出る。


「こうして話すのは、久しぶり……だね」


「……うん。元気そうで何よりだよ、長野さん」


 真城さんの策略によって、Aクラスに陥れられた長野さん。


 でも、周りからは彼女を陥れたのは僕だと思われていた。


「ごめんなさい、柿谷くん。私の心が弱かったばっかりに……あなたを、悪者にしてしまいました」


 長野さんは僕に突然頭を下げ、謝罪した。


 それに続いて、Sクラスのみんなも頭を下げた。


「俺たちも、ごめん。同じクラスの仲間なのに……君をかばうこともできなかった。許してくれ、柿谷」


「みんな……」


 正直、許せるかどうかは自信がない。


 ここでカッコよく「みんなは悪くないよ」と言うことは簡単だ。


 だけど、それで修復するほど、僕らの間にできたみぞは浅くない。


「許せるかどうかはわからない。それは、みんなのこともそうだし……僕自身のことも。僕にもっと、真城さんに抗う力があれば、今よりも被害を抑えられたかもしれない。みんなだけの責任じゃない。僕の力不足も、一連の出来事の原因だったんだと思う。だから……」


 クラスのみんなや長野さん、山下くんを見渡して精一杯の笑顔を向けた。


「これから、僕はもっと強くなるよ。みんなと一緒に。みんなと困難を乗り越えることができたら、僕も自信を持って許せるって言えると思うから」


 これまでは、円華を超えるため、円華に僕の力を認めさせるために強さを求めていた。


 だけど、約束が果たされた今は違う。


 これからは、みんなを許すために強くなる。


 その目標に上限は無く、ゴールは見えない。


 だけど、その分、今の自分よりも強くなれると思うから。


 それが僕の、新しい信念だ。



 -----

 恭史郎side



「これが、今の椿円華の実力……の一端と言った所かな?君もこれを見ただけでは、納得はしていないのではないのかね?柘榴殿」


 しゃくさわる言い回しをする男と、人気のない部屋に2人で居る。


 男はペストマスクを着けており、ジョーカーと名乗って俺をこの場に誘った。


 『椿円華の秘密を知りたくはないか』と言う言葉を材料に。


 そして、用件を言う前にスマホの映像を俺に見せてくる。


 それはさっきの模擬戦の映像だ。


 日下部康則を、阿佐美の生徒と共闘して倒した椿の姿が映っている。


 眼帯を着け、その左目の瞳を紅に染めているのがかすかに確認できた。


「この姿を見るのは……10年ぶりだな」


左様さようか。貴公は椿円華に恨みを抱いている。しかし、今の貴公の憎しみの強さを以てしても、かの者の力には届きえないだろうねぇ」


 左手でオーバーにやれやれと言った素振りをすれば、それがさらに俺を苛立いらだたせようとする。


「てめぇ、俺を怒らせたいのか?」


「これは失礼。しかし、これは事実だ。彼はこの戦いで、本当の力は発揮していない。貴公もわかっているのだろう?」


 ジョーカーに対して怒りを抱こうにも、警戒することすらもできない。


 普段なら、ここで蹴りの1つでもくらわせるところだが、暴力を行使することもはばかられる。


 まるで、感情を外部から抑えつけられているような気分だ。


「貴公がクイーンと手を組んでいることは知っている。しかし、今日の余興でわかったはずだ。クイーンの計略でも、椿円華には届き得なかった。それはつまり、彼女では貴公の望みを叶えることはできないということを表しているとは思えないかね?」


 確かに、ジョーカーの言う事にも一理ある。


 あいつは今回の文化祭で椿に仕掛けると言っていたが、結果は失敗に終わっている。


 だったら、組むべき相手を切り替える時かもしれねぇな。


 あくまでも目的は、椿を絶望の底に叩きのめすことだ。


「おまえだったら、椿を潰すことができるのか?」


しかり。かの者の弱き部分は既にわかっている。孤独を貫こうとした野良犬が、繋がりを持とうとしている。そこに、かの者が本来求めるものが現れれば……葛藤かっとうが生まれる」


「あいつの心を乱そうってか。そんなことはもう実行済みだ」


 夏休みの期間と体育祭であいつを追いつめようとしたが、全て失敗に終わっている。


「カッカッカ‼それは貴公の詰めが甘いからだ。やるのならば徹底的にしなければならない。他の可能性など与えず、選ぶしかない状況に追い込む。求めるものへの感情が強ければ強いほど、心は乱れ、やがて……自壊する」


「あいつが求めるものが何なのか、おまえにはわかるのか?」


「わからなければ、このようなことは豪語ごうごせぬよ」


 ジョーカーは手を差しだしてくる。


「我の手を取れ、柘榴殿。さすれば我の知恵と、かの者と戦う力を授けよう」


「その言葉を、俺が信じると思っているのか?」


「信じるかどうかは貴公次第。しかし、こういう交渉の時は、先に相手の求める物を示すことが定石であるな?」


 ジョーカーは足元に置いてあるアタッシュケースを取り、その中身をゆっくりと焦らすようにして見せる。


 薄紫色の光が漏れ出し、その姿を露わにする。


 それが放つオーラが、疑いを吹き飛ばした。


「これは……何だ!?異能具とは……違う!?」


「然り。貴公は中々に見る目があるようだ。それでは、この物の価値を最大限に生かすことができるであろう。元は今は無き我が同志の物でね。私が大切に保管していたものだ」


 異能具も能力を発揮すれば、その強力な効果を知ることができる。


 しかし、こいつは別格だ。


「貴公に覚悟があるならば、この力を手にすればいい。その瞬間から、我々の協力関係は成立する」


 俺はその力を前にして、迷いも戸惑いも捨てた。


 アタッシュケースの中のそれを手に取る。


「これは……何だ?異能具じゃないなら、この力は一体……」


 俺の問いにジョーカーは仮面越しにフフっと笑って言った。


「それは最強の力を持ち主に与え、多くの者を薙ぎ払ってきた災厄さいやく権化ごんげ―――魔装具まそうぐと言うものだ」


 魔装具……これを手にし、俺はジョーカーとの契約を結んだ。


 この力を使えば、自分もただでは済まないだろう。


 だが、そんなことはどうでも良い。


 俺はただ、長年の目的を果たすだけだ。


 それは復讐。


 そのためなら、悪魔の力だろうと利用してやる。

感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます。


隣り合わせの文化祭編も、そろそろ終了です。

円華も一翔も今の場所での立場を修復し、めでたしめでたし~。


かと思えば、ジョーカーと柘榴が暗躍の予感……。

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