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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
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放たれる矢

 麗音side



 今のイベントホールの現状を確認し、結衣は目を見開いては両手で顔をおおう。


「こんなこと……ありえない…‼だって……あの子、たちは……私を…。こんな、こんな展開は…‼」


「全て現実で起きていることだよ。阿佐美の生徒は、あんたの言うことを信じてなんていなかった。あんたが怖かったから、同調していただけ」


 だけど、その恐怖は今、消えた。


 大勢の同じ痛みを分かち合える存在が居ることが、彼らの恐怖を乗り越えさせた。


 これでもう、結衣の味方はどこにも居ない。


「諦めなさい、結衣。罪を認めて、今まで苦しめた人たちに懺悔ざんげするのね」


「諦める…?懺悔…?私が、負けたって言いたいの、麗音ちゃん…?ククッ……クククククっ‼」


 不気味な笑みを浮かべたと思えば、メアリが動いて両手を振り回して暴れまわる。


「ふざけるなぁああああああああ‼‼‼」


 身体を仰け反りながら叫び、血走った眼光であたしと恵美に憤怒の目を向けてくる。


「何てことをしてくれたのぉ、麗音ちゃぁあ~ん?私の……私のお人形たちが壊れちゃったよぉ…?もう、楽しかったお人形遊びができなくなっちゃったぁ~。……誰のせいなのかなぁ~?」


 右に傾けていた首を左に移動させ、クヒヒっと笑いながら接近してくる。


「あなたのせいだよ、麗音ちゃん‼」


 結衣に両肩を掴まれて強い力で壁に押し付けられる。


 顔を近づけて目を合わせてくれば、おぞましさが伝わってくる。


 だけど、それを恐れてはいられない。


「自業自得よ、バカ女‼」


 今度はあたしが胸倉を掴んで頭突きをくらわせ、ひるんだところで追撃をかけようとすればメアリの長い腕が迫ってきてはばまれる。


 態勢を立て直し、結衣は後退してメアリの領域内に入る。


 赤黒い眼を輝かせ、獲物を狙う獣のようにあたしを睨みつけている。


 そして、メアリは両腕を縦横無尽に絶え間なく振り回している。


「異能具も厄介だけど、真城結衣自体も相当戦える相手って感じ?」


「そうね……。結衣と取っ組み合いの喧嘩なんてしたこと無かったけど、あんなに力が強いなんて思わなかったわ」


 掴まれた両肩は痛みが残ってる。


 強打した背中も痛い。


 接近戦の技術なんて無いし、あたしたちに残されている手段は限られてくる。


「あの人形の異能具は今、自動操縦だと思う。実質、操作をする必要がないなら2対2も一緒。私のレールガンだけで対抗できるかどうかは……2人相手だと分が悪い」


「あんただけに戦わせるつもりはないわ。あたしだって、もう戦う力は持っている」


「……一発本番で、ちゃんと使える?」


「使うしかない。あたしに今必要なのは……過去を振り払う覚悟だけよ」


 壁の左隅に向かって走り出し、それにメアリが反応する。


「援護、お願い‼」


「わかってる‼」


 メアリの両手が後ろから迫るのを、恵美がレールガンの電撃を浴びせて一時的に足止めする。


 異能具は止められる。しかし……。


「逃げないでよ、麗音ちゃぁあん‼」


 高速で追いかけて来る結衣との差が、1秒が経つ程に急速に狭まって行く。


 がむしゃらに走り、部屋の隅に置いておいたアタッシュケースに手を伸ばす。


「届けぇえええ‼」


「何をしようとしても、無駄なんだよぉ~‼」


 結衣は手刀の構えをして突き出してくる。


 それを受ける前に取っ手を掴み、振り向きざまにケースでガードする。


「間に……合った…‼」


「悪あがきはよしなよ。麗音ちゃんが私に勝てるわけないでしょ?」


「ふぅ……そうかもね。あんたの思っている通りのあたしなら、ずっとあんたに負けっぱなしだったよ……結衣」


 アタッシュケースで押し返して下がらせれば、攻撃の衝撃に耐えられなかったのかケースは半壊して中身が姿を現す。


 そして、それを手に取ってケースを捨て、スマホを取り出して中心のくぼみに装着する。


「これが……あたしの新しい異能具。抗うための……力」


 それは、どういう因果なのか。


 その姿を見るだけでも、『おまえは過去から逃げられない』と言われている気分だった。


 でも、それで良い。


 もう、逃げたりしない。


 あの苦しい絶望的な過去があったからこそ、今のあたしが居る。


 もう1度希望を掴むために、あたしは過去の力を利用する。


 スマホから音声が流れる。


『アプリ、ダウンロード……完了。異能具『エアブラスト』は、住良木麗音様の武器となりました』


 それはアーチェリー型の異能具だった。


 半円型で全身が青いメタリックで加工されており、弓弦も矢を補正する部分も無い。


 その代わり、3段階式に伸縮するレバー、そしてそれと連動した発射口がある。


 画面を確認すれば、選べるモードに『連・散・追・強』と表記されている。


 今は『連』が点灯している。


「エアブラスト……ふふっ。これって偶然?弓矢型の異能具なんて、弱虫の麗音ちゃんにはぴったりだね」


「……そうね。あたしにピッタリの武器よ」


 エアブラストを構え、レバーを一段階まで引いてみる。


 すると、発射口から外気を吸収し始める。


 そして、許容量があるのか、自動でレバーが前に戻って空気で形成された白い矢が結衣の横を通り抜けた。


 スゥーっと彼女の頬から血が流れる。


「風の矢……それが、あの異能具の能力ってこと…?」


 メアリの注意を引きつけながら、恵美が分析するように言う。


 結衣は自身の頬に触れれば、眉間にしわを寄せて憤怒の顔で睨みつけてくる。


「よくも……私の顔をぉ…‼麗音ちゃんのくせに‼私より、弱いくせにぃいいい‼‼」


 髪を乱しながら、結衣が前屈姿勢で走って迫ってくる。


 メアリの相手をしている恵美の助けは求められない。


 あたしが、1人で結衣を止めるしかない。


「やってやるわよ。上等じゃない‼」


 レバーをもう1度引き、短時間で形成された矢が再度放たれる。


 それを数回繰り返すが、動体視力も強化されているのか全て回避されて距離を詰められる。


 すぐに発射できるのは良いけど、今のモードじゃ結衣を捉えられない。


 だったら、他を試すしかない。


 隣の『散』をタッチしてレバーを引けば、2段階まで伸びる。


 その分、矢の形成に時間がかかる。


 結衣が宙に跳んで、上から襲いかかってくる。


 その両手は爪が鋭くなっており、殺傷能力があるのは見てわかる。


「私のために消えてよ、麗音ちゃぁん‼」


「消えるのは、あんたよ……結衣‼」


 チャージが完了して上に向ければ、自動でレバーが戻れば発射口から中サイズの矢が放たれる。


 そして、矢はすぐに分散して十数本の小さな矢が結衣の全身に被弾する。


「がはぁらぁあああああ‼‼」


 床に倒れて身もだえる彼女だが、つん這いになりながらも戦意は喪失していない。


 その姿はもはや獣。


 戦いが長引けば長引くほど、結衣から人間性が消えていく。


「結衣……あんたは……」


「見下ろすなぁ……私は強いぃ……。私は、弱くなんてないぃいい‼‼」


 紅の瞳を輝かせて迫ってくる結衣。


 それに同調するように、メアリが長い右腕を振り回してくる。


 彼女は接近してくる腕に乗っては後ろに蹴り、加速して距離を詰めてくる。


「しまった…‼」


 このままだと、矢の形成が間に合わない。


 右腕を前に突きだし、結衣に頭を掴まれて後ろの壁に押し当てられる。


「ぐふぁあ‼」


「このまま握り潰してやる‼醜く潰れた顔をさらしなよ‼」


「っ‼……醜い…の…は……、今の……あんたよ‼」


 この間もレバーは引き続けていた。


 そして、発射口を彼女の腹部に押し当てては『散』の矢が放たれる。


「ぶぐっ‼がばあがぶぎぁがぁああ‼」


 連続で同じ個所かしょに直撃する痛みに耐えきれなかったのか、吹き飛ばされる前に大きく後ろに下がってはメアリの領域に戻って行く。


 『連』に変えて数回矢を放つも、メアリの右手に払われる。


 今わかった、『連』の矢は短時間で形成されるけど、威力はそれほど強くない。


 恵美が合流し、息を切らしながら結衣とメアリを見上げる。


「もう、そこまで時間がない。ここまで騒ぎを大きくしたら、いずれ誰かが来る」


「それが敵か味方かわからない以上、すぐに終わらせないといけないってことね」


 恵美は頷き、結衣の胸ポケットを見る。


「私のレールガンなら、スマホにさえ当てられれば、人形の方の機能を停止にすることができる」


「でも、そのためには結衣とメアリの動きを止めなきゃいけない……。あの2つの連携は本当に厄介よ」


 結衣がメアリのでたらめな動きを攻守に利用している。


 その隙を突くのは、容易じゃない。


 仮にメアリをレールガンで機能停止にできたとしても、結衣の動きを止められるとは限らない。


 だけど、もしかしたら、このエアブラストなら……。


「2つの隙を作るのは簡単なことじゃない。どっちかが注意を引きつけるにしても……」


「隙が無いなら、まとめて吹き飛ばして体勢を崩すだけよ」


 まだこの異能具の全てを把握できているわけじゃない。


 でも、賭けになってもやれることをやるしかない。


「恵美、少し時間を稼いで」


「……わかった」


「理由は聞かないんだ?」


「聞いてる時間がない。……それに、何か思いついたんでしょ?それに乗るよ。前は私の賭けに乗ってくれたから」


 そう言って、恵美は左脚に着けていたホルスターから黒い四角の箱を取り出してレールガンに装着する。


 そして、軽くスマホを操作すれば銃口がガトリングガンのようになった。


 これが話に聞いていた、恵美の専用武器『マルチレールガン』。


「マルチレールガンで時間を作る。……信じてるからね、麗音」


「ふん……言われるまでも無いわ。すぐに押されるんじゃないわよ、恵美‼」


 恵美は自身に注意を向けるため、結衣とメアリの双方にレールガンを連射した。


 1秒ごとに放たれる数十発の電気の弾丸に、メアリは両腕を交差させて彼女を守るが押されていく。


「っ!?それが、クイーンの言っていた厄介な異能具…‼だったら、先にあなたを壊してあげるよぉお‼」


 マルチレールガンに脅威を感じ、恵美に注意を向ける結衣とメアリ。


 その間に、あたしは『強』をタッチしてレバーを強く引く。


 3段階まで伸び、周りの空気を急速に吸収していく。


 形成されている矢の威力を表しているのか、エアブラストが小刻みに震える。


 だけど、姿勢を固定して耐える。


 照準は2つの敵を捉え続ける。


 獣のように暴れる結衣の攻撃を回避し続け、恵美のレールガンの形状が変わる。


「近距離なら、こういう使い方もある…‼」


 ガトリングガンからショットガンの銃口に変化し、電気の塊を発射した。


「ぐっ!?がはぁれぁぎゃあはぁああああ‼‼」


 塊を被弾すると全身に電気が走り、感電する結衣。


 その苦しみは尋常じゃないはず。


 そして、電気はスマホにも流れたのか、メアリの暴れ回る動きが激しくなる。


 動かなくなるのは時間の問題。


 結衣の動きが止まっているチャンスを逃がしたりしない。


 レバーを引き続けていても、いつまでも自動で放たれる気配はない。


 この弓は、自分の意志で放たなければならないみたい。


 恵美があたしと目を合わせ、強い眼差しで頷いてくれた。


 だったら、やってやるわよ‼


 あたしの苦しみの根源を―――。


 あたしの今までの悲しみを―――。


 あたしの抱いた大きな絶望を―――。




ばせ……エアブラストー‼‼‼」




 レバーを強く後ろに引いて離し、矢が前方に押し出されていく。


 白く光る矢が、強風を起こしながら結衣とメアリに急速に迫る。


 そして、メアリに直撃すれば、矢は爆散して周囲を巻き込み、爆風は巨大な人形をバキバキに破壊していく。


 結衣は球体の爆風の中に吸い寄せられ、中に引きずり込まれた。


「ぎぁがぁあはぁあらぁがぁぐぁぎぃがああらぐみゃがぁああああああ‼‼」


 恵美もそれに引きこまれそうになる前に、あたしは手を伸ばす。


「恵美!!」


「麗音‼」


 迷わずに手を取る彼女を引き、爆風が収まるまで耐える。


 そして、30秒ほどすれば、何事も無かったかのように静かになっていった。


 ドサッと結衣は床に倒れ、メアリは原型を留めていなかった。


「はぁ…はぁ……何て威力なのよ……これ?」


「昔使われていた原型のものも、今みたいな強い力を持った弓矢だったみたい。流石は、伝説の異能具だよね」


 2人してエアブラストをじっと見たけど、頭を切り替えて結衣に近づく。


 全身の骨が折れたのかもしれないけど、目を見た感じ、それもすぐに希望の血の修復能力で治るはず。


 仰向けに倒れている結衣は、意識がまだ残っていたようで、あたしを見上げる。


「れい……ね…ちゃん……‼」


 その目にはまだ光が残っており、弱い怒りを向けてくる。


 それが哀れみを感じさせる。


「あたしは本当に……あんたのことを、友達だと思っていたわ」


 その事実は変わらない。


 あの時、あとで絶望を感じることになったとしても、楽しかった思い出や嬉しかった記憶を、嘘にはしたくない。


 過去は過去として割り切る。


 そして……。


「でも、今の友達は、あんたじゃないよ……結衣」


 そう言って、隣に立っている恵美の手を握った。


「あたしの本当の友達は、ここに居るから」


 その言葉の意味が届いたのか、結衣は青ざめた顔になり、瞳から光が消えた。


 これが、過去の清算。


 あたしの過去に対する、復讐の終わり。

感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます。


今回の話、完全に麗音が主役になってる(笑)。

彼女は過去の権化と決着をつけ、未来と手を取り合った。


過去と決着をつけるための戦いは、もう1つ。

円華と一翔は、歪んだ独善と相対する。

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