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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
233/496

過去との決別

 麗音side



 -時は11時前にさかのぼる-


 今日、あたしは過去と決着をつけなくちゃいけない。


 ずっと、殻に閉じこもって逃げていた。


 その心の弱さが、取り返しのつかない過ちを犯してしまった。


 あたしの汚れてしまった手はもう、綺麗だった頃には戻れない。


 だけど、戻るかどうかなんて関係ない。


 背負っていくしかない、あたしの過去を。


 そして、今に全てを繋げていく。


 そのために、あたしは今日、本当の意味で自分の殻を破る。


 人気のないドーム内の一室で、その時を待つ。


 そこは阿佐美側のAクラスが使うはずだった部屋で、今も痛々しい痕が残っている。


 この場所で、あたしは弱い自分を清算する。


 時間は11時を回り、部屋のドアが開き、待ち人は姿を現した。


「こんな所に私を呼び出して、何のつもりかな?麗音ちゃん」


 真城結衣。


 あたしが最も信頼していた友達だった女。


 そして、あたしを絶望の底に叩き落した女。


 彼女はスマホを見せては、涼しい目を向けてくる。


『11時に元・Aクラスの模擬店で使うはずだった部屋に来て。

 あたしたちの過去に決着をつけよう。

                         麗音』


 あたしが送ったメール。


 過去のことを持ち出されれば、結衣も顔を出さないわけにはいかなくなる。


 そう思わせたのは、先日のあたしの行動だと思う。


 ずっと自分に怯えていた弱虫が、自分を追いつめようとしていたのだから。


 今でも、身体は恐怖を感じている。


 でも、それにおくするのはもう嫌だから。


 あたしは過去の友人に、笑みを向けた。


「久しぶりね……結衣」


 笑顔を見て、結衣は眉間にしわを寄せた。


「何よ、その顔……。私を、バカにしているのかしら?か弱いか弱い麗音ちゃん‼」


 あたしに歩みよって対面し、その醜い顔をさらす。


「もしかして、この前のことで調子に乗ってる?結局、あなたは場をかき乱しただけ。何の意味もない行動だったじゃない‼何も変わってないよ、あなたは」


「変わったなんて思ってないわ。あたしは弱い。1人だったら、あんたとの過去から逃げたまま、決着をつけようとも思わなかった」


 自分の殻を破れたと岸野先生は言った。


 その自覚がないのは多分、これからのことを乗り越えないと不可能だと思ったから。


 だけど、あたし1人じゃできない。


 そして、誰かを利用することしか考えられなかったあたしでもできない。


「今のあたしは弱いまま。だけど、昔とは違う所がある。あんたとは別に、あたしには友達ができた。あたしの背中を押してくれた、大切な友達がね」


 今の所、減らず口しかきかないし、喧嘩なんて日常茶飯事にちじょうさはんじ


 でも、一緒に居て悪くないと思える相手。


 あの銀髪生意気女を、そう言う風に認識する日が来るなんて思わなかったけど。


「友達?ふ~ん……良かったね。私もそれが知れて嬉しいよ。だってぇ…」


 結衣は歪んだ笑みを向け、顔を詰め寄らせた。


「あなたとその友達を、まとめて絶望させるたのしみが増えたんだからねぇ‼」


「……おぞましい顔」


 あたしも人のことは言えないけど。


 1学期の時は、この女と変わらないくらいクズだったと思うから。


「いつまで、あんたの思い通りに行くと思っているの?」


「この学園に居る限りは、ずっとかな」


「今日でその幻想も終わる」


「ふ~ん、根拠のない挑発だね?無力な麗音ちゃんに何ができるって言うのかなぁ~?」


「無力って言うなら、あんたも一緒でしょ。裏で誰かを利用することしかできないくせに」


 あたしの侮辱ぶじょくに、結衣はニヒっと笑う。


「残念だったね。私には力がある。あなたは選ばれなかったみたいだけど、私は選ばれた。それが答えなんだよ‼」


 感情の高ぶりから、彼女の瞳が赤く染まる。


 しかし、あたしには何の影響もない。


「偽りの信頼で、あんたが手にした物って何なのよ……結衣」


「……はぁ?」


 言っている意味が分からないようで、呆気にとられた顔になる。


「あんたが能力を持っているのは、前から気づいていた。そして、その能力は、あたしには通じないこともわかってる」


「な、何よ……あなたみたいな弱虫の負け犬の臆病者に、私の何がわかるって言うのよ!?」


 取り乱す結衣はあたしの胸倉を掴んで壁まで押し込んで叩きつける。


「んぐっ‼」


「訂正しなよ、麗音ちゃん‼私より弱い、無力なガラクタの分際で、わかったような口をきいてんじゃないよ!?」


「……あんたが、そこまで本性を露わにするのは、あたしを少しでも……友達だって思っていたから?」


 首が締まる苦しさに耐えながらも、言葉をしぼり出す。


 それに対して、結衣は醜い笑みで答えた。


「ブァア~カァ‼思ってるわけないでしょ、そんなこと‼あなたのことなんて、1度も友達なんて思ったことは無いよ!?ずっと、壊したら楽しい玩具おもちゃだって思ってたよぉ~‼」


「そっか……それは、良かった。……あたしの中で、これで踏ん切りがついたわ」


 恐怖が怒りに変わる。


 それは結衣に対して。


 それは過去の自分に対して。


 1度でも、この女を親友だなんて思っていたのが腹立たしい‼


 腕を振り払い、彼女を強く押して距離を取る。


「あんたは、自分の力を過信した。自分の領域の中なら無敵。日下部康則って言う強力な駒も居るみたいだしね?」


 結衣が阿佐美学園で裏から支配できているのは、彼女の能力と日下部の力があったから。


 種がわかれば、そこからくずすことは不可能じゃない。


 あたしたちが、力を合わせれば。


「今、模擬戦で戦っている円華くんたちが日下部先輩に負ければ、あんたの駒の影響力は強くなる。それだけ、あんたの支配が拡大するって戦法でしょ?」


「ふっ、それがどうしたの?日下部先輩が負けることなんてありえないし、この勝負が決着すれ椿円華は終わり。これで、あの方の恩義に応えることができる……」


「……あの方?もしかして、あんたに異能力を与えた存在?」


 異能力のことを口に出せば、フフっと結衣は笑う。


「そっかぁ~。私、知ってるよ?麗音ちゃんも組織の一員だったんだよねぇ~?でも、椿円華に負けて、その地位は剥奪はくだつされたんでしょ。どうして未だに生きているのかは知らないけど、自分を陥れた椿円華に協力するなんて、あなたも彼を利用しているだけなんじゃないのぉ~?人のこと言えないよねぇ~!?」


「勝手に決めつけてんじゃないわよ。あたしは、あんたとは違う。今のあたしは、あの時の愚かな自分とは別物よ‼」


「キングに見捨てられた不良品が偉そうに‼私はクイーンから力をいただいた‼私はあなたよりも格上なんだよ‼ひざまずいて、悔しい思いをしながら苦しんでるのがお似合いだよ、麗音ちゃん‼」


 声をあげながら言う結衣に、あたしはあわれみの目を向ける。


「やっと、あんたの本音が聞けた気がする。結衣、あんたはあたしにねたんでほしかったんだ?」


「……はぁ?意味わかんない。今の話、ちゃんと聞いてたぁ?私は上で、あなたは下なの‼それを自覚しないあなたが、同種のように接してくるあなたが、本当に……私はぁあ…‼」


 彼女は自身の頭を荒くき、髪を乱して睨みつける。


「結局あんたも、上と下でしか物事を見られない哀しい人だったってことでしょ。そんな女、こっちから願い下げよ」


「ふぅ…ふぅるぅ……ふざけるなぁああああああああ‼‼‼」


 結衣は心の安定を取り戻すことができず、目の白い部分が黒に染まる。


 そして、スマホを取り出せば背後にズドンっと重量のある何かが落ちる音が聞こえた。


 だけど、その物体はどこにも見えない。


「……どうして、そうもあなたは私をイライラさせるの?どうして、私の与えた絶望を乗り越えちゃったの?どうして……私が見下ろして安心できる、あなたのままじゃいられなかったのぉおおお!?」


 スマホを操作すれば、何かが接近してくる気配を感じたけど動き事ができず、何かに掴まれて持ち上げられる。


「がはぁあ!?んぐぅうう‼」


「そう‼そうだよ、麗音ちゃん‼その顔が見たいの‼苦しんで、痛がって、希望を失って、絶望するあなたを見るのが、たまらなく好きだった‼大好きだったんだよ、麗音ちゃん‼」


 歓喜の笑みを浮かべる結衣。


 その言葉は定まっておらず、理解するのは難しい。


「……そんなにっ……苦しんでる所が見たい…?」


「見たいよ‼もっと、見せてよ‼大好きな麗音ちゃんが絶望する所を見て、もっと私を笑顔にしてよ‼」


「そっか…そこまで、あんたが、あたしに執着しゅうちゃくするなんて……思わなかった」


 部屋の中の時計を見れば、今のやり取りで20分は経過した。


「ありがとう、結衣。全然嬉しくないけど、これであんたの楽園は終わりよ…‼」


「……何言ってるの?あまりの苦痛に気でも狂っちゃったぁ~!?」


 狂った笑みを浮かべながら言う結衣に対して、首を横に振って笑顔を向ける。


「あたしにだけ注意を向けた、あんたの負けだって意味よ。バーカ」


 精一杯の挑発をし、彼女の怒りをさらにあおった。


「格下のくせに、私をバカにするなぁあ‼‼」


 身体がさらに締まり、何かに握り潰されそうになる。


 その時、部屋のドアが開いては薄暗い空間に稲妻が走った。


 青い稲妻はその何かに直撃し、あたしは解放されて床に倒れた。


「っ‼……いっっった‼」


「大丈夫?これでも全速力で走ってきたんだけど」


「全然大丈夫じゃない……けど、助かったわ」


 部屋の中に入り、あたしに手を差し伸べたのは、ずっと嫌いな女だった。


 でも、今は最も頼りになる仲間の1人だと思ってる。


 そして……今のあたしの、本当の友達。


 彼女の手を取り、立ち上がる。


「ありがとう……恵美」


「どういたしまして。仕掛けは上手くいったから、加勢に来たよ。でも……もうちょっと早く来れば良かったね、ごめん」


 恵美は目の前で実体化したそれを見て、生唾なまつばを飲んでレールガンを向けた。


 あたしを掴んでいた何かの正体。


 それは天井にへばりついた、逆さまの上半身のみの巨大な人形。


「透明化できる、遠隔操作型の巨大な異能具……。それが、今回の事件で使った凶器?」


 円華くんの話では、1分足らずで教室全体を破壊されたらしい。


 目の前の人形は、天井の4分の1の面積を占めていた。


 暗闇の中を無条件で暴れまわっても良いという環境の中なら、十分にそれは可能だわ。


「可愛いでしょ?私の可愛い可愛いお人形さん。メアリって言うの。お友達も増えたみたいだし、遊んでくれる?」


 笑みを浮かべながら言う結衣からは、狂気しか感じなかった。


 その中で、恵美は前に出て言った。


「その余裕、いつまで続くかな?」


「な~に~?あなたも、私をイライラさせたいの~?」


 結衣は彼女に笑みを向け、メアリの手を伸ばそうとする。


「イライラしてるのはこっちだよ。私たちは大事な仲間を、そして、その大切な人を陥れようとしたあんたを許さない。ちゃんと報いは受けてもらう……」


「報いって何!?あなたたち程度の格下連中が何をしたって、私をどうすることもできないのに!?あなたたちが何をしたって、私の力による支配は揺るがないんだよ‼」


 自分の方が強い。


 あたしたちは弱い。


 その思い込みを突きつけようと、声をあげる結衣。


 それに対して、恵美はメアリの腕を避け、レールガンからスマホを外しては突き出して見せながら言った。


「あんたの支配は、もう終わり。真城結衣……罰を受ける時間だよ」


 その映像は、リアルタイムで配信されているものだった。


 しかし、それは教師や実行委員とは違う。


 イベントホールを上から見た映像であり、その場に集まっている双方の生徒たちが騒然そうぜんとしている。


 そのスクリーンに映っている内容は、模擬戦の状況じゃない。


 結衣の罪を告白する、被害者たちの声だった。

感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます。


快楽主義者たちの化けの皮が、白日の下にがされる。

必要なのは、少しの事実と集団意識。

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