表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
231/496

2つの意地

 蓮side



 全くもって、滅茶苦茶だ。


 先程の爆弾の影響で煙のせいで視界が悪い。


 椿の姿が見えなくなり、ここからは独断で動くことになる。


 椿の動きもそうだが、金本蘭の動きも遠目で把握はしていた。


 あの女の居た位置から近かったのは、天童だった。


 そして、椿は引き続き日下部康則の相手をしているはず。


 その場合、俺の相手は必然的に最後の1人になるわけだ。


 視界は悪くとも、奴の居た建物の位置はわかる。


「遠距離攻撃が、おまえたちだけの専売特許だとは思わないことだ」


 耳をませば、まだ爆発音が聞き取れる。


 伊郷海良いごう かいら


 あの女は、まだ爆弾をばらいていると言う事か。


 その音は段々と近くなり、頭上から「見ぃ~つけた!」と陽気な音が聞こえてきた。


 目の前の建物の上から、対戦相手が笑顔で見下ろしてくる。


「まさか、捜していた相手が向こうから来てくれるとは」


「捜してた?それは奇遇ですねぇ~。私も遊び相手を探していたんです‼」


 伊郷は小型の球を取り出しては俺に投げつけ、床に着地する前に発光させた。


 それと同時に、爆音と共に耳に衝撃が走る。


 スタングレネードか!?


 この女、数種類の爆弾を持っていると見える。


 目と耳を塞がれ、暗中を模索するはめになる。


「大丈夫ですか~?この程度で死んでないですよねぇ~?次、いきますよ~?」


 微かに聞こえてくる、人を不機嫌にさせる声。


 次は何を使ってくるつもりだ。


 目を閉じていても、今まで自分の通ってきた道は覚えている。


 振り向きざまにその場から離れ、持っていたバッグを開いて2つのハンドガンを取り出す。


「逃げても無駄ですよ~。さっさと私の爆弾の餌食えじきになりやがってくださいよ‼」


 目が完全に使えるまで、まだ時間がかかりそうだ。


 しかし、耳の方は戻ってきている。


 聴覚が使えれば、防衛するには十分。


「そぉ~れ‼」


 伊郷はまた爆弾を投げた。


 ぼやけた視界でとらえられたのは4つ。


 2丁のハンドガンを横に構え、交互に2回引き金を引く。


 弾丸は爆弾に直撃し、空中で4つとも爆破した。


「へぇ~。そっちも遠距離で戦える相手は居たんですねぇ~?」


「生憎と、こういうシチュエーションとフィールドには慣れている。伝説の暗殺者はどうか知らんが、俺にはこっちの方が向いている」


 2つの銃口をカツカツと叩いて言ってみる。


 和泉家の執事は、主をあらゆる状況から守るためにマナー以外にも様々なことを叩きこまれる。


 護身術や毒などの薬に対する耐性、あらゆる武器の使い方、状況把握と咄嗟の反射能力。


 その中では、多くのシチュエーションに対する訓練を積まされる。


 CQBのルールを把握した時には、既に経験済みのシチュエーションであることはわかっていた。


 あらゆる状況、あらゆる武器の使い手を想定して訓練を積んできた。


 己を知り、状況を知り、経験を積む。


 その力は何者にも代えがたい武器になる。


 己を知った結果、俺に一番向いているのは銃だということがわかった。


 だから、その力を最大限に使える訓練を誰よりも積み重ねてきた。


 要お嬢様の執事として、あの方をあらゆる脅威から守護するために。


「あなたは楽しめそうで安心しました。それなら……もっと遊びましょう~!?」


「丁重にお断りする」


 十数個の手榴弾を同時にばら撒いてくる。


 それをまた撃ち落とそうと引き金を引けば、弾丸が直撃する前に手榴弾が方向転換して回避した。


「何!?」


 爆弾が意思を持ってけたと言うのか!?


 俺の動揺を察したのか、伊郷がフフっと笑う。


「これはホーミング式のボムで~すよ~。撃ち落とそうとしても無駄ですから~。そして……」


 ホーミング手榴弾は床に落ちず、俺に迫ってくる。


「その子たちは、あなたに当たるまで止まりませんからねぇ~。頑張って逃げてくださ~い」


 追跡能力のある爆弾か。


 厄介なことこの上無い。


 しかし……。


「逃げる必要は……無いな」


 追跡能力があると言っても、その動作にはズレが生じる。


 数が多ければ、多いほどに。


 視界も戻ってきた。


 これで、攻撃に転じることができる。


 爆弾を複数投げても、威力はそこまで大きくはなかった。


 地下空間であることを警戒し、フィールドが倒壊して下敷きになることを恐れたのだろう。


 その判断は正解だ。


「人が死ぬほどの物ではないなら、1発当てても大丈夫だろう」


 俺はその場を動かず、ホーミング爆弾に向けてハンドガンの数発引き金を引く。


 当然、弾丸は上下左右に動いて回避される。


「無駄ですって~‼当たらない当たらない‼」


 当てるつもりはない。


 少なくとも、ハンドガンではな。


 2丁の弾を使い切って捨て、バッグからショットガンを取り出して片手で構える。


「……完璧な位置取りだ」


 ショットガンの引き金を引けば、炸裂弾は爆弾が回避行動を取る前に破裂した。


 その破片は爆弾に直撃して爆発を起こし、爆風がその後ろのホーミング爆弾を吹き飛ばして、次の爆弾と接触して爆発を起こす。


 一直線に並んだホーミング爆弾の列は、そのままドミノ式に爆発しては最後の爆弾が伊郷の元に戻った。


 自分の頭の横に迫った爆弾を見て、彼女は目を見開いて冷や汗が流れる。


「嘘っ……いやぁあああああ‼‼」


 その悲鳴が聞こえた頃には、爆破して屋上には煙が立ち込めていた。


 それを視認して望遠鏡で見れば、伊郷は屋上から落ちてはいないが、倒れて起き上がりそうにない。


 至近距離からの爆発で意識が飛んだようだ。


 流石に殺すのは、夢見が悪い。


 スマホから音声が流れる。


『伊郷海良 戦闘不能。阿佐美学園、残り2名』


 それを聞いてショットガンを下ろし、小さく深呼吸した。


「要お嬢様の執事なら、この程度の状況は打破できて当然だな」



 -----

 蘭side



 さっきの爆発で、何が何やらわからなくなってきた。


 椿がどこに居るのかもわからなくなったし、敵の居場所もわからない。


「全く~……どうしたら良いって言うのよ、これぇ~」


 不満を漏らしながらも足を前に進めていると、大きめの瓦礫がれきが動いて中から人が出てきた。


「身体機能、問題なし。戦闘続行、可能。……うん、大丈夫」


 その無感情な喋り方を気色悪く感じながらも、相手が誰なのかはすぐにわかった。


「天童江成……だっけ?」


「そう言うあなたは……ごめんなさい、覚えれる気になれなかったから覚えてない」


「ムカつく言い方……そんなことを言うなら‼」


 駆けだして跳び蹴りをくらわそうとしたけど、すぐに避けられて鞘を振られるけど左腕で止める。


「金本蘭よ。あんたに勝って、嫌でも忘れられない名前にしてあげる」


「それは不可能。あなたが私に勝てるとは思えない」


 天童は距離を取り、鞘から小太刀を抜いて縦と横に斬る動作をする。


 それを見た瞬間、2回ほど斬られたような衝撃が身体に走る。


「うがぁああ‼」


 あまりの痛みに膝から崩れると、相手が接近して無表情で小太刀を振り下ろしてくる。


「これで終わり」


「そうでもないわよ‼」


 痛みに耐えながらも、刃が当たる前に腹部に頭突きをすれば表情を歪ませて後ろに下がる。


「んぐっ!?」


「どういうトリックかは知らないけど、あんたを叩けば良いだけでしょ!?」


「それは無理。私は強い、あなたは弱い‼」


 小太刀を再度鞘に納め、また抜刀しようとする前に右手を前に出して押さえる。


「っ!?」


「さっきの椿との戦いを見てた。あんたは攻撃する時、最初に鞘に戻して抜こうとする。だけど、抜けなかったら意味無いでしょ‼」


 椿が立てた作戦はこう言う事だった。


 最初に自分が3人の相手をし、できる限り力量を計らせる。


 その後でタイミングを見計らって1対1の体制に持ち込んで勝ちを狙うというものだった。


 まとまりがない即席の私たちでは、連携が取れるかはわからない。


 だからこそ、各個撃破を狙う。


 天童は私を睨みつけては腕を振り払い、再度距離を取って抜刀しようとする。


 その時に、私は少し恐怖を覚えて目をせてしまった。


 また、さっきの痛みを感じるかもしれないと思ったから。


「うぅ~……ん?」


 少ししても痛みは感じず、ゆっくりと目を開けると天童はもう小太刀を抜いていた。


 だけど、何も感じない。


 相手は舌打ちをして「しまった」と小さく呟く。


 そう言えば、椿の背後を取った時、天童は自分から接近して刃を振るっていた。


 さっきの技術があるなら、後ろからでも斬る動作をすれば攻撃できたはず。


 それなのに、わざわざ……。


「もしかして…!?」


 どういう原理かはわからない。


 しかし、そう言うトリックなら私にも戦いようはある。


 天童は私がそれに気づいていないと思い、再度鞘を戻して抜刀する構えを取る。


「良いわよ……受けて立ってやるぅ‼」


 相手に向かって駆けだし、拳を握って構える。


 近づけば近づくほど、小太刀に向かって意識が集中する。


 そして、それを狙って天童の刃が抜き身になる瞬間———私は目を閉じた。


「ていやぁああ‼」


 そのまま右足を振り上げて回し蹴りを繰り出せば、それが直撃する感触が伝わってきた。


「ぐがはぁ!?」


 横に吹っ飛び、床に身体を打ち付けては転がり回って止まる天童。


 そして、うつ伏せで倒れる体勢で私を見て睨みつける。


「何で……ありえない。私の剣が…通用しないなんて!?」


「あんたのやり方は単純だったのよ。あんたの動きを見なければ、別に何の痛みも感じなかったわ」


 抜刀する瞬間を見なければ、何の効果も無かった。


 だから、私は小太刀を抜く瞬間に目を閉じた。


 小太刀を没収し、相手を見下ろして「まだ続ける?」と聞いてみる。


 天童は何も答えなかったけど、武器を取られれば目を伏せて項垂うなだれた。


「私を弱いと言って、自分の力を過信した。それがあんたの敗因よ。嘗めんじゃないわ」 


 少しして、スマホから音声が流れる。


『天童江成 戦闘不能。阿佐美学園、残り1名』


 あれ?気づかなかったけど、もう1人の方も誰かが片づけていたみたいね。


 それなら、その残り1人を倒してこのイベントも終わらせるわ。


 天童を置いて行こうとすれば、彼女は私を見上げて言う。


「これで……終わりじゃない」


「……何?負け惜しみ?」


 振り向いて言えば、天童はフッフッフっと黒い笑みを浮かべる。


「私たちに負けはない、日下部が居る限り。この勝負は必ず、才王の敗北で終わる……。そう決められている。あの方が動いているなら」


「あの方…?あんた、一体何を言って…」


 彼女は急に立ち上がり、笑みを浮かべたまま懐から拳銃を取り出して眉間に銃口を押し当てる。


「敗北者に価値はない……。申し訳ありません、ジョーカー様」


 パァーンっ‼


 謎の名前を口に出し、天童は何の躊躇ためらいも無く引き金を引いて倒れた。


「何よ、これ……。どう言うこと!?」


 倒れた天童から、血は流れていなかった。


 撃ち込んだ頭からは、機械の内部が露わになっていた。


「ロボット……天童の正体は、人間じゃなかった!?」


 一体、何がどうなっているのかわからなかった。


 だけど、いくらバカな私でもわかったことがある。


 この模擬戦は、ただの2つの学園の勝負じゃない。


 もっと、別の……得体の知れない何かが関わっている。

感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます。


今回の1件、まさかのジョーカーも関わっていたパターンです。

道化師の狙いは如何に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ