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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
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表の戦いの始まり

 頭を左右に軽く振り、思考を切り替える。


 違う、やめろ。今は余計なことを考えるな。


 これから、俺がするべきことは何だ?


 思考のベクトルを変えたら、成功するものも失敗してしまう。


 今は過去の出来事や、俺個人の復讐は関係ない。


「……椿?あんた、顔色悪いわよ?大丈夫?」


 動揺が顔に出ていたのか、金本が俺を見て聞いてくる。


「大丈夫だ、問題ねぇよ。逆に気が引き締まった感じだぜ」


 そうだ、ここでイイヤツが出てきたのは何か意味があるはず。


 俺の想定通り、この模擬戦には緋色の幻影が関わっているのかもしれない。


 だったら、一石二鳥だぜ。


 叩き斬ってやるよ、おまえらの思惑なんてな。


 確信を得たことで決意を新たにし、画面の中のイイヤツを睨みつける。


『模擬戦のルール説明を始めよう。フィールドはその地下空間全体。プレイヤーは互いに3対3。使用する武器は自由。勝利条件はチーム3人全ての戦闘不能にすること。制限時間までに決着がつかなかった場合、チームの残り人数によって勝敗を決める。良いかな?』


 その確認に対して俺たちが頷けば、イイヤツは画面の横から1つの大きめのカードを取り出した。


『戦闘不能の条件は2つ。1つは我々が戦闘継続不可能と判断するまでに相手を叩き潰すこと。もう1つは降参の意思を示し、それを対戦相手が受理した場合だ』


 うちの決闘と同じ感じか。


 このルールに裏が無ければ良いんだけどな。


 最悪の場合、組織の介入も想定しないといけない。


 特に日下部が気がかりだ。


 俺が模擬戦に参加することを知って黙って見ているだけなのか。


 相手の出方によっては、本気を出さないといけないかもしれねぇな。


『では、今日の対戦相手との顔合わせを行おうか。画面を切り替えるよ』


 イイヤツが画面から消え、映像が切り替わる。


 画面を縦に3段に分け、互いの相手を認識する。


 別の場所に集合している阿佐美の選手と繋がった。


 2年Sクラス 日下部康則くさかべ やすのり


 2年Bクラス 伊郷海良いごう かいら


 2年Cクラス 天童江成てんどう えなる


 俺たちの相手は全員上級生だ。


 そして、画面越しでもその危険さが伝わってくる。


 日下部は俺たちを見て、フッと笑う。


『今日と言う日を楽しみにしていたぜ、椿円華。俺たちの正しさを証明する時をな』


「言ってろよ。あばかれんのは、あんたたちのくだらない迷惑な妄想癖もうそうへきだ」


 互いに敵対心をあらわにして言えば、伊郷がププっと笑う。


『相手が1年だけなんて、才王は勝負を捨てたんですね~。お姉さんたちが遊んであげますよ~』


『伊郷、油断は禁物。私たちにはおとっているとしても、甘く見てたら足元をすくわれる』


 片方は頭がゆるくて、もう片方は堅物かたぶつって感じか。


 バカにされたと思ったのか、雨水も金本も眉間にしわを寄せている。


 完全にスイッチが入ったな。


 金本の口からドスの利いた声で「ぶっ倒す」と小さく呟かれたのが聞こえてきた。


 おぉ~、こわっ‼


 雨水も静かに闘志を燃やしては、目を鋭くさせて言った。


「先輩方に恥をかかせないように頑張りますので、よろしく。期待しないで相手をしてください。お手柔らかに」


 そんなことを言いながらも、「覚悟しろよ、貴様ら」と言う気迫が漏れている。


 良かった~、こいつらが単純で。


 時間はそろそろ11時を回る。


『いい感じにバチバチしているようだから、そろそろ始めようか』


 画面が切り替わり、制限時間が表示される。


 タイムリミットは1時間。


『それでは、制限時間は1時間。模擬戦CQB……スタートだ‼』


 イイヤツが指を鳴らせば、地下全体にブザー音が響き渡った。


 カウントダウンが開始する。


「さて、始めるか。……俺たちの戦いをな」


 左肩を回して息を吐いてリラックスして歩き出す。


 2人は左右に分かれていく。


「じゃあ、常に俺の動きが見えるようにしておけよ。やりたいようにやってくれて構わねぇから」


「元からそのつもり」


「当たり前だ」


 俺は竹刀袋を担いで両手をポケットに突っ込み、目の前の道を堂々と進む。


 ポケットの中にはもちろん、もしもの時のために眼帯が入っている。



 -----

 


 静かな開戦と言うのは、人の不安を駆り立てる。


 生死を賭けた舞台であれば、尚更なおさらそれは大きい。


 時間が経つに連れて、緊張感が高まってくるのが普通だ。


 姿は見えない。しかし、確実にぶつかる相手が居る。


 敵はどのように攻めてくるのか、次の1秒後には現れるかもしれない。


 あらゆる可能性を考慮し、2手3手、あるいはそのもっと先の10手を読まなければ勝てない。


 俺が生きてきたのは、そう言う世界だった。


 この緊張が懐かしく感じる。


 昔と違う所があるとすれば、殺意がない所くらいか。


 白華の氷刃が生成完了し、もう竹刀袋から取り出している。


 地下のフィールドは、使われていないとはいえ商店街だった場所だ。


 手入れはされていないとはいえ、オブジェとしては最適と言うわけだ。


 もしかしたら、建物の中に隠れることも手の内かもしれないな。


 時計を見れば、もう5分は経過している。


 フィールドの広さを考えれば、あと数分で接触してもおかしくねぇな。


「真正面から挑んで来るか……それとも……っ!?」


 フィールドの中央まで着けば、空気が変わったのを肌で感じた。


 周囲から感じる確かな敵意。


 それも1つじゃない。


 2方向から同時に、敵が建物の陰から姿を現してきた。


「1人で行動するとはな。悪手だぞ、悪党め‼」


「すぐに終わらせる」


 正面と背後から日下部と天童が接近してくる。


 日下部の武器は長槍、天童は小太刀か。


 白華を抜刀し、小さく息を吸って止める。


「作戦としては悪くねぇ」


 複数人で1人を各個撃破していくつもりか。


 槍を突きだしてくる日下部。


 それを下段構えから振り上げてはじき、背後から来る天童には振り向きざまに、そのまま腰をじりながら後ろに振り下ろす。


 小太刀の鞘で受け止められるが、その動きに違和感があった。


 鞘から刃が抜かれていない。


 抜刀せずに止めた。


 普通は取らない防御の動きだ。


「諦めた方が良い。あなたは、私には勝てない」


「ご忠告どうも。聞く気はねぇけど‼」


 刀を抜かれる前に相手の柄を持っている手を掴み、そのまま小柄な身体を横に投げ飛ばした。


「んんっ!?」


「あんだけ至近距離に居て、刀を抜かせるはずねぇだろ。めんな」


「嘗めるなは俺たちのセリフだ、この外道‼」


 日下部は再度攻撃を繰り出してきては、高速乱れ突きを繰り出してくる。


「受けろ、正義の一撃を‼」


「どう見ても一撃じゃねぇだろ」


 しかし、見切れない速さじゃない。


 槍の先の傾きから、次にどこに突き出してくるかは読める。


 そして、攻撃ばかりで隙が多い。


 上段の突きを首を傾けるだけで回避し、腰をかがんで懐に入れば中段構えから両手で柄を握り、腹部に氷刃を押し当ててなぎ払う。


「ぐがぁあ‼」


 身体が前屈みになりながら下がり、槍で身体を支えれば俺を下から睨みつけてくる。


「俺の攻撃が当たらないなんて…‼何故だ!?」


「何故?シンプルな答えだろ。あんたの動きが遅いだけだ」


 正直、この程度で自分が強いと思っているなら拍子抜けだ。


 困ったな。このままだったら、すぐにでも終わりそうだ。


「私のことを忘れてる?」


 真後ろから天童の声が聞こえ、抜き身の刃が首に迫ってきていることに気づく。


「忘れるわけねぇだろ」


 中腰になって小太刀を回避し、そのまま左腕で彼女の脇腹わきばらひじ打ちをくらわせた。


「うがっ!?」


 天童は強打した脇腹を押さえて下がり、その無表情が苦痛で歪む。


「何をしている!?彼女は女子だぞ!?」


「はぁ?あんた、アホかよ。くだらねぇ。1度戦場に出たなら、男も女も関係ねぇよ。当たり前だろ」


 日下部の女性養護の言葉に呆れてしまう。


 まず第一にそう言うセリフを出すなら、その女子を戦いの場に出しているこいつの神経を疑うぜ。


「わりぃけど、女子おんなこどもでも敵対するなら容赦しねぇぜ。俺と戦うつもりなら、もう1人を呼んで全員でかかってきても構わねぇ。その代わり、覚悟を決めて挑んで来い」


 もう1人の相手、伊郷の姿が見えれば、それで後はやり易くなるんだけどなぁ~。


 俺のことを警戒して近づかない日下部と天童。


 仕掛けてこない相手に注意を向けながら、次の行動を分析する。


 一斉に襲いかかってくるのか、それとも一時撤退か。


 しかし、天童の動きはそのどちらでも無かった。


「これだけ距離があれば……斬れる」


 彼女は小太刀を鞘に戻し、再度勢いを付けて横に抜刀した。


 その動作を見た瞬間、腹を斬られたような痛みが走った。


「っ!?」


 痛みに気を取られてしまい、隙を作ってしまった。


 それを見逃さなかった日下部は、大きく一歩下がって近くの2階建ての建物の屋上を見て叫んだ。


「今だ、伊郷‼」


「はぁ~い」


 屋上から伊郷が姿を現し、そこから大量の手榴弾しゅりゅうだんをぶちまけやがった。


「マジかよ!?」


 床に落ちる前に爆発する手榴弾は爆風を巻き起こし、周囲の建築物を崩壊させていく。


 おいおい、武器は自由って言っていたけど、爆弾もありなのかよ!?


 身を屈めて爆発の衝撃に耐えていたが、敵の猛攻はそれだけでは終わらない。


「隙ありだぁあ‼」


 日下部が爆風を物ともせずに接近しては槍を横に振るい、それを白華で受け止めるが耐え切れずに力任せに振り払われる。


 何て馬鹿力ばかぢからだよ、こいつ!?


 床を転がって衝撃を逃がし、白華を杖にして立ち上がる。


「常軌をいっしてるよ……あんたら」


 日下部は俺に近づき、槍を両手で構える。


「悪を討つためなら、何だってする。それが俺の正義だ」


「はぁ……独善乙どくぜんおつ


 俺も両手で柄を握り、身体の中央を軸に構える。


 そして、もう1度相対する前に日下部の目の変化に気づいた。


「おまえ……何だよ、その目!?」


 奴は目のことを指摘されては右手で両目を被い、フフフッと笑う。


「これは俺が本気を出した時の状態を表している。選ばれた者だけが手にすることができる力だ!?特別なんだよ、俺は‼」


 両手を広げて目を見開く日下部。


 白目の部分が黒く染まっており、瞳が赤黒い。


 その特徴は、希望の血のものでも、絶望の涙のものでもない。


「この状態の俺は、あまり人には見られたくないんだけどな。悪を討つためなら、真の力を解放しなければならない」


「悪……ね。さっきから正義だの悪だのるっせぇな。そんなに俺は大悪党かよ?」


「当たり前だ‼」


 日下部は怒りの表情で槍の刃を向けて怒鳴る。


「おまえは結衣を傷つけるのみならず、才王学園を脅かしている存在‼見過ごすわけにはいかない、悪だ‼」


 うわぁ、濡れ衣で粛清されるの?俺。やってらんねぇ。


「あんたには何を言っても無駄だと思うけど、一応言っとく。あんたは真城に騙されてる……」


「黙れ‼結衣が俺に嘘をつくわけが―――」


「ふりをしているんだろ?自分の都合の良い展開に持っていくために」


 俺が核心を突いた一言を言えば、日下部は目を見開いて言葉が止まった。


「いや、元からこういう風になるように計画を立ててたんじゃねぇの?才王を追いつめるために」


「な、何を……言っている…!?」


「意味わかんねぇわけねぇだろ。疑問に思ってたんだよ、あんたの行動にはさ」


 進藤先輩から、日下部の話を聞いた時のことを思い出す。


 この男は上と下の白黒をはっきりさせないと気が済まない男だ。


 だったら、この交流を深めるための合同文化祭なんて気に入らなくて仕方がないはずだ。


 他校と足並みをそろえて、公平に協力していくなんて考えることもできないだろう。


 常に自分が上に立ちたいと思っている奴は、大抵協調しなきゃいけない場面をぶっ壊したくなる傾向にあるからな。


 そんな奴が文化祭において実権を握る立場に居るなら、行動に移そうとするのは自然なことだ。


 あるいは、抑制が効かないような何かが日下部に起きたのか。


 何にしても、今回の一件に日下部が関係しているとわかった時点で、こいつはこの状況を利用して自分が上に行く手段にすることは目に見えていた。


「真城が起こした事件の内容はどうでも良かった。しかし、自分たちの学園の中で被害者が出るなら、その犯人を才王側の人間にさせることで阿佐美側であるあんたたちの方が優位に立てる。俺に濡れ衣を着せようとしたのも、真城と口裏を合わせていたって所か」


 全ては、あのイチャモンをつけられた時に大方の予想はできていた。


 だからこそ、俺の今回のターゲットにこいつも含めていたんだ。


「黙れ……違う……そんなことは、断じて違う‼‼」


 日下部は怒りを抑えられないのか、それとも中継されている場面で俺が暴露したことで焦りを覚えたのか、声を荒げる。


「全てはおまえが悪いんだ‼みんな、騙されるな‼これも、この男の……いいや、才王の陰謀だ‼責任逃れをして、俺たちに罪を擦り付けようとしているんだ‼」


 どこかに設置されているだろうカメラを意識して弁明を図ろうとする。


 そんなことをしても無駄だというのに。


 日下部は接近して槍を振るい、俺は白華で受け止めてせめぎ合いになる。


「おまえを倒す‼そして、俺たちの正しさと力を証明する‼」


「良いぜ、やってみろよ?でもさ……あんたの言う俺『たち』って……今更だけど、どこに居るんだよ?」


 奴はやっとそのことに気づいたのか、周囲を見て怪訝な顔をする。


「今頃、雨水と金本が先輩方の相手をしているはずだ。良かったな?俺の相手は、あんたで貸し切りだぜ」


「そんな……バカな!?」


 あとで合流して俺を3人で倒す手筈てはずだったのだろう、予定が狂ったことに動揺しだす。


「どうした?正義の味方。この程度で動揺してどうするんだよ?」


「黙れ‼」


 怒鳴りながら力任せに槍を薙ぎ払って距離を取れば、俺を睨みつけてくる。


「許さない……許さないぞ、椿円華ぁ‼」


「安心しろ。俺たちも、あんたらを許す気はさら々ねぇよ」


 あっちが本気を出すなら、こっちもそれに応えないと失礼に当たる。


 ……なんてことは考えねぇけど、得体の知れない相手に対して手加減できるはずが無い。


 俺はポケットから眼帯を取り出し、右目を隠して左目に意識を集中させた。

感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます。


ここから、それぞれの戦いがヒートアップ‼

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