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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
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文化祭、開催

 円華side



 その日は晴天で、雲一つない青空が広がっていた。


 本当ならば、2つの学園の隔たりなんて関係なく、岸野が最初に言っていた通りの友好的な楽しいイベントになるはずだった。


 この日のために、それぞれのクラスが頑張って準備を進めてきた。


 その中には頑張りが形となって完成した者たちも居れば、そうではない者たちも居る。


 現に事件の被害を受けた阿佐美の1年Aクラスの模擬店は、結局当初よりも規模を縮小したものになっている。


 自分たちの理想通りの形ではなくても、文化祭に参加したいという想いが強かった結果だろう。


 そして、今日の結果次第ではその怒りの矛先が完全に俺に向くことになってしまう。迷惑なこと、この上ねぇ。


 文化祭当日。


 今日はそれぞれのクラスの、そして学園の答えを出す日になる。


 会場を見て回っていると、それぞれのクラスで最終チェックは済んだようで模擬店の部屋で客が来るのを待っている所がほとんどだった。


 ドーム内には外部の客も続々と入ってきており、プログラムを手に持ちながら興味のある店に足を運んでいる。


「始まるまで、残り1時間って所か……」


 今の時間は9時56分。


 選手は30分前に地下商店街に集合しないといけない。


 模擬戦の場所である地下商店街に行くには10分もかからない。


 Eクラスのお化け屋敷に行って時間を潰したら、邪魔になるよなぁ。


 何の気なしにイチゴ牛乳を飲みながらCクラスの前を通ると、チラッと横目で部屋を見た時に思わずブゥウー‼と噴き出してしまった。


「んだ、こりゃ…」


 思わずオーバーなリアクションをしてしまったのがまずかった。


 中からその様子が見られていたようで、ガタイのいいドレッドナルシストが近づいてきた。


「ハッハッハー、これはこれはミスター椿ではないか。私の店に足を運ぶとは、君はどれほど私のことが好きなんだねぇ~?」


「まず2、3か所ツッコませろ、こら。勘違いをいい加減に修正することを覚えろよ」


 呆れながら頭の後ろをいて言い、もう1度部屋の中を見てみる。


 そこには陶器、ブランドのバッグ、財布、時計などが並べられており、とても模擬店に出るような物じゃなかった。


 そして、一番目を引くのは中央に置いてある馬に乗っている男の金の像だった。


「これ、何の店だよ?」


「庶民の言語に合わせるのであればぁ……リサイクルショップかな。私の家で使わなくなった物を出しているのさ。良かったら、中を見ていくかい?」


「いや、俺は別に――」


「そうかそうか!私のコレクションがそんなに見たいかね。ではでは、お通ししようじゃないか。我が店の顧客第一号だ!」


「って、おい!おまえ、本当に話し聞けよ‼」


 後ろから強引に押されながら模擬店の中に入れば、「あー、ここにも被害者が」と言うような哀れみの目を周りのCクラスの奴らから向けられた。


 いや、助けてくれよ、マジで!


 溜め息が漏れて、この機会だからと想いながらも渋々商品を手に取ってみると、触った革の感じや見た目から本物だとわかる。


 リサイクルショップで出すような品じゃねぇだろ、これ。


 価格を見てみると、あまりの額の低さに目を疑った。


「はぁああ!?500円!?0を2つか3つ付け忘れてるだろ、これ!?」


「いいや、これがベストプライスだよ。庶民の君たちのレベルに合わせてあげたことを感謝して欲しいものだねぇ~」


「価格破壊過ぎるだろ。あそこの客、泣いて喜んでるぞ?」


 ブランド物のバッグを持って喜びの涙を流しているおばさんを指さして言ったけど、ほとんどの客が驚いていて信じられないという感じだった。


 と言うか、あまりにも場に溶け込んでいるので疑問に思わなかったが1つ想うところがでてきた。


「そう言えば、おまえ、ずっとクラスの模擬店の準備してたのか?実行委員の仕事はどうしたんだよ?」


「ふっふっふ、私をそこらの凡人と同じ扱いにしないでくれたまえ。2つの職務を同時にこなしてこそ、真の貴族というものさ」


 前髪を流してドヤ顔で言っているナルシストに思ったこと。


 こいつ、実行委員の仕事を何1つしていなかったよな。


 何なら、ずっとサボってたよな。


 まぁ、その分クラスの模擬店の方に時間を割いていたってことか。


 自分家じぶんちの物を出してくるとか、意外とクラスに対しては律儀な奴なのか?


 横目で幸崎を見ると、前髪をかき上げては白い歯を光らせては周りにアピールしてる所を見て、考えが変わった。


 違うな、あれは自分の財力を誇示したいだけだぜ、あいつ。


 呆れて乾いた笑いをしてしまうと、周りを見渡してある違和感に気づいた。


 梅原が居ない。


「なぁ、幸崎。この模擬店って、クラスの全員は参加していないのか?」


「う~ん?私を慕ってくれているガールやボーイは全員、私の手足となってくれているが、その他の愚民がどうしているのかは知らないねぇ」


 確か、幸崎は梅原のことを知らなかったよな。


 だったら、あいつのことを聞いても意味は無いか。


 それでも、今の口振りから自分の配下の男のことは把握しているみたいだ。


 それで梅原が居ないと言う事は、あいつは幸崎に従ってるわけじゃないってことか?


 考え込みそうになると、幸崎が少し低い声色で「ミスター椿」と俺の名前を呼んだ。


「この後の君たちの戦い。私も楽しみにしているよ、頑張ってくれたまえ」


「おまえが人の応援をするなんて珍しいな。雨でも降るんじゃねぇの?」


「いや、そうひがまないでくれたまえ。今のは私の本心さ。前から思っていたのさ、君の実力を見てみたいとね。私ほどではないにしても、ある程度は力が備わっていなければ、後々に張り合いがないからねぇ」


「……俺の実力……ね。悪いな、幸崎。おまえが俺を測る機会は、今日じゃねぇよ」


「ん~?では、今日は退屈な日になりそうだ。せっかく、今日と言う日が来るのを心待ちにしていたというのに」


 肩を落としている幸崎からは、本当に俺のことを見定めたいという想いがあったのだろう。


 しかし、今日あいつが見るかもしれないのは俺の力じゃない。


「退屈かどうかは、11時になってからわかることだ。それまでは模擬店に集中しろよ」


「ほぉ……君のその目、確かに面白いことが起きそうな予感がしてきた。私の期待を裏切らない展開になることを期待するよ」


「ああ、それこそ楽しみにしてろよ。見せてやる……俺たちの望んだ結末をな」


 その後はCクラスの模擬店を出て、俺は時間よりも早く地下商店街に行くことにした。


 客が多くなってからだと、混雑して間に合わないかもしれないと思ったからだ。


 ギリギリだと、雨水にどやされそうだからな。



 -----

 麗音side



 お化け屋敷は思っていた以上に人気なようで、始まってから30分で行列ができていた。


 ビラ配り班が頑張って宣伝してくれた結果かもしれない。


 現場の方もみんな全力でやっていて、裏方もお化け役もお客さんの悲鳴や笑い声を聞いて楽しんでいるのが伝わってくる。


 そんなみんなの様子を受付係としての仕事をしながら感じ、あたしはちょっと複雑な気分だった。


 心の中で、未だに整理がついていないのかもしれない。


 本当に、あたしがここに居ても良いのか。


 結衣のことを思い出してから、あたしの中で目を逸らし続けた想いが込み上げてきた。


 彼女のやっていることを、あたしが否定する権利はない。


 規模と方法は違っても、同じようなことをしていた。


 手にした力に溺れて、あやまちを犯した。


 みんなを支配し、奴隷にしようとした。


 そんなあたしが、このままEクラスに残っていても良いの?


 この答えを、まだあたしは出せていない。


「ちょっとー、心ここに在らずだと困るんですけどー」


 隣に座っている恵美が半目で言ってきた。


 受付は今、あたしと恵美のペアでやっていて、時間で別のペアと交代することになっている。


 今は行列が切れ、少し休むことができる。


「緊張してるの?円華の模擬戦まで、あと少しだもんね」


「別にそうじゃないけど……」


「じゃあ、何?何か想うところがあるなら、吐き出した方が楽になるよ?」


 思い返したら、あたしの思い上がりを砕かれたのは恵美が現れてからだった。


 そこからはただ、この子のことが気に入らなかった。


 あたしの思い通りに動かなかった、この女のことが。


 だけど、今は大っ嫌いだったはずの恵美と一緒に居ても何とも思わなくなっているあたしが居る。


 嫌と言うよりも、むしろ……。


「大っ嫌い、だったのになぁ…って思っただけ。あんたのことも、クラスのことも」


「……ふ~ん。まっ、知ってたけど」


「でしょうね。あたしたち、顔を合わせたら喧嘩ばっかりだったし」


「そうだね、私も麗音のことは大っ嫌いだったから。でも、今は……そうでもないよ。むしろ、友達として好きになりたいと思ってる……かもしれない」


「っ‼…き、聞いてないわよ。あんたがどう思ってるかなんて」


 こういう、思ったことを口に出せるこの子のことが気に喰わなかった。


 でも、あたしは恵美に救われた。


 調子が狂わされるのは相変わらずだけど、今はそれも嫌じゃない。


「クラスのみんなだって、麗音のことを許してると思うよ」


 不意に言われた一言が、あたしの胸に刺さった。


「あ、あんた……何で……」


 恵美はヘッドフォンをしていない。


 なのに、あたしの抱えていた悩みに対しての答えを呟いた。


「気づいてたよ、2学期が始まった時から。あんたは時々、クラスに居る時に限って凄く思い詰めた顔してたから。特別試験の時、クラスの方針に口を出さなかったのも、みんなに対して思うところがあったからでしょ?」


「……どんだけ見透かしてるのよ、ムカつく」


「そう言うと思ったから、今までは何も言わなかった。前までだったら、私の話も聞かずに反発して言い合いになるのはわかってたから」


 否定できない。


 前までのあたしなら、恵美の言う通りになっていた。


 気に入らない女に図星を突かれて、何も聞かずに反発していた。


 耳を塞いで、聴こえないようにして、彼女を否定しようとした。


 でも、今は違う気がする。


「一応、聞かせなさいよ。操られてる間は意識が無かったはずだし、メモリーライトで菊池さんの記憶も消えている。そんな状態のみんなが、あたしを許すってどういうこと?」


「頭には残って居なくても、身体が覚えていると思う。心は忘れていないと思う。精神論だけどね。でも、みんなは麗音に変わらずに接してくれている。それって、無意識のうちにでも許してるってことなんじゃないかなって、私は思うんだ」


 身体が、心が覚えている。


 あたしが、みんなにした過ちを。


 それでも、あたしを受け入れてくれた。


 それが、あたしを許したという証明になる。


 安直な考えだし、事はそう簡単じゃない。


「それに誰かに許してもらえるなんて甘いことを考えていない時点で、麗音は成長していると思う」


「……そう思う?」


「それが、罪を背負って生きるってことにも繋がる。少なくとも、お父さんたちは誰かに許されたいと思って戦っていたわけじゃないから」


 恵美のお父さん……最上高太。


 あの人も、あたしとは比べ物にならない罪を犯したと聞いている。


 そして、20年前のデリットアイランドでも多くの命を奪ってきた。


 多くの罪を背負いながらも、戦い抜いてきたんだ。


 そして、今では敵味方問わず実力者として認められている存在。


「……あんたのお父さんだったら、あたしみたいな状況になったらどうするの?」


「う~ん……お父さんだったら?」


 恵美は天井を見上げながら考えた後、「うん」と頷いて答えた。


「多分だけど、責任を取るために全力を尽くすと思う。自分の思いとか迷いとか捨てて、みんなにとって最善だと思うことを尽くすだけ」


 責任を取るために、最善を尽くす。


 それが英雄と呼ばれる男の答え。


「……だろうな。あの人なら、今、最上が言った通りにするはずだ」


 話に集中していて気づかなかったけど、いつの間にか目の前に岸野先生が立っていた。


 この人、本当に神出鬼没しんしゅつきぼつ


 先生は辺りを見渡しては頭をかく。


「何だよ、お化け屋敷は不況か?客が全然居ねぇな」


「今は人が減ってるだけ。さっきまでは盛況せいきょうだった」


 恵美がムスっとした顔で言った。


「そうか……。そろそろ、例のイベントが始まる時間だな。おまえたち、ちゃんとイベントホールに集まれよ?」


「わざわざ言われなくてもわかってるし。もしかして、それだけ言うために来たの?先生も暇なんだね」


「そうそう、仕事がないから暇なの先生。だから、他の模擬店でいろいろと買わされてきたわけだ」


 左手に持っている紙袋の中にはたこ焼きやタピオカジュースなどの食べ物が入っている。

 

 だけど、手にしているのは紙袋だけじゃない。


 気になったのは、右手に持っている方のアタッシュケース。


「まぁ、それだけってわけじゃないんだけどな。住良木、おまえに渡す物がある」


 そう言って、先生はアタッシュケースの方をあたしに渡してきた。


「先生、これは?」


「今のおまえに必要な物だ、中身は後で確認しろ。それと、スマホは当然持ってるだろうな?バッテリーは残しておけ」


 スマホが必要になる道具。


 そんな物、あたしには1つしか思いつかない。


「ある人からの預かりものを改良した物だ。大事に扱えよ」


「ど、どうして……あたしに?恵美に渡した方が…」


「それは、おまえの方が上手く扱える。だから、渡した。それだけだ」


 「じゃあ、頑張れよー」と言って岸野先生は行ってしまった。


 アタッシュケースを凝視していると、恵美がヘッドフォンをしてはそれに触れて目を閉じた。


 そして、すぐに見開いて驚きの顔になった。


「っ!?これって…‼何で…!?」


「えっ……何?これが何なのか、わかったの?」


 恵美は何度も頷き、震えながらあたしを見る。


「これは……あたしのレールガンと同じ。20年前のデリットアイランドで使われた、異能具だよ…‼」


 20年前の伝説の武器。


 何故、それを先生があたしに渡したのかはわからない。


 だけど、その力の重圧が今、あたしの手に重くのしかかった。


 10時15分。


 模擬戦が始まるまで、残り45分。

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