足りないピース
円華side
文化祭の準備は進み、それぞれのクラスでも最終調整に入っていた。
Eクラスのお化け屋敷も大体は完成しており、細かい部分やそれぞれの地点での役割分担のチェックとリハーサルを行っていた。
そして、リハーサルの相手として選ばれたのは残念なことに、実行委員で今は仕事がない俺だった。
部屋の外で待機しており、やる気のないオーラを全開にして出してしまう。
「はぁ……面倒くせぇ」
溜め息と共に本音を吐露すれば、部屋の中から久実の「も~い~よ~」とうるさい声が聞こえたので重たい足を前に進めてドアを開けて入った。
「うわぁ~お、無駄に本格的」
薄暗い空間の中を進むたびに、「キャー」やら「やめてー」などの声が聞こえてくる。
道なりに進んでいると、後ろから首筋に冷たいヌメッとした感触の物が触れて「ぅあ?」と声が出てしまい、首の後ろに手を回し、それを掴んで見ては半眼になってしまった。
「こんにゃくかよ。ベタだな、おい」
ポイっと捨てれば、曲がり角に差し掛かっては向こうから何かが近づいてきては「あぁ…あぁあ~」と聞いたことがあるような声が響く。
そして、曲がると同時に「ふんがぁああ‼」という叫びと共に襲いかかってきたので後ろに下がって前足を出せば、相手は転んだ。
転んだ奴を見れば、頭を押さえながら聞く。
「それ、ゾンビか?それともフランケンシュタイン?ごちゃ混ぜじゃん」
「あぁ~……ははっ。怖くなかったか、これ?」
「ある意味こえぇよ、引くレベルに本格的で」
相手は川並であり、苦笑いを浮かべながらぎこちなく立ち上がった。
頭を貫通している巨大なネジと、顔を糸で縫い合わせたような線、そして血塗れの衣装。
川並のラグビーで鍛えた体格もあってか、一瞬頭に浮かんだのはフランケンの方だった。
特殊メイクが本格的で、見てて恐いと言うか痛々しい。
このまま立ち尽くしているわけにもいかないため、川並に先に行くように促されては足を進めた。
次は提灯や日本人形が並んでおり、雰囲気は和風になっている。
その中を進めば、横から「ニャー‼」と言う叫びと共に猫耳を付けた猫娘風のコスプレ衣装に身を包んだ久実が現れた。
「どうだ、円華っち‼恐くて、おしっこちびりそうになっただろ!?」
「・・・え?それって怖い系路線?可愛い系路線?」
とりあえず、貴重な姿の久実をスマホで1枚写真を撮ってみた。
「な、何で写真を撮るんだよぉ!?」
「いやー、久実の猫娘姿が可愛かったからついー」
感情を込めずに誉めたにも関わらず、久実は腰をクネクネさせながら照れる。
「やだもぉ~、可愛いくて今にも抱き着きたくなるくらい綺麗なニャンニャン娘なんて褒め過ぎだしぃ~」
いや、誰もそこまで言ってねぇよ。
と言っても、今の久実には通じねぇか。
「はいはい、ニャンニャン。それで?可愛い路線で良いのかよ?一応これ、お化け屋敷だろ?」
「・・・あ!そうだよ!怖がってよ、円華っち‼」
ビシッと指をさされて言われるが、両手でバッテンを作って「無理だろ」と返した。
さてはこいつ、可愛い物作りに熱中し過ぎてコンセプトを忘れてたな。
その後、1つ目おばけや唐傘おばけ、のっぺらぼうなどの古典妖怪が出てきたが、それほどまでの怖さは感じなかった。
そして、最後の方に近づいて井戸が見えてきては、ブォオ~~っとテレビでお馴染みのBGMが聞こえてくると、近づくのと比例して白装束を着た血塗れの女が中からゆっくりと出てくる。
「うぅ~らぁ~めぇ~しぃ~やぁ~~~‼」
女は成瀬であり、スマホをかざしている俺と目が合うと「何撮ってるのよ」と素に戻っては不機嫌そうに聞いてきた。
「え?あぁ~、動画でも撮ってみようと思って。バッチリ撮ったぜ!」
サムズアップと共に満面の笑みで言えば、「すぐに消しなさい!」と言う怒鳴りと共に、近くに在った石のオブジェを投げつけてきた。
井戸を通り抜ければ出口であり、お化け屋敷から脱出した。
「はぁ……無駄に疲れた。ツッコみで」
「お疲れ」
外には恵美が待機しており、アンケート用紙を渡してきた。
「何だ、これ?」
「お化け屋敷を脱出した人にアンケート。私、終わった人への案内係だから」
「まーた、楽な係を選んだな」
用紙を受け取れば、恵美が首を傾げて聞いてくる。
「面白かった?」
「あ?怖かったかじゃなくて?」
「うん、面白かったかどうかを聞きたい」
「……そうだな」
怖くなんて無かったし、ツッコみどころは多かったし、お化け屋敷って言うものにするなら、完成度は低いと言わざるを得ないかもしれない。
しかし、出口を見ながら答えた。
「面白かった。気分転換にはなったぜ」
「それなら良かった。……そう言う風に、楽しめる文化祭にしたかったね」
したかった。
その過去形が表す意味に、俺は気づいている。
数日後に開かれる文化祭は、日下部と真城によって、当初の予定通りのものにはならないことはわかっている。
それでも、だからこそ、あの2人の思い通りにはさせたくない。
「1分1秒でも早く取り戻すさ。みんなの積み重ねたものを、無駄にはしたくねぇからな」
そのために考えた計画は、今も進行中だ。
文化祭当日、2つの学園の繋がりを取り戻す。
しかし、そのための最後の一手が足りない。
あいつは、一体どこに行ったんだ。
おまえが居ねぇと終わらねぇんだぞ……一翔。
-----
3時間前。
会場ドームに到着し、バスから順番に降りた時のことだった。
文化祭での模擬戦を前に、実行委員は才王と阿左美に分かれて別々に会場に向かうことになった。
これ以上余計な衝突を生まないようにするための配慮とのことだったけど、怪しさがにじみ出ている。
2つのバスを近くに止めて降りた時、阿佐美側の小型バスから出てくる生徒の中に一翔の姿は無かった。
ただの体調不良による休みだったのか。
それとも、真城や日下部によって何かを仕掛けられたのか。
どっちにしても、気が気じゃなかった。
俺は難癖をつけられることを覚悟で、日下部に近づいて問いかけた。
「日下部先輩……一翔はどこに居るんですか?」
できるだけ敵意を抑えて聞けば、彼は嫌悪の目を隠さずに顎を突きだして見下ろしながら言った。
「あいつなら逃げたぜ?おまえの洗脳を解こうとしたら、行方をくらませやがった。今頃、どこに居るんだろうな」
洗脳?何を言ってやがるんだ、こいつ。
「一翔が邪魔で消そうとしたのとどっちだよ?」
「あぁ?口の利き方には気を付けろよ、卑怯な手しか使えないクズ野郎が」
互いに睨みつけながら言葉を交わせば、今にも一触即発の空気になりかける。
「2人とも、相手に対する鬱憤を晴らしたいなら文化祭当日まで待つべきだ。わかっているだろ?」
進藤先輩が間に入り、雨水が俺を日下部から離れさせる。
「どうした?感情的になるなんて。貴様らしくないぞ」
「……別に感情的になんてなってねぇよ。冷静だ」
「冷静な奴は、そんな今にも人を殺しそうな目をしていないだろ」
言われてすぐに冷静を装ったが、それでも日下部に対する敵意が抑えきれていない。
真城を横目で見れば、怒りを覚えている俺を見て心の内で嘲笑しているような気がした。
大丈夫だ……あの一翔が、こんな奴らの手に落ちるわけがない。
頭を冷やせ。
今、ここで日下部と事を構えても、今の状況が変わるわけじゃない。
日下部たちと離れ、実行委員としてはペアで行動することになるも、俺は1人でドーム内を見ることになった。
一翔のことから頭を切り替えるにはいいタイミングで、成瀬からメールが届いた。
『お化け屋敷の準備を始める前に、少し時間良いかしら?』
-----
イベントホールに呼び出されて行けば、成瀬が珍しくノートPCを操作していた。
後ろから画面を見てみても、何をしているのかはさっぱりわからない。
「待たせて悪かったな、成瀬。何かあったのか?」
「いいえ。トラブルは無かったわ。あなたに直接報告するのと、相談したかったのよ」
「相談?」
成瀬はPCから目を離して俺に目を向ける。
「お望み通り、データベースに侵入することは成功したわ。あとは、実行委員のあなたからの情報を待つだけよ」
「そうか、わかった。わかり次第、すぐにおまえに伝える」
「お願いするわ。……それで、例のプランについて、私から1つ提案があるのだけれど、良いかしら?」
成瀬の目は真剣であり、何か覚悟を決めているように見える。
「一応聞くから、言ってみてくれ」
話を促せば、彼女はまだ決断ができていないのか、躊躇いながら話出した。
「……ごめんなさい。その話をする前に、私の今までの反省を聞いてくれるかしら」
「反省?」
俺には思い当たるものが無かったけど、成瀬の中で引っ掛かる何かがあるのだろう。
聞く態勢を作って頷いた。
「私は今まで、正々堂々と戦えば結果が必ず出ると思っていた。正しい道順で、正しい頑張りをすれば、結果は後からついてくる。それが私の生き方だったわ。でも、それでは勝つべき時に勝つことはできない」
体育祭の時のことを言っているのか。
木島に負けたことを、まだ気にしているのかもしれない。
「私が正々堂々と戦おうとしても、相手はそうじゃないかもしれない。卑怯な手を使い、勝つためならば平気で人を騙す者かもしれない。そんな相手には、今のままでは太刀打ちできないかもしれない」
過去の自分を顧み、彼女は今、新しい答えを得ようとしている。
「だけど、私はそんな相手にも勝てる自分でありたいと思っている。そのためには、あなたや基樹くん、木島さん、柘榴くんのように、努力では埋められない部分を埋める手段を講じる必要があるわ。勝利のために、相手に嘘をつくことも、時には仲間を騙すこともあるかもしれない」
自身の胸に手を当て、強い眼差しを向ける成瀬。
「それでも、勝つわ。私が私であるために。大切な仲間を守るために。私はこれから本当の意味で、勝つための手段を講じる。そのための最初の一手がこれよ」
彼女はノートPCを操作しては、画面を見せてきた。
それを見て、俺は目を見開いて驚いた。
「成瀬、おまえ……すげぇな。これ、おまえが作ったのか?」
「私をハッキングだけができる女だと思ったら大間違いよ。プログラミングの技術も修得済みだわ」
成瀬が提示してきたファイルは、真城を追いつめるには強力な武器だ。
もしかしたら、あいつの異能力を封じることもできるかもしれない。
「これがあったら、真城の信用なんてガタ落ちだぜ」
「住良木さんから、彼女の性格ややり方を聞かせてもらった時から、このファイルを作ることは考えていたのよ。あなたのプランに組み込んでも大丈夫かしら?」
「俺の方から頼みたいくらいだ。だけど……おまえ、本当に性格が悪いよな。いい意味で」
「お褒めに与り光栄ね。私もむかっ腹が立っているのよ。蛇の道は蛇と言う事で、住良木さんを傷つけた罰は倍返しで受けてもらうわ」
あらー、これはガチで怒ってる奴だ。
つか、こんな技術があるなら、もう俺、成瀬に下手なこと言えねぇわ。
鳥肌が凄ぉ~い。
「私も自分の殻を破る時が来たと思ってるの。だから、この機会にやりたいようにやらせてもらったわ。使えるものは何だって使うわよ」
「何だってって……まさか、おまえがこんな方法を使うとは思わなかったぜ。俺も、多分基樹も思いつかなかった」
「そう、それを聞けて少し自信がついてきたわ。じゃあ、私はクラスの準備に戻るわね」
満足げな顔を浮かべて成瀬はイベントホールを後にした。
その1時間後に久実からリハーサルに付き合うように言われて呼び出され、今に至るというわけだ。
感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます。
あと1、2話で文化祭当日です‼準備が長い‼




