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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
223/497

期待外れ

 奏奈side



 久しぶりに神経が敏感になる。


 この感覚は、2年前にも味わっている。


 場所は会場内のカフェエリアで、私は目の前に居る男に誘われる形でお茶を楽しんでいる…ように見せている。


 内心は今飲んでいる紅茶の味なんて、わからないほどに余裕はない。


 それを見透かしているのか、男は平然と問いかけてきた


「気が進みませんか、俺とティータイムを共にするのは。桜田生徒会長」


「ええ、とても。あなたと一緒に居ても、せっかくの紅茶が水に感じてしまうから。進藤くん」


 そう、私を誘ったのは進藤大和。


 表面上は1年の差があるけど、そんなことは露程つゆほども感じさせない。


 私と同じ領域に居る実力の持ち主だと、周りからは思われている存在。


 お互いに笑みを浮かべているけど、どちらも腹の底は見せない。


 不快だけど、懐かしさを覚えてしまう。


 黙っているだけでも、心を読まれているような気がしてくる。


 だったら、話をして気を紛らわせる。


「あなた、さっきの話し合いはどこまで展開を見通していたのかしら?」


「見通す?俺はただ、同じ学園の後輩を助けたかっただけですよ。全ては偶然です」


 平然と言う進藤くんの表情からは、その言葉が嘘か本当かはわからない。


 相も変わらず、掴み処がない。


 この私でも、彼の想定を覆すことができた実感はない。


 全てがその筋書き通りに動いており、それがさも当然のように平然としたたたずまいをしている。


 私のさっきの行動ですらも、進藤くんの描く筋書きに全て組み込まれている可能性がある。


「参考までに教えてくれるかしら?住良木さんが動かなかった場合、そして私が来なかった場合、あなたはどうやってあの場を収めようとしたのかを」


「どうやって……ですか、難しいですね。先ほどはとりあえず、椿円華の無罪を証明することのみに焦点を当てていましたので。仮定の話をするのであれば、才王と阿佐美の双方の関係が今以上に壊れていたかもしれません」


 口元に笑みを浮かべたまま、眼鏡越しに視線を合わせてくる。


「やはり、生徒会長となったあなたの影響は大きい。おかげで、必要最小限の犠牲で済みそうだ」


「……犠牲ね。その犠牲は才王のもの?それとも、阿佐美のもの?」


「さぁ…そこまでは。しかし、あなたの用意した舞台で敗北した側のものであることは、間違いないでしょう」


 あ~、いい加減うんざりしてきた。


 作り笑みをしているのも疲れてきた。


 カフェの中の人は少なくなり、この場に居られる時間もそう長くはない。


 私は笑みを作るのを止め、目を細めて不快な顔を向ける。


「もう良いでしょ?気持ち悪いのよ、あなた。私に敬語なんて使ってくるのは、皮肉のつもり?進藤くん」


 敵意を察したのか、進藤くんは眼鏡の位置を正して笑顔を消した。


「不快にさせていたのなら謝ろう。しかし、俺は2年で君は3年。しかも、生徒会長だ。言葉遣いは慎重にした方が良いと思ったのだがな」


「笑わせないで、私は納得していないわ。私が今居る生徒会長の椅子は、本来ならば、あなたが座るはずだった」


 進藤くんの視線から目を離さず、屈辱の意志を向ける。


「あなたが1年前に学園から姿をくらませなければ、私はこんな退屈な2年を送らずに済んだのよ」


「まだ、俺が留年したことを怒っているのか?桜田。確かに、今の3年で君と渡り合える実力者は居ないだろうが……」


「その通り。あなたは私にとって最高の暇潰し相手だったの。なのに、()()()()以降に学園から休学という形で姿を消した。……それほどまでに、あの人の存在はあなたにとって大きな存在だったのでしょうね?」


「当然だ」


 即答で答えては、目つきが鋭くなる。


 過去の話を詮索されたくは無いという、無言の意志表示。


 それでも、私はこの機会に、進藤くんに釘を刺しておかなければならないことがある。


「私の弟に、近づかないでもらえるかしら?あの子にあなたのことを気づかれたくないし、あなたがあの子に余計なことを言うのも私には面白くないの」


「っふ…そうか。不安にさせたのなら、すまない。同じ委員だから、何かと接点が多くてな。それは仕方がないことだが……それ以外にも、彼個人に興味があったんだ。自分の中の好奇心が抑えきれなかった」


 その好奇心が、私の不安を駆り立てる。


 私にとっては、危険因子でしかない。


「興味…好奇心……あって当然よね。だって、あなたは―――」


 去年のことを、そして思い出したくもない女の顔が脳裏に浮かぶ。


「椿涼華の教え子の、たった1人の生き残りなんだから」


 私が最も嫌っていた女の名前を出せば、進藤くんは目を閉じて黄昏たそがれた表情を浮かべる。


「椿先生か……懐かしい。そして、先生の弟、椿円華。彼に対する俺の評価は、正直に言って期待外れだ」


「……は?今、私の円華を…バカにした?」


 円華をけなす者は誰であろうと許さない。


 殺意を向けて圧をかけるも、進藤くんはひるまない。


「気を悪くしたなら謝るが、決して悪意はない。しかし、これは本心だ。俺は椿円華に対して、今の段階では決していい印象は持ってはいない。嫌悪していると言っても過言ではないだろう」


「それなら、どうしてさっきは円華を擁護するような行動をしたの?」


「理性と感情を混合させないのが俺の流儀だ。あの場では、実行委員として俺が動くべきだと判断したに過ぎない」


「そう……。何にしても、面白くない展開ね」


 テーブルに頬杖をつき、苛立ちを露わにする。


「全てがあなたの書いた筋書き通りに動いている。そう思えてならないのよ」


「それは違うよ、桜田。俺も万能じゃない。君には本当に感謝しているんだ、住良木麗音にもな」


 進藤くんは視線を逸らして口元を右手でおおう。


「日下部の後ろ盾があったとは言え、真城結衣の精神力は本物だった。本当なら、俺はあの場で彼女に自白させるつもりだった」


 表情が曇る彼を見て、思わず口を隠してフフっと笑ってしまう。


「じゃあ、あなたの予想外のことが起きたってこと?」


「君の言葉を借りるなら、そう言う事になる。しかし、それは俺にとって良い意味でと言うことは補足させてもらう」


「なぁ~んだ、面白くないの」


「君にとって面白い展開だった場合、椿円華がさらに窮地に追い込まれていた可能性があるが、それについてはどうする?」


「っ‼……相変わらず、冷静に痛い所を突いてくるわね」


「君の性格の悪さは重々承知している。無論、君が可愛い弟と言っている椿円華を大切に思っていることもな」


 私の思考は進藤くんに把握されている。


 だけど、進藤くんの考えは私には読めない。


 その思考は常人のそれを超えており、他人は知らず知らずのうちに彼に利用されている。


 どこからが彼の計画なのか、偶然と思えることも、全てが必然なのではないかと思えてくる。


 そんな恐ろしい存在に煮え湯を飲まされたのは、1度や2度ではない。


 悔しいけど、久しぶりに話してみると、私ではなく進藤くんが生徒会長だったのならと思ってしまう。


「あなたのこと、本当に嫌いだわ」


「そうだろうな。しかし、俺は君のことを尊敬しているよ」


 それが本心か嘘なのかも見透かすことができない。


 見透かそうとすれば、逆に心を掴まれる。


「皮肉ね。そう言うところも気持ち悪い」


「ネガティブ思考が過ぎるな」


 フッと笑った後、紅茶を飲み干して一息つく進藤くん。


「安心してくれ。俺は椿円華に何かを仕掛けようなどとは思っていない。仮にも恩師の家族だった男だしな。ただ……」


「ただ…何?」


 途中で詰まった言葉を促せば、彼の目付きが変わる。


 無感情なものから、強い意志を感じるものに。


「彼を見守りたいと思っている……椿先生の分まで」


「円華のことが嫌いなのに?」


「現段階ではと言っただろ。俺は見定めたいんだ、椿円華の器をな」


「あなた如きに、円華を推し量れるとでも?」


「やってみなきゃわからないさ」


 進藤くんの目に光が宿り、悪意を感じない自然な笑顔になる。


 その目が気に入らない。


 何よりも、あの女のためと言うのが……。


 椿涼華という女は、この世から居なくなっても私のことを苛立いらだたせる。


「お手並み拝見ね。とりあえず、私が作った舞台を無駄にしたら許さないから」


「その点は問題ないはずだ。あとは、椿たち次第だ」


 進藤くんの中では、もうこの事件の終幕が予測できているらしい。


 それがどういうものなのかは、わからない。


 私にできるのは、ここまで。


 あとは、円華たちを信じることのみ。



 -----

 ???side



 展開は大方予想通りに進んでくれた。


 しかし、その過程が問題だった。


 結衣の過去が、予想外の所かられてしまった。


 これでは、大衆の目がくらんでしまう。


 椿円華は悪なんだ。


 それなのに、その事実が薄れてしまった。


 結衣が嘘をついているはずがない。


 悪いのは椿円華だ、才王学園だ。


 そして、証明しなければならない。


 俺の正義と、阿佐美の実力が上だと言う事を。


 そうでなければ、俺がこの学園の頂点に立てない。


「もうすぐですね。文化祭での模擬戦で私たちが勝利すれば、あなたは阿佐美学園で事実上の頂点に立てます。そうなれば、次の生徒会長の座も確実ですよ」


「わかっている、結衣……。だけど、今はそれよりも、おまえに手を出した椿円華が憎い…‼おまえを苦しませた男を守ろうとする奴らも例外無くな‼」


 才王学園は、結衣を傷つけた。


 それが何よりも許せない。


 その想いは結衣も同じだと思っていた。


 しかし、彼女から返ってくる言葉は違った。


「才王の人たちは悪くない……悪いのは、椿円華ただ1人。みんな、あの男に騙されているだけなんです」


「……どう言う事だ?」


 椿円華が才王の生徒を騙している?


 結衣の言葉は続く。


「才王側の生徒の噂話を聞きました。椿円華には、人を洗脳する技術があるらしいんです。だから、彼の洗脳を受けた人は、彼に操られているだけなんです」


「才王の生徒は……椿円華の被害者だってことか?」


「そうです。だから、あなたが討たなければならないのは椿円華だけなんです。あなたの正義は、彼を潰すことで達成される」


 椿円華を討つ。


 そうすれば、俺の正義が成されるのか?


 いや、結衣が言うならそうなんだ。


 俺は結衣を信じている。


 大切な仲間を疑うのは、最低だ。


「椿円華と言う悪を討って、才王の生徒もあなたの正義で救ってあげましょう?阿佐美だけでなく、才王にも、あなたの正義を理解してもらうんです」


「……そうだな、結衣。解放しよう……椿円華から、才王学園を」


 なんて男だ、椿円華。


 結衣を傷つけるだけではなく、同じ学園の仲間すらも利用するなんて。


 そんな悪行は許されない。


 俺の仲間は、もう傷つけさせない。


 才王の生徒も、悪の手から救い出す。


 どんな手を使おうとも。


「助けてください、先輩。いつも、私を助けてくれるみたい。今度は、多くの人々があなたの正義の手を待ってますよ」


「ああ……そうだな、結衣。俺の正義で……救い出すんだ」


 結衣の言葉で決意が固まった。


 迷いなんてない。


 結衣が間違えるはずが無いのだから。


 例え、周りが結衣を否定しても、俺が彼女を守る。


 大切なものを守るだけの力を、俺は持っている。


 結衣がそれを正しいというのであれば、それが最善。


 俺は結衣を信じている。


 結衣の信じる正義を信じる。

 

 それが、この俺……日下部康則の正義なんだ。

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