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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
222/496

2人の我が儘

 円華side



 きっっっっまずい。


 今、俺は恵美と一緒にベンチに並んで座っており、沈黙すること約5分。


 互いに何かを言うでもなく、ただ座ってるだけ。


 やべぇ、俺、特に話すことなかった時、こいつとどうやって話してたっけ?


 いや、その前に……『獣』の声が聞こえない?


 ずっと、恵美が近くに居た時に聞こえていた、否定の声が一切聞こえない。


 この前のことは偶然じゃなかったのか。


 まさか、本当にしばらくは出てくるつもりはないのか?


 あの言葉を信じることができなかったから、ずっと離れていた。


 だけど、本当に『獣』が表に出る気が無いのだとしたら……。


 でも、『あいつ』が言っていた「当分」がどれほどの期間なのかはわからない。


 そんな気まぐれに、恵美たちを巻き込むわけにはいかねぇだろ。


 沈黙の中で悩んでいると、恵美が満を持して口を開いた。


「少しは落ち着いた?」


「え?あ、まぁ…な」


「歯切れ悪いね」


「うるせぇよ。放っとけ」


 素気なく言い返せば、チラッと横目を向けてきてジト目になる。


「放っといても何の進展も見られないんですけど?いつまで、私たちを待たせるつもり?」


「……」


 返す言葉がない。


 俺は自分のことがわかるまで、共に居ちゃいけないと言った。


 だけど、恵美はそれまで待ってると言ってくれた。


 それに対して、応えられていない。


「円華はさ……何で全然カッコ良くないのに、カッコつけようとしてるの?」


「・・・は?」


 俯いて沈みそうな俺に、彼女は容赦なく畳みかけてきた。


「言ってる意味わからなかった?だったら、もう1回言うね。ダサいのに何を、無理して自分をカッコよく見せようとしてるの?って聞いてるんだけど」


「いや…別に、カッコつけてるわけじゃねぇし。俺は、おまえたちを傷つけないように――」


「じゃあ、見下してるんだ?ムカつく。円華のくせに、生意気」


「はぁ!?何が見下してるだよ、意味わかんねぇし‼」


 頬を膨らませて非難してくる恵美に腹が立って言い返せば、あいつは怯えもせずにまっすぐに目を合わせてきた。


 その目を恐れたのは、俺自身だ。


 目を伏せてしまうと、恵美がボソッと「臆病者おくびょうもの」と呟いたのを聞き逃さなかった。


「おまえっ―――んぶっ!?」


 言い返そうとすれば、両頬をパァン!と挟まれてはそのまま半眼でジト目を向けられる。


「無駄にプライドが高いし」


 右頬をつねられる。


「自分のことになると、すぐに塞ぎ込むし」


 左頬をつねられる。


天邪鬼あまのじゃくだしぃ~~~‼」


 両頬を勢いよく引っ張られ、両手を掴んで「いふぁいいふぁいいふぁいいふぁい(痛い痛い痛い痛い)‼」と離そうとするが、引きはがせない。


 こいつ、こんなに力強かったか!?


 引っ張られたまま前後にグリグリ回され、口が回らなくて喋りづらくなる。


「円華の嫌な所も怖い所も、いっぱい知ってる。だから、今更私を傷つけようとしたことぐらい、何とも思わなくていい。もう気にしてない」


 「でも」と言いたいが、口が思うように動かないから黙って聴くしかない。


 そして、恵美はジト目のまま頬をつねったり、強く引っ張ったり、回したりを繰り返し、人の顔を玩具にしてらっしゃる。


「それに今度やられたら、こうやってお仕置きとしてやり返す。それでチャラにする。私に嫌なことをしたら、私も円華が嫌がることをする。それでプラマイゼロ。……違う?」


 ここで俺は、どう返答すれば良いのだろうか。


 肯定するべきか、それとも、それでも恵美の気持ちを無視して否定するべきか。


 迷っている間に、恵美は最後に勢いよく両頬を引っ張った後に両手を離しては「まっ」と言って笑顔を向ける。


「円華がそれが嫌だって言っても、それを無視して私は一緒に居るけどね。絶対に、円華を1人にさせないから」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の中でずっと張りつめていた鎖が心の振動で揺れ動いた。


 だけど、長年腐った性根はそう簡単には変わってくれない。


 差し伸べられた手を取ることが、はばかられる。


「……言っただろ。おまえたちと居ると辛いんだ。一緒に居ると、自分がわからなくて苦しくなる。だから、俺は1人の方が――‼」


「なよなよした円華の気持ちなんて、どうでも良い‼」


 恵美が声を荒げ、言葉を被せてきた。


 そして、ベンチの上に俺を押し倒してきた。


 見上げると彼女は、今まで見たことがない顔をしていた。


 強い覚悟を固め、崇高な意志を宿した目だ。


 感情の高ぶりからか、その瞳は透き通るような蒼に染まっている。


「円華が私たちから逃げるなら、私は円華がどんな思いをしたってしがみ付いてでも一緒に居る‼どれだけ苦しんだって関係ない‼私がそうしたいから、円華の側に居る‼」


 鎖に更なる衝撃が加わり、振動が強くなる。


「今まで、円華のままに散々に付き合って、我慢してきた‼でも、もう限界‼」


 これが今までの恵美の抱えていた気持ちなのか、ダムが決壊したかのように言葉があふれては吐き出されていく。


「円華の勝手な1人よがりな考えに合わせるのも、勝手な判断で逃げられるのも、全部嫌だった‼全部、全部、全部‼」


 恵美は胸倉を両手で掴んできては、そのまま引っ張って前後に振る。


 あまりの変化について行くことができず、俺はされるがままになる。


 そして、勢いよくY-シャツを引いては顔を近づけて視線を強引に合わせる。


「今度は円華が私の我が儘に付き合う番‼私がずっと、円華の心が罪悪感で、ズタズタのボロボロになっても一緒に居るんだから‼円華に、拒否権なんて無い‼だから…‼」


 恵美の目を見れば、途中から涙を浮かべていた。


 彼女の言葉1つ1つが強い衝撃となり、張りつめていた言い訳の鎖が千切ちぎれそうになる。


 そして、右頬に優しく手が触れられ、恵美は真剣な目で言ってくれた。


「私は好きで円華と一緒に居たいんだから、円華も好きにして良いんだよ」


 その許可を意味する言葉が、何よりも大きく強い刃となり、俺の心を縛っていた鎖を切り裂いた。


 それによって一気に力が抜けてしまい、俯いては腹の底から「はぁ~あ」と大きな溜め息をついてしまった。


「……円華?」


 様子が変だと思ったのか、恵美が俺の名前を呼ぶ。


 それを気にする余裕もなく、自然と言葉が出てしまった。


「自分が……恐いんだ」


「……うん、この前言ってたね」


 恵美は俺の呟くような小さな声に耳を傾け、聴く体制に入ってくれた。


「キングが目の前で自殺した時から、俺の心は2つに分かれてしまった。それから、ずっと……もう1人の俺は、『あいつ』は、俺を孤独にさせようとした。何度も……何度も、何度も何度も‼……俺に訴えかけてきた」


 これまで獣が俺に言ってきた言葉を思い出す。


「仲間など不要だ、孤独になれ、目の前に居る女は邪魔な存在だ……挙句の果てには、殺せってさ。……今までの俺を否定する言葉に、ずっと……耐えてきた」


「何で、そこで耐えちゃうかな……。本当に、頭は良いのにバカなんだから」


 恵美に対して言い返す気力もなく、言葉が口から流れ出てくる。


「傷つけたくないからって言ったけど……本当は、少し違う。こんな、情けない俺を見られたくなかったんだ。これは、俺自身の問題だから、おまえたちに頼るような弱い部分をさらけ出すのが……恐かった。さらけ出して……離れてしまうかもしれないって考えたら、恐くて仕方がなかった…‼」


 それが俺が抱えていた本当の恐怖。


 助けを請う事なんて、できるはずが無かった。


 全てを話して、改めて危険な存在として拒絶されるのが怖かったんだ。


 自分自身でも気づかなかった恐怖の正体。


 今、恵美に抱えているものを吐き出したからこそ見えた、何よりも恐いことだった。


 自分の両手を見れば、また紅の獣の手に変わったような錯覚に襲われる。


 また誰かを傷つけるんじゃないかって、不安が生まれる


 俺の抱えていた恐怖を知り、恵美は小さく息を吐いて「バカだなぁ~」と言って軽くチョップしてきた。


「そんなこと、あるわけないじゃん。どれだけ円華と一緒に居たと思ってるの?……涼華さんよりは短いかもしれないけど、ちゃんと見てたし、知ってるよ?」


 恵美は獣の手を取り、その温かい手で包んでくれた。


「口が悪くて、面倒くさがり屋で、でも誰かのために行動できて、優しくて、寂しがり屋なのに、1人で何でも抱え込んで……苦しんでいる、バカな人。それが、私の知ってる椿円華だよ。そんな円華が助けてって言うなら……どんな理由でも、見捨てるわけないじゃん」


 そう言って、こんな俺に笑みを向けてくれた。


「ドーンっと頼って良いんだよ、ちゃんと支えるからさ。じゃないと、私たちが仲間でいる意味ないでしょ?」


「ドーンっとって……表現……古いんだよ」


 やっと出てきた減らず口を呟けば、身体を支えているのが億劫おっくうになってきて、無意識に身体が恵美の方に向いて前に倒れてしまう。


 すると、ムニュっという感触が顔全体に広がっては、頭を軸に身体が支えられる。


 あれ?…何だ、これ?……すっっっっげぇ、柔らかくて気持ちいい…。


「っ~~~~~!?」


 耳元で恵美が叫びそうな声を押し殺しているのが聞こえたが、気にしてる余裕がなかった。


 そして、ぎこちないながらも、冷静な感じで聞いてくる。


「あ、あの……円華は、いつから、女の子の胸に顔を突っ込むような、甘えん坊さんになったんですか?」


 あぁ~、察した。


 でも、身体が言うことを聞いてくれない。


 仕方がない、苦し紛れの言い訳をしよう。


 そして、殴られよう。


「……るっせぇよ。何か……条件反射で、こうなっちまったんだから……しょうがねぇだろ」


「ふ~ん……しょうがなくなんだ?ふ~ん。変態」


 特に離されるでも、「離れて」と言われるでもなく、その体勢のまま沈黙が流れる。


 幸い、俺たちの近くは誰も通っていない。


 だからと言うのもあるかもしれねぇけど、今の気持ちがそのまま口から出た。


「疲れた。……マジで、しんどい」


 聞こえないように呟いたつもりだったけど、恵美の耳に届いてしまったらしい。


 微笑みを浮かべては、俺の頭に手を乗せて撫でてくる。


「1人で頑張り過ぎなんだよ。バーカ」


「……るっせぇよ」


 バカと言われて反応するも、そのままの体勢から離れたいとは思わなかった。


 今はただ、このまま、今までの心の疲れをいやされたい。


 俺は恵美に一緒に居ることを許されたのだと、その事実に浸りたい。


 ずっと自分を縛り続けていた心のしがらみから解放されたことを、ただただ実感したかったんだ。


 それぐらいの小さな甘えと我が儘は、恵美の俺に対するこれからの大きな我儘に比べたら、許されても良いだろ?


 なぁ……姉さん。

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