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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
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それぞれの激励

 BCと別れる前に、一翔があいつに頭を下げて挨拶する。


「ご無沙汰しております、奏奈さん。この度は、我が校の先輩が失礼を―――」


「硬い硬い、そんなの気にしなくて良いから。私は面白いことが起きそうだから首を突っ込んだだけ。後はあなたたちでどうにかするしかないわ。わかってるわよね?一翔。……それに、円華も」


 名指しされれば、溜め息をつきながらも一応は返事として「ああ」と返しておく。


「つか、BC。おまえ、CQBをするって言ったけど、それがどれだけ大変かわかってんのかよ?この1週間足らずで準備ができるのか?」


「問題ないわ。文化祭のイベントとして急遽きゅうきょ決まったことにすれば、すぐに準備に入ることはできるはずだから。資産も場所も確保できるわ」


 マジかよ、文化祭効果すげぇ。


 しかし、舞台は問題ないにしても、他に思うところが無いわけじゃない。


「しっかし……学園生活でCQBをすることになるとは思わなかったぜ」


 CQBクロース・クォーターズ・バトル


 市街地や建物内のような空間の中で、複数対複数の戦闘を行う、現実で行われるシミュレーションゲーム。


 あれは単純な身体能力もそうだが、戦術的な思考も問われる。


 軍人時代によくやっていたし、負けた方のグループは連帯責任で筋トレ地獄だったな。


「詳細は追って伝えるわ。あなたも自分の武器の調整はしておいた方が良いわよ~?」


「え!?俺が参加するのかよ!?」


 素で驚いていると、BCは怪訝な顔をする。


「当然でしょ。あなたがけられた喧嘩よ?自分の尻くらい自分で……それとも、お姉ちゃんが吹いてあげ―――」


「自分でやるのでお構いなく。さっさと業務を終わらせて来い、変態」


「変態って~、円華酷~い。お姉ちゃん、泣いちゃう~」


 ウソ泣きに付き合ってられなくなり、「はいはい、泣いてろ泣いてろ」とあしらって速足で中央のドアから外に出れば、後ろから一翔が追いかけてきて腕を掴まれた。


「待てよ、円華‼」


「あ?んだよ。…って、何を怒ってんだ?」


 振り返れば、怒りの形相でいらっしゃる。


 その理由を頭の中で探していると、1つの結論に辿りつく。


「まさか、俺が勝手におまえのことを話したのが気に入らなかったのか?だったら、悪かった。ついでに、おまえの冤罪を晴らすことができればって思って―――」


「僕のことはどうでも良い‼君は、こんな所で油を売っている場合じゃないだろ!?」


「な、何だよ……これからすることっつったって……」


 さっきのことで、わかったことは2つある。


 それを敷き詰めていき、真城を追いつめるための策を本格的に考える。


 だけど、今は外の風に当たって癒されたい。


 一翔はさらに眉間にしわを寄せて詰め寄る。


「住良木さんと進藤先輩に、お礼を言っていないだろ!?相変わらず、礼儀というものがわかってないな、君は‼」


「はぁ?礼?…ああ~…それはぁ……まぁ~なぁ~」


 歯切れ悪く言って頭の後ろをかけば、「後で言っとく」と言って流そうとするが、一翔はそれで納得しない。


「ダメだ‼今すぐに言いに行け‼」


「るっせぇな‼放っとけよ‼俺にも事情があるんだよ‼」


 腕を振り払い、声を荒げてしまう。


 それに対して怪訝な顔を浮かべた後、呆れたようにあいつは言う。


「僕の事情に踏み込んでおいて、放っとけは無いんじゃないか?」


「っ‼そ、それは…まぁ…」


 目を合わせられず、言い返せなくなると近くのベンチを指さしては「そこに座りなよ」と促してきたので、素直に従って2人で腰を掛ける。


 あいつの事情に強引に踏み込んだのは俺だ。


 だから、俺も一翔に話すべきなんだろうな。


 じゃないと、フェアじゃない。


「進藤先輩には、本当にあとで改めて礼を伝える。だけど、今、あいつらと……恵美たちと話すのは、正直、気まずい。あ、その…恵美っていうのは、麗音と一緒に居た、銀髪でヘッドフォンを付けてる――」


「知ってるよ、最上恵美さんでしょ。彼女、僕に君のことを聴きにきたよ」


 あいつら、一翔と会っていたのか。


 俺のことなんて、気にしなくて良いのに。


「悔しいけど、最上さんの話を聴いて、君は本当にいい友達を持ったんだと思ったよ。羨ましいとも思った。だからこそ、今の君の行動が気に入らない」


 一翔は真剣な顔で、俺をとがめるような目で聞いてきた。


「どうして、そんな君のことを思ってくれる人たちから逃げてるんだ?君は彼女たちと一緒に居たいと思ってるんだろ?」


「……何だよ、俺のことをわかってるみたいに決めつけやがって」


 いや、図星だ。


 俺は……本当は……。


 でも、あいつらと……恵美と居ると、あの時の怯えた顔が思い出される。


 俺が、恵美を傷つけるところだったんだ。


 だから、傷つけないように……。


「わかるさ。何度、君と剣を交わしたと思ってる?」


「少年漫画みたいなセリフ乙。それ、カッコイイって思ってんのか?」


「っ‼ま、まぁ……今のは冗談だけど。……本当は、僕も君の身勝手な自己完結の犠牲者だからだよ。気持ちがわかる」


 身勝手……心辺りは大有りだ。


「大方、また何か人間関係で失敗しようとしてるんだろ?」


「失敗……したんだよ。俺は自分のことを制御できなくて、恵美を傷つけようとした。また、あの時のように、あいつを怯えさせたくない……。だから、近づいちゃいけねぇんだ。俺の近くに居たら、また傷つけるかもしれない」


 俯きながら思ってることを口にすれば、一翔は深い溜め息をついては「本当に君って奴は…」と呆れ果てる。


「その自分に対するネガティブ思考、どうにかしろよ。それと……甘ったれるな‼」


 一翔は俺の肩を掴んで顔を上げさせれば、目と目を合わせて言ってくる。


「傷つけたくないから、離れなきゃいけない?それで今まで、どれだけ後悔した!?そうやって1人で勝手に抱え込んで、勝手に自己完結して、勝手に塞ぎ込んでるから、余計に周りを心配させてるのが、まぁ~だわからないのか、この鈍感偏屈者‼」


「っ!?おい、アホ真面目、もう1回言って―――」


「ああ、何度だって言ってやるよ‼君はそれで周りのことを気遣きづかってるつもりかもしれないけど、それが余計に周りに迷惑をかけてるんだよ‼それで、僕がどれだけ――っ‼」


 怒りに任せてまくし立てるように何かを言おうとしたみたいだけど、それが急に止まっては頬を紅くして離れる。


「それで、おまえがどれだけ……何だよ?」


「う、うるさい‼僕も迷惑を被ったってことだ‼気づけ、ひねくれ者‼」


「それはっ…。悪かった、とは、思ってる。だけど、10年前のあの約束を忘れたことは…1度もねぇよ」


 過去のことを思い出して重たい空気になる前に、一翔は自身の頭をいて言う。


「円華……君の仲間は、君が1度過ちを犯しそうになったくらいで、君を見捨てるような人たちなのか?少なくとも、僕が会った時は、そんな風には見えなかったけどね。……まぁ、でも?真城さんみたいに演技が上手なんだって言われたら別だけど」


「あいつらと真城を一緒にするな‼」


 一翔の言葉に苛立ちを覚えて否定すれば、それが発破をかけるための挑発だったことに気づいて罰が悪くなる。


「……だったら、最上さんたちを信じているなら、君を信じてくれてる人たちを悲しませるなよ。君が信じている人のことで、1人で苦しむなよ。分かり合って、信頼し合って、支え合うのが、仲間っていう存在なんじゃないの?」


「一翔……」


 その言葉が胸に響き、目を見開いて名前を呼ぶ。


 一翔は照れ臭そうに「あーもう!」と言って背中を向けては、胸の前で強く手を握って言う。


「今のは!…涼華さんの言葉の受け売りだよ。あの人に言われた言葉は、今でも僕の心に刻まれている」


「……そうか、道理で心に響くわけだ」


 しゃくだけど、一翔を通じて、姉さんがかつを入れてくれたような気がした。


 例え、それが一翔の下手な嘘だとしても。


 姉さんも、この場に居てこんな情けない俺を見たら、同じようなことを言うと思ったから。


 ベンチから立ち上がり、深呼吸して身体を伸ばす。


「姉さんの言葉なら、しょうがねぇ。……向き合うしかねぇよな。逃げてても、何の解決にもなんねぇんだ」


「それがわかっているなら、さっさと行ってこい。そして、ちゃんと『ありがとう』って言うんだよ?」


「言われなくてもわかってんだよ……アホ真面目」


「うるさい、偏屈者」


 一翔に背をむけてドーム会場に戻ろうとすれば、向かおうとする方向から1つの影が見えて目を疑った。


 そして、一翔もそれに気づいては「ナイスタイミングだね」と言ってベンチから立って入れ替わるように行ってしまう。


「恵美……おまえ、どうして?」


「どうしてって……どうしてだろうね?」


 恵美は銀色の髪を風でなびかせながら、困ったような笑みを向けてきた。


 時間は5時近く。


 話す時間は、十分にある。



 -----

 恵美side



 円華がドーム会場を出た後、柿谷が私たちと円華を困ったように交互に見ては、麗音が呆れたように「行けば?」と言ったので追っていった。


「麗音……が、頑張ったね」


「何?その幼稚園児に対する褒め方。バカにしてる?」


「今回はしてない。100%純粋な称賛しょうさん


「まぁ、だったら良いわ。でも……思ったほど役には立たなかった。勇気を出しても、あたしなんてこんなものよ」


 麗音が落ち込んで自分を卑下ひげするようなことを言えば、2年の進藤先輩が「そんなことはない」と訂正する。


「住良木。今回の君の功績は大きい。あの場で君が発言してくれたことによって、才王側で椿を疑う者は皆無になっただろう。これは今後のことを考えれば、基盤固めとなり、真城結衣の悪行を抑制する効果があったからな」


「でも、結衣を摘発することはできませんでした。結果的に、才王と阿佐美の溝ができてしまいましたし……」


「そのことは後でまた考える。起きてしまったことをとやかく言うつもりはない。おまえの成したことは、現状を打開するための大きな一手となった。おまえの勇気は尊敬に値する。ありがとう、助かった」


 進藤先輩は礼を言って去って行く前に、私に目を向けては薄く笑みを浮かべた。


「最上恵美、おまえの成長にも期待している」


「ど、どうも……」


 ぎこちなく返事をすれば、先輩は横を通り過ぎて行って奏奈さんの下に行ってしまった。


 そして、狩野は先輩の後ろ姿を見て怪訝な顔を浮かべた。


「どうしたの?基樹くん、顔が強張こわばってるわよ?」


「んーや、別に~」


 狩野は進藤先輩を怪しんでる?一体、何で?


 岸野先生は欠伸をしながら私たちに近づいてきて、麗音に薄く笑みを向けた。


「よくやった、住良木。自分の殻を破れたな」


「そ、そうなんですかね…。自覚無いですけど」


「だろうな。そう言うのは自己評価よりも他者評価の方が認識しやすいもんだ」


 先生は「そんで」と言っては視線が私に移動する。


「おまえの殻も、ついでに破って良い時じゃないか?」


「えっ……私?」


 自分を指さして聞けば、先生は頷く。


「椿のこと、気になるんだろ?頑固なあいつを連れ戻すことができるのは、今のところはおまえしか想像できん」


「……何で、私なの?」


「おまえがクラスの中で一番、あいつのことをよく見てるからだ。……まるで恋する乙女のように」


「違うから‼一言余計で、デリカシーない‼」


「おー、これが噂の川柳風せんりゅうふうか」


 からかっているのか、このキャンディー依存症はぁ…‼


「今のはジョークだが、あいつが話を聴きそうなのはおまえぐらいだろうからな。この中でおまえが一番付き合いが長いのは、レスタから聞いてわかってる」


 レスタ……確か、今は円華のスマホにナビとして居るはず。


 連絡は取り合ってたんだ。


「だったら、あいつを歪んだ分厚い殻から引きずり出すのはおまえが……いや、おまえともう1人、付き合いが長い奴が必要だろうな」


「そ、そんなことを急に言われても……」


 先生に促されても、二の足を踏んでしまう。


 すると、後ろから背中を思いっきり叩かれて「痛っ‼」と大きい声が出てしまう。


「行くなら行く、行かないなら行かない。さっさと決めなさいよ。あんたが行かないなら、あたしが行っても良いんだから」


 麗音が挑発するように言ってきて、背中を抑えながら怒りを覚える。


「わ、私が行く…。麗音にばっかり、良い格好させてられないから…‼」


「だったら、さっさと行ってきなさいよ、恵美。そんで泣きべそかいて帰ってきなさい。その時は、少しは慰めてあげる」


「お!か!ま!い!な!くぅ‼」


 怒りの勢いでそのまま会場を出て、円華を探しに行く。


 そして、頭が冷えた時には、既に目の前に居て、引き返せない状況になってしまった。

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