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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
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Bクラスの担任教師

 敦side



 生徒たちが文化祭に向けて動いている中、教師もまた平行して仕事を進めなければならない。


 今でも後悔しているが、文化祭の実行委員の顧問になると予想通り、要らない仕事が増えた。


 夕方、職員室の中でコーヒーを片手にPCを操作し、教師としてとは別の仕事を片付けている。


 文化祭には外部からも来客が来ることから、才王も阿佐美も世間体を気にしなければならなくなる。


 問題を起こすわけにはいかないが、準備の段階で事件が起きた以上は犯人を押さえない限りは当日もハプニングが起こる可能性は低くはない。


 生徒会だけでなく、実行委員の仕事が重要になってくるのだが……。


「はぁ……流石のあいつでも、今回ばかりは期待し過ぎたかもしれない」


 椿を実行委員に選んだのは、桜田奏奈の意見を取り入れたのもあるが、復讐以外のことには無頓着なあいつなら、2つの学園の間でも上手く渡り歩けると思っていたからだ。


 状況は想定していたものを超え、椿でも阿佐美に接触できる者は少数に限られている。


 文化祭で想定される最悪は、交友を深めるための文化祭が2つの学園の間に亀裂が入ったまま終わることだ。


 完全に修復することはできなくても、犯人を特定して事態は収束させなければならない。


 いや、時間が経つにつれ、ただ犯人を特定するだけでは済まない状況になっている。


 収束させるにも、それなりの形を整わせなければならない。


 課題は多いが、学生の自主性を重んじる体制であるが故に、教師として俺が介入するにも限度がある。


 最終的には生徒たちで解決する姿勢が望ましいが……。


 それは表向きの問題であり、俺としては別の問題から目を背けることはできない。


 今回の騒動を起こした犯人が使った異能具の存在。


 俺の想定している物が使われていた場合、いつどこから椿たちが襲撃されてもおかしくない。


 対応できるとすれば、最上の異能力くらいか。


 表立って動けない以上、俺には奴らが動きやすいように厄介な者たちを監視して抑えることしかできない。


 頭の中で考えを整理させていると、後ろからうるさい男に声をかけられた。


「おーい、アッシー。残業ですかー?お疲れーい」


「うるさい、坂本。頭に響く」


 目を細めてファイルを変え、近づいてくる坂本に身体を向ける。


「何だよ~。良いじゃん、構ってよ~。僕も残業手伝うからさぁ~」


「手伝うじゃない。おまえの仕事もあるだろ、バカ」


「あー、そうでしたー。てへぺろ」


 舌を出して時代遅れの返答をする坂本。


「古い。オッサンがバレるぞ、アラサー」


「オッサンって何!?アッシーも歳近いくせに‼」


 頬を膨らませながら怒っているのを無視し、表向きの作業に戻る。


 坂本は俺の後ろに立ち、両手を頭の上に重ねて置いてきた。


「文化祭、どうなるんだろうねぇ~。今のままだったら、失敗に終わっちゃうよ?」


「実行委員には進藤が居る。あいつなら、何とかするだろう」


「へぇ~?進藤くんの方を信用してるんだ?てっきり、自分の生徒である椿くんの名前が出てくると思ったけど」


「確かに椿は俺が今抱えている生徒の中では群を抜いて優秀だ。しかし、それでも進藤の実力には及ばない」


「自分の生徒よりも進藤くんのことを高く評価するなんて、ちょっと厳しすぎるんじゃない?」


「事実だからな。……いい加減に重い」


 坂本の腕を払って離れさせれば、「ソーリーソーリー」と言って奴は少し距離を取る。


「でも、思わぬところで騒動が起きたよね、今年は。アッシーはわかった?今回の騒動の犯人」


「わからん。しかし、犯人を特定することに関しては心配はしていない。奴のことだ、見つけ出すのにそう時間はかからんだろう」


「その奴って言うのは……進藤くんのこと?」


「いいや、椿だ。あいつは課題に対する洞察力とそれを解決するための行動力が高いからな」


 コーヒーを飲み干して一息ついた後、坂本は可笑しそう「ふ~ん」と言っては少し真面目な顔になる。


「僕としては、今回もBクラスの柘榴くんが1つ絡んでると思うけど……どう思う?」


「それは流石に無いだろう。体育祭以来鳴りを潜めているが、退屈しのぎに何のメリットも得られない文化祭で暴れるようなアホじゃない」


 それに、体育祭の日に椿が柘榴に釘を刺しておいたのは桜田との話で知っている。


「柘榴は元から表立って何かを仕掛けるような奴じゃない。こんな騒動を起こして楽しむのは、よっぽどの狂気を孕んだ奴だろうさ」


 柘榴の名前を出せば、横から「あらあら」と言う声と共に、ハイヒールの音を鳴らしながら1人の長身の女が近づいてきた。


「私のクラスの柘榴くんを高く評価してくれているようで、嬉しいですわ。岸野先生」


「……牧野先生。お疲れ様です」


 存在に気づかなかった。


 職員室には俺と坂本だけだと思っていたが、気配を隠して女は貼りついた笑みで近づいてきた。


 1年Bクラスの担任、牧野乱菊まきの らんぎく


 細い糸目と常に笑みを浮かべている顔が特徴であり、長い緑色の髪を右に流している。


 おっとりとした雰囲気をしているが、これでもあの危険なBクラスの担任をこなしている実力は本物だ。


 牧野先生は笑みを浮かべたまま俺に顔を向ける。


「文化祭の準備、大変そうですね?私も金本さんから話を聞いています。よろしければ、私も微力ながらお手伝いしましょうか?」


「いいえ、お構いなく。文化祭の主役は生徒たちですから、アクシデントが起きたとしても彼らに解決させたい。教師がしゃしゃり出るのは、()()()()()()()()として控えた方が良いでしょ」


 目元に笑みを浮かべて返答すれば、彼女は少し間を開けて言う。


「……そうですか。余計なことを言ってしまい、申し訳ありません」


「いえいえ。また困ったことがあれば、牧野先生にも相談させていただきますので、その時はよろしくお願いします」


 俺と牧野先生のやり取りを近くで見て、引き下がっていく彼女を見ては坂本が少し低い声で口を開く。


「前から疑問に思っていたのですが……Bクラス、どうして文化祭に参加させなかったんですか?」


「どうして?と、おっしゃいますと?どういう意味でしょうか?」


 能面のように笑顔を崩さない牧野先生と視線を合わせ、坂本は目を細める。


「あなたのクラスがまた、見えない所でいけないことを企んでるんじゃないかって聞いてるんですけどね。意味、伝わりませんでしたか?」


 あからさまに喧嘩腰で聞く彼に「止めろ、()()()()」と言って引かせようとするが、その挑発に対して牧野先生は首を傾げて答える。


「いけないこと……ですか。そんなことは考えてもみませんでした。みんな、良い子たちですから」


「良い子たち……ですか?」


 その言葉が坂本の怒りを増幅させる。


「少しヤンチャな子たちですが、私はあの子たちを信じています。決して、悪いことをするような子たちじゃありませんよ?」


 牧野先生も本心でこんなことを言っているわけではないだろう。


 Bクラスの悪評は生徒間だけでなく、当然教師の中でも広まっている。


 特にAクラスは1学期の時に柘榴の策略によってダメージを受けている。


 証拠は無いが、調べれば柘榴が坂本の生徒を傷つけたという事実が残っている。


 それを奴の担任である牧野先生が知らないとは思えない。


 坂本が怒りを爆発させる前に、俺が話を切る。


「牧野先生、あなたは素晴らしい教師だ。生徒を信じる……それも素晴らしい言葉ですね」


「教師として当然のことですわ。岸野先生もそうでしょう?」


「ええ、もちろん。私も信じていますよ。……私の優秀で生意気な生徒が、あなたのヤンチャな生徒を悪いことができないようにするとね」


 これはEクラスとBクラスというくくりの話ではない。


 2人の生徒の関係を知っている者でなければ通じない宣戦布告だ。


「……そうですか。それは楽しみにしています。お互いに、いい影響を与えられると良いですね」


 牧野先生はそれを理解してか知らずか、そう返しては話を終えようとする。


 しかし、彼女は坂本の問いに答えていないのでまだ退かせたりはしない。


「ところで、牧野先生。私も興味がありますね。何故、Bクラスは今回の文化祭に参加させなかったのですか?あなたのBクラスが参加してくだされば、もっと良いものになっていたかもしれないのに」


「生徒たちの意思を尊重しただけですわ。教師の意向を生徒に押し付けるのは、可哀想でしょ?」


「そうですね。……それも素晴らしいお考えだ。私も参考にさせていただきますよ」


 牧野先生は「私は忘れ物を取りに来ただけなので、今日はこれで」と言って職員室を出て行き、俺と坂本の2人だけが残る。


「……ありがとう、アッシー。どうやら、僕はまだあの件を引きずっているみたいだ」


「無理もない。柘榴の企みのせいで、おまえのクラスは今年初めての退学者を出して混乱してしまった。そのショックは簡単に消えるものじゃないさ」


 坂本が怒りを覚えるのは当然だ。


 額から汗が流れており、強く拳を握っている。


 普段は平静を装って陽気な教師を演じているが、こいつは腹にいくつもの感情を抑えこんでいる。


 Bクラスのことも、それの1つだろう。


「しかし、あれからAクラスは強固な団結力を持つことになった。それは一重におまえと和泉のカリスマ性の賜物たまものだ。俺も今のおまえたちは敵に回したくわない」


「……そのはげましは気持ち悪いよ、アッシー」


 頑張って笑みを浮かべながら言う坂本からは覇気を感じず、精神的に休ませた方が良いことがわかる。


「坂本、今日は帰って休め。今日の分の仕事は明日まとめて終わらせろ」


「え~、そこは『俺がおまえの分も残ってやっておく』ってカッコよく言ってくれないの~」


「甘えるな。俺はそこまで優しくない……が、しょうがない。半分だけは受け持ってやる」


「ヤッホ~イ‼アッシー、やっぱり優し~い~‼持つべき者は親友だねぇ‼」


「うるさい、さっさと帰れ。気持ち悪い」


 空元気からげんきでテンションを上げた坂本を無理をさせないように帰宅させた後、俺は1人で残業に戻る――――わけではなかった。


 表向きの仕事は既に終わらせてある。


 PC画面に表示しているファイルを切り替え、最初に出していたデータを画面に映す。


 それは異能具の設計図だ。


 ヤナヤツから送られた20年前に使用されていた異能具を基に、今も開発に動いている。


 これの完成まであと少し。


 もしもの事を想定した場合、文化祭までに間に合えば良いが。

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