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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
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女王の退屈凌ぎ

 基樹side



 時間は6時を回り、今日のお化け屋敷の準備は終了し、それぞれのクラスが帰りのバスに乗り始める。


 今日も瑠璃ちゃんにこき使われました。


 もう泣きたい、文化祭早く終わらないかなぁ……。


 瑠璃ちゃんと久実ちゃんはノリノリで楽しそうだけど、恵美ちゃんは上の空だし、麗音ちゃんは参加できそうにないし、円華に至っては別の所で面倒事に巻き込まれてるし。


 周りがドタバタしてる中、阿佐美側の生徒で見覚えのある顔が近づいてきては通り過ぎて行った。


 柿谷一翔。


 あっちは俺のことを知らないだろうけど、柿谷家は桜田家の分家の中でも有名だ。


 奏奈様の影だった俺でも、彼の剣の腕は耳に届いている。


 そして、桜田家と関わりがある者の中で唯一円華の友に成れた可能性があったことも知っている。


 文化祭の実行委員になったって話は阿佐美側のエリアを通った時に耳に入ってきたけど、あの時は焦った。


 今、円華が柿谷と会えば、あいつの中で迷いが生まれるかもしれないと思ったからだ。


 あいつは今、幼馴染を助けるために動いている。そして、今直面している事件は異能具が関係しているかもしれない。


 俺は円華の味方のつもりだ。


 円華の行動に変化が生まれ、それが人として良い方向に進もうとしているのを側で見てきた。


 誰かのために何かを成すあいつの姿を見てきたんだ。


 だからこそ、今後あいつがぶつかるかもしれない壁がわかる。


 昔の円華ならば無かったが、今の円華がぶつかる壁が。


 近くに居た入江に声をかけ、手を合わせてごめんポーズをする。


「ちょっちすまん!トイレ行ってくるって岸野に伝えといて?」


「え?あ、うん……。でも、すぐに帰ってきた方が良いよ?遅れたら成瀬さんが怒るだろうし」


「合点承知の助!」


 古いギャグを言いながらその場を離れ、向かったのはもちろんトイレじゃない。


 急いで後を追いかけ、阿佐美エリアに入る前に柿谷の背中が視界に入り、突発的に口から言葉が飛び出した。


「円華に‼……あんまり、無理させないでくれない?」


 柿谷は足を止め、俺の方に振り返る。


「君は?」


「狩野基樹。円華のダチだ」


 本当はこんなことを言うつもりはなかったが、頭で考える前に言葉が先走る。


 あいつの友達だと聞き、柿谷は一瞬目を見開いたがすぐに平静を装った。


「パートナーって言う子の次は、ダチか……。あの偏屈者は本当に恵まれてるんだね」


 パートナー?……もしかして、恵美ちゃんか?あの子、また余計なことしてないだろうな。


 俺の心配を他所に、柿谷は歩み寄ってきて視線を合わせる。


「どうして、僕のことを知っているのかな?実行委員のことで、あいつから僕の愚痴でも聞いた?」


「そんな所だ」


 全然、実行委員の話なんて円華から聞いたことなんてないけど。


 あいつが誰かに愚痴とか言うの聞いたことないし。


 柿谷は溜め息をつき、少し不機嫌な表情になる。


「円華が無理をしてるって……まさか。あいつ、これは僕の問題だって言ったのに」


 今の事件、柿谷が関係しているのか?


 異能具関連なら才王の生徒の仕業かと思ったけど、まさか阿佐美も無関係じゃないってことか。


 それにしても、彼の言葉に不快感を覚えた。


「あんたがそう言って、あいつが『はい、そうですか』って引き下がるわけないだろ。『勝手にしろ』とか言いながら、不器用に助けようとするのが円華だろ」


「……わかったような口を聞くんだね」


 柿谷は目を細め、俺も目を逸らさない。


「少なくとも、俺が知り合ってからの円華はそう言う奴に変わったよ。前はどうか知らないけど」


「そう言う事なら、あの偏屈者は変わっていない。昔から自分勝手に動いて……僕を苛立たせる」


「それがあんたのためにしたことでもか?」


「それでも、あいつのやり方が間違っているのなら僕の信念が許さない」


 信念。嫌いな言葉だ。


「信念?何それ?そんな物のために意固地になってんのかよ?バカじゃねぇの!?」


 胸が怒りで熱くなる。


 俺は円華と柿谷の間にあった出来事を知っている。


 だからこそ、柿谷がどういう男なのかを見極めたかったのかもしれない。


 円華が繋がりを持とうと思った相手がどんな奴なのかを知りたかった。


 それが何だよ……信念って‼


 そんな物のために、あいつとの繋がりを断たなきゃいけなかったのか。


 信念を否定され、柿谷の目の力が強くなる。


「僕の信念がくだらないって?君に俺と円華の何がわかるって言うんだ!?」


「おまえと昔の円華のことは心底どうでも良い。だけどな‼今のあいつを信念なんて言葉を使って否定するなら、俺はあんたを軽蔑する‼」


「今の……円華……?」


 俺の言葉に思うところがあったのか、柿谷は目を逸らしてしまう。


「あんたが円華に対して、何を思っているのかは知らない。だけどな……ムカつくんだよ。昔のことをうじうじと引きずって……。本当は、あんたも円華と仲直りしたいんじゃないのかよ」


「……君は、僕と円華の過去を知っているみたいだね」


 やっべぇ、喋り過ぎた。


「あの……あれだ。あいつから聞かされる愚痴のついでにな、うん。聞いたんだよ、いろいろと」


 また嘘をつきました。


 円華が自分のことを話すわけないじゃん。


 怪しまれると思ったが、柿谷は笑みを浮かべて可笑しそうに笑う。


「そっか。……大方、くだらないことで喧嘩して、それっきり仲が悪いって話でもしたんじゃないかな?」


「そ、そうだ。ガキの頃のくだらないことで、いつまでも意地張ってんなよな‼あんたも、円華も」


 違う、くだらないことなんかじゃない。


 俺も柿谷も、心を押し殺しながら話している。


 円華と柿谷は、10年前の事件で大切な少女を失っている。


 それが今の関係の引き金になっているのも知っている。


 俺は今、許されない嘘と言葉を吐いた。


 くだらないことのはずが無いんだ。


 あいつらが抱えている心の傷は深いもののはずなんだ。


 だけど、俺は2人に前に進んでほしい。


 それは望まれていないことかもしれない。


 偽善かもしれない。


 それでも、俺は……。


 柿谷は深い溜め息をつき、晴れた顔になった。


「ありがとう、狩野くん。君の助言、受け取っておくよ。僕も向き合わなきゃいけないみたいだ……今の『椿円華』とね」


 柿谷は時計を見て『もうバスが出る時間だよ?戻った方が良い』と言い、実行委員の集まりに戻って行った。


 振り返って行く柿谷の顔はどこか清々しかったが、目からは同時に寂しさを感じた。


 それが何故なのかは俺にはわからない。


 柿谷一翔の心を本当の意味で理解できるとすれば、今は円華だけなんだろう。


 それにしても……俺はいつから、こんなお人好しになったんだろうな。


 円華の負担を減らそうとして声をかけたはずなのに、逆に面倒事にどっぷり浸からせるようなことをしてしまった。


 こりゃあ責任を取って、俺も影ながら2人に協力するしかねぇのかもな。


 この後、柿谷に言われて急いでドームを出てはバスに向かったが遅刻してしまい、結局瑠璃ちゃんのお説教を受けたのは恥ずかしいから、絶対に円華には言わない‼



 -----

 ???side



 文化祭が開催されるまで、あと少し。


 あの子のおかげで面白いことになりそうだけど、イベントとしては小さい波紋はもんだわ。


 私としては、もっとこのイベントを大きくしたい。


 そして、確かめたい。


 私を弄んだ男の面影がある少年の力を。


 確かめた上で、私の手にできるのならば駒にしたい。


 できないのならば、私の邪魔をする前に潰しておきたい。


「何にしろ、見定めさせてもらうわよ……カオスの坊や」


 退屈を面白いものに変える準備はもうできている。


 あとは最後に大きな波紋を落とすだけ。


 そのために動いてもらいましょうか、私の可愛い飼い犬ちゃんに♪


 メールを送ろうとすると、その前に電話がかかってきた。


 それもナイスタイミング、今メールを送ろうとした相手から。


「あらぁ、結衣ちゃんどうしたの?あなたから電話をかけてくるなんて、珍しいじゃない?」


 阿佐美学園1年Aクラス、真城結衣。


 組織の中で私の部下として動く存在にして、今回の騒動を主犯の女子生徒にして手駒の1人。


『このような時間に申し訳ありません、クイーン。折り入って、お話しておきたいことがございまして』


「ふ~ん、そう……。良いわ、退屈凌たいくつしのぎに聞いてあげる」


『ありがとうございます。……才王学園の生徒で、潰しておきたい相手が居りまして』


「あなたがそんな真剣な声で進言してくるなんて、珍しいわね?言ってみなさい?」


 結衣は一呼吸置き、気持ちを落ち着かせてから口にする。


『その生徒の名前は椿円華。私の()()()()()()()()人間です』


「そう……あなた、あの子のことを知っちゃったのね♪」


 異能力が通じない……と言う事は、やっぱり私の仮説は正しいことになるかもしれない。


 椿円華は希望の血だけでなく、絶望の涙の力に目覚めている。


 ジャックをほうむり、エースを追いつめたことがそれを物語っている。


 非常に厄介だけど、それでいて手中に収めれば最強最悪の駒となる。


 結衣の話は彼の危険性を感情に任せて訴えていたけど、それはほとんど耳に入ってこなかった。


 ただ私の中の欲求を満たしたいという気持ちに駆られ、結衣とは別の目的で椿円華を陥れる計画を考えついた。


「話はわかったわ、結衣。そんなに椿円華を消したいなら……良いわ、許可してあげる。本当は私が彼を使って混乱を起こすつもりだったけど、一石二鳥だし、あなたに任せるわ」


「しかし、こちらの生徒会が動き出した場合は私の異能具では太刀打ちできません。特に柿谷一翔の異能具は、あの男の能力が宿っています。戦闘行為に及んだ場合は……」


 柿谷一翔の異能具『クロスチャージャー』。


 あれは確かに厄介極まりない代物だわ。


 でも、それを使っているのは『彼』じゃない。


「大丈夫よ、私もバカじゃないわ。あなたに与えた最強の駒に、最強クラスの武器を使う許可を与えておくから♪」


 そう、今の彼女の影の地位があるのは、私が阿佐美に潜む最強の駒を彼女に与えたから。


 そして、その駒も異能具使いであり、その力は私の管理できる異能具の中でも最強。


 例えカオスの坊やが相手だとしても、戦い方次第では互角以上に渡り合える。


「とりあえず、あなたは今から私が言う通りに才王と阿佐美の間に新しい波紋を起こしなさい。あなたはきっかけを与えるだけで良い……。あとは私の人形が、面白くかき乱してくれるから♪」


 今、カオスは今回の事件の相手を結衣だけだと思っているはず。


 そこに結衣以上の強敵が現れた時、彼はどう戦おうとするのか。


 今の孤独を貫こうとしているカオスを見ていると、虐めたくて仕方なくなる。


 あの人が私の身体と心に消えない刻印を残したように、私もカオスに刻んであげたい‼


 それが私が、あの人から受けた愛への恩返し……。


 壁に貼り付けてあるのは、2枚の青年の写真。


 1人は椿円華であり、もう1人は彼と同じく冷たい目をした男。


 男の方の写真を取り、舌なめずりをしては頬を熱くなってしまう。


「あなたにもう1度会いたいわぁ……。私の心を奪った……ご・主・人・様♪」


 私はあの人にもう1度会う。


 あなたから受けた愛に報いて、あなたにそれ以上の愛を伝えるために。


 それが1度はあなたの奴隷として落とされた、生まれ変わった私の恩返し♪


 カオスの坊や……あなたには悪いけど、生贄いけにえになってもらうから。


 私があの人の愛を得るために。

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