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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
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悪女との対面

 その日の夕方。


 山下たちに連れて行かれた先はイベントホール。


 俺を屈服できた場合、ここに連れて来させることが決まっていたらしい。


 ただ今の時間、4時55分。


 全校生徒がそれぞれの学園に戻るまで、制限時間は1時間くらいか。


 教師や警備員に怪しまれないようにするためには、最低でも20~30分前には実行委員としての役割に戻っている必要がある。


 実動時間は30分が限度だろう。


 ちなみに今、服装が乱れていて喧嘩した後を装ってます。


 山下たちが俺を囲むように立っており、彼らを飼いならす主が現れるのを待つ。


 そして、その時は来た。


「へえぇ……素敵な姿になってるね?椿くん」


 女の声を聞いた途端、山下たちの目から光が消えた。


 歩み寄る女の道を妨げないように、彼らは下がっていく。


 俺と対面する彼女を見据え、名前を口にする。


「真城結衣……」


「そんな怖い顔をしないでよ?君をこんな所に連れて来させたのは、ただの遊びの延長なんだから」


 遊びの延長……ね。


 その遊びで一翔を傷つけ、孤立させたのか。


「おまえ、どうしてこいつらに俺を襲わせた?何が狙いだ?」


「狙いなんて何もないよ。ただの暇潰し」


「暇潰しなら、いい迷惑だ。……それなら、おまえが自分のクラスの出し物を壊したのも暇つぶしなのかよ?」


 遠回しに聞くつもりはなかった。


 直球で問いただせば、真城は笑みを浮かべて言う。


「……だったら?」


「暇つぶしにしては、大胆なことをしたもんだなって感服するわ。()()()()()()()()()()()()()、おまえが犯人だって気づかれる可能性は考えなかったのか?」


 この時点で、真城が自分の力を相当過信していることがわかる。


 俺の問いに対して、はぐらかすことなく挑発してきた。


 自分が今の混乱状態を生み出した犯人だと知られても、誰も何もできないと思っているってことだろ

う。


 真城は俺に歩み寄って目の前に立ち、顔を覗き込んでくる。


「私はね、自分よりも強い人が絶望する顔が好きなの。君みたいな人が、実力があっても何もできない、どうすることもできないと思い知った時、絶望する顔が好き。だから、あなたが絶望した時の顔が見たくなったの」


 自分の本性を明かして動揺を与えようとしているようだが、至って冷静だ。


「おまえさ、べらべら喋り過ぎなんじゃねぇの?今、ここで録音していたらどうするつもりだ?」


 期待していた通りの反応じゃなかったからか、真城の目が座る。


「その場合も関係はないよ。君がそれを流したところで、何の意味もないんだから」


 意味がない……ね。


「今まで、何人も私を裏切って反抗しようとしてきた。だけど、その全ては無意味だったんだよ。私を陥れることができる人なんて、どこにも居ないんだよ」


「大した自信だな」


「自信じゃない、確信。私はそれだけの力を持ってるんだよ」


 真城から目を離さず、互いの瞳の奥を覗く。


「ねぇ、椿くん。あなたはどんな秘密を持ってるの?私、あなたのことをもっと知りたいな」


「残念だな。生憎あいにくと俺にはあんたが求めるような面白い秘密はねぇよ」


 つか、秘密を聞いて答えるバカがどこに居るんだよ?


 馬鹿正直にしゃべったのか?今までの奴は。


「……つまらないの」


 真城は俺から視線を外し、離れていく。


 目を伏せた時、彼女の目が一瞬だけ紅に染まったように見えた。


 真城は希望の血能力者だったのか?


「真城、おまえのその目は――――」


「あなたも、私の思い通りにはいかない人みたいだね」


 俺の言葉を遮るように、言葉をかぶせてくる。


 そして、鋭い目を向けてきた。


 それには敵意を超えて、殺意を感じる。


「私の思い通りにならない人って……邪魔なんだよね」


 真城は俺の背後に居る山下たちに視線を送れば、彼らは再度囲んでくる。


「もう1回、痛い目にあってみる?面倒なことをされたら困るし」


「俺が何をしても意味はないんだろ?放っとけよ。勝手に自滅するだけだからさ」


「無意味でも……面倒事は嫌なの‼」


 手を挙げて合図を出せば、山下たちが俺に一斉に襲いかかってきた。


 彼らの目を見れば、光が見えずに意思を感じない。


 山下の振るう拳を左手で払い、もう1人の蹴りを屈伸して回避する。


「マジかよ、暴力沙汰ぼうりょくざたはヤバいんじゃねぇの!?」


「大丈夫。あなたが傷ついても、実行委員の代わりはいくらでもいるから」


 ったく、嫌なことを思い出す。


 白華は今は無いし、山下たちを傷つけたら後に響くかもしれない。


 前とは違う状況だ。


 山下とのすれ違いざまに、彼の耳に語り掛ける。


「山下……聞こえてるか?」


 その声に対して反応はなく、すぐに回し蹴りが飛んできて両腕で受け止めて流す。


 声は届かず、意識があるようには思えない。


 やっぱり、この展開は転入当初を思い出させる。


 異能具『女王蜂の針』の人体遠隔操作。


 麗音との戦いの再現みたいだ。


 山下たちの攻撃を受け流していると、真城は時計を見て舌打ちをする。


「っ、役立たず。時間がオーバーするじゃない」


 指を鳴らせば山下たちの攻撃が止まり、機械のように静止する。


 俺も時間を確認すれば、そろそろ戻らないと怪しまれることに気づいた。


 タイムリミットまで、残り2分くらいだった。


 真城は俺に背中を向け、敵意を乗せた横目をする。


「これで終わりだと思わないでね。あなたも私のターゲットになった。柿谷くん共々、破滅させてあげる」


「……前から思ってたんだけど。どうして、一翔なんだ?」


 一翔が追い詰められたと知った時から、ずっと疑問だった。


 真城結衣が、何故あいつを陥れようとしたのか。


 あいつの鬱陶うっとうしさは折り紙つきだし、煩わしいのもわかる。


 だけど、一翔は人から恨まれるようなことはしないし、悪意で陥れられるような奴でもない。


 もしかしたら、真城は……。


「一翔のことが、恐かったのか?」


「……は?」


 真城は目を細めて聞き返してくる。


 先程よりも目力が強い。


「あんたさ、さっき『あなたも』って言ったよな?じゃあ、俺以外にも思い通りに行かない奴が居たわけだ。それが一翔、そしておまえが退学に追い込んできた奴らだってことじゃねぇの?」


「……違う、そんなんじゃない。絶望させたら面白そうだから、陥れただけ」


「その前提があるんだろ。おまえはただ人を陥れて楽しんでたわけじゃない。さっきの一言と目で確信したぜ。あんたは『自分の思い通りにならない人間を陥れること』が好き……いや、そうしないと自分を保てなかったんじゃねぇの?」


 俺は真城に冷ややかな目を向け、薄く笑みを浮かべる。


「自分の思い通りにならない人間が怖いってことだろ。……強がるなよ、あんたはただの臆病者だぜ」


 希望の血を摂取しているのなら、俺の挑発に乗ってくる。


「……言っている意味がわからないんだけど?この学園で私に怖いものなんてないんだよ!?私を邪魔できる人なんて、どこにも居ない‼私は無敵なの‼」


 怒りの声をあげているが、それは自分を鼓舞するために誇張しているようにしか思えない。


「おまえが無敵?……そんなわけあるかよ。おまえ自身には大した実力はねぇだろ。他人を利用していることが、自分が強いという事実に直結するわけじゃない」


「全ては私の思い通りになるようにできている。だから、私は強い‼弱くない‼」


「おまえが他に誰を利用しているかは知らねぇけど、それはおまえの実力じゃない。強い奴の後ろに居る卑怯者が、棒切れを振り回したって本当の実力者には勝てねぇだろ」


 似てる……真城の言葉には、あいつと似通った所がある。


 だけど、恵美の話ではあいつを生み出したのは真城自身らしい。


「うるさい……うるさい、うるさい、うるさい‼」


 取り乱しそうになる真城は強く踏んだ後、肩で息をしては冷静になり、不敵な笑みを浮かべる。


「椿円華……。私をバカにしたあなたを、この文化祭の期間中に必ず潰してあげる。死にたくなるくらいの絶望を味合わせてあげる」


「悪いな。そのレベルの絶望は間に合ってる」


 今更な宣戦布告をし、真城は先に山下たちを置いてイベントホールから出て行った。


 おそらく、実行委員の集まりに戻るのだろう。


 そして、これから真城の行動は俺に白羽の矢を立たせるだろう。


「この文化祭の期間中に潰す……か。それは俺のセリフなんだけどな」


 今、真城と話してわかったことがある。


 彼女は自尊心が高く、自身の弱さを認められない。


 そして、自身の背後にある駒に対して絶対の自信を持っている。


 その駒の大きさも、今の彼女の態度から大体わかってきたが確信は持てない。


 この賭けがどう転ぶのかは、この先の展開次第でわからなくなってくる。


 あの目を見た時に、希望の血能力者の可能性が見えてきた。


 組織と繋がっている可能性がある者は、俺の敵であることに違いはない。


 真城結衣……一翔のためにも、俺自身の復讐のためにも、おまえは粛清させてもらう。


 そのために、必要以上に暴れまわってもらおうか。


 真城が消えたタイミングで山下たちは正気を取り戻したのか、はっと目を覚まして周りを見ては頭を押さえて溜め息をつく。


「また……かぁ」


「目が覚めたか、山下」


 彼に近づけば、攻撃されることはなく重々しく頷いてくれた。


「すまねぇ、椿……俺たち」


「謝らなくていい。真城が来てから、おまえたちの様子がおかしいことには気づいていた」


「そ、そうだよな……。あの女の前だと……どういうわけかわからねぇが、身体が勝手に……」


「真城の思い通りに動いてしまうってわけか。まぁ、おまえたちが自分の意思で攻撃してきたわけじゃなくて良かったぜ」


 もしかして、そう言う能力なのか?いや、それだとどういう条件下で……。


 人を操作する異能力。


 女王蜂の針以外に、そう言う能力があるのか。


 そして、それを暴力以外で使えるとすれば……。


「山下、真城に秘密を話した時の記憶はあるのか?」


「ああ、当然だ。後悔してもし足りねぇくらいだぜ。今でもわからねぇよ……俺たちは何で、真城に話しちまったんだろうな」


 やっぱりか、真城のやり方の裏が見えてきた。


 これは大きな情報だ。


 真城は異能力を使い、自分の領域を広げていったんだ。


 しかし、そんな強力な異能が無条件で使えるものなのか?


 俺の未来視だって、右目を閉じていた時間しか未来を視ることはできない。


 女王蜂の針も、あの針で刺した人間しか操作できない。


 真城の能力にも、何か条件があるはずだ。


 Aクラスを襲った事実を否定しなかったことから、犯人は十中八九、真城以外に考えられない。


 謎の異能具と危険な異能力者。


 最悪だ、2つの異能を使える敵の恐ろしさはジャックで身に染みてわかっている。


 これは手強そうだな……俺1人でどうにかできるのか。

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